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このままの姿で日本の公道を走る日も近い!?
ホットロッドの要素を注ぎ込んだアメリカンスタイル!
アメリカ西海岸には日本の旧車を愛好するコミュニティが古くから存在し、その中心となっているのが日系を始めとするアジア系のアメリカ人たちだ。日系4世として生まれたスコット・カネムラも、そんなジャパニーズ・クラシックスを愛するディープな世界の住人である。
スコットが現在プライベート・ビルダーの集大成として取り組んでいるのが、トヨタの4ランナー。日本ではハイラックスサーフとして知られたSUVで、その名の通り基本的には同年代のハイラックスとコンポーネントを共有している。
スコットが所有する1993年式は2世代目のモデルで、本来は2.4Lの直4か3.0LのV6が搭載されていた。スコットはそれをベースにミニトラック、ホットロッド、ドラッグレースといった、様々なテイストをのっけ盛りにしたクレイジーな1台をクリエイトしたのである。
一旦全バラにされたボディに、アイマー・エンジニアリングの職人がクロモリのチューブラーシャシーを組み、車高を4インチドロップ。ナロー化したフォードの9インチリヤエンド(ホーシング)とクォーターマックス製4リンクサスペンションが備えられ、ドラッグラジアルを収める幅19.5インチのインナーフェンダーもメタルシートで製作。それをリヤドア開口部の内側を一部切開して取り付けた。
エンジンは排気量を3.4Lまで拡大した2JZ-GTEを搭載。BCのハイカムやJEの鍛造ピストンを使ったエンジンの組みはMoto IQのハワード・ワタナベが、エンジンルーム前方にタービンとウエストゲートバルブをマウントするエキマニはTSRファブリケーションのマリオ・ロザーノがそれぞれ担当。西海岸の日本旧車コミュニティで名を馳せる職人たちが腕を振るったのだ。
タービンは、TiALのステンレス製大型コンプレッサーハウジングにギャレットのコンプレッサーホイールを組み合わせ、1000psをターゲットに据える。ヘッドカバーはトヨタ2000GTの3M型をオマージュしたビレット削り出しで、チューブラーフレームに直接マウントするための扇状のプレートも削り出しで製作した。
ホイールは90年代を代表するボルクレーシング・グループCをリバレル。フロントが細く、リヤが太いドラッグレーサースタイルで、リヤは15J×18インチのリムに345/35-18のミッキートンプソン製ドラッグラジアルを巻きつける。
QA1製のストラットを使った前後コイルオーバー(車高調)も備え、車高と減衰力の調整にも対応。ブレーキはフロントがストレンジ、リヤがウィルウッドの4ポット。フロントにはラインロックが、リヤにはフェイルセーフとしてドラムブレーキが別系統で備わる。
グリルの代わりにインタークーラーがギョロリと覗く異様なルックスは迫力満点。ボディは一度カー・ロティサリー(カーベキュー)に掛けられ、表をパールホワイト、下回りをレクサス純正のシルバーで全塗装された。エキゾーストエンドは右のフロントフェンダーに導かれている。布地を前後にスライドできるラグトップサンルーフ、3Dプリンター製のドアミラーも装備。
コクピットメイクも独特で、「内装はホットロッドを意識して、ショーで見せるためのクラフトワークを取り入れたんだ。ただ、ホットロッドはわざとパネルで蓋をして、職人の仕事の痕跡を感じさせないように作ることが多いけど、自分はそれを敢えてチラ見せすることにしたんだよ(笑)」とのこと。
また、オーディオもAV専門のコンペで戦えるくらいのハイエンドなアンプやスピーカーを手製のボードにマウント。さらにはドシャコの4ランナーには意外と実用的かもしれないエアジャッキも装備する。
長年に渡ってカリフォルニアの日系カーコミュニティで活躍するスコット・カネムラ。若い頃は1974年式のカローラで当時隆盛を極めたストリートレースに夜な夜な出掛け、80年代にはHKSの北米法人でウェアハウスマネージャーも務めたそうだ。知人との縁で北海道の札幌が気に入り、移住を妄想中。「このフォーランナー、日本の車検を通して札幌のストリートを走れると思うか?」と聞かれた時は卒倒しかけてしまった。
この4ランナーのショーカーネームは「5150LUX(フィフティワン フィフティ ラックス)」と名付けられている。5150とはアメリカの警察無線で使用される隠語で、「今にも犯罪しそうなヤベェ奴がいるぞ!」という意味。まさに正体不明、何をやらかすか分からない破茶滅茶なフォーランナーは、とことんクルマで遊び倒してやろうと楽しむスコット自身の写し鏡なのだ。
PHOTO:Akio HIRANO/TEXT:Hideo KOBAYASHI