モータサイクルのデザインと聞くと、派手なカラーやグラフィックを考える人と思われていたり、設計者が外観もデザインしていると思われがちである。しかし工業製品である以上、カーデザインなどと同様に商品コンセプトを決め、それを表現する造形とはどうあるべきかを考え生み出していくのがデザイナーの仕事であることは変わりない。

デザイン開発のプロセスではカーデザインと同様にアイデアスケッチにより全体のイメージを決めていくが、モーターサイクルのデザインで重要なことは、ほとんどの外観部品が機能部品であるということである。その機能部品ひとつひとつが組み合わされて一台のモーターサイクルになるため、デザイナーが造形する範囲は全体のスタイリングだけでなく、部品単位で機能に基づいた形状・材質・表面処理、カラー・グラフィックなど多岐にわたる。

図1 全体スケッチ

例えばフューエルタンクは、ガソリンを蓄えるための燃料タンクであると同時に、人がモーターサイクルに跨った際にタンクを両足で挟み、体を安定させ操作を行うための極めて重要な機能部品でもある。排気量の大きなモーターサイクルでは航続距離との関係で容量の大きなタンクを要求されるが、ライダーがニーグリップする範囲ではタンク幅は狭められているように、機能上の要求項目であるタンク容量とニーグリップを両立させながら、モーターサイクルのイメージやスタイルを形作る最も重要な見せ場でもある。デザイナーの描くスケッチはサイドビューで展開していくが、タンク形状だけでなく常に立体を想像しながら造形している。

図2-1 サイドビュー
図2-2 タンク
図2 タンク別案

全体のシルエットを形作る上では、タンクからつながるシート形状も外観の大きな構成要素である。しかしシートにも機能上考えなくてはいけない項目が存在する。タンクのニーグリップ部分とのつながりや角度など、法規や各社の規定の範囲内で考える必要があり、停車時には足を地面につけ車体を保持するために、シートの高さはおおよそ800mm前後のものが多く、足裏が地面につきやすいように内腿に当たる部分を狭くするなどの配慮している。これらを踏まえ足が地面につきやすいものを、足つき性が良いと表現し、身長の低いライダーにとっては最も重要な要素となっている。またシートはライダーが走行時に不用意に前後に滑ってしまわないように考慮する必要があり、前傾基調の車体デザインであってもシート上面の角度は水平から数度の範囲に収めている。

図3 シート・タンクのつながり

ハンドルグリップ位置、シートの着座位置、足を置くステップ位置の3点を結んだものがライディングポジションであり、これによりライダーの姿勢となる基本的な三角形を構成している。スーパースポーツバイクではライダーが前傾姿勢となるが、オフロードバイクでは背中が起きた姿勢となるように、バイクに求められる機能や用途により三角形も大きく異なる。それぞれのコンセプトに基づきアイデアスケッチを描き始める際に、この三角形をおおよそ決めておく必要があり、それは人をどう乗せるかということでもある。モーターサイクルデザインでは「人がまたがり操作する」ことを大前提に、常に人を意識したデザイン展開が求められる。つまりスケッチ自体が機能をベースにしたものなのである。 (図4-1~4-6)

図4-1 ロードモデル
図4-2 スーパースポーツモデル
図4-3 クルーザーモデル
図4-4 ツーリングモデル
図4-5 オフロードモデル
図4-6 スクーターモデル

モーターサイクルをデザインする上でベースとなる車種があれば、それを元にデザインを考えることになるが、新機種の場合は車体の設計者と打ち合わせを行いながらおおよその基本レイアウトを作り、その上でデザイン作業を進めていくことになる。既存モデルがあれば部品流用や一部変更などで済むこともあるが、新規モデルでは外観部品単位でデザインしていくことになる。モーターサイクルの心臓部と言えるエンジンであっても、デザイナーによって外観のデザインを施すことになり、そのためにはデザイナーといえどもエンジンの構造や部品構成をある程度理解できる知識が必要である。時には締め付けボルトの位置を見直すこともあり、エンジニアとしての視点も必要である。(図5)

図5 エンジンスケッチ例

モーターサイクルのデザインにおいて、印象を大きく左右するエレメントとして、エキゾーストパイプからマフラーに至る排気系も大きなウエイトを占める。エンジンから排出されたガスはパイプ内を通り、マフラーで消音されて外気に放出されるわけだが、エンジンの性能を左右する機能部品でもあることから、そのモーターサイクルのパフォーマンスを象徴する外観部品でもある。デザイナーはアイデアスケッチを展開する際に、どのようにパイプを取り回し、どの程度の大きさのマフラーにするか、個数や表面処理も含め形状を考えることになる。近年では排気ガス規制のために途中に触媒やセンサーを設ける必要があり、どのように目立たなくするか頭を悩ませる要素でもある。またマフラーは高温になることから、人が接触することによる火傷などを考慮しカバーを取り付けることもあり、マフラー本体の形状とカバーの形状を同時に考えることになる。(図6)

図6 エキゾーストパイプ

ちなみにモーターサイクルのスケッチではマフラーが見える右側面を主にデザイン展開するため、前輪を左側にしたクルマのスケッチとは逆の向きで表現されることが多い。

フレーム構成についてはコンセプトに基づき、基本骨格をエンジニアと打ち合わせながら決めていくことになるが、鋼管フレームかアルミニウムなどのダイキャストフレームなのか、引き抜き材を使ったものなのかなど材質や製造方法も理解し、表面処理による見え方を想像できることが求められる。そしてそれをアイデアスケッチに反映して描いていくことになる。(図7)

図7 エンジン・フレーム

タイヤについても市販品で適切なサイズや求める性能を満たす製品がなければ新規に制作することになるが、パターンについても新しいものをデザインすることもある。デザイナーはその機種のコンセプトに合わせたタイヤパターンを考え、タイヤメーカーの知見を加えながら方向性を決めていき、最終的には試作品によって実走行をしながら細部を詰めていくことになる。

その他、ヘッドライト、ウインカー、ブレーキランプなどの灯火器類、メーターケースやディスプレイ、操作ボタンなどのUI、キャストホイールやディスクブレーキ、サスペンションなど足回り系の各部品など、外観に関連する部品は数多い。技術的な進化をどのように取り入れていくのかも、商品魅力を上げる要素となる。このようにモーターサイクルはほとんどの機能部品が外部に現れているため、機能部品の集合体であると同時に外観部品であるということから、全ての部品の外観に責任を持つのがモーターサイクルデザイナーなのである。

図8 灯火器

細分化されているクルマのデザイン開発に比べ、1機種を1〜2名のデザイナーで担当していくことが多いのもモーターサイクルデザインの特徴でもある。

またユーザーがモーターサイクルマニアであることも少なくないので、デザイナーはユーザーの嗜好や新技術、アフターマーケットパーツに見るトレンドなど、自分自身がモーターサイクルのユーザーとして興味を持ち、アンテナを張っておくことが求められる。