中国自動車界隈は…カンブリア紀?

高平:“中国の自動車メーカーは、ちゃんとした会社だけで一体いくつあるんですか?”って聞くと、“大体300社”と言っていたのが、上海モーターショー(以下MS)では“大体200社”に減っているんです。新興メーカーも含めて少しずつシュリンク(縮小・減少する)している、本当の淘汰が始まっているのかな?っていう風になっているらしいですよ。
清水:本当の脅威はBYDとジーリー(吉利汽車)グループ、上海汽車、第一汽車、長城汽車…あと、奇瑞汽車(チェリー)も強そう。東風汽車は日産、フォルクスワーゲンと組んでいるね。今回の上海MSでは東風汽車の子会社がSUVを出した。日産のCDVって書いてあったから“クリーンディーゼルビークル”だと思った。
高平:今も基本的にそうだと思うんですけど、51対49の合弁じゃないと輸入車メーカーは中国に工場を作れなかったハズなのに、テスラだけ別扱いになったじゃないですか。ところが今、トヨタがBYDと上手いこといろいろなところで手を組んでいて、トヨタが今度作ると言っている上海の工場は、どうもトヨタ自前の工場になるらしいっていう噂がある。もしそうだったら、メチャメチャ画期的ですよ。
清水:BYDとメルセデスの合弁会社DENZA(デンツァ)も脅威だけど、メルセデスは出資比率を下げ、今はほぼBYDが経営権を握っている。
編集部:でも、合弁規制は何年か前になくなっているんですよね。
高平:なくなっているっていうんですけど、実際は圧力が掛かるというか、運用上のグレーな範囲があるようで。現実、100%外国資本の工場なんてテスラ以外まだないですから。
編集部:BMWの工場が作られていましたっけ?
高平:BMWが買い取ったのかな?(※2022年、中国・華晨汽車(カシンキシャ)集団との合弁会社「華晨BMW」への出資比率を50%→75%に引き上げた)でもやっぱりそれもドイツですよね。ドイツ自動車界は昔から中国に結構投資しているから。

清水:まぁ“カンブリア紀”(約5億4100万年前~約4億8500万年前)みたいなもんだよな。生命大爆発! 海の中でヤツメウナギとか、オタマジャクシやエビみたいなのとかの生物が大爆発して(“アノマロカリス”っていう巨大なエビみたいなのが有名だとか…)、あるものは地上に出たんだけど。その前の状態のカンブリア紀。
高平:ついこの間まで誰も近寄らなかった天津の超高層タワーが10年ぶりに工事が動き出しました、みたいなニュースが流れていた。10年野ざらしにしていた建築途中の超高層ビルを途中からまたクレーンが動き出して…普通に作れるものなのかな?って。中国はそういうのがまだ全然解決していないので、コッチにタリフマン(関税男…トランプ大統領)でコッチにBYDとしても、コッチはタリフマンそのものが問題で、中国はいまだに住宅不動産投資のバブルの焦げ付きが全然解消していないので、さてどうなるか?とみんな思いつつも、やっぱり勢いはすごいっすよね。

清水:あるポルシェセンターの社長が言っていたけど、中国でポルシェ、フェラーリが一気に売れなくなっている。でもポルシェはその分の生産計画は持っているから、その分の割り当てが日本に来たので今、そんなに待たなくても日本でポルシェが意外と買いやすくなっている。
高平:ポルシェは中国で2025年の第1四半期が去年より落ち方がスゴイですよ。
清水:高いクルマは飽きられやすい。日本人だってそう。昔、馬力競争していたけど、気付いてみたらプリウスでいいよねってなっているんだから。でもそれはある意味、本当のモータリゼーションの正常進化かもしれない。必要以上のものを追い求めることから、本当に質実剛健なものを選ぶ。スマホもそう、あまりにも機能が多すぎて値段が高くて使い切れないっていうのがわかってくる。
今回の上海MSではレベル2のADASの運転支援なのにLiDAR(ライダー)を5~6個付けたヤツが出てきている。でも、カメラとミリ波レーダー、LiDARは雨が降ったら全部機能の限界が来ちゃうからね。ADASの競争領域になったから、もう何でもくっつけていく。ちょっと冷ややかに見ているけど、もうピークアウトかなと。

