自動車価格も高くなったもんだ…


清水:今年2025年3月に出たメルセデス・ベンツのディーゼル、GLC 220d 4MATICに“Core”(コア)っていうのが出たでしょ。アレ、いろんな装備を簡略化した安価仕様といっても、SUVが819万円/クーペが866万円。ちなみに従来からあるISGモデルはSUV867万円/クーペ907万円。
編集部:あたしにとって800万円超えたらほぼ同じ感覚…高い!
清水:うん。でも最近は800万円だと高くないと思うようになっちゃったね。この間乗ったスバルのフォレスター、ストロングハイブリッド“じゃない”ほうに乗ってきたけど、それでも最安SPORTが404万8000円。フォレスターの最高額S:HEV EXは459万8000円だから、オプション付けたらフォレスターで500万円超える。
編集部:その昔、スカイラインGT-R(BNR32)が445万円で買えたんですから!
清水:え? そんな安かったっけ!? そっか、BNR32のベーシックはそんなもんか(ブレンボブレーキとかのV-SPECでさえ526万円)。
編集部:しかも445万円GT-Rを6年ローンとかで買いました。今はみんな普通にローンで買っていますが、残価設定みたいな話でしょ。

清水:でも、レクサスのNXを見ると、5年落ちでも中古車価格が60%以上付いているからね(レクサスNX:485万円[NX 250]~772万5000円[NX450h+])。だから下取りが5割あるってことだよ。
編集部:だから買えるんですよね。だって新宿西口辺りだとレクサスLMもアルファードと同じくらいいっぱい走っているんですけど、2000万円するわけでしょう(レクサスLM500h:1500~2000万円/アルファード:510万円[X/HEV 2WD]~1065万円[Executive Lounge/PHEV E-Four])。
清水:だからレクサスNXを600万円で買っても5年で300万円償却。5年で300万円払えばいいわけでしょ。ってことは月5万円でNXに乗れる。それをKINTO(トヨタのサブスク)にすると保険も入れて月々4万円くらいだね。
上海モーターショーの勢いったらもう!

清水:今、東からトランプが暴走中の関税と、西(中国)からの黒船と、東西の両方から日本を襲う。日本の自動車産業で見たら、東はタリフ(Tariff/価格に応じて変動する関税)、西はBYDの軽自動車。これが最大の脅威なんじゃないかな。
編集部:上海モーターショー(以下MS)、行きました。スゴかったです! でも、従来とはだいぶ変わっていて、ヒョンデとかはブースもない。撤退するところはサクッといなくなる。
清水:オレ、今年は行けなかったんだけど、でも結構、日本系メーカーは頑張っていたんだよね? トヨタ、ホンダ、日産、マツダ。いっぱい出していたよね。
高平:でも圧倒的に中国の、元は違う名前で出た長城汽車(長城汽車股份有限公司/グレート・ウォール・モーター GWM)、そういうメーカーがPHEVやEVとかをドーンとブース出しているっていう感じ?
編集部:そうですね。でもやっぱり一番脅威なのはBYDですよ。
清水:日本の自動車産業のサバイバルが始まった!みたいな感じ。セダン回帰してるよね。SUVがちょっと飽きられたんじゃないかな。
高平:中国のスピード感っていうか。でもレクサスLS(セダン)はもう止めちゃうってことなんですかね。
清水:もうエンジン車のLSなんかないよ。
編集部:でもレクサスES(セダン)は、今まで一番売れていたのはアメリカですよね? でもアメリカでワールドプレミアしなくて中国でやるっていうことが、そういう意味なんじゃないかと思ったんですけど。しかも上海に工場を作る。

清水:一番売れているのはRAV4だけど、同じKプラットフォームを使い、トヨタの収益の目玉。中国が凄いスゴイっていうのはみんな言っているからいいんだけど、まぁオレは上海MSに行っていないからリアリティのある発言じゃないけど、日本の80年代後半~90年代の東京モーターショーがこんな感じ。
軽自動車で見れば、FRがあってFFがあってミッドシップがあって、4バルブがあって5バルブがあって、スーパーチャージャーがあってターボがあって。ものすごいテクノロジーといろんな商品をおもちゃ箱をひっくり返したような。ホンダのプヨ(PUYO/2007年)とか不夜城(1999年)とか。
以前スイスの国営放送からインタビューを受けたんだよ。日本はこんないろんなものを作って、テクノロジーでも4WSもあれば、日産はマルチリンクを出していたし、ホンダはレジェンドでエアバッグを出して…。いろんなものがあったじゃない。だから、日本が歩んできた道を今、中国が歩んでいるんじゃないかな。と思うと、これはもうピークアウトするな!と。だっていずれにしても、全部重量が重くなって値段が高くなる方向じゃない。どこまで中国のユーザーが受け入れるか…?
いろんなところで水平対向エンジン爆誕!?
編集部:BYDの水冷対向エンジン搭載のクルマは3tくらいあるそうです。
高平:サントン!?
清水:BYDの高級ブランド、仰望(ヤンワン)の“U7(セダン)”ね。PHEV用の水平対向エンジンで、クランクピン、ジャーナルをふたつ持っている。どうもアレを作ったのはシーメンス(Siemens AG/ドイツ・バイエルン州ミュンヘンの電機メーカー)とか、あの辺のコンサルが入っている。まぁBYDは自分たちでやったって言うんだけど。BYDに行けば、ベンツの元エンジニアからアウディのデザイナーからウヨウヨ集まっているからね。

