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40年前に市販化したL型6気筒用のオリジナルDOHCヘッド、TC24-B1。それを現代の技術で蘇らせたTC24-B1Zが注目を集めている岡山のオーエス技研。その創業者である岡﨑正治氏の半生を本人へのインタビューとともに振り返っていく。10代でバイク用エンジンを開発した稀代の天才は、いかにして現在まで続く一流メーカーを作り上げたのか。
ゼロからの出発で世界的メーカーを創出
基本設計は変えずに最新技術を投入。現代に甦った名機TC24-B1Z
エンジン=燃焼に対する自らの理論を確認、実証するため、かつて岡﨑氏がつくり上げたオリジナルDOHCヘッドを持つTC24-B1。その誕生から40年近くを経て、2017年に復活を果たしたのがTC24-B1Zである。
このエンジンでなにより驚くべきは、燃焼に関する根幹的な部分…たとえば燃焼室形状やバルブ径、バルブ挟み角などが40年前のTC24-B1からまったく変わっていないということだ。その事実が、いかに基本設計に優れていたかを証明している。
一方、考え抜かれた見事な設計により旋盤とフライスを駆使して手作業で燃焼室を加工していたTC24-B1に対し、TC24-B1Zは最新のNC旋盤を使うことで精度の大幅な向上を実現。IN/EX一体型キャップ式カムホルダーやロッカーアームに施されたDLC処理など、40年前は技術的にできなかった製法や加工法も積極的に採り入れられている。
あるいは騒音の問題からTC24-B1では見送られたフルギヤトレインを導入するなど、岡﨑氏が当時やりきれなかったことを盛り込んだのがTC24-B1Zと言っていい。
チューニングが違法改造とされていた1980年代、TC24-B1はわずか9基が世に出ただけだった。しかし、時代が変わって再販を望む声が大きかったこともあり、TC24-B1Zはバックオーダーを含め、すでに30基以上の注文が入っているという。それは岡﨑氏が真面目にパーツをつくり続け、信用を積み重ねてきた結果に他ならない。でなければ1基500万円以上のコンプリートエンジンがこれだけ売れることはありえないだろう。
自らが陣頭指揮を執りつつ、現役スタッフとともに開発を進めた岡﨑氏は言う。「昔と同じものを作るなら簡単だけど、新しい技術を投入しなければ意味がない。そこは今やってる現役の人間が考えりゃあいいことだし、うまくいったらその人の財産じゃ」。
岡﨑氏が作り上げたTC24-B1をベースに、若き技術者たちが知恵を絞って現代的にリメイク。TC24-B1Zはオーエス技研が総力を結集して生み出した珠玉のエンジンなのである。
多くの支援者たちへの感謝と受け継がれる“オカザキイズム”
オーエス技研の従業員は10数名。その数を基準とするなら規模としては小さいメーカーだ。しかし、これまで世に送り出されてきたチューニングパーツを見ると、どれも画期的であり、それ以上に独創的であることに気付く。
その理由を岡﨑氏に尋ねてみると、「こういうパーツは歴史を積み重ねてこないとつくれんし、他のメーカーでは無理じゃろ。社員が多いとか大メーカーなら同じことができるかといったら、そういう話じゃあないんよ」とのこと。
もちろん、その陰にはオーエス技研のスタッフを始め、いつの時代にも岡﨑氏を支えてくれた多くの人たちが存在したことを忘れてはならない。
中でも半世紀以上、岡﨑氏と苦楽を共にしてきた一番の支援者であり、理解者でもある奥さんの美智子さんが言う。「周りの人たちに支えられながら好きなことをやって言いたい放題言ってきたんですから、それはいい人生だと思いますよ。だからこそ、一度こうだと思ったら自分を曲げない岡﨑の性格を理解して、長い間付き合ってくださってる方々にはもう感謝しかありません。もちろん、そんな岡﨑に付いてきてくれた従業員のみなさんにも感謝してますし、今後につないでいくという気持ちを持ってくれているのがなにより嬉しい。これからもオーエス技研が続いていくことを願ってます」と。
岡﨑氏が続ける。「いま86歳か。自分じゃ倒れるつもりなどなかったけど、実際82歳の時に倒れてしまってな(体調がすぐれず病院に行ったら軽度の脳梗塞を患っていた:編集部注)。やっぱりある程度歳がくるといろいろ出てくる。わしは90歳までは生きるけどな。95歳は難しいかもしれんけど、90過ぎるまで生きられたら儲けじゃ。でも、家内に先に死なれるのは運が悪い。自分が先に亡くなるのがいい」。
オーエス技研の社風を一言で表すなら『自由』だ。理由は至ってシンプル。創業者の岡﨑氏が自由だから。それゆえ、日によって言うことがよく変わることも多かったという。その言葉にスタッフが振り回されることもあったが、それによって新たな知識を蓄積することができたのも事実。
岡﨑氏に叱られたことを苦痛に思うのではなく、そういう考え方もできるのだと捉えられれば、一歩前に進めるし、自らの引き出しも増える。日常的に繰り返されたスタッフとのやりとりは、真の技術者を育てるべく、厳しくも愛情にあふれた“岡﨑塾”と言えるものだった。
だからこそ、「無いものはつくる」の精神で常に新しいことにチャレンジしてきた“オカザキイズム”は、オーエス技研のスタッフひとりひとりにしっかりと受け継がれているのだ。
最後にひとつ、エンジン屋を自負する岡﨑氏にどうしても聞いておきたいことがあった。「やっぱりもう一度エンジン(の開発)じゃないですか?」と。
「何を無茶を言いよって」と大きく笑ったあと、「やっぱりV12じゃろ。鋳造ブロックは難しそうだけど、アルミビレットの削り出しなら可能性はある」。そう力強く語る岡﨑氏の眼光に衰えはまったく感じられなかった。
●取材協力:オーエス技研 岡山県岡山市中区沖元464 TEL:086-277-6609
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