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ドリフト界に一石を投じた完全リヤ駆動のランエボⅨMR
縦置き4G63を軸にした独創的FRパッケージを振り返る
長いD1グランプリの歴史において、このマシンほど野心的で強烈なインパクトを残した存在はいなかったように思う。D1GP2006シリーズチャンプの熊久保信重選手と、気鋭のチューニングショップであるJUNオートメカニックがタッグを組み創造した、ランエボベースの滑走戦闘機である。
ベースマシンは、“最強の4発”との呼び声が高い名機4G63を搭載する最終モデルにして、第3世代ランエボの集大成的存在『ランエボⅨMR』。当然、FFベースの4WDパッケージのままで高度なドリフトなど不可能に近いため、駆動方式はJUNのテクノロジーによってFR化されているのがポイントだ。
まず、4G63ユニットを横置きから縦置きへと配置転換し、合わせてミッションもホリンジャーの6速シーケンシャルドグへとスイッチ。そして、リヤデフを大容量のR200系へとケースごと変更した上、ミッションアウトプットからワンオフのプロペラシャフトをリヤへと伸ばす。そう、シルビアに代表されるFRパッケージを、ランエボでそのまま表現したのだ。
なにより驚かされるのは、ここまでの大規模なモディファイを敢行しておきながら、車重や前後重量配分といった基本ディメンションへの理想追及も忘れなかったことだ。バルクヘッドおよびフロアトンネルを作り直して、縦置き4Gユニットをミッションごと後方に押し込む。さらに、ボディ全体の贅肉を限界までそぎ落としつつ、カーボンをはじめとする軽量マテリアルのチカラをフル活用することで、フロントミッドシップの1250kgを達成したのである。
もちろんエンジン本体はノーマルではなく、腰下にJUNの2.2Lキットを導入した上、ヘッドにはMIVEC用ソリッドカム(272度/10.8リフト)をセット。そこにTD06-25Gタービンをドッキングし、F-CON Vプロ&Vマネージによる緻密なフルコン制御を組み合わせることで、最大ブースト圧1.8キロ時に600psを発揮。4G63の縦置き化にあたっては、ラジエター接続ラインの取り回し変更や、オイル偏り方向の違いによるブローバイガス対策が敢行されている。
重量増を懸念してラジエターはリヤマウントとせず、コアサポート内側にインタークーラーと合わせてVマウント化。インタークーラーは、サージングを防止するためにインナーフィンなしとインナーフィンありを組み合わせたツインコアとなる。
妥協なき拘りはサスペンションにまで及ぶ。フロントはオリジナルサスメンバーの導入を軸に、アーム取り付け位置を含めてレイアウトを再構築。これにより、サス形式こそノーマル同様のストラットを踏襲しているものの、ジオメトリーやアーム可動領域はまるで別モノという、文字通りのドリフトスペシャルが完成。ダンパーはDG5だ。
ドリフトで重要なステアリング切れ角に関しても、タイロッドやナックルなどに大手術を敢行することで、ノーマルから15度アップとなる46度を実現した。ブレーキにはGReddyのフルシステム(F6ポット R4ポット)を奢る。
駆動輪となるリヤは、ノーマルの高いトラクション性能を生かすべく調整式アームの導入程度に留めているが、大容量デフの採用にともない、ドラシャやナックルはオリジナル強化品へと変更。なお、燃料タンクは軽量化のために純正を半分カットした『半タン』仕様となる。
コクピットは超スパルタンだ。メインメーターはスタックで、各種制御スイッチはセンターコンソールに整然とレイアウト。サイドブレーキは純正を使用しつつ、使用頻度が高いことから取り付け位置を大幅にアップさせた上、バー形状を変更している。
そんな革新的メカニズムに包まれ産声を上げたFRランエボのアンヴェールは、D1GP2007シリーズ第5戦エビスRdが選ばれた。結果は、テスト走行すらままならない状態だったにも関わらずベスト8を奪取。勢いは止らず、シーズンファイナルのアーウィンデールRd(エキシビション)では、なんと投入からわずか4戦目という異例の速さで、『優勝』の2文字を手中に収めたのだ。
その後も活躍を続けて多くのドリフトファンを魅了し、2009年シーズンでランエボXベースのニューFRマシンにバトンタッチ。以降は同じチームメンバーの末永直人選手がステアリングを握り、2011年まで競技ドリフトの最前線を走り抜けたのだ。
●取材協力:JUNオートメカニック 埼玉県入間市狭山ヶ原松原102-1 TEL:042-934-5335
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