ダウンサイジングターボのすすめ!
Z32にSR20DET換装で驚異の623馬力を実現
昔からカーカスタム系TVショーの鉄板ネタといえば、格安で手に入れたボロボロのベース車を、新車同然の状態へと仕上げていくビルドストーリーだ。ボロいクルマがピカピカに生まれ変わっていく過程は単純に見ていて楽しいし、クルマを再び価値あるものへと復活させていく心意気は、国境や言葉の壁を越えて胸に迫るものがある。

そんな伝統的なビルド企画をYouTubeで展開し、登録者数332万人を誇る人気チャンネルが、アメリカの「throtl(スロットル)」だ。ビルダー、メディア、ECサイトを横断するマルチな活動を展開し、多彩な車種をベースに数多くの個性的なプロジェクトを実現させている。今回取り上げるのは、その中でもわずか300ドル(約5万円)で入手した日産300ZX(Z32型フェアレディZ)を、623psのモンスターマシンへと昇華させたプロジェクトだ。

ベースとなった300ZXは、NAのVG30DEを搭載する2+2モデル。お約束通り、まずは全バラにするところからプロジェクトがスタートしたが、エンジンについてはV6のチューンアップを早々に諦め、2.0L直4ターボのSR20DETへスワップする方針が決められた。
プロジェクトを主導したミッキー・アンドラーデにSRスワップの意図を聞くと、「ワイヤリングなどの作業量も多くなるVGに比べて、直4のSRターボは軽いし、パワーも出る。エンジンルームの見た目もスッキリさせられる。個人的にSR20DETは、どんな旧車とも相性がいいユニットだと思うよ」と答えてくれた。

実際、本来はV6が収まるZ32のエンジンルームへ直4のSR20DETを搭載したことでスペースには余裕が生まれ、吸排気系も伸び伸びとレイアウトできるようになった。ワイヤリング・スペシャリティーズのカスタムワイヤーハーネスやチェイスベイの補機類も組み合わせ、300ドルのクルマだったとは思えないほどスッキリとしたエンジンルームに仕上げられている。
とはいえ、縦置きのSR20を搭載するモデルは北米市場に正規輸入されていなかったため、アメリカではそもそもエンジン自体の希少性が高い。多くの場合、日本から輸入された中古エンジンの在庫を国内で探すことになるが、地味に大変なのが細かな純正部品や補修部品をかき集める作業だ。

もしアメリカ製V8へのスワップを選択していれば、そのあたりのハードルも下げられたはずだ。それでもあえて難易度の高いSRスワップを選んだところに、彼らのクルマ作りに対する矜持が感じられる。
SR20DETのチューニングは、それだけで単独の動画を作るほど気合が入っており、throtlのメンバーでありエンジンビルダーでもあるクイン・クラークが700psをターゲットに作業を担当。純正ボアと同サイズのダートン製スリーブを打ち込み、ストロークはブライアンクロワー製クランクによって91mmへ拡大。ブーストラインの鍛造コンロッドやワイセコの鍛造ピストンなど、数多くの強化パーツを投入し、高回転・高出力に耐えるエンジンの土台を作り上げていった。

ヘッドまわりにもブライアンクロワーのカムシャフトやカムギヤ、バルブスプリング、バルブキーパー、オーバーサイズバルブを投入。さらにPRPのビレットオイルポンプギヤやR35 GT-R用コイルを使ったダイレクトイグニッション、振動対策としてATIのクランクダンパーも備えるなど、700psという目標に向けて抜かりなく強化されている。



タービンにはギャレットG30-770を選択し、アーテックのターボマニホールドでマウント。エキゾーストはバイブラントのチタンパイプを使ってワンオフ製作され、インテークマニホールドとスロットルにはハイパーチューン製を採用した。インタークーラーとラジエーターにはミシモト製を組み合わせている。
アメリカにおけるSR20スペシャリストとしても知られるMazworxのパーツも多用。トランスミッションは同社のアダプタープレートを使い、ベルハウジングにも加工を施したうえで、VG用純正5速MTとドッキングさせた。ECUにはハルテック・エリート1500を使用し、燃料にはE85を使用するフレックスフューエル化も行なっている。

ラディウムエンジニアリングの10ガロン・フューエルセルはラゲッジルームの床下に収め、燃料系にはデッチワークスのフューエルレールやレギュレーター、2基の燃料ポンプを投入。こうして700ps級を見据えたエンジンと、それを支える補機類が完成した。

一方、手が入れられたのはエンジンだけではない。サスペンションはアームやブッシュ類まで徹底的に交換するリフレッシュ&アップデートを実施し、BCレーシングの車高調にGKテックの調整式アームを投入。サブフレームやデフまわりのブッシュも強化し、エナジーサスペンションのブッシュキットを使って足まわり全体をリフレッシュした。
ホイールにはモテギの鍛造モデル、MF420 EXOを選択し、ファルケン・アゼニスRT660の235/40R18を前後にセット。ブレーキは純正形状のリプレイスキャリパーにEBC製ローターを組み合わせる構成とした。

そしてボディは、BNR34スカイラインGT-R純正色のベイサイドブルーでペイント。色気のある外観を手に入れた。トラストのフロントバンパー、サイドスカート、リヤアンダースポイラーを装着し、ヘッドライトの間にはTwinZデザインのノーズパネルをセット。エアロ・トゥエンティ・スリー製のガナドール風ドアミラーを組み合わせ、灯火類やモール類も純正もしくは同等品を使って新調した。テールライトも日本仕様へコンバートしている。



インテリアにはスパルコのステアリングとGTセミバケットシートを装着。メーターはハルテックIC7デジタルダッシュへ変更し、各種センサーから送られる情報を表示する。SR20用のパワステポンプもTAARKS製ブラケットを使って移設してあり、パワーステアリングもしっかりと機能させている。

さらにリヤストラット上部のスペースには、ブラジルのオーディオメーカー、PRVオーディオのスピーカーまでインストール。ハイパワー化だけに振り切るのではなく、ストリートカーとして楽しむための装備もしっかり残しているのだ。最終的な総製作費は、ベース車100台分に相当する3万ドルに達したという。
そして車両完成後に行なったパワーチェックでは、当初430ps付近で1300ccインジェクターの容量を使い切ってしまい、そこで頭打ちに。そのためインジェクターを2200ccへ増量したところ、最終的に623psを達成した。

3.0L・V6から2.0L・直4へ。排気量こそ小さくなったが、700psを見据えて徹底的に作り込んだSR20DETによって、Z32は強烈なパフォーマンスを手に入れた。

わずか300ドルのボロボロな300ZXを全バラにするところから始まり、SR20DETスワップ、足まわりのリフレッシュ、ベイサイドブルーへのオールペンを経て623psへ。その一連の作業工程は、YouTubeで「1990 Nissan 300ZX」として19本の動画にまとめられている。
クルマを作る過程そのものをエンターテインメントとして見せながら、完成したマシンにも確かな速さと個性を与える。throtlならではの“JDMダウンサイジングターボ”の流儀を貫き、623psのハイパワーZがここに爆誕したのである。
PHOTO:Akio HIRANO/TEXT:Hideo KOBAYASHI
