「セルシオの初代と2代目を真剣に比較してみた」トヨタの新旧フラッグシップセダン対決!

圧巻の静粛性を持つ初代、総合性能主義の2代目

乗り比べると見えてくるそれぞれの個性

人気爆発、セールス順調なクルマほどフルモデルチェンジは難しい。下手に変えればユーザーからはそっぽを向かれ、それまでの好調ぶりが嘘のように、新型モデルがまるで売れなくなることも十分に考えられるからだ。日本の高級車観に新しい風を吹き込み、あのメルセデスベンツをも本気にさせたセルシオの、初代から2代目への変身は果たしてどうだったのか? そこを真面目(?)に検証してみたい。

細部に至る高いクオリティとズバ抜けた静粛性をもって、日本の…いや、世界の高級セダン観を変えたと言っても良い初代10系セルシオ。デビューした1989年に日本カー・オブ・ザ・イヤーを獲得し、国内&北米市場ともにセールスも好調だったが、バブル景気の崩壊と共に販売が低迷。トヨタとしては10系でもう数年は引っぱりたかったはずだが、状況的にフルモデルチェンジを迫られることになった。

そこで1994年10月に登場したのが2代目20系セルシオで、デザイン的には成功作となった初代のイメージを踏襲。4995mmという全長は据え置いたまま、後席の居住性アップを目的に全幅が10mm、全高が35mm、ホイールベースも35mm拡大された。

ちなみに、今回用意したセルシオは10系がエアサス標準装備のC仕様(UCF11)、20系がベーシックなA仕様でユーロチューンドサスペンションや本革内装、電動サンルーフを装備したeRバージョン(UCF20)だ。

UCF11のエンジンルーム
UCF20のエンジンルーム

いずれもエンジンは1UZ-FE型4LV8を搭載。スペックは260ps/36.0kgm。UCF11は樹脂製カバーの使用が少なくカムカバーがよく見えて、そこに刻まれた“V8 FOURCAM 32”の文字がカッコ良い。また、ストラットタワーにはエアサスペンションのユニットも確認できる。

一方のUCF20は後期型のため圧縮比を高めた(10.0→10.5:1)VVT-i仕様を搭載。前期型に比べて最高出力で15ps、最大トルクで4.0kgmアップとなる280ps/41.0kgmを発揮する。ただ、全体が樹脂製カバーで覆われたエンジンルームの眺めはなんとも味気ない。

UCF11のコクピット
UCF20のコクピット

ステアリングホイールやメーターナセルの形状、助手席エアバッグの標準装備化に伴うグローブボックス位置などに違いが見られるけど、基本デザインは踏襲されたダッシュボード。

エアコン操作パネルやオーディオなどセンターコンソールの配列も共通で、セルシオを乗り継ぐユーザーに対するトヨタの配慮が見て取れる。UCF11のタン内装は明るく落ち着いた雰囲気。UCF20の黒内装はスポーティさを感じさせるものとなっている。

UCF11のメーターパネル
UCF20のメーターパネル

イグニッションオンでブラックフェイスにまず針が、続いて文字盤が浮かび上がるオプティトロンメーター。視認性の向上を考えてUCF10系のために開発されたものだ。

UCF20も基本的に同じデザインを採用。水温計と燃料計の目盛りやATポジションインジケーターに違いが見られる他、最下段には車両の状況を文字で伝えるインフォメーションディスプレイが加わった。ちなみにUCF10系前期型はオプティトロンメーターを採用しながら、オドメーターだけはアナログ式となる。

UCF11のミッション
UCF20のミッション

4速ATでストレート式のUCF11と、5速ATでゲート式のUCF20。UCF11はATレバー脇にTEMSのモード切り替えスイッチやエアサスの車高調整スイッチなどが設けられる。

1速からのギヤ比は、UCF11が2.531、1.531、1.000、0.705(ファイナル比3.916)、UCF20が3.357、2.180、1.424、1.000、0.753(ファイナル比3.266)となる。

