Bentley Torcal
新たなデザインのヘッドライトを採用

ベントレーが開発を進めている同社初のBEVがいよいよこの9月下旬に正式発表される。その名前が「トルカル」であることもすでに明らかにされ、先日はごく一部分の写真が公開された。超プレミアムブランドの電気自動車への期待が高まりつつあるこの8月、なんと開発最終段階のトルカルに触れ、同乗する機会を得た。
ベントレーのイベントで訪れたアメリカ・サンフランシスコのペブルビーチのホテルにやってきたのは、偽装が施されたトルカルだ。事前の情報通り、そのフォルムは5ドアを持つSUVスタイル。ほぼ垂直に近いフロントグリルには既存のモデルとは明らかに異なるデザインのヘッドライトが装着されている。そのせいかベントレーのファミリーとはかなり異質の存在のように感じてしまう。カバーに覆われているグリル部分には、高級車に相応しいめっきの大型グリルが装着されることになるのだろうか、それともBEVらしくグリルなしのフラットな形状となるのだろうか。
ベンテイガよりも約50mm低い車高

フロントウインドウの傾斜はかなりなだらかで、リヤハッチの前傾角も強め。全体的にかなりスポーティなSUVという印象だ。ベントレーのスタッフによると全高は「ベンテイガ」より約50mm低いという。ベンテイガの全高が1728mmなので、トルカルはおよそ1680mmというところか。これは「ポルシェ カイエン」と同じくらいの数字だ。
リヤハッチのパネルにはかなり厚めの偽装が施されている。これが何を意味するのかは不明だが、何か特徴的なデザインを隠すようにしているのかもしれない。テールライトはかなり細いデザインで、おそらくリヤハッチまでまたがるような形状になっていると思われる。偽装のために目立たないが、リヤフェンダーの張り出しもかなり大きい。
しっかりとしたグリップを持つドアを開けて後席へ乗り込むと、ベンテイガよりも全高が低く、床下にバッテリーを搭載している割には十分な広さ。グラスルーフなのでさらに頭上に余裕が生まれているのだろう。リヤシートは座面の高さも膝前のスペースもしっかりと確保されている。
1980年代のV8を再現したサウンド


ベントレーの開発スタッフが運転席に座り、スタートボタンを押すと、重厚なエンジンサウンドが響いた。一瞬「あれ、エンジンが載っているの!?」と思ってしまうほどのリアルさで、知らずに乗ったらBEVだとは思わないかもしれない。このエンジンサウンドにはかなりこだわったようで、過去のベントレーのモデルの音を色々と検証したのだという。その結果、もっとも相応しいのは1980年代のコンチネンタルやターボ時代のV8エンジンのサウンドだ、という結果に行きついたと開発スタッフは語る。どうりでちょっと昔のエンジンっぽい荒々しさがあるわけだ。そして感心したのは音の作りだけでなく、本物のエンジン車のような室内への響かせかたで、この音作りには相当な時間をかけただろうと思われる。スポーツモード以外ではこの音はOFFになり、静寂な走りを楽しむこともできるという。
走りは力強く、かつスムーズそのもの。車重は約2.7tあるということだが、アクセルを強く踏み込むと背中を強く押し付けられるほどの加速を見せる。乗り心地も素晴らしく、細かな入力などもすべてストロークたっぷりのサスペンションが吸収し、不快な振動や揺れなどはほぼ乗員に伝わってこない。
基本のアーキテクチャーはカイエン エレクトリックと共有

プラットフォームやBEVの基本システムは事前の予想通り「ポルシェ カイエン エレクトリック」をベースにしている。バッテリー容量もカイエン・エレクトリックと同じ113kWhで、実用エネルギーは108kWhを達成している。800Vシステムによって充電能力は400kWまで対応し、バッテリーが10%の状態から80%までや20分以下で充電可能であるという。これらのスペックはほぼカイエン・エレクトリックと同様だ。
「最大航続距離は600kmを目標としていますが、それは必ず達成できるでしょう」と開発スタッフ。カイエン・エレクトリックが最大642km、カイエンターボ エレクトリックが623kmの航続距離であるから、600kmは控えめな目標のように見える。ただ、トルカルのCD値は0.27ということで、これはカイエンの0.25よりも若干大きい。垂直なフロントグリルなどの影響だと思われるが、それによって航続距離も少し短くなるのだろうか。
後席から助手席へと移動し、再び走り始める。インパネ周りを隠す黒いカバーを一時的にめくった陰からベントレー伝統のウイング形状のデザインが見える。その中央に据えられているディスプレイはカイエンと同じようにカーブを描いている。聞くと、カイエンのものと似ているが、カーブの曲率などはかなり異なっているのだという。
今後10年は毎年PHVかBEVを投入

「ベントレーはPHVに加えて電気自動車もラインナップに加えますが、私たちは様々な選択肢をお客様に提供することが重要だと考えています。そしてこのトルカルを開発する際に我々がするべき仕事は“素晴らしいベントレーを造る”ということだけでした」
2030年までに完全な電気自動車のブランドになるという中長期ビジネス戦略“ビヨンド100”の達成を2035年に延長したベントレーだが、プロダクトの電動化は着実に進めており、今後10年をかけて毎年、新たなPHVもしくはBEVの投入を予定している。その一方で限定モデルながら純エンジンでFRの「スーパースポーツ」を登場させるなど、保守的なファンを喜ばせることも忘れていない。いずれにしろ、このトルカルはこれからのベントレーが進む方向を示唆する、ひとつの転機となるモデルとなるのだろう。
その全貌が明らかになる正式発表は9月23日だ。
REPORT/永田元輔(Gensuke NAGATA)
PHOTO/BENTLEY MOTORS

