ヤマハYZ450FX……1,265,000円(消費税10%含む)

 ヤマハのクロスカントリー競技用モデルのフラッグシップ『YZ450FX』の2027年型に乗りました。450ccのレーサーといえば、誰もが「とてつもなくパワフル」「手強い」「扱いきれない」といったイメージを思い浮かべるかもしれません。もちろん、新型YZ450FXも、その期待を裏切らないだけの強烈なポテンシャルを持っています。

 しかし、今回の試乗で最も印象に残ったのは、圧倒的なパワーだけではありませんでした。強く感じたのは、意外にもスロットルを思い切って開けられること。多用するミドルレンジがコントローラブルで、それでいて力強い。

 アクセルワークが多少ラフになっても、トラクションコントロールが程よく自然に介入してくれるから、リヤタイヤが一気に大きく滑り出すようなことがありません。だから、安心してスロットルを開けられ、よりアグレシッブに走ることができるのです。

 それでいてレーンチェンジがしやすく、コーナリングでは狙ったラインを外しません。アクセルを積極的に開けられるから、持っているハイパワーをしっかりと前進する力に変えることができます。

低速域の粘りも大きな武器

 低速走行時の駆動力の扱いやすさも際立ちました。林間コースでは、タイトコーナーやシングルトラックで速度が大きく落ちます。前方のラインを慎重に選びながら、歩くようなスピードで進まなければならない場面も少なくありません。

 そんなとき、新型YZ450FXはエンジンをストールさせにくく、クラッチレバーを頻繁に操作しなくても粘り強く前へ進んでくれます。

 エンストしにくい。この安心感が、難しいセクションと対峙するときほど、ありがたいのでした。

 極端な話、ヤマハにはトレッキングバイクの名車『セロー』という理想形のひとつがあります。もちろんYZ450FXはレーシングマシンですから、まったく方向性は異なるはずですが、ノロノロとした速度域でも確実に前進してくれる走破力は、クロスカントリーでは大きな武器になります。

 セローのようにトコトコと歩くような速度域までとは言いませんが、粘り強く極低速域でトルクを発揮し、エンジンがストールしにくければ、ライダーはクラッチ操作に神経を使わず、ライン取りや路面状況に集中できます。結果として疲労も抑えられる。

 長丁場のレースなら、リザルトにもつながってくるでしょう。もちろん、競技志向ではないファンライド層にとっても、難しいセクションをよりイージーに、そして楽しく走れることにつながります。

新型はキャラ変した!? 開発責任者が明かす

 ベースとなっているのは、昨年(2026年)モデルチェンジしたばかりのモトクロッサー『YZ450F』。トップライダーが乗っても凄まじいと感じるほどのポテンシャルを持つだけに、その有り余るパワーをいかに扱い切るか、そしていかに引き出すかが、レースでは重要になります。

「過剰なパワーを抑え、コントロール性を重視したキャラクターにシフトした」

 2027年型では開発の方向性そのものが大きく変えられたことを、プロジェクトリーダーの中澤 誠さん(ヤマハモーターエンジニアリング株式会社モビリティ開発部 BD設計Gr)が教えてくれました。

 じつに興味深い、いったいどういうことなのでしょうか。

 エンジン実験プロジェクトチーフの鈴木巧さん(ヤマハモーターエンジニアリング株式会社パワートレイン開発部 PT実験Gr)は、2027年型YZ450FXの目指すべき姿を改めて再検討したことを明かしてくれました。

 従来は、YZ450Fの優れた性能を最大限に活用することが、YZ450FXの基本的な考え方でした。ところが新型では、クロスカントリーで求められる性能に特化することを目指したと言います。

「3時間のレースで、リザルトを追求したい」と考えたとき、世界最高峰のGNCC(グランド・ナショナル・クロスカントリー)で戦うトップライダーであっても、450ccモデルのパフォーマンスを3時間にわたって維持することは難しい。そうした現場からのフィードバックに、開発陣は真正面から応えたのでした。

 目指したのは「扱い切れるリニアなパワー」「滑らかなスロットルレスポンス」「極低速域での粘り強いエンスト耐性」「軽いレバー操作荷重とスムースなクラッチ特性」そして「モードMAPやトラクションコントロールによる電子制御」といった走りの要素でした。