編集部:中国のメディアと話したら、この3月で初めて広東省が自動車生産量1位じゃなくなったんですって。中国では何十年もずっと広東省が1位だったのが、初めて安徽省(あんきしょう)になったと。それは今、広州汽車とかが調子悪いというのもあるし、中国の中でも順位が変わってきていて、そこに今、いろんなテックメーカーの本拠地があったり。
清水:中国は今、ASEANとアフリカ頼りじゃない? インドは中国に入りづらいし。ASEANは今、中国がバーッと入ってきているけど、ソレはクルマを売るだけじゃなくて、政府がインフラ投資をしてくれているから。でね、インドネシアは日本車天国だったけど、最近はEVブームでBYDが絶好調。メルセデスと共同開発したデンツァのBEVのミニバン(3列)がアルファードの半分の値段で売れている。トヨタは根強いけど、ホンダのシェアが激減しているみたい。
BYDの軽自動車が気になってしょうがない!

清水:BYDの軽自動車の話だけど、コストに対するクルマ作りを考えたら、間違いなく日産・サクラより安くなる。そういうニュースが上海MSから入ってきた時に、ある軽自動車メーカーの幹部から「清水さん、BYDは本気ですか?」っていうから、BYDに「どのくらい本気か?」って聞いた。そうしたら、「会長はやる気マンマンで、日本でシェア40%の軽を見逃すわけないよ!」と。サクラが売れていたときに“SAKURAインパクト”があったから、アレと同じようなものをBYDが作ればもっと安くできる。でも軽ビジネスってちょっと独特じゃない? そのために日本でディーラーネットワークを作るって言ってたね。
高平:そこまで本気なんだ。

清水:軽専門のディーラーを作るっていうわけではないんだけど、そういうことができる営業とマーケティングの体制を作ると。軽って一種独特の販売法じゃない。
高平:街の自転車屋さんが軽自動車販売店をずっと前からやっているような。
清水:JAとかね。
高平:地方に行けば行くほど濃い繋がりがあります。
清水:それがわかっちゃっているんだよ。ある日本の軽メーカーとBYDの戦略行動検討会をやろうかと。BYDも日本の軽の専門メーカーの話を聞きたいと。守るべき軽メーカーもBYDも本気の話を聞きたいと。じゃあ、お互いに話し合おうよ!って。
アメリカ関税界隈は3年待てば解決…か?
高平:アメリカ系についての意見は求められていないんですか? 自動車メーカーだけじゃなくて部品メーカーとかいっぱいあるじゃないですか。
清水:う~ん、アメリカはどうなんだろうね。
高平:大体あの人(トランプ大統領)、着地点とか何も考えてないんじゃない? ”関税はアッチが払ってくれるんだろう? ウチら輸入する方は関係ないんだろう??”って言っていたっていう、かなりリアルな話がいっぱいありますけど。

清水:経済誌の編集長やNHKからも聞かれたけど、でも本当の脅威はむしろ黒船は西からやって来ているので、タリフなんてほっとけば?みたいな。
高平:所詮、あの人がいなくなれば、また何事もなかったように戻るかもしれない。
清水:そう、3年の命だからね。3年我慢、忍び難きを忍び、耐えがたきを耐え!
高平:10%の上に14%上乗せで、そのために米とか肉とか差し出すのか!?みたいな。もうそれは日本だってまとまらないですよ、農林族と商工族とナントカ族がこんな対立しちゃったら。
清水和夫以上のセッカチ、暴れん坊大統領・トランプのTACOな話
清水:トランプって結構面白いなと思っていたんだけど、あのボーリングの球の話で本当にバカだなと思ったね。“日本はボーリングの球をクルマにぶつけてやがる”と。あれはクルマ側が凹んだ方が頭部は助かる。ボーリングの球じゃなく頭部のダミー(頭部インパクタ)の実験をやっているんだけどさ。
高平:あの人、超セッカチなんじゃないですか?

