目次
目指したのはグループCカールック!
5ローターをFR搭載したエキジビションカー
今や世界最高峰のエアロデザイナーとしてその名を轟かす、TRA京都の「三浦 慶」。ビス留めオーバーフェンダーを現代風にアレンジして創り上げる同氏の作品群は、どれもそのエアロキットが標準ボディであるかのような強烈なインパクトを放つ。
そんな男を支えているのは、デザイニングから造形までをワンストップ&ハイスピードでこなせる独自のデジタルデザイン技術に他ならない。
最近でこそ、エアロパーツの設計をデジタル上で展開するビルダーは増えたが、驚くことに三浦代表はパソコンがまだ普及していなかった約30年前に、すでにこの手法に辿り着いていたというのだ。
きっかけは、海外のカーショーでCADデザインソフト「ライノセラス」とマシニングセンタが連動したパーツ作りを見たことから。まだベータ版だったソフトを即入手し、独学で操作を習得。当時、一軒家が購入できるほど高価だったという中古のマシニング機材も入手し、それらを連動させてのパーツ開発環境をいち早く整えた。
「マシニングセンタを導入したは良いけど、まずは動かすのが大変やった。制御システムを入れ替えるというか、パソコンを繋ぐDNC運転という観念がなかった。最先端の金型屋くらいやないと必要性がなかったですからね。そのシステムを自分で作った30年前から、基本的にそのままのセッティングで今も運用しています」。
そんな三浦代表のもとに、ニュージーランド出身のドリフトドライバー“マッド・マイク”から車両製作の依頼が寄せられたのは2022年秋のこと。内容は「往年のマツダ787Bをオマージュした、FD3Sベースのドリフト車両を製作できないか?」というものだった。
「現実問題として、FD3Sのボディで787Bスタイルを表現するのはかなり無理があった。そこで考えたわけですよ。どうせ公道を走らないなら、無理してFD3Sに拘らずにオリジナルでフレームから作った方が早いなって(笑) 」 と三浦代表は笑いながら話す。
そうした経緯を経て設計されたのが、東京オートサロン2024に展示された “PANDEM 787B”と命名されたチューブフレームシャシーだったのだ。
チューブフレームの素材にはステンレスを採用。フレームワークに際しては、強度や剛性のみならずビジュアル面での美しさも重視しているそうだ。
サスペンションは非常に複雑だが、FD3Sの車高調やアーム類を使えるように設計。同様に、ステアリングラックも流通量が豊富なシルビア系をポン付けできるようにするなど、随所にチューニングシーンを知り尽くした三浦代表らしいアイディアが盛り込まれている。
カウルや外板パーツのデザインもデジタル上で行われ、型は機械加工で造られるが、最終的な製造は職人の手によるファイバーワーク。海外では超大型の3Dプリンターで製品が量産されるケースもあるが、日本ではコスト面で見合わないのが現状だという。
CAD上で設計されたマシンは、実車同様に単品パーツの組み合わせで構成されている。そのため、使用するパイプやプレートは全てマシニングセンタでの量産が可能だ。実際に、今回の取材で撮影したシャシーは3号機だったりする。
ちなみに、1号機はすでに海を渡り、ニュージーランドのガレージで本格的なドリフトスペックへと魔改造中とのこと。心臓部には、同じくニュージーランドのアフターメーカーが販売する5ローターエンジンを搭載予定だ。
そんな三浦代表が新たに取り組んでいるのが、オリジナルフレームのドリフトカー製作だ。
「今のドリフト競技ってめちゃくちゃお金かかるでしょ。ハードルが上がりすぎて、気軽に楽しめなくなってきている。だったら、組み立て式の格安ベースシャシーを作っちゃおうと思って。それをエントラントに供給して、みんながイコールで楽しめるワンメイク競技ドリフトがあったら面白いでしょ?」。
鬼才のアイディアは、まだまだ止まるところを知らない。
●取材協力:TRA京都 TEL:0774-43-3242
【関連リンク】
TRA京都
http://www.tra-kyoto.com