背景には、北米を中心とするBEV市場の変化と収益性の問題が存在する
クルマの世界には、復活してもなぜか長続きしない“不運な車名”がある。ホンダの高級車ブランド、アキュラの「ZDX」は、その代表格といえるかもしれない。
初代ZDXが登場したのは2009年。SUVのボディにクーペのようなルーフラインを組み合わせたクロスオーバーで、現在では珍しくなくなった「クーペSUV」というスタイルを、かなり早い時期に採り入れていた。

しかし、その個性的なデザインが市場で広く受け入れられたとはいえず、2013年モデルを最後にラインアップから姿を消した。
それから約10年。アキュラはZDXの名前を復活させる。
ただし、2代目は初代とはまったく異なるモデルだった。アキュラ初の本格量産BEVとして開発され、GMのEVアーキテクチャーを採用。ホンダ「プロローグ」と同様、ホンダとGMの協業から誕生したモデルである。

高性能仕様「ZDX Type S」は、前後2基のモーターによって最高出力499hp(約506ps)を発揮。アキュラのEV戦略を象徴するモデルとして、ZDXの名は再び表舞台に戻った。
ところが、その復活も長くは続かなかった。
2024年モデルとして市場投入され、生産が始まったのは2024年春ごろ。それから約1年半後の2025年には生産終了が決まり、短期間で役目を終えることになった。
初代は約4年で消滅し、10年以上を経てBEVとして復活した2代目も短命。ここまで続けば、「ZDXという名前には何かあるのでは」と言いたくなるのも無理はない。
もっとも、2代目ZDXは単純に「売れなかったから終了した」わけではない。
2024年の米国販売台数は7391台。さらに2025年1~6月には1万335台を販売し、前年同期から大幅に伸びていた。アキュラは生産終了について、顧客ニーズや市場環境、長期的な戦略目標に商品構成を合わせるためと説明している。
ZDXはGMとの協業から生まれたEVだったが、ホンダはその次の段階として、自社開発EVへの移行を計画していた。
そこで登場するはずだったのが「RSX」である。
RSXは2002~2006年に北米で販売されたスポーツクーペで、日本などで販売された4代目インテグラに相当するモデルだ。
その名を復活させる新型RSXは、かつてのような2ドアクーペではなく、ホンダ独自の次世代EVプラットフォームを採用する電動クロスオーバーとして開発が進められていた。

米オハイオ州のEV Hubで2026年後半から生産する計画があり、試作車も公開されていた。GM由来のZDXからホンダ独自EVへ移行するうえで、重要な役割を担うはずだったモデルである。
ところが、そのRSXも市販化には至らなかった。
ホンダは2026年3月12日、「Honda 0 SUV」「Honda 0 Saloon」と「Acura RSX」の開発・発売中止を正式に発表した。
背景には、北米を中心とするBEV市場の変化と収益性の問題がある。ホンダはBEVへの投資計画を見直し、需要が堅調なハイブリッドへ開発・生産リソースを振り向ける方向へ戦略を修正している。
ZDXからRSXへとつながるはずだったアキュラのEV展開は、ここで大きく方向を変えることになった。
初代ZDXは、クーペSUVというスタイルを先取りしながら短命に終わった。2代目はBEVとして復活したものの、販売が伸び始めた時期に生産終了。そして、その先を担うはずだったRSXは、市販化そのものが取りやめとなった。
もちろん、“呪われた車名”というのは比喩にすぎない。ただ、ZDXとRSXをめぐってこれだけ短期間に計画変更が重なったことは、ホンダ/アキュラの電動化戦略が大きな転換期にあることを物語っている。