高平:あの水冷対向エンジンって今、一番興味ありますよね。画像は見たけどどういう風に走るんだろうとか。
清水:SUBARUの藤貫さん(藤貫哲郎/取締役専務執行役員 CTO)に誰かがインタビューした記事がどこかに載っていたけど、BYDは発電用で作っているから多分、熱効率はスバルのエンジンより全然いいと思うんだよ。
高平:どこかに“熱効率50%目前”みたいなことが書いてありましたよね。そこはまるっきり新しいコンセプトで作ったんでしょうから、詳しく見てみたいなっていうのはありますね。
清水:2年前、オーストリア・グラーツのAVL(AVL List GmbH/オーストリア/自動車産業などの開発、シミュレーション、テストを行なうモビリティテクノロジー企業)に行った時に、“ヨーロッパからエンジンの技術者がいなくなった…”って言っていた。みんな中国に買われて。メガサプライヤーもドイツはボッシュ含めてみんな中国頼りでしょ。日本メーカーやドイツメーカーもお金がないから買わないし。今、テクノロジーでワー!ってなっているのは中国だけど、多分もうピークアウトするだろうなと思うけどね。

編集部:ホース・パワートレイン(HORSE Powertrain)ってあるじゃないですか、フランス・ルノーグループと中国・ジーリー(吉利)の合弁会社。上海MSではそこに1.0L 水冷対向2気筒エンジンが置いてありました。もう出来上がっているけど、彼ら(ホース)はエンジン供給会社だから、“買ってくれるところがあったらいつでも出せます”っていう風に言っていました。
清水:アレはV型180度2気筒だよね。まぁ安く作るんだったらそれしかないと思う。
高平:うんうん、そうですね。


清水:SUBARUジオットキャスピタ(JIOTTO CASPITA)のエンジンも、スバルは作っちゃ~いないしね! カルロ・キティ博士がモトーリモデルニ(イタリアのエンジンコンストラクター)で作った180度の水平対向。
高平:キャスピタってワコールと童夢の…ありましたね!
編集部:キャスピタのエンジンは水平対向180度V型なんですか?
清水:フェラーリも180度V。本気の水平対向のやり方だとエンジンが長くなっちゃうんだよね、ジャーナルをふたつ持つので。
高平:そうすると真ん中から取らないとクランクシャフトがねじれるという、いわゆる“ポルシェ917問題”みたいな話になるから、ハイパワーでそれはありえない。キャスピタのエンジンは本当にデカかったじゃないですか、見た感じ畳2畳分くらいあるような(←ちょっと盛ってるwww)。
清水:ガショー(ベルトラン・ガショー選手/Bertrand Jean Louis Gachot)と一緒にスパ・フランコルシャン24時間レース(1993年)にHONDA・NSXで走った時その話になって、“エンジンの上で卓球ができるよw”って。本当のボクサーエンジン12気筒っていうのは存在してないよね。
高平:ポルシェ917とか、6発+6発なのであれを12気筒って言えばそういうことですが。
清水:アレはツイン・フラットシックスだな。
高平:みんなソレはやっていないと思います。
清水:ホンダだってそうだよね、1964年の12気筒のF1エンジンもV型60度横置きだよね。
中国モータースポーツ事情はどうだ?
編集部:“今の中国メーカーは80年代後半の日本のメーカーみたいな感じ”という話ですが、あの頃の日本のメーカーってみんなF1やりたいって言ってみんなF1エンジンを作っていたじゃないですか、いすゞとかも。中国メーカーもF1に行くと思いますか?
高平:中国はやるとなったらドーンと行くんですけど、お金だけじゃなくて中央の上層部の意向とかを予想する…という風向きを見ながらだから。
つい10年ちょっと前までは“中国はこれからモータースポーツをやるしかない!”っていうくらい日本からはもちろん、世界中から押し寄せっていったけど、それが2015年くらいに習近平の規制というか、“松平定信の寛政の改革”みたいなものを言ってそれが染み込んだら、中国人は“目立つことはやめた方がいい…”となって。でもお金持ちのモータースポーツをやりたい人は日本に来て、日本でサーキットを走った方が全然安全だし…っていう風に変わっちゃったんです。

清水:話は変わるけど、ローマ教皇を選ぶコンクラーベ。結局はアメリカ人に決まったけど、“もしかしたらアジア人の可能性もある…?”っていう話もあった。ついにアジア人がローマ教皇の最高峰に行く時代に!? としたら、F1もアルファロメオの周冠宇(Guanyu Zhou)とかね。やっぱりお金があったら最後、エンジンやりだしたらF1やりたいんじゃないかなと思うけどね。で、後ろにいるドイツがたきつけるわけ。
高平:でも、国内で堂々とモータースポーツができるかどうかが怪しいので、そういう人たちはどこかもっと自由な国でやるのかもしれないですね。
清水:チャイナツーリングカーレースって、オレも1回出る話があったんだけど、あのレース、今はもうやっていない。でも、F1をあれだけリバティメディア(Liberty Media Corporation/アメリカのマスメディア関連企業、4輪のF1、2輪のMotoGPのモータースポーツ事業を所有)がアメリカでやっていて、トランプがいなくなった後にアメリカで富裕層ビジネスを狙うんだったらF1が一番いいよね。キャデラックも来るし。
編集部:中国はフォーミュラEには行かないんですか? 電気は得意なんだから!
清水:つまらないから行かないんじゃないの?

・・・・・・・・・
というところでその1.はここまで! “80年代の魅力的なクルマ”話までには、あともうちょっと枝葉話に耳(眼?)をかたむけてください。ちなみに、その80年代の魅力的なクルマとは…意外にもあのトヨタ・ミニバンだった!?


