連載

清水和夫×高平高輝クロストーク

F1もハイブリッドになる今、V8採用の噂やブレーキにも異変が?

清水和夫(左)/高平高輝(右)が熱いトークセッション!

清水:この前、FIAの会長(モハメド・アフマド・スルタン・ビン・スライエム[Mohammed Ahmad Sultan Ben Sulayem]/アラブ首長国連邦・ドバイ在住/中東ラリードライバー)が日本に来たんだよね。で、石破総理(当時)に会った。その時に、「日本ではF1、フォーミュラE、WRC、WECがある。FIAの象徴的なレースを4つも開催してくれている国って日本だけ、ありがとう!」みたいな話があったんだって。その後に国土交通大臣(中野洋昌氏/当時)と会った時、FIA会長は「F1も将来は合成燃料のV8エンジンでいきたい。クルマは、BEVになってエンジン車は無くなると言われているけど、合成燃料に賭けている」みたいなことを言っていたって。まぁ非公式だったようだけど。
今、F1は2026年からハイブリッドになるけど、それは暫定的に2029年まで。それ以降はV8をやろうというFIA会長の意見にマクラーレンとフェラーリは大賛成だけど、OEM系のホンダとメルセデス、アウディはちょっと懐疑的で揺れ動いている。でも合成燃料がちゃんと作れれば4.0LくらいのV8になるんじゃない?と。

FIA(国際自動車連盟)のモハメド・べン・スレイエム会長(JAF MOTORSPORTS公式YouTubeよりスクリーンショット)

高平:FIA会長のモハメドは元トヨタ・セリカに乗っていたラリードライバーで、中東の大金持ちのビジネスマンだと思うんですよ。産油地域やアフリカの発展途上国などのバックアップを一身に受けて、象徴的ですよね。
清水:ホンダはサウジアラビアのアラムコ社(エネルギー系企業)と手を組む。メルセデスがマレーシアのペトロナス、フェラーリはオランダのロイヤル・ダッチ・シェル。みんなそれぞれ合成燃料をやっているんだけど、みんなサプライヤーが違うっていうことはどうやってレギュレーション作っているのか? 分子1mol(モル)あたりの熱量というレギュレーションにするのか…。でもとにかく、3つのメジャーが合成燃料を作る。
2026年から始まるハイブリッドのF1だけど、F1のレギュレーションだとエンジンの出力とモーターの出力を5対5にするので、ストレートで充電しなきゃいけないところが出てくる。そうすると鬼ブレーキ踏まないで回生ブレーキで行くんじゃないか?とか。

024/25年フォーミュラE 第9戦 東京E-Prix

清水:ブレンボがあるインタビューだかコラムだかで言っていたのは、今、リヤブレーキは要らない、小さく小さくしようとしている、回生が取れるからね。でもそれは危ないんじゃないか!?って警鐘を鳴らしている。ストレートでつまらないことが起きるんじゃないか?と。ストレートでは、コーナーに突っ込まないでバッテリーに電気を溜めて立ち上がりでバビューンと行く。コーナーでブレーキを踏んじゃったヤツは立ち上がりでバッテリーがないから加速しない。そうなるとレースがつまらないんじゃないか?とか。
まぁやってみないとわからないっていう人もいるんだけど、メルセデスもそう感じ始めたみたい。そこでこのV8の話が現実味を帯びてきた。そんな話をHRCに聞いたら「一切ノーコメントです!」と。
高平:ホンダがそういう言い方をする時はほぼ間違いない!
清水:ちなみに、エンジンブレーキで電気を回生するテクニックを「リフト&コースティング」って言うそうだよ。オレはヤリス・ハイブリットでラリーのときい使うドラテクだね。

WRC2025 ラリージャパン(PHOTO:Rally Japan)

噂のF1 V8時代が到来したらトヨタ本格参戦!か?

トヨタF1本格再参戦は…あり?

清水:トヨタが今、ちょこちょこF1に足突っ込み始めたのは、V8になったらトヨタもいけるんじゃないか?と思っているのではないかなと思うんだけど…どうかな?
高平:トヨタはヤマハの意向を聞いてみたり、傘下のリソース全部を集めてから考えるんじゃないかな。
清水:その気になったらリカルド(イギリスのエンジンサプライヤー)とか買収できるんじゃない?
高平:そんなの簡単ですけど、でもそうしたらホンダが立ち行かなくなっちゃうじゃないですか、トヨタがリカルド買っちゃったら!
清水:ホンダは自前でエンジン作れる?
高平:いや~どうでしょ…。

トヨタF1本格再参戦は…あり?

