タービン交換の前に純正を使い切る!
K20Cの実力を引き出すスプーン流儀
自然吸気エンジンを搭載した最後のモデル、FD2の生産終了から約3年の空白期間を経て、2015年にターボ仕様として再始動した新世代シビックタイプR。4代目のFK2で初採用され、続くFK8、そして現行FL5にも搭載されているのが、2.0L直4VTECターボのK20Cエンジンだ。

新世代タイプRが目標に掲げたのは、ニュルブルクリンクにおけるFF量産車の世界最速記録。その実現に必要な300ps以上の最高出力を目指して開発されたのが、K20AをベースとするK20Cだ。吸排気両側にVTC(可変バルブタイミング機構)を備え、排気側にVTECを採用した直噴ターボエンジンとして、FK2では310ps、FK8では排気系の見直しによって320ps、FL5では330psへと最高出力を高めてきた。

FK8からFL5への進化において、重要な役割を果たしたのがターボチャージャーだ。FL5ではコンプレッサーホイールとタービンハウジングを小型化し、回転数を高めることでレスポンスと高出力を両立。さらに、電動アクチュエーターによってNA領域ではウェイストゲートを全開にし、排気抵抗の低減も図っている。
スプーンでは、FL5のさらなるパフォーマンス向上を目指してハイフロータービンをテスト中。ただし、製品化まではもうしばらく時間がかかりそうだ。その理由は、純正タービンの完成度が非常に高いことにある。低速トルクとピークパワーのバランスを考えると、現状では純正タービンを生かしたブーストアップがベストという判断なのだ。

純正タービン仕様のデモカーでは、HONDATAのフラッシュプロを使用し、最大ブースト圧を1.8キロに設定。これによって約30psの出力向上を実現している。ただし、ユーザーに推奨しているのは1.6キロの設定だ。
「純正タービン仕様のデモカーは最大ブーストを1.8キロに設定していますが、ユーザーには1.6キロを推奨しています。若干パワーは落ちますが、耐久性への不安も少なく、低回転から高回転までパワーがつながるので扱いやすいですよ!」と、スプーンの田口さん。
ブースト圧1.6キロなら15~20ps、1.8キロなら約30psの出力向上が目安となる。低回転域を多用するコースでは、純正タービンのレスポンスを生かした仕様がベストというのがスプーンの考えだ。

もちろん、吸排気系もブーストアップに合わせてアップデートする。N1マフラーは、145φの砲弾型サイレンサーを2本並べたレイアウトを採用。フロントパイプとメインパイプを70φとすることで、ブーストアップだけでなく、将来的なタービン交換にも対応できる排気効率を確保している。走りの高揚感を高めるサウンドにもこだわった仕様だ。

FK8では吸気温度対策としてエアダクトを設定していたが、FL5では純正吸気系の形状が見直され、吸気温度が安定するようになった。そのためスプーンでは、吸気系のレイアウトを大きく変更することなく、吸気抵抗と集塵性能のバランスを追求した純正形状のエアクリーナーを設定している。

燃料系についても、純正タービンを使用したブーストアップの範囲であれば、強化は必要ない。最大ブースト圧1.8キロでも、ノーマルの燃料系で対応可能とのことだ。
一方、FK8用にはハイフロータービンに対応するため、高圧タイプの直噴ポンプ&ラインと大容量インジェクターを組み合わせたフューエルアップグレードキットを設定。FL5用についても、ハイフロータービンと合わせて開発が進められている。
開発中のハイフロータービンは、FK8用と同等の容量を持つ試作品だ。専用データを組み込んだHONDATAと燃料系の強化を組み合わせることで400psオーバーを達成。さらに、開発中のインタークーラーなどを装着したデモカーでは405psをマークしている。

ただし、ピークパワーを高める一方で、低速トルクがやや細くなってしまうことが現状の課題だ。セッティングだけで解消するのは難しいようで、ハード面も含めた見直しを検討している段階だという。単純に400psを超えれば完成というわけではなく、K20C本来の扱いやすさまで含めて成立させようとしているからこそ、製品化にはもう少し時間が必要なのだ。
また、K20Cの性能を安定して引き出すためには、冷却性能の確保も重要となる。エンジンルームの容量が拡大されたFL5でも、冷却系の強化は欠かせない。スプーンでは、油圧低下のリスクを伴うオイルクーラーに頼るのではなく、高効率なアルミラジエターとサーモスタットによって水温を安定させ、それに伴って油温も抑えるというアプローチを採用している。
駆動系はFK2からFL5まで基本的に共通で、トランスミッションのギヤ比も1速から6速まで変わらない。一方、ファイナルレシオはFK2とFL5が3.842なのに対し、FK8は4.111とローギヤードな設定だ。そのため、ショートサーキットなどで加速性能を重視したい場合は、FL5にFK8用のファイナルギヤを流用する方法もある。クラッチについても、400ps程度であれば純正のままで問題ないという。
さらにスプーンでは、エンジンだけでなく車両全体のバランスを高めることで、FL5のパフォーマンス向上を追求している。
足まわりには、レースで得たデータをもとに、ストリートやサーキット、ワインディングでテストを重ねて開発したフルスペックダンパーキットを装着。伸び側9段、縮み側6段の2ウェイ減衰力調整機構を備え、スプリングレートはフロント10kg/mm、リヤ12kg/mmに設定されている。また、より手軽にスポーツ性能と快適性を両立できる、純正ダンパー対応のローダウンスプリングも人気を集めている。


ボディには、スプーンが「剛体化」と呼ぶ補強メニューを投入。軽量かつ高剛性なハイテン鋼をプレス成形した車種専用のスティッフプレートによって、ボディとサブフレームの締結強度を高めている。さらに、モーションコントロールビームでは、特殊構造のダンパーによって走行中に発生する微振動を吸収。ボディの剛性感や乗り心地の向上を図っている。



エクステリアには、スーパー耐久(S耐)マシンへの実戦投入を通じて磨き上げられた「S-TAI」シリーズを採用。エアロバンパーは、一体型カナードと延長されたリップによって、ハイパワーFFに必要なダウンフォースを獲得する。クーリングダクトを備えたボンネットは水温や油温の安定化にも貢献。専用設計のクレーンネックウイングも、空気抵抗とダウンフォースの高次元での両立を狙ったアイテムだ。

足元には、国産鍛造ホイールとして復活したSW388を装着。デモカーではフロントが10J+40×18、リヤが10J+50×18というサイズを選択し、前後ともに265/35サイズのポテンザRE-71RZを組み合わせている。また、純正タイヤをそのまま使用できる9.5J×19サイズも設定されている。

純正タービンのレスポンスを生かしたブーストアップから、その先にある400psオーバーのハイフロータービン仕様まで。単純なピークパワーだけでなく、低回転域のトルクや耐久性、冷却性能、さらにはシャシーまで含めたバランスを追求するのがスプーン流だ。S耐で培ったノウハウもフィードバックしながら、K20CとFL5の可能性はさらに引き出されようとしている。
●取材協力:スプーン TEL : 0120-112-095
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