ヤマハ・アエロックス……481,800円

2025年から海外での販売が始まった最新型アエロックスのデザインコンセプトは、”Ultimate Super Sport Scooter”で、直接的なモチーフはYZF-R9。カラーリングは、マットグリーニッシュグレーとシルバーの2種を設定。

同じクラスのライバル勢とは別物

僕が仕事とプライベートの両方でお世話になっているバイクショップ、クオリティーワークスの代表を務める山下さんは、数年前から先代のアエロックスを愛用している。

2026年から日本市場への導入が始まった最新のアエロックスを試乗するにあたって、その理由を山下さんに聞いてみたところ、以下の答えが返ってきた。

「それはもう、いいバイクだからに決まっているじゃないですか(笑)。日本で売っている同じクラスの他のスクーターと比べると、アエロックスは格段に速くてスポーティで面白いんです。僕はこのモデルを日常の足としてだけではなく、ツーリングにも使っていますからね。逆にこれまでの僕は、どうしてヤマハはアエロックスを日本に正規導入しないんだろう?と思っていました」

念のために記しておくと、山下さんのライデイングの腕前は超一流で(過去にRG500Γで参戦していたTOTでは、ZERO-1クラスで何度も優勝を飾っている)、新旧スクーター事情にはかなり詳しい。そんなライダーの大絶賛は、僕にとっては予想外だったのだけれど……。

今現在の僕は、山下さんの言葉に合点がいっている。もっともこのモデルは2025年型で大幅刷新を受けているので、山下さんと僕の印象は同じではないと思うけれど、確かにアエロックスは同じクラスのライバル勢と比べると、格段に速くてスポーティで面白かったのだ。

2025年型でアルファに進化

本題の前に大前提の話をしておくと、アエロックスシリーズは、1997~2010年代前半にヨーロッパで販売され50/100ccモデルと、2016年から東南アジアで発売が始まった125/155ccモデルの2種に大別できる。

一般的なCVTが車速や負荷に応じた遠心力で変速比が決まるのに対して、YECVTはライダーの操作や走行状況をセンサーで検知し、電子制御で変速比を能動的に調整。3段階の疑似的なシフトダウンも受け付ける。

そして東南アジア向けの155ccモデルは、2025年型で大幅刷新を受けたアエロックス・アルファに進化し、電子制御式のYECVTやトラクションコントロール、リザーバータンク付きリアショック、4.2インチTFTディスプレイ、スマートキーなどを装備する、上級仕様のターボを設定。

“スーパースポーツバイクに最も近いスクーター”というキャッチコピーを掲げて、2026年8月から発売が始まった日本仕様のアエロックスは、基本的に東南アジア仕様のターボと同様と考えてよさそうだ。

サーキットで感じた第一印象

ここからはインプレ編で、まずはクローズドコースの印象を記すと、僕が最初にビックリしたのは駆動系の設定である。

エンジンは既存のヤマハ製155ccモデルと同様で、TとSという2種のライディングモードが存在し、3段階の疑似的なシフトダウンが可能なYECVTの基本構成はNMAX155と同じなのに、アエロックスのパワーユニットは右手の操作に対する反応がとてつもなく忠実にして俊敏で、7000rpm以上の吹け上がりは往年の2ストロークを思わせるほどシャープで鋭い。

可変バルブ機構のVVAを備える水冷ブルーコアエンジンは、基本的には既存のNMAX155やXフォースなどと共通。最高出力は15ps/8000rpmで、最大トルクは1.4kgf-m/6500rpm。

しかもSモードを選択すると、状況に応じて自動で行われる疑似的なシフトダウンに積極性が生まれ、ここぞいう場面では高回転域を維持してくれるから、コーナーの立ち上がりがムチャクチャに気持ちいいのである。

さらに言うなら、アエロックスはシャシーも秀逸だった。コーナリングの安定感は特筆モノで、進入でも立ち上がりでも相当な無理、と言うか融通が利く。そのおかげで自分の中に“イケる”という感覚が芽生えてくるから、コーナーを攻めることが楽しくて仕方がないのだ。

ストリートでも大いに感心

続いては一般公道の話で、アエロックスで市街地を走った僕は、通勤快速としての資質を感じた。と言っても、タイヤは前後14インチで、軸間距離は1350mmだから、世間で通勤快速と呼ばれるスクーター(タイヤは前後12インチか前後10インチで、軸間距離は1300mm以下)と比べれば、小回りは利かない。

でも信号からゼロ発進した際のダッシュ力に心を揺さぶられた身としては、小回り問題は取るに足らないことだったのだ。

そして高速道路でも、アエロックスは素晴らしい性能を披露してくれた。

もっともシート高と重心が高めなので、当初の僕は直進安定性がいまひとつかも?と危惧していたのだが、前後14インチタイヤと長めの軸間距離に加えて、26度30分/102mmというやや安定指向のキャスター/トレールの効果なのだろうか、メーター読みの120km/h近辺でも車体はビタッと安定している。

