プレシーズンテストで走り込めていない!

バーレーンテストでアストンマーティン・ホンダAMR26をドライブするランス・ストロール。

ホンダ・レーシング(HRC)は2月27日に都内で日本のモータースポーツ関連プレス向けにブリーフィングを開き、2026年F1シーズン開幕に向けて「可能な形で最新の状況」を説明し、プレスからの質問に答えた。

ホンダはアストンマーティンにパワーユニットを供給する形で2026年のF1シーズンに臨む。今年はパワーユニットと車体の双方で大幅にレギュレーションが変更されるため、プレシーズンテストは通常より多く、合計3つの期間で開催された。1回目はバルセロナで1月26日から30日まで(実質的にシェイクダウンで各チーム3日間走行が可能)、2回目と3回目はバーレーンで2月11日〜13日、18日〜20日に行なわれた。

バーレーンで行われた6日間のテストでアストンマーティンがこなした総周回数は328周で、11チーム中最下位だった。トップは前年チャンピオンのマクラーレンで826周を走ったので、アストンマーティンは4割程度しか走り込めていないことになる。しかも、最終日は1周の計測ラップも行なっていない。異常振動によってバッテリーシステム系にダメージを負ったため、その原因究明を優先するために走行を見合わせたのである。3月8日に決勝レースを迎える開幕戦オーストラリアGPまでに不具合を解消し、本来のパフォーマンスが発揮できる状態になっていると言える保証は、現在のところ、ない。

トラブルの原因は振動

右が渡辺康治HRC社長。左が武石伊久雄専務取締役 兼 四輪レース部長

では、2月27日現在どのような状況なのだろうか。HRC代表取締役社長の渡辺康治氏と、専務取締役 兼 四輪レース部長の武石伊久雄氏が冒頭に記したように、「可能な形で最新の状況」を説明してくれた。

まず「こうした厳しい状況にあるなかで、開幕戦でホンダのどのような戦いぶりを見ればいいのか」という筆者の問いに対するふたりの回答を記しておく。

渡辺康治氏(以下渡辺):アストンマーティンと組んでまた正式にワークス活動できることを本当に心からうれしく思っています。プレシーズンテストでは非常に厳しい状況になっていますが、我々は絶対にそこで諦めず、開幕戦に向けて努力していきたいと思います。このプロジェクトでは新しいチームと組み、新しい燃料、新しいオイルといういろんな要素が新しいチャレンジになる。非常に難易度の高い部分は正直あります。だからこそ、我々はやる。難しいからこそやるのがホンダだと思っています。決して諦めずに、多少時間のかかることがあっても、常に上を向いてやっていきたいと思いますので、ファンの方々にはぜひ応援していただきたいと思います。よろしくお願いします。

武石伊久雄氏(以下武石):非常に厳しい状況ですが、開幕に向けて我々が打てる手はできる限り打っていきたいと思っています。その結果がどうなるか、まずは見ていただきたい。必ず勝ちにいきます。どれくらい時間がかかるかはわかりませんが、早く勝てるようにしていきます。その過程を見守っていただければと思います。それだけです。よろしくお願いします。

以下、50分弱あったブリーフィングのうち、お二方の最初の挨拶に続く質疑応答では、筆者の判断で質問と回答を抜き出し、文脈を変えないよう整理した。文責は筆者にある。

渡辺:ホンダは創業以来、「挑戦」を原動力に進めてきました。我々にとってF1は単に勝利を重ねる場ではなく、困難な課題、目標に対して極限の状態で挑み続けるなかで見えてくる問題や課題、それをひとつひとつ克服することで技術を磨いて人を育てる。それが我々にとってのF1です。

先日行なわれたバルセロナおよびバーレーンのプレシーズンテストですが、率直に申し上げて我々にとって極めて厳しいものでした。想定していたパフォーマンスが充分に発揮できず、複合的な課題が明らかになりました。しかしながら、今回のテストは同時に課題を可視化できたといいう意味では非常に重要なプロセスでした。現在は我々のエンジニア、メカニックたちが現場と(HRC)SAKURAをこれまで以上に密に連携し、昼夜を問わず改善を重ねながら一丸となり、この難局を打破するための解決策の具体化に取り組んでいます。

今回のプレシーズンテストで突きつけられた壁は高いものですが、我々は当然挑戦を止めるわけではありません。歴史を振り返ると、1959年のマン島TTレース初参戦以来、ホンダが挑んできた頂点レースの道のりは決して平坦なものではありませんでした。80年代のワールドGPでも、第2期のF1活動においても苦しい局面は経験しています。

