ベースとして用いられたのは、フェラーリ308-4VのF105AB型ユニットと言われる。しかし同じ横置きパワートレインとはいえ、フロントエンジンとして載せるためには多くのモディファイが必要。ということで型式こそ付番が異なるだけだが、テーマへの搭載にあたっては大改造が施された。
決定的に異なるのはクランクシャフト。フェラーリのフラットプレーン式に対して、振動特性に優れる90度スローのクロスプレーン式に改められた。フェラーリが180度スローを用いるのは排気干渉をなくせる排気管構造と、それに伴う高回転時の排気脈動を生かした高出力特性を得るため。一方でクロスプレーンとすれば振動騒音を抑えられ、ラグジュアリーセダンであるテーマにふさわしいエンジンとすることができる。
308を含め、バンク角は90度のまま。バンク内吸気/バンク外排気のレイアウトも踏襲されている。逆バンク側のサージタンクから長い管を使って吸気する構造で、マニフォールドを抜けてからシリンダーヘッドで2ポートに分かれる。そのためか、インジェクターは吸気バルブから遠い位置にあるように見受けられる。F105AB型と見比べてみても、その長さの違いが際立つ。
排気マニフォールドは4-2-1構造。隣り合う気筒をまず2本まとめてその後に集合というレイアウトである。前バンクはエンジン下方を抜けて後バンク側と合流、それぞれに触媒を備えてその後プライマリサイレンサーで集合するが再び分流、リヤサイレンサーは2本とするものの両側配置ではなくともに左側に置く。
燃料噴射装置はボッシュのKジェトロニック(機械式)とKE3ジェトロニック(電子制御式)のハイブリッド。点火装置はマニエッティ・マレッリのマイクロプレックスというシステムを用いる。
バンク角90度、内吸気外排気レイアウト、直打のバルブトレイン、クランクシャフトからギヤを介して減速し、両バンクそれぞれで駆動するベルト式のカムトレインなどはF105AB型を踏襲。ただし、F105Lはエンジンルームに収めるためにタイミングベルト幅を細くしてある(この処理が8.32のオーナーたちを苦しめる要因のひとつになっているようだ)。さらに補機類のレイアウトも変更していることで、駆動ベルトが3本張り巡らされる。
変速機部はランチア自製のものを搭載する。もともと横置きミッドシップパワートレインということで、それをそのままフロントに持ってくれば、構造としてはFWDが成立するが、F105ABは2V時代のF106シリーズから変速機はエンジンの下に潜り込むような設計のため、そのままではランチアには使えなかったのだろう。