バブルが生んだユニークな軽スポーツABCトリオ
日本経済は、1980年代後半に空前のバブル景気を迎え、「ソアラ」や「マークII」3兄弟のような“ハイソカー”と呼ばれたスポーティな高級セダンが飛ぶように売れ、軽自動車についても「アルトワークス」や「ミラTR-XX」などの軽ホットモデルが人気を集めた。
1990年1月には、軽自動車の規格が改訂されて、エンジン排気量が550cc→660cc以内、ボディサイズが全長3200mm→3300mm×全幅1400mm×全高2000mm以下となった。このような中、1990年代初頭にバブル絶頂期に開発された新規格に合わせた3台の軽スポーツ“ABCトリオ”がデビューした。ABCは、以下の車名のイニシャルをとったものである。



・A:軽唯一のガルウイングを備えたマツダ「オートザムAZ-1」(1992年10月~)」
・B:高速型NAエンジンを搭載したMRオープンスポーツのホンダ「BEAT(ビート/1991年5月~)」
・C:軽乗用車唯一のFRスポーツカーのスズキ「cappuccino(カプチーノ/1991年10月~)」
FRPボディにガルウイング、MRを採用したAZ-1

マツダ「オートザムAZ-1」は、1989年10月に誕生した。オートザムは、当時マツダが進めた5チャンネル体制で誕生した、主に軽自動車と小型自動車を販売する販売系列名である。

モノコックフレームをFRP製ボディパネルで覆ったボディに、ガルウイングドアを装備。ガルウイングは、ルーフ中央部を通るフレームにヒンジを付け、サイドウインドウとドアとも上方に開く「ランボルギーニ・カウンタック」と同じ手法だ。ガルウングの装備は、軽としては最初で最後である。
パワートレーンは、スズキから調達したアルトワークスの当時最強を誇った最高出力64ps/最大トルク8.7kgmを発揮する660cc 直3 DOHCインタークーラーターボエンジンと5速MTの組み合わせ。駆動方式は、エンジンを運転席直後に横置きに搭載したMRレイアウトで、前後車両配分44:56が実現された。

ただし、剛性を高めるためにセンターメンバーとサイドメンバーが太く設計されたので、室内スペースは2人乗りでギリギリの状態、居住性は十分とは言えなかった。AZ-1は、画期的なガルウイングを装備した軽のスーパーカーのようだと、多くの注目を集めた。
高速型NAエンジンを搭載した本格的なMRスポーツのビート

ホンダは、1990年9月にホンダの頂点に君臨するMRスーパースポーツ「NSX」を投入。次に計画されたのが、軽自動車として初となるMRの2シーター・オープンスポーツ「ビート」で、1991年5月に発売された。MR用プラットフォームとオープンモノコックボディを組み合わせ、低重心の理想的な前後重量配分43:57を実現した、本格的なMRスポーツカーである。

コンパクトなオープンボディにサイドの大型インテークや手動開閉のソフトトップ、低いフロントノーズなどで軽ながらオープンスポーツらしさをアピール。サスペンションは、前後ともマクファーソンの独立懸架、その上でMRの優れた運動性能が最大限発揮できるように、徹底したチューニングが施された。
パワートレーンは、新開発の高回転型・高性能660cc 3気筒SOHC NAエンジンと5速MTの組み合わせ。3連スロットルやカムシャフト、ピストンを専用開発することで、NAながら最高出力64ps/8100rpm、最大トルク6.1kgm/7000rpmを発生。NAで出力自主規制値64psに到達した軽自動車は唯一であり、現在も存在しない。

MRらしい俊敏なハンドリング性能と、0-100km/h加速13.4秒、0-400m加速18.7秒の俊足ぶりを発揮し、スポーツカーファンから熱い視線を集めた。
FRレイアウトで俊敏な走りを実現したカプチーノ

スズキは、1991年10月にFRの2シーター・オープンスポーツ「カプチーノ」を投入した。

ロングノース/ショートデッキの曲面豊かなスポーツカーらしいスタイリングを採用。スズキらしく軽量化にこだわり、ボンネットやリアパネル、フロアトンネルカバーなど可能な限りアルミや高張力鋼板を採用。また軽量化に加えて、サスペンションは前後にダブルウィッシュボーン/コイルスプリングを搭載する本格派だった。
パワートレーンは、アルトワークス搭載の最高出力64ps/最大トルク8.7kgmを発揮する660cc 3気筒 DOHCインタークーラーターボエンジンと5速MTの組み合わせ。エンジンをフロントに縦置き配置するFRレイアウトと51:49の前後重量配分による俊敏な走りが自慢だった。


もうひとつユーザーを楽しませたのが、ユニークな“4ウェイ・オープントップ”だった。これは、ルーフ部分を3ピース構造にして、分割式ハードトップを取り外すことによって、クーペ、Tバールーフ、タルガトップ、フルオープンの4つの好みのスタイルに変更することができるのだ。
ABCトリオの価格と重量の違い
ABCトリオの車両価格は、それぞれ149.8万円(AZ-1)>145.8万円(カプチーノ)>138.8万円(ビート)だった。当時の大卒初任給は18万円(現在は約23万円)だったので、単純計算では現在の価値でそれぞれ約191万円>186万円>177万円に相当する。
最も高額なのは、ガルウイング搭載のAZ-1であり、NAエンジン搭載のビートが最も安価な設定だった。
車両重量については、760kg(ビート)>720kg(AZ-1)>700kg(カプチーノ)の順だった。ガルウイング搭載のAZ-1が意外と軽量で、フルオープンのビートが最も重かった。ビートは、オープン専用モノコックボディでルーフがない分、捻じれやすいので、剛性を確保するために骨格やサイドシルなどに多くの補強が必要になり、これが重量増につながったのだ。一方のガルウイングのAZ-1は、基本は固定ルーフのクーペでルーフが構造材として効くので、開放ボディほど大規模な補強が要らない、また外板にFRPを採用していることも軽量化に貢献したのだ。また、カプチーノはFRでスズキらしく軽量化を徹底した設計となっており、後期型では690kgまで軽量化した。
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ユニークな軽スポーツのABCトリオだったが、設計思想はそれぞれ異なっており興味深い。最もスポーツカーらしい走りが楽しめたのは、高速型エンジンを搭載したビートだろうが、カプチーノは実用域のトルクが高いので運転しやすい余裕の走りが日常的に楽しめた。AZ-1は、スーパーカーのような雰囲気が味わえた特別なクルマだったと言える。
ただし、ABCトリオはバブル期に開発されたが、発売時期がバブル崩壊時期と重なり、スポーツカー市場が冷え切っていたため、残念ながらいずれも1世代限りで生産を終えた。



























