しかし、大きな困難に直面したときこそ、組織は強くなり、技術は磨かれ、人は育つと考えています。当然レースですから、結果がすべてであることは重々認識していますが、この苦節の過程も含めて再び我々がトップを目指して泥くさくもがく姿が、我々にとっての挑戦の本質だと思っています。ぜひその歩みを暖かく、ときに厳しく、また長い目で見守っていただけたらと思います。今シーズンもホンダの挑戦へのご支援、ご声援を心よりお願いいたします。

武石:プレシーズンテストの結果、非常に重く厳しい状況であると受け止めています。我々SAKURAのエンジニア、そしてスタッフは改善に向けてかなりの努力をして、いま大急ぎで開幕戦に向けて改善を進めている状況です。普段だったらLPL(パワーユニット開発責任者)の角田が出てくるところですが、こういった状況ですので改善に力を入れてもらい、私が出ている状況です。加えて、アストンマーティンとも連携をさらに強化し、SAKURAで改善に向けて一緒になって改善を進めている最中です。

一歩一歩、やるべきことが明確になりつつ、改善に向かっていると思っています。我々の戦いぶりを今後も見続けていただきたいですし。ぜひ応援していただきたいと思います。

ホンダが開発した2026年のPU(パワーユニット)

──バーレーンのテストでトラブルが発生した原因は振動だということですが、レッドブル時代(2019年〜2025年)にそうした話は聞こえてきませんでした。なぜ、いま振動の問題が出ているのでしょうか。

武石:確かにレッドブルでは問題になっていませんでした。今回レギュレーションが大きく変わり、パワーユニットに大きな変化があるのも原因のひとつかもしれません。起振源(振動の発生源)はエンジンです。クルマの開発でよくあることですが、クルマにしたときにクルマ1台分の話になる。路面側からの入力もあるし、複合要因で異常振動が出てくる。結果的にレッドブルでは起きていなかったけれど、なぜ今回起きたのか。ずばりここだという解明が難しい状況です。

──その振動についてですが、何に悩まされているのでしょうか。

武石:プレシーズンテストで異常振動が見受けられた。その異常振動によってバッテリーシステム系にダメージを被った。それが、ストップした原因になっています。それに対してパワーユニット側で原因を究明し対策しようとしていますし、車体側でも対策を施そうとしています。具体的には、SAKURAにあるモノコックが載せられるベンチ(実車のモノコックにパワーユニットとギヤボックスを締結し、フロントの操舵系以外は実車と同じ状態を再現できる)を使いながら、振動対策や解析を行ないながら、今まさに何ランも走らせている最中です。

──バッテリーに問題があるのでしょうか。

渡辺:バッテリー自体に問題があるのではなく、振動によってバッテリーにダメージが出ている。バッテリーそのものに問題があるかどうかはわかっていません。

武石:バッテリーシステム系にダメージが及んだが、そこに問題があるかどうかは明言できない状況です。

──最高回転数に制限をかけたという報道がありましたが、それはバッテリーとは関係のない話でしょうか。

武石:ランプラン(走行ごとに確認する項目)によります。エンジンの状況が悪いから回転を絞ったということではなく、ランプランからそうなったと思っていただければいいかなと。

──アストンマーティンは今年から自前のギヤボックスを開発して載せています。その影響で異常振動が出たという報道もありますが。

武石:いろんな要素が絡み合っています。そこまで原因が特定できるようなデータは出てきていません。わからないというのが正直なところです。

──改善のめどは立っているのでしょうか。

武石:全力でやっているので、すぐに改善したいと思っています。歯切れが悪くて申し訳ないのですが、原因がエンジンだ、ギヤボックスだと特定できればいいのですが、それぞれが練成して振動を発生しているようなので、ひとつだけスパッと直せばいいかどうかもわからない。ちょっと長引く可能性も否定できません。気合いだけで言うと、すぐ直したい。

──バーレーンテスト2回目が終わってからバッテリーの設計変更を行なったりはしたのでしょうか。

渡辺:基本的にはバーレーンに持って行った仕様でホモロゲーション(3月1日が期限)を申請します。

──振動の話に戻りますが、どこかが共振しているということでしょうか。

武石:すごく高い周波数のところに共振点はあり、G(加速度)が立ち上がっているのですが、そのふもと(周波数の低いところ)の部分も非常にGが高く、そこが影響していると考えられます。

日本GPには間に合うのか?

──実走行でないと確認しにくいと思いますが、テストができない状況で(3月29日決勝の)日本GPまでに間に合うのでしょうか。

武石:ベンチで傾向はある程度見えます。傾向をつかみながら、実走の傾向を予測し、それを加味しながら改善できる手を入れていくのが対策の方向性になってくると思います。私のなかでは、開幕までにもっとGを下げようと思っています。鈴鹿までには当然、戦える形にしていくつもりです。

──その問題が解決したら本来のパフォーマンスは出るのでしょうか。

武石:出てくると思いますが、いまはまだパフォーマンスの話を積極的にできる状況ではないと思っています。

──テストでは熱の問題も取り沙汰されていましたが、それは事実ですか?

