「世界にロケバニ旋風を巻き起こした男の素顔」ROCKET BUNNY/PANDEM・三浦 慶【チューナー伝説】

チューナーのサイドストーリーを元に、人物像に迫る連載「チューナー伝説〜挑戦し続けてきた男達の横顔〜」。第10回目は、アフターエアロ業界の風雲児、TRA京都の三浦慶氏だ。

「今、僕がエアロを作っているのは運命なんですわ」

クルマ好きになったのに理由とか経緯とかはないですね。僕ら世代はクルマがなかったらどうもならなかった。峠とか環状を走るのが流行ってたし仲間も多かったから、必然的に走るクルマが好きになった感じですわ。

18歳で最初に買ったのはAE86。そん次が510ブルーバードで、次がベンツの190Eです。そっからは覚えてないですね。なんせ510ブルだけでも5台は乗りましたし、190Eに至っては8台も乗ってますから。

まぁ、190Eは改造パーツがなくて当時は苦労しましたけど、取り敢えずバネ切ってペタンコにしてロールケージ組んで…って。それで、ポルシェ用のBBSホイールをリバレルして装着しましたね。多分、リバレルって僕が初めてやったんちゃいますか? 当時、橋本(橋本コーポレーション)なんか、僕のホイール見てビックリしてましたもん。

二十歳で造形の世界に入って、当時は遊園地の乗り物とか噴水とかを作ってました。TRA京都を企業したんは22歳の時やったかな。で、最初にエアロを作ったのは、近所の旧車屋から依頼されたんですわ。「材質は一緒やしできるやろ?」って。初代シルビア用でクラシックカーレースに出るためのレース用エアロでしたね。

そこから色んなメーカーのエアロ製作を裏方としてやらしてもらうようになっていくんですが、エアロブームで注文が殺到していく中、手書きでスケッチしているんでは仕事が追いつかなくなったんですわ。

そんな時、アメリカでインディアナポリスのカーイベントに行ったら、アメリカ人がマシニングを使ってエンジンブロックを掘っていたのを見て、めっちゃ衝撃を受けたんです。それで自分もCADを勉強してデザインを起こして、マスターエアロもマシニングセンタを導入して製作しようと思ったんですよ。

昔からプログラムは得意やったんです。というのも、小学校5年の頃にパソコンゲームがきっかけで3Dに興味を持って、DOSとかPC88で3Dのプログラムを組んでいたんですよ。

中学に入ってからはパソコンを触らんようになったけど、20歳の時に噴水の仕事でプレゼン資料を作るためにMacを買って、またCGに興味が出たんですわ。つまり、もうかれこれ28年、そんな長いことCGやってるヤツ、この業界におらんでしょう。

しかし、当時のMacは100万円とかしたくせに、HDD容量は240MBとかやったし、3Dレンダリングのボタンを押したら3日くらいかかってしまう時代(笑) でも、自分のエアロが受け入れられるようになって、デザインや生産にスピードが要求されるようになった今、パソコンも劇的に進化してくれた。そういう意味でも、自分が今CADでエアロを描いているのは“運命”やと思ってるんです。

というのも、さっき話したインディアナポリスのカーイベントは、本当は行く予定やなかったんです。

ウレタン吹き付けの機材を買いに行く予定やったんですが、ちょうどハヤシレーシングの社長から「一緒にアメリカに行こう」と誘われて、「その時期ちょうど自分も行ってますわ」と答えて別々で行ったのに、たまたまインディアナポリスで社長と同じホテルやったんですよ。それで、イベントに連れて行ってもらうことになるんですが、そんな偶然ってあります?

ロケットバニーやパンデムの製品はもちろん、他社エアロの設計からマスター製作も手掛けるTRA京都。その開発は、実車データを3DスキャナーでPCに読み取り、3DCGでスタイリングを創造するところから始まる。そして、完成したデータをマシニングセンタにインプットすると、樹脂の固まりからエアロの原型が削り出されるのだ。

マシニングセンタを導入したは良いけど、まずは動かすのが大変やった。制御システムを入れ替えるというか、パソコンを繋ぐDNC運転という観念がなかった。最先端の金型屋くらいやないと必要性がなかったですからね。そのシステムを自分で作った20年前から、基本的にそのままのセッティングで今も運用しています。

その頃は「10年これで飯が食えたら良いかな」なんて思っていましたし、当初は「日の丸つけてアメリカのショーとかイベントに行きたいな」くらいやったけど、依頼されてSEMAに出るようになるなんて思ってもみなかった。自分のデザインが認められるのは嬉しいですね。

よく「オリジナルデザインのクルマを作らないんですか?」って聞かれるんですけど、全く興味ないです。面白いですかね? 僕はやっぱりクルマは改造するのが楽しいんですわ。

(PHOTO:Hirotaka MINAI)
●取材協力:TRA京都 TEL:0774-43-3242

【関連リンク】
TRA京都
http://www.tra-kyoto.com

キーワードで検索する

著者プロフィール

weboption 近影

weboption