編集部:和夫さん以上のセッカチ!?
高平:いやいや~、和夫さんどころじゃない!! 話の要点をうまく説明できる側近がいないと、説明している途中で“オッケー、わかった!”って、わかった気になってすぐ言葉にして喋っちゃう。頭部衝突実験、あれはどう見たってそんなバカな試験があるはずがないのにそれを堂々と言っちゃって。でも、後で報道官とか側近とかがメディアに“冗談ですよ、大統領はああいうジョークがお好きなんですから”って言っているんだけど、SNSでそのまま発信したりしているから、後で匂いを消して歩くのに一所懸命だっていう話もあるし。しかもそれを “日本ではそんなことやってんの?”って一部の人が信じちゃう。ワイドショーネタでもそういう人がいるのが問題なんですよね。
編集部:私の姉みたいに自動車には興味ゼロの人がボーリングの球試験がテレビで流れてきたら、“へぇ~、ボーリングの球当てているんだ…”って思いますよ、きっと。
清水;え~~~マジで!? あの丸いのがボーリングの球って見えちゃうんだ。

編集部:トランプさんが“日本はアメ車を買ってくれない”って。
清水:80年代の貿易摩擦の時も、それでキャバリエ(1996~2000年に販売したトヨタ車)を日本仕様(右ハンドル等)に作らされて、輸入させられて。
高平:日経新聞に“日本は年間15万台くらいアメ車を輸入してくれていた”みたいなことが載っていた。でもそれって、ほとんどがキャバリエとかアコードでしょ? それはアメ車じゃないよ。日本のメーカーがアメリカで作ったクルマを日本で自分たちが売って、貿易摩擦を少しでも緩和しようとした。