清水:まぁ、高平さんが言ったように、FIAのビン・スライエム会長がトヨタとの関係が深くて、中東オイルマネーの利権者だとしたら、F1のハイブリッドっていうのはないのかな?って思えるよね。
高平:彼は一方で、ヨーロッパ系の人たちをどんどんクビにしているので反対勢力も強力にあるんですよ。FIAの参加国は1票ずつ票を持っているじゃないですか。今まで発言力が大きくなかった中東、アフリカなどのグローバルサウスの人たちにとって、ビン・スライエム会長はついにオレたちの時代を作ってくれるって思っている。

トヨタF1本格再参戦は…あり?

アフリカ、中東、アメリカ、EU、中国、日本…モータースポーツ界の勢力図

清水和夫

清水:この前TICAD(アフリカ開発会議[Tokyo International Conference on African Development])があったでしょ? 今までは中国がバーンとアフリカに投資していたんだけど、今は中東がそれに負けじと入って来た。日本でアフリカ開発会議を開催したっていうことは、日本も一緒に中国を押し戻す意味で、石破総理(当時)もいろんなコメントを出していたよね。
フィールドはアフリカなんだけど、2050年にアフリカの人口が25億人くらいになり、地球の4人に1人がアフリカ人になる。そこに中国を一人勝ちさせないためにヨーロッパやアメリカは力が無いので、中東と日本でやりましょう!みたいな話がどうも裏筋としてあるみたい。【西南西に進路を取れ】ってこのクロストークで最初に言っていたのはそこです。

TICAD(アフリカ開発会議/PHOTO:TICADオフィシャルWebサイトより)

高平:サウジアラビアは今まで、基本的に仕事以外の人の入国ができなかったのが、観光客ウェルカム、モータースポーツもウェルカム、ワールドカップなどの国際スポーツ大会全部ウェルカム!っていうくらい、国を上げて変わろうとしている。FIAのビン・スライエム会長、元々はUAE出身だと思いますけど、あの辺のアラビア半島はワンチームみたいに動く時があるからまだちょっとわからないけど、どうなるかな?と思っている。

高平高輝

清水:ラリーのレジェンドであるカルロス・サインツ・シニアもFIA会長選出馬しようとしたんだよね、その後は辞退したけど。
高平:FIA会長はずっとヨーロッパだけだったじゃないですか。初代(1946年~)はフランス(ジュアン・ド・ロアン=シャボー/Jehan de Rohan-Chabot)、2代目(1958年~)以降もフランス、イギリス、ベルギー、ドイツ…で、10代目の現在がUAEのビン・スライエム。とにかくアメリカや南米も含め、ヨーロッパ旧大陸以外の国からFIAのトップは出てきていなかったわけだから、この人が本当に変えるかどうか…。

WP29(Automotive Standards Harmonization World Forum/自動車基準調和世界フォーラム)

清水:2050年にアフリカが25億人になったら、選挙権、発言権は相当アフリカが高まるよね。逆に今、戦争をやっているからロシアの議員がいない。で、非ヨーロッパ国っていうことで日本にWP29(Automotive Standards Harmonization World Forum/自動車基準調和世界フォーラム)副議長の話が来たので今、猶野 喬(なおの たかし)さんという方が務めている。今までソコはロシアだったんだけどいなくなったので、非ヨーロッパ国の人を1人入れなきゃいけなくて、それで日本…っていうのがWP29の世界にもある。だからパワーバランスがヨーロッパから少しずつ動き出しているよね。まだ人材的にアフリカは政治をやることが無理で、中東と日本がこういう世界で政治ができる。

国連WP29本会議

合成燃料実用の可能性、そのポイントは価格と水素

水素が眠っている、美しい白馬八方尾根 Hakuba Happo-one (PHOTO:Hakuba Happo-one Instagram)