では大小のカーブが続く峠道はどうかと言うと、そういった場面でのアエロックスは完全に水を得た魚だった。

中でも僕が嬉しくなったのは忠実にして俊敏なスロットルレスポンスだが、コーナー進入時にシフトダウンを行うと、後方から程よい塩梅で車体が引っ張られるかのような安心感が得られることも特筆したくなる要素だ。

もちろん、そういった美点が感じられるのは、足まわりやフレームがしっかりしているからだろう。

いずれにしても、このモデルのスポーツライディングはすこぶる楽しく、スクーターの世界では大昔から定番になっている、アンダーブラケットのみで支持する短いフロントフォーク+ユニットスイング式リアサスでも、こんな乗り味が構築できるのかと、僕は大いに感心してしまった。

気になる点はあるけれど……

というわけで、アエロックスにかなりの好感を抱いた僕ではあるけれど、だからと言って誰もがこのモデルを絶賛するとは思わない。790mmのシート高やフットスペースの狭さ、積載性を考慮した純正アクセサリーが存在しないことに不満を抱く人はいるだろうだし、航続距離の短さを問題視する人も少なくないと思う。

ちなみにWMTCモードの燃費とガソリンタンク容量から算出できる航続可能距離は41.1×5.5=226.05kmだが、約500kmのロングランに使った感触だと、Sモードをメインにして150km以上を走るのは相当な勇気が必要だった。

もっともヤマハが公言している通り、このモデルは“スーパースポーツバイクに最も近いスクーター”なのだ。そしてその資質に共感を覚えた僕の中には、実用性に異論を述べようという意識は芽生えてこなかったのだけれど、航続距離に関しては、もう少し何とかならなかったものだろうか……という気はしないでもない。

タイヤは前後14インチで、純正指定品はスポーツ性重視のキャラクターが伺えるIRC SCT-005。

ライディングポジション(身長182cm・体重74kg)

運動性を徹底追及したアエロックスの乗車姿勢は、現代の一般的なスクーターの基準で考えると、ハンドルグリップ位置が低く、着座位置が高く、フットスペースが狭い。だからライダーによっては敷居の高さを感じるかもしれないが、スポーツライディングが大好きな僕としては、それでこそ‼という印象だった。

ディティール解説

フロントマスクは完全にスーパースポーツ。コンパクトなLEDプロジェクターヘッドランプの上部には、猛禽類を思わせるシャープなデザインのLEDポジションランプを配置。
コクピットは高級にして戦闘的な雰囲気。左側のグローブボックス内にはUSB TYPE-C電源が備わる。右側に隠れているイグニッションスイッチはスマート式。
4.2インチTFTフルカラーディスプレイは、スマホとの連携機能を装備。画面パターンは3種類で、トラックモードではラップタイムを大きく表示。
左右スイッチボックスは2025年型以降のNMAX155と共通。左にはライディングモードの切り替えとシフトダウン用のボタン、右にはアイドリングストップ用のオン/オフレバーが備わる。
ガソリンタンクキャップはセンタートンネルに配置。なお高めのセンタートンネルは、車体のホールド感に大いに貢献。
スーパースポーツのようなセパレートタイプを意識して、シートは前後で異なるレザーを採用。接合部には赤いステッチがあしらわれる。
トランクスペース容量は24.5ℓ。アライのラパイドNEOはギリギリで収まったものの、上部に大きなエアロパーツを備えるフルフェイスヘルメットの収納は厳しいかもしれない。ちなみににアライのジェットヘルメット、VZラムはギリギリで、ヘルメットの位置を調整してなんとか収納できた。
フロントマスクと同じく、テールカウルのデザインも完全にスーパースポーツ。左右下部にはアシストグリップを設置。
パワーユニットと駆動系の外観は、2025年型以降のNMAX155と同様。とはいえ既存のブルーコアエンジンと比較すると、レスポンスや吹け上がりのフィーリングは別物である
ブレーキは前後ともφ230mmディスク+片押し式1ピストンキャリパーで、ABSはフロントのみの1チャンネル式。フロントフォークのインナーチューブ径は30mm。
Y字3本スポークのキャストホイールは専用設計。リヤショックはリザーバータンク付きだが、残念ながら調整機構はナシ。

主要諸元

型式:8BK-SG97J
全長×全幅×全高:1980mm×765mm×1170mm
軸間距離:1350mm
最低地上高:145mm
シート高:790mm
装備重量:132kg
キャスター/トレール:26°30′/102mm
エンジン形式:水冷4ストローク単気筒
弁形式:OHC4バルブ
総排気量:155cc
ボア×ストローク:58×58.7mm
圧縮比:11.6
最高出力:11kW〈15PS〉/8000rpm
最大トルク:14N・m〈1.4 kg-f・m〉/6500rpm
燃料供給装置: フューエルインジェクション
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
クラッチ形式:乾式自動遠心シュータイプ
変速機形式:Vベルト無段変速・電子制御式
フレーム形式:アンダーボーン
ブレーキ形式前:油圧式ディスク
ブレーキ形式後:油圧式ディスク
タイヤサイズ前:110/80-14
タイヤサイズ後:140/70-14
燃料タンク容量:5.5ℓ
乗車定員 2名
燃料消費率WMTCモード値:41.1km/L(クラス2・1名乗車時)