清水:あの時の制度で、国交省は貿易摩擦を緩和するためにPHP制度(輸入自動車特別取扱制度/数が少ない輸入車のために作られた認証制度)っていうのを作り、“小ロットの輸入車に関しては日本の保安基準を免除する”っていうのをやった。その名残があって、アストンマーティンも日本に入れると車検証は型式不明になる。要は、日本のレギュレーション外の状態で日本に来ても、台数が少なかったらOKにした制度が今も残っちゃっている。
それはそもそも、アメ車を日本に入れやすくしてあげるためのもの。今の話で言えば国交省がレギュレーションなんだけど、当時はそのレギュレーションがなかった。アメ車は日本の法規に合わないけど、年間1万台くらいなら合わなくてもいいよ!みたいな。
高平:そのPHPを利用してルノーはカングーをいっぱい売りました。
清水:車検証に型式ナンバーがない“型式不明”。それの逆ができるか?っていったら、絶対にできないからね。
日本とヨーロッパにはなくてアメリカのレギュレーションで厳しいものは、“ロールオーバー試験”っていうアメリカ独特のものがある。アメリカのフリーウェイって大陸だからガードレールがない。特に中央分離帯の真ん中のグリーンベルトのところはタイガー・ウッズもそうだけど、路外逸脱でひっくり返っちゃう。日本にはその試験がないから、日本車をアメリカに出す時はその“ロールオーバー試験”を全車やっているんだよね。
高平:今流行りの“25年ルール”、発売から25年経ったらアメリカでも右ハンドル車OK!っていうアレ。それで今、アメリカにはスカイラインGT-R(第2世代の)がいっぱいある。でも、25年未満のクルマはどんなことがあっても絶対アメリカには入らないし走れない。それくらいアメリカは厳しいのに、日本は世界で一番ゆるい。関税もない。EUや中国、アメリカだって自動車に関税かけているのに、日本は世界中に対してゼロですよ。そんなパンツのゆるい国なんかないんだけど、トランプに言われちゃうと世間は“なんだ、日本はまだそんなことやってんの?”って思っちゃうところがちょっと弱い。
清水:まぁアメリカの話と中国の話は自動車の二大大国だから。そこは日本メーカーとしてどうやってサバイバルするか?なんだけど。
高平:中国は3000万台、アメリカは1600~1700万台くらい。そんなにマーケットの大きい国だから、そこで買ってもらわないとしょうがない国のメーカーは顔色見て右往左往するんですよね。
清水:ところで面白い話を聞いたよ。ウォール街では“トランプはTACO”と言われているみたい。TACOは“Trump Always Chicken Out”の略で、“トランプは臆病者”という意味。関税交渉も最初は威勢がいいけど、最後は相手の出方次第では緩和しちゃう。
新規格クラスを新設?のウワサ
清水:これはまだ未確認情報だけど、ヨーロッパ自動車産業の国連の産業委員会と日本は今、協力して軽自動車とAセグメント=リッターカーの間の規格を作ろうとしている。排気量でいうと800ccくらいの話。ポルシェのピエヒさんはそれをやりたかった。“AAセグメント”、Aセグのひとつ下、軽よりちょっと大きいクラスね。そのためにどうしてもスズキが必要だった。日本の軽を上に持っていくのは総務省も絡んでいるので、軽社会にとっては難しい。なので、国交省はヨーロッパと組んで軽のひとつ上のカテゴリーを検討している。これは多分、ヨーロッパからの発案だと思う。それは中国にはまだない発想。でもそれは安くしなくてはいけない。smart(スマート)やiQとかね。
高平:いろんなところが何度もチャレンジしていますよね、マイクロカーというか、もっと経済的でコミューター的なやつ。
清水:実際、ヨーロッパにも1~2人乗りの小さいやつの規格はある。そういうクルマは衝突安全試験とかも全部免除している。じゃなくて、ちゃんとしたクルマとしてAAセグメントのところをヨーロッパが言い出して、どういう基準にしたらいいかを国交省と検討が始まった…かどうかの話。
編集部:それは2030年とかの話ですか?
清水:いやもっと先かな、新しいカテゴリーになるから基準策定だけでも2~3年はかかる。
高平:中国の100~200万人くらいの中堅都市になると、“アレはクルマ? 何??”って思う虫みたいなものが山ほど走っている。でもハイウェイはもちろん、街の中にも入れない。TEIN(テイン)のある宿遷市の周りも農家や買い物、配達などにいっぱい使われて走っているんだけど、都市のリングロードから中には一切入れない。でも中国にはさまざまなレベルの交通手段がある。それは焼き玉エンジンみたいなとんでもない煙出しているのもあれば、EVもある。いまだにカンブリア紀だからも~メチャクチャ。片や1000NmとかのスーパーEV作っているけど、コッチでは単気筒のポンポン焼きの蒸気エンジンみたいなのが走っている。

清水:メルセデス・ベンツのオールラインアップ試乗会でマイバッハのEVに乗ってきたけど、終わったな…と思った。まったく良くない。運転したらダッシュボードが高くて前が見えないし、後ろに乗ったら乗り心地が悪い。819万円のGLCでいいんじゃないの?
高平:巨大なMercedes-Maybach EQS SUVでしょ?
清水:ブランドで高級にして、EVでたらふくバッテリー積んで速くして、1400Nmにして、バカじゃないの?みたいなクルマが出てきたけど、乗り味は最悪。こんなもん誰が金出すんだろう?って。そんなにユーザーはバカじゃない。高性能EVバブルはもう終わりかなと思う。ヨーロッパはもうそこは気付いている、タイカン作ったりしたけどやっぱりダメだよな、と。
で、コッチ側、日本の軽のちょっと上くらいに価値を見出す。それはダイハツやトヨタが考えたかどうかはわからないけどね。WRCラリージャパンで走っているコペンは770ccのターボ。ボア×ストロークを変えて660ccをスケールアップしたのかな。ラリージャパンには2024年も2023年もダイハツワークスで出ているからね。タイム見ても意外と速いんだよ、1.4Lくらいの出力は出ているよね。150Nmくらい出ているんじゃないの? まぁそれが次のヨーロッパの新しい規格を考えているとは思えないけど、660cc~1000ccの間のエンジンはなんとなくあるんだろうな?っていう気はする。欧州は800ccくらいを考えているみたい。
高平:インドも800ccだった。
清水:その辺はグローバルサウスの国民車になりそうだよね。まぁいわゆる新興国の。日本の軽だとちょっといろいろ足りない。

