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割とピーキーなエンジン特性。だから、走って楽しいのだ!
スーパーチャージャーでターボ勢に対抗する
20年以上に渡ってスバルの基幹を支えた軽自動車、レックス。その最後のモデルとなる3代目にスーパーチャージャー仕様がラインナップされたのは、日本がバブル景気に沸き始めた1988年のことだ。
エンジンは吸気2、排気1の3バルブと電子制御インジェクションを採用した550cc2気筒SOHCに、インタークーラー付きスーパーチャージャーをドッキングしたEK23Zで、55ps/7.4kgmを発揮した。
ところが翌年、排気量は550ccのまま4気筒として新設計されたEN05Zにスイッチ。ボアφ56.0×ストローク55.6mmから547ccの排気量を稼ぐ。前期型の2気筒EK23Zはビッグボアだったこともあって3バルブヘッドを持っていたが、中期型EN05Zでは一般的な2バルブを採用。整備解説書を見ると、「幸運をもたらす4気筒エンジンの意を込めて」、クローバー4なるサブネームが与えられていた。これが今回取材した中期型で、スペックは61ps/7.6kgmに向上。
当時、軽自動車では3気筒が主流だったため、これでスバルは他メーカーをまんまと出し抜いたことになる…のだが、翌1990年には軽自動車の規格が大幅に変更されることに。排気量660ccへの拡大とボディサイズアップが実施され、レックスのエンジンルームにはEN05Zのストロークアップ版(55.6→66.8mm)、自主規制上限の64ps/8.6kgmを誇るEN07Zが収まることになった。
スーパーチャージャー本体はアイシン製AMR300型で、EK23Zも共通。規格変更でエンジンルーム前後長が60mm(ボディ全長で100mm)拡大されたEN07Z搭載の後期型は、中期型よりもスーパーチャージャー本体が良く見える。ちなみに、プレオになるとスーパーチャージャーは大容量&低中速型のAMR500に変更。
ここで生産期間を見てみると、EK23Z搭載の前期型が1年3ヵ月(1988年3月~1989年6月)、EN07Z搭載の後期型が1年11ヵ月(1990年4月~1992年3月)なのに対し、EN05Z搭載の中期型は1989年6月~1990年4月までのわずか10ヵ月しか生産されなかった。超希少車というわけだが、取材車両はフルタイム4WDの5速MTと、さらにレア度が高いモデル。しかも、奇跡のフルノーマル車! もはや天然記念物である。
いかにもバブル期に登場したクルマらしく、4年間で大幅なエンジンの仕様変更が3回も行なわれた3代目レックススーパーチャージャー。車両型式は、セダン(=乗用5ナンバー車)に関しては前期がKN、中期がKHで、その後に続く数字が1ならFF、2なら4WDということになる。例えば、前期4WDならKN2、中期FFならKH1ということ。後期の車両型式もKHなのだが、その後の数字がFFなら3、4WDなら4…と変化するのが中期との違いだ。
また、グレード構成はシリーズを通じて装備充実の上級モデル『VX』と廉価モデル『V』の2本立てが基本。さらに、前期で加わった電動開閉式の大型ソフトトップルーフを備えた「VXオープントップ」や、商用4ナンバー車なのにスーパーチャージャーで武装した「コンビVX」など(いずれもFFのみの設定)、良く言えば個性的、悪く言えば“変”なモデルが存在したことも覚えておいて損はない。
取材車両はステアリングやシフトノブまで純正品。ダッシュボードの両端にフロントスピーカーが内蔵されるが、よく見るとスピーカーを覆うメッシュ部分の上部に、サイドウインドウ用デフロスターの吹き出し口が設けられていたりする。
140km/h&9500rpmフルスケールのスピード&タコメーターの間に水温計と燃料計を配置。その下には、過給が始まるとルーツ式スーパーチャージャーのイラストがグリーンで浮かび上がるインジケーターも備わる。また、センタークラスターにはオプション設定されたエアコンの操作パネル、その右側にリヤデフォッガーとリヤワイパーのスイッチが確認できる。
ホールド性を重視してサイドサポートを大きく張り出させたフロントシート。運転席には座面高さを調整できるリフター機能が備わり、ヘッドレストもスルータイプが装着されるなど、ちゃんとコストをかけて開発されたことがうかがえる。20数年前の軽なのにこのクオリティ。スバルは真面目なメーカーであると同時に、マニアなクルマ好きを悦ばせるポイントを熟知しているのだ!
背もたれこそ短めだが、クッションの厚みがしっかりあって、スペース的にも大人2人が普通に乗れるリヤシート。整備解説書によると、ヘッドレストはオプション設定だったらしい。また、背もたれは50:50の分割可倒式だから、ワンアクションでラゲッジルームを拡大できる。
別体式のように見えるが、実はバンパー一体型のフロントリップスポイラー。あえて塗装せずに樹脂色のブラックを活かし、そこに赤いラインステッカーを追加することで、フロントマスクのアクセントとしている。コストをかけずにスポーティ感を演出する手法だ。
上級グレードVXに標準だった純正12インチアルミホイール。これに155/70-12サイズのタイヤが組み合わされる。ノンパワステだが、さすがにこのタイヤサイズなら据え切りも楽だ。
そして試乗タイム。カタログ値で690kgしかない車重は絶対的に軽く、アクセルオンと同時に耳に入ってくる「ミュオォォォォォ~」というスーパーチャージャー作動音がやる気にさせてくれる。ただし、550ccのクローバー4は2気筒に比べるとゼロ発進から3000rpmくらいまでのトルク感に乏しく、正直、街乗りだとやや頼りない感じ。
ならば、アクセルを深く踏み込めば良いだけの話だ。なんとなく眠そうだったエンジンは4000rpm付近から元気が出始め、パワー感こそ6500rpm付近で頭打ちになるものの、レッドゾーン手前の7000rpmオーバーまで実に軽快に回り切る。2気筒の身上が76φ×60mmというビッグボアゆえの力強さだとしたら、クローバー4の美点は56φ×55.6mmのほぼスクエアストロークがもたらすスムーズさだ。
さらに、前ストラット式、後セミトレーリングアーム式の4輪独立サスによる、路面に張り付くような安定したコーナリングも特筆すべき点。タコメーターの針を4000rpm以上に保ったまま、右に左に次々と現れるブラインドコーナーをクリアしていくと、絶対的なスピードはさておき「気持ち良く走っている!!」と、無性に楽しくなってくる。
速さと楽しさの源であり、マニアの好奇心をも満たしてくれる、素晴らしき550ccクローバー4。それを搭載するKH2レックスVXスーパーチャージャー4WDは、紛れもなく刺激と興奮に満ち溢れた名車だったのだ。
■SPECIFICATIONS
車両型式:KH2
全長×全幅×全高:3190×1390×1420mm
ホイールベース:2295mm
トレッド(F/R):1220/1190mm
車両重量:690kg
エンジン型式:EN05Z
エンジン形式:直4SOHCスーパーチャージャー
ボア×ストローク:φ56.0×55.6mm
排気量:547cc 圧縮比:8.5:1
最高出力:61ps/6400rpm
最大トルク:7.6kgm/4400rpm
トランスミッション:5速MT
サスペンション形式(F/R):ストラット/セミトレーリングアーム
ブレーキ(F/R):ディスク/ドラム
タイヤサイズ:FR155/70R12
PHOTO&TEXT:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)