UCF11のフロントシート
UCF20のフロントシート

運転席、助手席ともに10ウェイパワーシートを備えるUCF11。シートには新開発のパッドが採用され、コイルスプリング特性やクッション部の座面形状、振動吸収性なども徹底的に解析された。シート表皮はウールファブリックが標準だけど、オプションの本革仕様とされている。

一方のUCF20は欧州仕様のユーロチューンドサスペンションを持つeRバージョンだから本革シートが標準装備。

UCF11のエンブレム
UCF20のエンブレム

トランクリッド右側に装着された車名エンブレム。UCF10系前期型は車名の左側に小さく“TOYOTA”のエンブレムも付くのが特徴。これが後期型で車名エンブレムだけとなり、UCF20以降もそれを踏襲することになる。

新旧セルシオを並べてみると、ボディ色と全高の違いから20系の方がひと回り大きく見える。ダッシュボード周りは細部のデザインこそ違うが、各操作パネルの配置などは10系と共通。20系に乗り替えても、オーナーが自然に扱えるような設計とされている。裏を返せば、それだけ10系の完成度が高かったと言える。

試乗は20系から。トルクアップしたエンジンと5速ATの組み合わは滑らかの一言。深くアクセルペダルを踏み込めば、「速っ!」と口を突いて出るほどの加速をするが、流すだけなら2000rpm以下で事足りる。エンジン音や排気音、ロードノイズが遮断された車内は平穏そのものだ。

ユーロチューンドサスは、快適かつ楽に乗れるクルマとしてセルシオを選ぶ人にはダンピングが効きすぎているように感じるかもしれない。しかし、路面からの入力を一発でいなしてくれるし、ロールがよく抑えられていてコーナリング中の姿勢も安定する。1.8トンに迫る車重を感じさせないのが素晴らしい。ただ、容量アップが図られたとはいえ、ブレーキだけはもう少し制動性能が欲しいとも思った。

その後、すぐ10系に乗り換えて走り出す。これはもう取材車両の程度によるが、30年前のクルマなのにまず古さが全く感じられない。いや、むしろ20系と走行距離がほとんど変わらないのに10系の方がボディがシャンとしてることに驚く。

20系同様、街中は2000rpmまで使えば十分。その領域だと20系の方がわずかにトルク感が大きい気もするけど、走りに影響を及ぼすほどではない。エアサス仕様の足回りは常にフラットな乗り心地を提供してくれる。

なにより10系の方が優れていたのは静粛性だ。絶対的に静かなのは言うまでもなく、耳に届くのは、一度ふるいにかけて雑味が落とされたような音…と言えば良いのだろうか。もちろん、20系も静粛性は高いが、10系に比べるとわずかにノイズが混じると思う。

総合すれば、世代的に新しい20系の方が完成度は高い。しかし、年式が古くても性能的に負けないモノを持っている10系は、本当に画期的なクルマだったのだと改めて思った次第だ。

■SPECIFICATIONS
車両型式:UCF11
全長×全幅×全高:4995×1820×1400mm
ホイールベース:2815mm
トレッド:FR1565mm
車両重量:1750kg
エンジン型式:1UZ-FE
エンジン形式:V8DOHC
ボア×ストローク:φ87.5×82.5mm
排気量:3968cc 圧縮比:10.0:1
最高出力:260ps/5400rpm
最大トルク:36.0kgm/4600rpm
トランスミッション:4速AT
サスペンション形式:FRダブルウィッシュボーン
ブレーキ:FRベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:FR215/65R15

■SPECIFICATIONS
車両型式:UCF20
全長×全幅×全高:4995×1830×1435mm
ホイールベース:2850mm
トレッド:FR1570mm
車両重量:1760kg
エンジン型式:1UZ-FE(VVT-i)
エンジン形式:V8DOHC
ボア×ストローク:φ87.5×82.5mm
排気量:3968cc 圧縮比:10.5:1
最高出力:280ps/6000rpm
最大トルク:41.0kgm/4000rpm
トランスミッション:5速AT
サスペンション形式:FRダブルウィッシュボーン
ブレーキ:FRベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:FR225/60R16

TEXT&PHOTO:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)
●取材協力:SKT 東京都あきる野市横沢欠ノ上43-1 TEL:042-519-9826

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