編集部:F1のカーボンニュートラル燃料ってすごく高いんですよね?
清水:リッター 300ドル? 1Lで3万~5万円くらい!
高平:ラリーで使われているカーボンニュートラル燃料はリッター3000円くらい。
清水:あれはエタノールベースで、植物由来のアルコール燃料は安い。e-フューエル(e-Fuel)は水素とCO₂で作る完全合成だと5万円くらい。
編集部:将来的に価格は下がるんですか?
清水:まず鍵を握っているのは水素。でも再エネで作ったらダメで、違うやり方で水素を持っていなきゃいけない。
今有力なのはホワイト水素というやり方。それが長野県の白馬の八方温泉にいっぱいあることがわかった。白馬の温泉はアルカリ系だから水素が入っている。今まで知らなかっただけで、マントルの上ある蛇紋岩(じゃもんがん)が鉄分を含んでいるので、下から熱せられて上から水がくると自然に水素を作った水素層っていうのがある、らしい。
高平:ブラタモリ(NHK)みたいなこと言い出しましたよ!www

美しい白馬八方尾根 Hakuba Happo-one (PHOTO:Hakuba Happo-one Instagram)

清水:それを持ってくれば、地球が作った石油と同じ一次エネルギー…水素は気体だけど。だからメタンガスと一緒なんだよね。水素、メタン、液体燃料の石油、固体燃料の石炭。ビル・ゲイツは自分の資産を全部費やして、地球、社会のために!なんてことを言い出している。
もう1ヵ所、日本のナントカって島…沖ノ鳥島だったか、火山になる所は必ず地下の深い所に水素がある。今、アメリカとかカナダ、ヨーロッパはホワイト水素探しにやっきになっているんだけど、日本はなかなかそこにいかなかった。でも日本は火山国なんだからあるんだろうと。なんだ、日本は資源がいっぱいあるんじゃないか! 今まで石炭とか石油を海外から輸入しているから、自分の足元にあるエネルギー、資源をあまり意識してなかったみたいなんだよね。これはタダ(無料)、採掘して石油と同じようにチューブからパッと出てきたら、その水素を使って大気中にあるCO₂と合体して、合成メタネーションというメタンガスを作っていけばそこから液体燃料が作れる。水素と窒素と結合させればハーバーボッシュ法でアンモニアが作れて、それは船舶の燃料になる。

天然水素生成プロセス図(PHOTO:NPO法人 島原カーボンニュートラル推進協議会 オフィシャルWebサイト)

高平:今まで火山帯の温泉地帯とかはタブーというか、なかなか調査ができなかったんでしょうね。
清水:国立公園だからなかなか掘れなかったんだよね。アメリカ大陸と中国、ヨーロッパ、オーストラリア…火山国には必ず水素がある。
高平:地震がある代わりなんだ。
清水:むしろロシアにはない。
編集部:ホワイト水素がガンガン出るようになって、カーボンニュートラル燃料がリッター5万円から600円くらいに下がったらすごくいいじゃん!って話になる?
清水:なるんだけど、でもまたちょっと違う話になるね。でも最近はこのホワイト水素もそう簡単ではないということもわかってきたみたい。

清水和夫

【清水和夫】1954年生まれ東京出身/武蔵工業大学電子通信工学科卒業。1972年のラリーデビュー以来、N1耐久や全日本ツーリングカー選手権、ル・マン、スパ24時間など国内外のレースに参戦する一方、国際自動車ジャーナリストとして活動。自動車の運動理論・安全技術・環境技術などを中心に多方面のメディアで執筆し、TV番組のコメンテーターやシンポジウムのモデレーターとして多数の出演経験を持つ。自身のYouTubeチャンネル「StartYourEnginesX」では試乗他、様々な発信をしている。2025年も引き続き全日本ラリー選手権JN-Xクラスに「SYE YARIS HEV」にて参戦。

高平高輝

【高平高輝】大学卒業後、二玄社カーグラフィック編集部とナビ編集部に通算4半世紀在籍、自動車業界を広く勉強させていただきました。1980年代末から2000年ぐらいの間はWRCを取材していたので、世界の僻地はだいたい走ったことあり。コロナ禍直前にはオランダから北京まで旧いボルボでシルクロードの天山南路を辿りました。西欧からイラン、トルクメニスタン、ウズベク、キルギス、そして中国カシュガルへ、個人では入国すら難しい地域の道を自分で走ると、北京や上海のモーターショー会場では見えないことも見えてきます。モータージャーナリスト清水和夫さんをサーキットとフェアウェイ上で抜くのが見果てぬ野望。

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話題のカーボンニュートラル燃料、あればICEエンジンが生き残れる…って単純じゃないのが現実。そして日本にもホワイト水素がある!? この話題はその2.へと続く。

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