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セリカ復活への狼煙が上がった!

GR86にGRカローラの直噴ターボとAWDを移植!
2024年のSEMAショーで発表されたトヨタのコンセプトカー『GR86ラリーレガシーコンセプト』。ショーの開幕に先立って公開されたプレスリリースには、「トヨタの輝かしいラリーの歴史に敬意を表し、2024年モデルのGR86をベースに、トヨタのパフォーマンスへの拘り、ノスタルジア、そしてラリーの未来を象徴する革新的なコンセプトカーである」と謳われている。

プロジェクトの背景にあったのは、2026年と噂されるアメリカのWRC復帰。その機運を盛り上げようと、かつてラリーシーンで輝きを放ったST185型およびST205型のセリカGT-FOURをオマージュした現代版コンセプトが企画されたのが発端だ。

外装だけそれっぽく作ってお茶を濁すことも可能だったはずだが、“セリカGT-FOURの現代版”をしっかりと解釈した結果、GR86のシャシーとGRカローラのパワートレインを融合させるという、よりインパクトのあるコンセプトワークが実現。今回その撮影がトヨタ・モーター・ノースアメリカから特別に許可された。


まずはエンジンルームだが、本来は水平対向4気筒が搭載されるスペースに、横置きの直列3気筒ターボと6速MTがキレイに収まっている。搭載用のサブフレームとエンジンマウント、サブフレームに合わせたコントロールアームが製作され、GR86のステアリングラックもクリアランスが調整されている。
問題はエンジンの幅より高さだったのではないかと思ってボンネットの裏を見たところ、純正で備わるリブが切り落とされていた。それでヘッドカバーとの干渉を回避しているようだ。


冷却系の取り回しはワンオフで製作されているが、パッと見は12Vバッテリーやマスターバッグ、ヒューズボックスなどがGR86の純正位置にそのまま収まり、あまり不自然さを感じさせない。インタークーラーは高効率なアフターメーカー品に交換され、オイルクーラーも追加されている。
6速MTからホイールハブに至るまで、駆動系のコンポーネントは基本的にGRカローラを踏襲。直噴の制御にも対応できるモーテックのM142が採用され、各種センサーも追加されている。サスペンションにはASTサスペンションの3ウェイ調整式コイルオーバーが装備され、フロント用の別タンクがストラットタワーにマウントされている。

ホイールはスピードラインのタイプ2013C、タイヤはミシュランのパイロットスポーツを装着し、往年のST185やST205のセリカGT-FOURの雰囲気を再現。赤いマッドフラップも欠かせないアイテムだ。
GR86のPCDは5H-100だが、GRカローラのハブを使用しているため5H-114.3にコンバートされており、ブレーキもGRカローラから移植されている。ラリーマシンらしく車高が少し上がっているところも、GR86のカスタマイズとしては新鮮。前後トレッドはいずれもGRカローラの方が70mm長いため、アクスル(ドライブシャフト)は短縮していると思われる。



ロールケージが張り巡らされた室内には、スパルコのバケットシートやステアリングを装備。純正のメータークラスターの中に、モーテックのデジタルロガーディスプレイもインストールされている。センターパネルにはスタータースイッチの他、燃料ポンプや四連フォグのスイッチ、PCと接続するためのLANケーブルソケットを装備。クーラーワークスのHパターン・ショートシフターも備わる。

ラゲッジスペースには交換用のタイヤ・ホイールも用意。

ボディカラーは北米純正色のヘイロー・ホワイトをベースに、印象的な赤と緑のラインを追加。ワンオフのカバーにマウントされる4連のラリーフォグランプはポーランドのWESEM製だ。

セリカGT-FOURからインスピレーションを受けたリヤスポイラーには『GT-FOUR』ではなく、GRカローラのAWDシステムである『GR-FOUR』のロゴがあしらわれた。サイドウィンドウとリヤウィンドウはポリカーボネート製、ドアミラーはEVSのGTLMエアロミラーとなる。

巷ではラリージャパン2024で復活が明言されたセリカの話題で盛り上がっているが、このコンセプトモデルが次期セリカと直接関係あるかというと、そうでもない。ただ、ラリージャパンがSEMAの2週間後だったことを考えると、WRCだけでなくセリカの復活ムードも盛り上げておきたいという意図があったことは十分に汲み取れる。

今後イベントへの出展やデモランの実施があるのかも聞いてみたが、現時点では特に予定はないとのことだった。もし世の噂が全て本当だったらとしたら、アメリカのWRC復帰と次期セリカ登場のXイヤーは2026年。その時、GR86ラリーレガシーコンセプトがいかに示唆に富んだコンセプトモデルであったかが証明されるだろう。
Photo:Akio HIRANO TEXT:Hideo KOBAYASHI
●取材協力:TOYOTA MOTOR NORTH AMERICA