ヤマハ・シグナスX:38万9400円

カラーリングは、ホワイト、ブルー、マットダークグレーの3種。ただし2026年8月には800台の限定車として、YZF-R1Mに通じる雰囲気のスペシャルエディションが登場。

車名を戻して原点回帰

モトチャンプの読者にとっては何を今さらの話だけれど、2003年から発売が始まったシグナスXシリーズは、ヤマハにとっては非常に重要な125ccスポーツスクーターで、これまでに100万台以上を生産している。

2026年9月の時点では、ヤマハのウェブサイトにまだ掲載されているものの、シグナス・グリファスの生産はすでに終了。

そんなシグナスXシリーズは、2021年の5型までは初代が構築した基本設計を踏襲していたものの、同年12月から日本市場に投入された6型は、水冷ブルーコアエンジンの導入に伴ってフルモデルチェンジを敢行し、車名をシグナス・グリファスと改めることとなった。

ところが、2026年5月から日本での発売が始まった7型のコンセプトは“Re-Athletic CYGNUS”、俊敏なスポーツ性能への原点回帰で、車名をシグナスXに戻しているのである。

もちろん、それはべつに悪いことではなのだが、過去にグリファスを試乗した際に“車格が大柄になって路線がちょっと変わったけれど、シグナスXらしさはちゃんと維持されている”という印象を抱いた身としては、何となく微妙な気がしないでもない。

ただしグリファスと新しいX、6型と7型を準備して行った今回の試乗で、僕はヤマハの方針に100%賛同。

と言うのも、シグナスXらしさを維持していた6型に対して、エンジン以外のほとんどすべてのパーツを刷新した7型は、シグナスX濃度を大幅に高め、これぞ「シグナスX‼」と言いたくなる乗り味を実現していたのだ。

先代とは別物のルックスと乗り味

試乗の舞台となった秋ヶ瀬サーキットで対面した7型は、誤解を恐れずに表現するなら、意外にシグナスXではなかった。

フロントマスクは近年のスーパースポーツを思わせる雰囲気だし、サイドカバーからアシストグリップにつながるシャープで流麗なデザインは、過去のシグナスXとはまったく異なっている。

とはいえ、シートに跨ってハンドルグリップに手を伸ばしてみると、コンパクトな車格感は紛れもなくシグナスXなのだ。何と言っても6型の全長・全高が1935・1160mmだったのに対して、7型は1865・1125mmである。

もっとも、1340mmの軸間距離や26度30分/90mmのキャスター/トレールは2台に共通する要素なのだが(車重もほぼ同じで、6型:125kg、7型:126kg)、今回の試乗のような同条件での比較なら、誰もが6型と7型を別物と感じるだろう。

そしてその印象は、ライディングフィールにもそのまま当てはまるものだった。過去に試乗した6型に対して、僕はモッサリや不安などいう印象は微塵も抱かなかったのだが、7型の走りは明らかにキビキビ軽快なのである。

可変バルブ機構のVVTを装備するブルーコアエンジンは5型と共通で、最高出力12ps/8000rpm、最大トルク11Nm/6000rpmという数値にも変更はない。とはいえ、吸排気系やウェイトローラーは専用設計。

ただし、7型が単に軽快さを求めた仕様変更を行ったのかと言うと、そんなことはない。このモデルはシリーズ最強と言いたくなるレベルのコーナリング性能を獲得していたのだ。

あまりにも劇的な進化

まずはコーナー進入時の印象を記すと、フロントブレーキの刷新で制動力が上がっているうえに、フレームの剛性を高めた効果で思い切ってフロントブレーキレバーを握り込めるし(6型のハードブレーキングでときとして感じる、フロント周りが内側に入ってくるような挙動は皆無)、外装のボリュームが小さくなったことに加えて、前輪のリム幅・タイヤ幅が2.75・120→2.50・110に細くなっているから、ここぞというポイントでスパッと軽やかに車体を倒し込める。

基本構成は6型に準じているものの、DL8と命名された7型のフレームは19%の縦曲げ剛性向上を実現。右側パイプは板厚を2→2.3mmに変更し、左右ステップ付近には剛性を高める補強材を追加。紫の部分の左側は溶接面積を拡大し、右側は緑色のパイプの溶接位置を上方に移動。

そして旋回姿勢に入ってからは、前述したフレーム剛性向上の効果で車体はビタッと安定しているし、それでいて前後ショックの設定が絶妙なのだろう、グングンと表現したくなる感触を伴って向きが変わっていくのだ。