高平:耐久性というかボディがヤワい。酷い使い方されてもへこたれないようなボディっていうのはなかなかね。グローバルサウスの国では積載量とか守らないから。
清水:ジムニーも売れているしさ。でも軽だと足りないから、ちょっと上のエンジンを載せてあげたらあのボディでいいと思う。日本っていろんな宝があるんだけど、新しいことにチャレンジしていなくて、決めたものをずっとやり続けているだけ。
高平:日産はダットサンでもう一回トラックをやるとかって言っていたけど、その話も言わなくなった。あのマーケットは結構デカいし、利益もちゃんと取れる。なのにせっかく持っていたものを手放しちゃったり。
やっと本題! 清水和夫が買ったセラは、後に出たAZ-1にビックリした!

編集部:今、1980~1990年代のクルマが話題によく上がるんです。おふたりはその年代のクルマにも散々乗ってきたと思うんですよね。なにか想い…的なことってありますか?
清水:その年代で“買っちゃった”のは、ガルウイングのセラ(SERA/トヨタが1990年に発売した1500cc 3ドアクーペ)。何で買ったかって言うと、初めてドルビーサラウンドオーディオが付いたっていうだけなんだけど!
高平:え~~~それだけで?www
清水:そう、買っちゃったの! BNR32のGT-R(日産)とNSX(ホンダ)とセラ(トヨタ)っていうのはインパクトがあったな。
高平:自由というか、この頃はチャレンジングだったですよね。楽しかっただろうな~。
編集部:こういう企画が通る時代だったんですかね。今はもうダメ?
清水:ダメ! 今は多分、側突(側面からの衝突)でダメ。
高平:セラは、そこそこ売れたとは思いますけど、でも残念ながら長続きしなかった。
清水: 二代目を作らなきゃいけないんだよ。
高平:他の自動車メーカーからすると“いやぁさすがトヨタさん、しかもちゃんと採算取れるようになっているんだ”っていうんだけど、トヨタ的な採算には全然ならないといって一代限りでスパッと切るっていうのがすごく多かった。

清水:セラ特集でトヨタにインタビューした時に、チーフエンジニアの誰だったか忘れたけど、マツダのガルウイングで軽のAZ-1、あれが結構刺激的だったって言ってたね。セラのほうが先に出ていたけど。
高平:いっぱいあったんですよね、キャノピーを取り外したりできるパルサーエクサ(日産/1982年)とか、アコード・エアロデッキ(ホンダ/1985年)とか。
清水:そのちょっと後だけど、ホンダのデルソル(3代目CR-X/1992年)。これなんか完全にセラを意識していたよね。
高平:スポーツクーペとしてのCR-Xが好きだった人にとっては、“何でこんなもん作りやがったんだ!”って超不評。
清水:当時、1989年にマツダからロードスターが出たから、こういうムーブがあったんだろうな。
高平:ちょっと変わったコミューターみたいな、汗臭くギンギンに走るっていうんじゃない、ね。

清水:スカイラインGT-RやNSXの影に隠れて、こういうクルマも印象的だったよね。
高平:トヨタはMR2のその後にMR-Sで少しナンパ路線に行って、すぐスパッと止めちゃった。
清水:この時代ってなんだろう、280psの自主規制があったからハンドリングオタクのクルマがいっぱい出て来たのと、もう一個は自由な発想の、オープンモータリングみたいな。これが軽にガルウイングやオープンカーがある。そのほとんどが輸出していないクルマばかりだから、海外から見たら“日本って何やってんだ!?”みたいな。
高平:そう、国内で賄えていたから。ただ、こういうのも実は大体すべてトリノあたりの会社に委託していたと思いますよ。