 これらを積み重ねることでライダーの疲労を軽減し、レースでのリザルトにも直結すると考えたのです。

 ハンドルバーの左にあるモードスイッチを押すことで、2つのMAPを切り替えることができます。

MAP1:パワー、スロットルレスポンスの良いオールラウンドな特性。
MAP2:テクニカルな場面での扱いに向いた穏やかなエンジン特性。

さらにスマートフォンのパワーチューナーアプリで、それぞれのMAPを調整することもできます。

エンスト耐性を高めた秘訣はカム設定にあった

旧シリンダーヘッド
新シリンダーヘッド

 低速でもエンストしにくく、ウッズセクションでは扱いやすいエンジンに助けられたことを、エンジン設計プロジェクトチーフの内田貴久さん(ヤマハモーターエンジニアリング株式会社パワートレイン開発部 PT設計1Gr)に伝えました。

 すると、クロスカントリーで求められる特性を実現するため、吸気カムを遅角化し、低回転時のトルクをあえて抑制。一方、排気カムは進角化することで、よりスムーズな出力特性を狙ったと説明してくれます。

 さらに、吸排気カムの見直しによってオーバーラップを狭角化し、低回転域でのクリーンな燃焼を実現。これが極低速域でのエンスト耐性向上につながっているとのことです。

 低回転域のトルクをただ増強させるのではなく、あえて抑制する。意外なアプローチですが、狙いは明確。ライダーがスロットルを開けたときに、急激なトルクが立ち上がるのを抑え、より滑らかに駆動力を伝えることで、荒れた路面でもリヤタイヤのグリップを引き出しやすくする。結果的に「もっと開けていける」と思えるのです。

軽い操作性が嬉しい油圧クラッチ

 

旧クラッチアッセンブリー
新クラッチアッセンブリー

そして、乗ってすぐに気づいたのが、クラッチが軽いこと。これは長丁場のレースで効いてきます。

 新型では油圧クラッチを新採用し、レバー操作荷重を2026年型に対して15%低減。ロングライドや長時間のレースでライダーの負担を抑えるだけでなく、ワイヤー式から乗り換えた場合でも違和感の少ない操作フィールを実現しています。

 エンジン懸架ブラケットも、細かな作り込みが施されています。ボディ設計プロジェクトチーフの藤森智也さん(ヤマハモーターエンジニアリング株式会社モビリティ開発部 BD設計Gr)によると、新フレームに合わせてブラケットの厚みや形状はもちろん、穴の大きさや位置まで、開発ライダーからのフィードバックを受けながら徹底的に追求したといいます。

 レースでの実績も豊富な開発ライダー、内山裕太郎さん(ヤマハモーターエンジニアリング株式会社モビリティ開発部 BD実験Gr)は、その重要性について「ここを変えるだけで乗り味が変わります」と教えてくれました。

 敏感なヘッド懸架も専用設計とし、新フレームのバンプ吸収性と接地感を活かしながら、旋回時には倒し込みの軽さを両立させています。

 こうしたパーツたちを実際に手に取って説明を受けると、ヤマハのオフロードコンペティションマシンがどれほど細かな部分まで考え抜かれ、作り込まれているのかがよくわかります。

 前後サスペンションには日本専用セッティングが施され、初期から中間域での作動性を高めています。リヤブレーキは軽量化を図りながらコントロール性を追求。前後タイヤもトラクション性能と軽量化を両立させた専用品です。

開発者と直接話せる。それがYZ試乗会の醍醐味!

 こうして、実際に開発・設計を担当した人たちから、直接お話を聞くことができる。これはヤマハのオフロードモデルに対する熱意を物語っていると思います。

 ヤマハは毎年、メディアを対象としたオフロードコンペティションモデル「YZ」シリーズの試乗会を精力的に開催しています。

 そこには必ず、開発チームやテストライダーが大勢やって来る。開発の狙い、技術的なポイント、従来型と新型の違いを丁寧に説明してくれるだけではありません。会場には膨大な数のパーツがずらりと並べられ、実際に手に取って見ることもできるのです。

「なぜ、こうなったのか?」

 そう質問すると、こちらが想像していた以上の答えが返ってくる。クラッチもフレームもエンジン懸架ブラケットも、実物を手に取りながら話を聞ける。バイクファンなら、これが面白くないわけがありません。興味は、どんどん膨らんでいき、ヤマハYZシリーズのファンになってしまいます。

