「日独米3ヵ国のセンスが息づくDTMスタイル!」E30型M3にVTECエンジンを換装!?

BMW伝統のM3が天地雷鳴!

VTECサウンドを奏でるDTMスタイルの再解釈仕様!

アメリカで「インポートカー」として日本車と双璧を成す存在がドイツ車だ。とくにヨーロッパにルーツを持つ一部のアメリカ人にとっては、祖国で人気の高いドイツ車に傾ける偏愛が、アイデンティティへの誇りを表現する手段にもなっている。

カリフォルニア州サクラメントにあるオールドBMW専門店「CAtuned(シーエーチューンド)」の代表、イゴール・ポリッシュチャックはウクライナの出身。8歳の時に家族とともに渡米し、2002年にCAtunedを創業した。

全米のビマーマニアから注目されるCAtunedの創業者、イゴール・ポリッシュチャック。E30以外にもE36やE46の3シリーズなど、日本でもお馴染みのBMW各車を得意とし、オリジナルパーツも多数展開中だ。弟のマックスはSUV向けのパーツを扱うCAtuned OFF-ROADを運営しており、そちらも飛ぶ鳥を落とす勢い。実はイゴールはR33型、マックスはR32型のスカイラインGT-Rを所有する日本贔屓でもあり、日本製のエンジンやパーツへの関心も高い。

イゴールにとって80〜90年代のBMWは、祖国で暮らした頃の記憶に残る馴染み深いクルマであり、新天地アメリカでも根強い人気を誇るベース車。サクラメントはサンフランシスコやロサンゼルスほどキラキラした街ではないが、イゴールは弟のマックスとともに往年のBMW各車をチューンするビジネスを地道に成長させてきた。

ショップ名の「CA」はカリフォルニアの頭文字から取っているわけだが、その名の通りカリフォルニアナイズされた華やかであり、ある意味ドギツイ(=記憶に残る)クルマ作りが信条。これまでもE30型の3シリーズなどに、より高年式のBMW製ストレート6や、ホンダS2000のF20/22C型直列4気筒を搭載するエンジンスワップも経験してきた。

そして開業20周年の節目となる2022年に、ショップのネクストステップを印象付けるクルマを作ろうと計画。それがマックスが所有していた88年式のE30型M3に、ホンダのK型を搭載するKスワッププロジェクトである。

「K型は中古が800〜1000ドルくらいで手に入るし、BMWのMTと接続して縦置きにするキットも市販化されているんだ。純正部品やアフターパーツも容易に手に入るから、KスワップはBMWビルダーにとってもチャレンジしがいのあるプロジェクトだと思ったんだよ」。

Kスワップに着手した経緯を、そう語るイゴール。まずはアキュラTSXなどに搭載されていた2.4LのK24型エンジンを入手すると、それをTFワークス製の変換キットでZFの5速MTとドッキング。さらに薄型幅広のオイルパンを含むマウントキットも使って、縦置きFRレイアウトを完成させた。

エンジン本体はブライアンクロワーの102mmストローカークランクを使って、排気量を2.6Lにアップ。鍛造のピストンやロッド、ビレットカム、レース仕様のバルブなどを使用したほか、シリンダーヘッドはテキサス州にあるENDYNがCNCと手作業を組み合わせたポート加工を施した。

当初はターボ化する予定もあったが、途中で自然吸気に切り替え、TFワークスが縦置き用に商品化した4-2-1のエキマニを装着。口径3インチのステンレス製エキゾーストは、CAtunedでカスタムメイドしている。

一方、吸気系はマレーシアにあるPracWorksのドライカーボンインテークには、1065cc/minの大容量と高圧噴射に対応するインジェクターを装備。制御はLINKのフルコンで行なっている。ボンネットとのクリアランスも確保できるローマウントのマグネシウム製ヘッドカバーはSkunk2製。ラジエターなどのクーリングパーツはCAtunedのオリジナル商品だ。

ホイールは数ある選択肢の中から、17インチのボルクレーシングTE37SLをチョイス。「エンジンが日本製だから、ホイールも日本製を選ぶのが自然だったんだ」とイゴールは説明するが、E30型M3(PCD5-120)にマッチする設定が既に終了しているため、今となっては貴重な組み合わせ。無難にBBSなどを履かせるより強いインパクトを与える。

車高調およびAPレーシングのキャリパーを使用したブレーキキットは、CAtunedのオリジナル商品。サブフレームやトレーリングアームの強化ブッシュも採用している。

外装はCAtunedがE30型用にオリジナル開発したエアロパーツを多数装備。カーボン製のフロントスプリッターやDTMスタイルのリヤスポイラー、DTMスタイルミラーなどを備え、よりスポーティな外観を実現している。Hella製の4灯ヘッドライトは、ひとつをインテークの入り口に変換。スモークのテールランプはカスタムメイドだ。

E30型の特別仕様車であるM-TechIIのスウェード巻き純正ステアリングホイールを備える他、CAtunedのガーボンドアパネルも採用。シートは1922年にドイツで創業され、2016年から北米市場に進出したScheel-mann(シェールマン)というメーカーの、Sportline Rというクラシカルなバケットシートを装着。

ロールケージを掻い潜らなければ乗れないにも関わらず、リヤシートにも同じチェック柄のトリムを張って統一感を演出。おしゃれなコーディネートで魅せるインテリアを生み出している。

当初はショップのデモカーにする私的なプロジェクトだったM3だが、2022年のSEMAショーが開幕する2ヵ月前に駆動系パーツメーカーWavetracのブースに出展することが急遽決定。晴れの舞台で予想以上に大きな注目を浴びることとなった。

そんなCAtunedの名声は今やヨーロッパにも轟き、BMWの本場であるドイツにもディストリビューターが生まれるほどの躍進を遂げている。

PHOTO:Akio HIRANO/TEXT:Hideo KOBAYASHI

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