燃焼行程の終わりで排気バルブが開くと、シリンダー内に残っている圧力が一気に解き放たれ、排出ガスが勢い良く排気ポートに流れ込む。その勢いは“流れ”というとよりは“衝撃”で、排気ポート内のガスを叩いて“圧力の波”を発生させる。これはいわば“大きな音”で、排気音の源となるものだ。そしてこの圧力波はエキゾーストマニフォールドの中を進み、突然広くなる集合部で圧力が開放される反動で圧力が反転されると同時に反射、排気ポートの方向へと戻っていく。
なお、圧力波の進行は気体分子の疎密状態が波として伝播していくというもので、気体分子そのものが移動していくガスの流れとは異なる。そして気体中を伝播する疎密波、すなわち音の移動する速度は音速だが、排出ガス中は高温となるため、常温の大気中でのそれよりもかなり速いものとなる。
集合部で反射してエキゾーストマニフォールド内を遡ってきた圧力波が、バルブオーバーラップの状態にあるシリンダーのエキゾーストバルブ付近に到達した状態。狭いポート内でその力を封じ込められながら伝播してきた圧力波が、突然広くなるシリンダーに向かって負圧として働くかたちとなり、シリンダー内のガスをエキゾーストポートに吸い出しながら、同時に開いているインテークマニフォールド内の新気をも引き込む。これにより、シリンダー内に残留する高温の排出ガスを効果的に掃気しながら、新気の充填効率を大きく高めることが可能となる。
基本的に自然吸気エンジンでは、新気は大気圧によってシリンダーに導かれるが、ここに前述の負圧が加わることで大気圧以上の力が新気に働くことになる。つまり、慣性過給効果が得られるというわけだ。
排気バルブが開いた瞬間に発生する圧力波は、エキゾーストマニフォールド集合部で圧力を反転させながら反射して遡り、排気バルブ付近に戻ってくる。上の図では作図の都合上マニフォールドの壁際を移動しているように描かれているが、実際には圧力波は管径をいっぱいに使ってマニフォールド内を往復、左右の排気バルブに均等に戻るかたちとなる。
上で示した“吸い出し効果”を得るためには、吸排気バルブが同時に開くオーバーラップの状態にある時に、圧力波がタイミング良く戻ってくることが必要。そこで重要となるのが、排気バルブからエキゾーストマニフォールド集合部までの距離(寸法)だ。圧力波の往復時間(T1)は、上図中Lで示す距離の二倍を速度V(音速)で除算することで導き出される。このT1が図中右側のバルブタイミングを示すグラフ下のT2とT3の間に収まるよう、L寸法(=プライマリーパイプ長)が決められる。
圧力波の往復時間は排気バルブからエキゾーストマニフォールド集合部までの距離で決まってしまうのに対し、吸排気バルブの開弁時間はエンジンの運転回転数によって大きく変化する。そのため、“吸い出し効果”が利用できるのは基本的に一部の領域のみということになる。
4気筒エンジンを例に挙げると、4本のプライマリーパイプ(エキパイ)をひとつの集合部分のみでまとめる4-1型の集合形式で、こうした傾向が顕著となるわけだが、ふたつの段階を経て1本にまとめる4-2-1型の集合形式では、集合部までの距離が二通り用意されることになり、結果として圧力波の往復時間も二通りとなり、対応できる運転領域は広くなる。ただし、圧力波が上図中L2を往復する際には復路で分岐を通過する。このため圧力波の効果は4-1型と比べると弱くなる傾向となる。