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エンジン屋の意地が生み出した2JZ改3.6Lシステムの知る
JZエンジンの究極形態!
エンジンチューンに詳しい人なら、このキットがどれだけ凄い存在なのかは理解できるはず。元々、86.0mmストロークの2JZ-GTEを100mmストロークまでアップさせてしまうのだから。
レースエンジンならまだ分かる。しかし、東名パワードの3.6Lキットはストリートまで視野に入れた市販品なのである。JZ系エンジンチューンにおけるひとつの終着点、その全てを公開する。
それはJZ系エンジンチューニングにおけるひとつのゴールなのかもしれない。86φ×86mmというスクエアストロークを有する2JZ-GTEは、いわゆるバランス型のエンジンだ。それを東名パワードは87φ×100mmにまでストロークアップさせ、総排気量を3565ccまで拡大させたのである。
ここまでのロングストローク化を行う場合、当然ながらピストンのピンハイトおよびコンロッドの中心間距離を詰める必要がある。そしてそれは、ピストンの首フリ現象を助長することになり、シリンダーへの側圧が高まってしまう。そう、極端な排気量アップは「諸刃の剣」なのである。
では、東名パワードの100mmストロークはどうなのだろうか。
中心間距離は純正から3mm短くなっているのだが「ポイントはピストン設計ですね。ウチのピストンはアルミの熱膨張を正確に把握した上で設計しています。熱が入った時に真円になるよう、楕円、タル型なんですね。これによってピストンの首フリを抑えているんですよ」と、東名パワード冨田さん。
このピストン設計は「3次元プロフィール」と呼ばれる技術で、実際のパワー域においてシリンダー内でのピストンクリアランスを最適な状態にすることができる。これによりストロークアップのネガを消している、というわけだ。
スペックは、純正から1mmオーバーサイズの鍛造品で、ピストンリングも薄型にしてフリクションを低減させる構造。また、トップリングはチタンコーティングが施されていて、標準品に比べて約30倍の耐摩耗性と1.4倍の耐スカッフ性(引っかき傷に対する強さ)も確保済みだ。
ピストンスカート部にはヘコミが設けられているが、これはオイルジェットの逃げ用。100mmストロークともなると下死点はかなり下がる(中心間距離が短くなる)ため、逃げ加工が必要になるのだ。当然ながらブロック側も逃げ加工が必要で、オイルジェットの手前とクランクケース部に加工が施される。ここまで逃げ加工しなければ、2JZで100mmストロークは不可能なのである。
コンロッドの形状にはH断面とI断面があり、エンジンのスペックや用途に応じて使い分けられるが、東名パワードはH断面を選択。コストよりも強度と軽量性を重視したというわけだ。重量はノーマル770gに対して665gと、大幅な軽量化も達成している。素材はニッケルクロムモリブデン鋼だ。コンロッドボルトはARP社の高強度タイプとなる。
大端部の剛性は重要だ。ここが弱いとメタルが均一に当たらなくなって焼き付いたりする。東名コンロッドはロッド部と大端部の繋がりを「なで肩」形状にして剛性を確保している。
そして、100mmストロークの要となるクランクシャフトは、ニッケルクロムモリブデン鋼から削り出したフルカウンタータイプとしている。純正よりも重くなるが、これは1000ps級の高出力に耐える剛性を確保したかったからに他ならない。ピン径&ジャーナル径は純正とイコール。開発が想定しているレブリミットは7800rpmだ。
気になる耐久性については、競技ドリフト“フォーミュラDジャパン”で1年間戦い抜いた3.6L仕様エンジンをオフシーズン中に東名パワードが分解検証したが全く問題なし。基本、中心間距離が短くなればピストンの首振りが増えてシリンダーへの側圧が高くなる。これが様々なトラブルを生み出すわけだが、メタルの当たり具合もシリンダー壁面も問題ないレベル。ピストンやコンロッドの数値も規定内。さすが日本を代表するエンジン屋のキットだ。
キット価格は110万円。エンジン側の加工や補機類、工賃などまで合わせると総額200万円は必要になる高額の改造メニューだけに、簡単に手が届くものではないのも事実。
しかし、この時代にJZエンジンチューンの最終形態が誕生し、それがキットとして一般販売されているということは実に夢のある話だと思う。「いつかはあのエンジンを…」と、妄想するだけでも胸が高まるというものだ。
●問い合わせ:東名パワード TEL:042-795-8411
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東名パワード
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