6型と7型の相違点は多岐に渡る。前後ショックのバネレートが下がった背景には、フレームの剛性向上がありそうだ。なおグリファスのシート下収納容量は台湾仕様の数字で、日本仕様は新世代のXと同じ数値を公称していた。

しかも、吸排気系やウェイトローラーなどを刷新したパワーユニットは、スロットルを開けた際のエンジンの反応がかなり俊敏になっていて、さらに7型は新たな装備としてトラクションコントロールを導入しているから、コーナーの立ち上がりでは臆することなくスロットルをワイドオープンして、力強い加速が堪能できる。

いずれにしても7型のコーナリング性能は素晴らしくスポーティにしてエキサイティングで、そのフィーリングをじっくり味わってから6型に乗り換えると、至るところで物足りなさを感じてしまう。

と言っても、僕は過去にいろいろな車両のモデルチェンジで同様の体験をしているのだけれど、7型の進化はあまりにも劇的すぎて、6型のオーナーが気の毒になるほどだったのだ。

もっともだからと言って、僕は既存のシグナスXシリーズを否定するつもりはない。“ローマは一日にして成らず”という格言にあるように、7型のライディングフィールは、6型以前で得たノウハウを基に構築されているのだから。

ちなみに5型以前のオーナーの中には、6型の方向性に疑問を持つ人がいたようだが、7型なら十中八九の確立で納得し、好感を抱くに違いない。

7型はメインのリアフェンダーをショート化し、スイングアームにマウントする別体式リアフェンダーを採用。

ディティール解説

6型ではフロントパネル下部だったフロントウインカーは、7型では5型以前と同様のウインドシールドに設置。
明るさと照射範囲に磨きをかけたLEDプロジェクターヘッドランプは、先代以前とは趣が異なるアグレッシブなデザイン。ポジションランプは17個のLEDを使いつつ、チップの粒感が出ないように拡散材を使用。
コクピットの雰囲気は従来型のイメージを踏襲しているものの、6型と比較すると、ハンドルはやや低めでやや幅広。
新設計の4.6インチのマルチカラーVA液晶ディスプレイは、視認性が非常に良好。自動調光機能や推定航続距離表示機能を装備。
グリップラバーは操作力の軽減を意識した新作で、右側スイッチボックスにはハザードスイッチを新規導入。
シャター付きのイグニッションスイッチは、従来型と同様の物理式。フロントポケットは容量を拡大し、USB電源は端子をタイプA→Cに変更。コンビニフックは6型の後期型から継承した装備だ。
6型では左右独立式だったテールランプは、7型では5型以前を思わせる横長タイプとなった。
785mmというシート高に変更はないけれど、座面は6型より幅広くなった印象。ただし足つき性に配慮して、前端部の左右幅は控えめ。
フルフェイスヘルメットの収納を視野に入れたシート下のトランクスペース容量は、6型と同じ約28ℓ。
エンジンの基本構成は6型と同様だが、吸排気とCVTの設定は別物。また、6型ではNMAXと共通だったエアクリーナーボックスは、吸気効率を維持しながら主張を抑えるため、小型化が図られている。
足周りはほぼ全面新設計。前後ショックはスプリングをソフト化し、前輪は幅を細くしている(120/70-12→110/70-12。後輪の130/70-12というサイズは不変)。純正指定タイヤは、DURO DM1203→マキシス・MA-R1Nに変更。

主要諸元

型式:8BJ-SEM5J/E35TE 
全長×全幅×全高:1865mm×715mm×1125mm 
軸間距離:1340mm 
最低地上高:125mm 
シート高:785mm 
装備重量:126kg 
キャスター/トレール:26°30′/90mm 
エンジン形式:水冷4ストローク単気筒 
弁形式:OHC4バルブ 
総排気量:124cc 
ボア×ストローク:52×58.7mm 
圧縮比:11.2 
最高出力:9kW〈12PS〉/8000rpm 
最大トルク:11N・m〈1.1 kg-f・m〉/6000rpm 
燃料供給装置: フューエルインジェクション 
始動方式:セルフスターター 
点火方式:フルトランジスタ 
クラッチ形式:乾式自動遠心シュータイプ 
変速機形式:Vベルト無段変速 
1次・2次減速比:1.000・10.208 
変速比:2.384~0.749 
フレーム形式:アンダーボーン 
ブレーキ形式前:油圧式ディスク 
ブレーキ形式後:油圧式ディスク 
タイヤサイズ前:110/70-12 
タイヤサイズ後:130/70-12 
燃料タンク容量:6.1ℓ 
乗車定員 2名 
燃料消費率WMTCモード値:41.9km/L


【モトチャンプ】