清水:シティ・カブリオレ(ホンダの初代シティ/1984年)もそうだよ、ピニンファリーナが幌の設計を手掛けたソフトトップのヤツ。あとね、デルソルで笑っちゃったのは、研究所から“変わったデルソルを作ったから見に来て”って言われて行ったら、リヤのトランストップがガーッと上にいくじゃない、アレが麻雀の雀卓になっていて“上げたら麻雀ができます~♪”っていうの! よくわかんないよwww。でもまぁ、この頃はすごく遊び心をみんな持っていたってことだよね。
高平:こういうのがいっぱいありましたよね。
豊田章男が面白くなくなった国産車を救った!
編集部:当時、クルマが出るたびに“世界初の技術”っていうのがあったじゃないですか。
高平:世界でクラス初は当たり前で、そういうのをひとつでも入れないと社内的に許されない雰囲気がホンダ、三菱、日産あたりにはありましたね。それがなくなっちゃったのがバブル崩壊。
清水:失ったものはやっぱり“遊び心”だね。
高平:なんだかんだ、全部ひっくるめてピークには770万台売れていたわけですから。セラが出たあたりの1990~1991年が国産車のピークでしょ。それが今やもう430万台くらいしかないわけ。300万台分くらいのお金がふっとんじゃったわけだから、そんなことできないですよ。

編集部:じゃあ、清水さんが思う最後の遊び心のあるクルマってなんですか?
清水:セラとかデルソルの時代を終え、しばらくつまらないクルマの暗黒の時代が続いた。ニュル24時間レースにはホンダのクルマはあったけどトヨタは一台も走っていない。カリフォルニアのバークレー校に行くとホンダ車ばっかりでトヨタは一台もいない。それで慌てて“サイオン”っていうブランドを作って若いコたちにクルマを…という時期があったよね。今考えてみれば、豊田章男さんがいなかったら日本はず~っと暗黒の時代が続いていたよ。だって今のラリーカー見れば、86もBRZもヤリスもなかったら“何だよ全日本ラリー(怒!)”ってなる。
高平:いまだに昔のスイフトとかが走っている。ただ、それらはかつてリリースされたばかりのときに全日本戦の各クラスにたくさんいたわけだから。今は遊び心のあるクルマが少しずつ復活し、上向きの時代だと思う。GRヤリスなどは2000年代初頭だったら絶対、企画として通らなかったでしょう。

清水:当時のトヨタ社長の体制下では御法度だよ! その場で“お前会社辞めろ!!”って言われるような。だから章男さんは暗黒の時代を救った救世主だっていうことは間違いない。
高平:1モーターだ2モーターだ、ハイブリッド論争をやっていた頃、軽自動車も含めて燃費のコンマ1を他社より上回るかどうか…の話しかしていなくて、“Fun to Drive♪”とか言ったら社内的にまずい!という時代が確かにあった。
清水:トヨタ・グローバルマスタープラン(販売台数、シェア、収益の中長期計画)で世界シェアナンバー1を目指していた時代が続いていて、その頃はクルマを作る前に工場を作っていた。“工場があるんだから何でもいいからクルマ作れ!”という、今と逆のパターン。その流れを止めただけでも日本は救われたと思う。

高平:リーマンショック(2008年9月)もあったし。あの頃のトヨタは年間30〜40万台ずつ増えていた。
清水:富士重工が一社ずつ乗っかっていくようなものだよな。
高平:トヨタにとっては年産20万台、30万台以上の工場じゃないと工場とは呼ばないようなことをやっていた。今の中国と重なるところもあるね。バブルからトヨタが真っ先に立ち直った頃の話ね。
清水:そういう想いが他のOEMにあったか?というと、マツダはナイーブに感情的になりすぎて、Zoom-Zoomにしがみつきすぎていた。
高平:マツダはそれどころじゃないというか、生き延びるのに必死だった。
清水:そこから、スカイアクティブ(SKYACTIV)が出てきたんだよね。
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当時、その姿にビックリしたセラを清水さんが購入していたとは…知らなかった~! ちょっと…イヤだいぶ意外でした。そして最後のほうに出てきたトヨタ会長・豊田章男さんが日本車救世主の話は、その3.以降も続きますのでお楽しみに!
今、水平対向エンジンが熱い!のか? 平成と令和の自動車価格差と上海モーターショー その1.【80~90年代の名車・迷車 清水和夫×高平高輝クロストーク】