 そして何より、試乗会そのものが充実しています。今回の試乗会場となったのは、スポーツランドSUGO。過去にもYZシリーズの試乗会で使われてきた本格的なコースであり、全日本エンデューロ選手権も開催されます。

 モトクロスコースだけでなく、林間セクションもたっぷり走れる。これでもかというほどYZシリーズに乗り、走り終えれば開発者から直接話を聞くことができる。オフロード好き、バイク好きにとって、これほど贅沢な一日はなかなかありません。

 しかも、オフロード専門メディアだけに限らず、幅広い媒体が参加できるよう門戸を開いてくれている。筆者(青木タカオ)にとっては、まさに年に1度の楽しみなのです。

「乗ってみればわかる」を一般ライダーにも

 ただ、自慢話をしたいわけではありません。このYZシリーズの高性能とヤマハの熱き想いを、一般のライダーにも実際に体感してほしいのです。

 ヤマハでは2027年YZシリーズの試乗会「BLU Camp(ブルーキャンプ)」を全国7会場で開催しています。この記事を読んで「本当にYZ450FXは、そんなに乗りやすいの?」と思った人は、ぜひ自分自身で確かめていただきたい。

 BLU CampではYZ450FXをはじめ、8年ぶりに新作エンジンを搭載したモトクロス競技用モデル『YZ250F』、さらに『YZ450F』『YZ250FX』『YZ250X』『YZ125X』『YZ85LW』など、最新のYZシリーズに試乗できます。

8月29日(土)モトクロスヴィレッジ(埼玉県川越市)
9月12日(土)北海道・新千歳モーターランド(北海道千歳市)
9月26日(土)東北・スポーツランドSUGO(宮城県柴田郡村田町)
10月17日(土)中国・テージャスランチ(広島県安芸高田市)
10月31日(土)近畿・プラザ阪下(大阪府河内長野市)
11月21日(土)九州・HSR九州オフロードコース(熊本県菊池郡大津町)
11月28日(土)中部・いなべモータースポーツランド(三重県いなべ市)

試乗車両
モトクロスモデル:YZ250F、YZ85LW
クロスカントリーモデル:YZ450FX、YZ250FX、YZ250X、YZ125X

 この記事が公開される頃には前半の試乗会は終了していると思いますが、まだまだ乗れるチャンスがありますので、ぜひ参加してみてください。

 開発ライダーでレーシングアドバイザーを務める鈴木健二氏と小島太久摩氏による、マシンセッティングやライディングのアドバイスも受けられるから、参加しない手はありません。

 新型YZ450FX、そして前回記事を公開したYZ250Fなどなど、ぜひ乗ってみてください!!

詳細は公式ホームページまで。
https://news.yamaha-motor.co.jp/2026/031980.html

仕様

YZ450FX
車台打刻型式/原動機打刻型式CJ45C/J362E
全長/全幅/全高2,170mm/825mm/1,265mm
シート高955mm
軸間距離1,470mm
最低地上高330mm
車両重量113kg
原動機種類水冷, 4ストローク, DOHC, 4バルブ
気筒数配列単気筒
総排気量449cm3
内径×行程97.0mm×60.8mm
圧縮比13.0:1
始動方式セルフ式
潤滑方式ドライサンプ
エンジンオイル容量1.20L
トランスミッションオイル量
オイルタンク容量
燃料タンク容量7.8L(無鉛プレミアムガソリン指定)
吸気・燃料装置/燃料供給方式フューエルインジェクション
点火方式TCI(トランジスタ式)
バッテリー容量/型式12V, 2.4Ah(5HR)/BR98
1次減速比/2次減速比2.481(67/27)/3.923(51/13)
クラッチ形式湿式, 多板
変速装置/変速方式常時噛合式5速/リターン式
変速比1速:2.500(30/12) 2速:1.800(27/15) 3速:1.350(27/20) 4速:1.100(22/20) 5速:0.880(22/25)
フレーム形式セミダブルクレードル
キャスター/トレール27° 00′/121mm
タイヤサイズ(前/後)80/100-21 51M(チューブタイプ)/ 120/90-18 65M(チューブタイプ)
制動装置形式(前/後)油圧式シングルディスクブレーキ/ 油圧式シングルディスクブレーキ
懸架方式(前/後)テレスコピック/スイングアーム(リンク式)
乗車定員1名