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赤帽サンバー用スーパーチャージャーエンジン搭載!
ドミンゴ用ミッションの流用によりギヤ比を適正化
スバル360は、1960年代にモータリゼーション推進の一翼を担った名車であり、日本にマイカーという言葉を誕生&定着させた存在でもある。今時のクルマからは想像できないほどコンパクトな車体は、素晴らしくキュート。さすが「てんとう虫」の愛称が付けられただけある。
そんなスバル360を奥様が気に入り、「結婚5年目、婚約指輪代わりに購入したんです」という田中夫妻。外装はヤングSS仕様(スポーティモデル)になっているが、ベースは中期型のデラックス。
しかし、あまりにも非力で自宅近くの坂道を登るのに一苦労という事態に直面。そこで、モアパワーと安定性を求めてエンジン換装を決意し、愛知県のチューニングショップ“ダディーモーターワークス”に駆け込んだわけだ。
選ばれたのは、赤帽サンバー(TT1型)用EN07型スーパーチャージャー仕様。リヤフードを開けると赤い結晶塗装のカムカバーも誇らしげに搭載されているが、「そもそも360cc空冷2気筒の代わりに、660cc水冷直4スーパーチャージャー付きエンジンを載せるのはめちゃくちゃ大変でしたよ」とダディーモーターワークスの尾頭代表。聞けば、フレームを大幅に加工してなんとか収めたというのが実情だったりする。
赤いカムカバーが特徴の赤帽専用EN07型エンジン。換装されたのはスーパーチャージャー仕様だが、NA仕様も存在した。素のEN07型に対してフリクションロスの低減や白金プラグの採用などが行われ、パワー特性の改善を始め、耐久性や燃費の向上も実現。スペックはEK31型の18ps/3.2kgmから、58ps/7.5kgmと大幅にアップしている。
エンジンルーム左側に設置されたラジエター。ボディサイドのダクトから走行風を取り込み、2基掛けされた電動ファンで引き抜くが、80km/hを超えるとオーバーヒートが発生。その対策として、フロントフード内にラジエターを追加することになった。
これが、フロントフード内に設置されたラジエター(奥)とエアコンコンデンサー(手前)だ。コアに走行風を当てるため、バンパー下からダクトが引かれる。フロントラジエター追加によって高速走行時のオーバーヒートが解消。また、エアコンコンデンサーはエンジンルーム右側にも装備される。
さらに、エンジン換装後、今度はギヤ比が低すぎることが発覚。ミッションはサンバーディアス用5速MTを組み合わせていたのだが、ノーマル然とした見た目に拘って装着された純正10インチタイヤの外径が小さすぎて、ローギヤード傾向を極端に強めてしまっていたのである。
それを解消したのが、サンバーディアス用よりも全体的にハイギヤードなドミンゴ用ミッション。取材直前に組み替えが終わり、“普通に乗れる”常識的なギヤ比へと改められた。
尾頭代表いわく、「田中さんが調べに調べて辿り着きました。ドミンゴ用ミッションを探すのはもちろん、流用するには1ヵ所だけどうしても合わないポイントがあって、それを解決するのも大変でした」とのこと。
室内では、メインメーターユニットがヤングSS用に交換され、右側のタコメーターはピボット製を装着。ダッシュボード中央のブースト計、助手席側の水温/油圧/油温計はいずれもデフィリンクメーターアドバンスRSだ。その下にはエアコンユニットを装備。シフトレバー&ノブはスバル360純正で、チェンジ機構はロッド式からワイヤー式に変更された。
ベースフレームをワンオフ製作して装着されたフルバケットシート。これで普段は奥さんの足グルマと言うのだから開いた口が塞がらない(笑)。ドアは足元が広く開く後ろヒンジだけど、乗降性はまずまず。室内にはサイトウロールケージ製7点式ロールケージが組まれ、ボディ剛性を高めている。
後席座面の下には燃料ポンプ、ラジエターの熱を室内に引き込む簡易ヒーター用ブロワーファン、エンジン制御ECU、HKS SLDなどをセット。右上(背もたれの裏側)に確認できるボックス状の物体は、ガソリンの偏りによる息つきを防ぐためのアルミ製ワンオフコレクタータンクだ。
本来、フロントサスはトーションスプリング+油圧ダンパーだが、ダンパーユニットにコイルオーバー式のホンダグロム(50ccバイク)用を流用して強化。リヤもスイングアームがすぐに曲がってしまうため、左右に2本ずつリンクを追加して支持剛性を向上させている。
フロントホイールは純正で、ブレーキドラムにリムを固定する合わせホイール。ただし、ドラムは純正のアルミ製から2代目サンバーのスチール製に交換することで強度や耐久性を確保する。リヤはスピードスターマークIにキャップを固定し、純正っぽく見せてるのがポイント。タイヤサイズはフロント145/80R10、リヤは165/70R10となる。
外装は、効率良くリヤラジエターに走行風を当てるため、純正エアガイド(通称ブーメラン)に大型ガイドを追加。中央が凹んだサーフィンルーフやボディ同色とされたリヤクォーターウインドウの縁、丸パイプ状の前後バンパーなどがヤングSS仕様。
この赤帽サンバーのエンジンを載せたスバル360の反響は大きく、20人近いオーナーから問い合わせがあったという。
しかし、これまでやってきたエンジン換装の中で5本の指に入る難易度の高さと、作業にかかりっきりでも完成までに約半年を要した手離れの悪さから、「同じ仕様を作ってほしいという話は全て断りました。正直、二度と作りたくないです」と、笑いながらも断言する尾頭代表なのだった。
TEXT&PHOTO:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)
●取材協力:ダディーモーターワークス 愛知県豊明市沓掛町神明13 TEL:0562-85-9911
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