武石:事実ではありません。

──問題の本質が共振だとすれば車体側の協力が不可欠だと思います。アストンマーティンとの協力体制はどのようになっているのでしょうか。

武石:アストンマーティンさんからは5名のエンジニアがSAKURAに来てくれており、一緒になって解決しようとしています。

──車体側の設計変更が必要になる場合もあるのでしょうか。あるいはバッテリーの設計変更を行なう可能性は。

武石:ひょっとしたらアストンマーティンさんの部品をうまく組み込むことで、(開幕戦の)オーストラリアでうまくいく可能性は当然あると思っています。バッテリーについてはホモロゲーションの話もあり、(設計変更は)正直できないと思っている。なので、アストンマーティンさんの協力を得ながら、なんとか開幕戦をこなしていきたいというのが、今の正直な狙いです。その後については、信頼耐久性に関わる部分なので、変えられるところは変える。それをコストキャップの中でやっていく。まずはしっかり直してから対応していきたいと思っています。

──テストでは振動を計測していたのでしょうか。

武石:起振源は間違いなくエンジンです。それをどういうふうに車体側が受け止めるか、みたいなところで練成して振動になってしまう。その練成した振動をどうやってシャットダウンするのか。固めてしまうのか、逆にいなすのか。そのへんをトライしている最中だとご理解ください。(テストで)ロングランはできていませんが、いろいろなデータは得られている。そういったデータをうまく使いながら解決につなげていきたいと考えています。

──(チーム代表の)エイドリアン・ニューウェイが、通常350kWのMGU-Kのリチャージが250kWすらできていないと発言したという報道がありますが、それは本当でしょうか。

武石:正直申し上げて、そういう話は聞いていません。聞いていないので、答えようがありません。仮にそういうことがあったとしたら、ランプランの中でやっていたことを切り抜いて言ったのかもしれません。

──アストンマーティン側は現在の状況に対してどのように反応していますか?

武石:とにかくワンチームで乗り切りましょうという形で協力的にやってくれていると理解しています。

渡辺:一番プライオリティが高いのは振動対策。それによってバッテリーのライフをちゃんとすることが一番大事。そこをアストンマーティンと改善しないと先に進めないことになります。アストンマーティンと一緒に改善のタマ出しをして、その中身をSAKURAのリアルビークルダイナモで再現する。おそらく暫定的な対策になると思いますが、開幕に向けてこの仕様で行きましょうと。そこがちゃんとできてくると、今度はパフォーマンスが出せるようになり、そうするとパフォーマンスがどうだということで次のステップに進めると思っています。

──アストンマーティンとの関係は悪くなっていませんか?

渡辺:いまの段階で言うと、ワンチームで解決しようという団結した関係にあると思っています。非常に前向きな議論ができていますし、オーストラリアでちゃんと走るために全力でやろうと確認している。決して悪い状況ではありません。もちろん、テストしているドライバーはイライラしているところは当然ある。そこはパフォーマンスで返すしかない。なんとか準備してドライバーがしっかり走れるようにしていきたいと考えています。

──2015年にマクラーレンと一緒に参戦したときは、その前にブランクがありました。今回はあのときのようなブランクはない。それなのに苦戦している……。

渡辺:ホンダの正式参戦は2021年で終了しています。そのシーズン限りでエンジニアは量産や先進パワーユニット・エネルギー部門等に戻しています。その後はレッドブルへの供給のためだけにメカニックと一部のエンジニアが残っている状態でした。実際にはブランクは存在しています。2022年11月に再びマニュファクチャラー登録をし、23年4月にホンダの経営会議で再参戦が認められ、そこからまた人を集め直しました。

その影響は正直出ていると思います。22年に新しいレギュレーションの大枠が固まりましたが、その段階で人はいませんでした。我々のエンジニアは23年に戻ってきている。22年はコストキャップがない状態でした(競合するマニュファクチャラーはコストキャップに縛られず基礎研究・開発ができた)が、23年からはコストキャップ制度が始まっています。

武石:人集めのタイミングとコストキャップの関係から、出遅れ感は否めません。そこは反省している部分です。

はっきり言って、2026年のホンダはどん底からのスタートだ。そこから泥くさくもがきながら、頂点に向けて這い上がるホンダを、我々はきっと見届けることになるのだろう。渡辺HRC社長が投げかけるように、その歩みを暖かく、ときに厳しく、また長い目で見守っていこうではないか。