【バイクの熱中症対策】工事現場の定番アイテム「ファン付き作業服」、バイクで使うと……あんまり涼しくなかった。

炎天下の中、工事現場や建築現場の定番「空調服」を着てバイクに乗車! 果たしてその効果は? テスト車は50cc(原付一種)のホンダ・スーパーカブ50。
危険な暑さ・災害級の暑さと叫ばれる猛暑の夏が到来。連日35℃以上の高温が続き、昨今は40℃超えなんて地域もあり。日本の夏は湿度が高く、蒸し暑いのも特徴。高温多湿の蒸し暑い中、ナチュラルサウナと化すヘルメットを被り、熱風を浴びながら走行するライダーにとって日本の夏は“苦行・荒行”のような過酷な状況。本項は「ライダーにとって少しでも暑さを凌げるアイテムはないか?」を探求する、毎年恒例の名物企画。2024年の5発目は、工事現場や建築現場の定番となった「ファン付き作業服」をご紹介。バイクの走行時にファン付き作業服を使えば、猛暑日でも少しは快適に走行できるのではないか? ギンギラギンの太陽が容赦なく照り付ける7月上旬・快晴・外気温36℃の猛暑日(気象庁発表)の下、大いなる期待を抱き真夏の屋外で大汗をブルブルかきながら、いざテストを敢行した。

PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
TESTER/REPORT●北 秀昭(KITA Hideaki)
※注:記事中のデータはすべて2024年6月時点のもの

最高気温は36℃(気象庁発表)、天気は快晴の炎天下、蒸し暑い猛暑日にテストを敢行

モーターファンBIKESでは毎年恒例となった、「蒸し暑い夏にバイク乗車時、少しでも暑さを凌げるアイテムはないか?」を探求する、灼熱時の実験・体感テスト企画。2024年も編集部が「これだ!」と目を付けた、選りすぐりのアイテムをご紹介しよう(2024年は5点をテスト)。

2024年の最後となる第五弾は、今や工事現場や建築現場の定番となった、作業着の背後に電動ファンを設けた「ファン付き作業服」をクローズアップ。ファン付き作業服を着てバイクに乗ったら、酷暑を凌ぐことはできるのか? いざテスト開始!

【実験データ】
・テスト日:2024年7月5日(金)の日中
・場所:千葉県八千代市/京成線「勝田台駅」近辺
・当日の天気:晴れ
・最高気温(気象庁発表):36℃の猛暑日
・テスト環境:アスファルトの照り返しが物凄い。日なたの実測温度は42℃超(熱でヘルメット下部のモールが外れた)
・体感温度:雲一つない快晴。日差しが強くて蒸し暑い。日中は頻繁に水分を補給し、時々日陰で休憩しないと熱中症になりそう。テスターに「オレはドMか?」、「オレは一体何をやっているんだ?」と思わせるほど、身体に堪える厳しい暑さ
・テスト車両:ホンダ スーパーカブ50

空調作業服(4ファン搭載セット)……6580円(税込/送料無料)

作業着、電動ファン4個、専用ケーブルが1セット。専用バッテリーは3000円(別売)。
電動ファン2個搭載型が多い中、写真のファン付き作業服は電動ファン4個を採用した超高性能タイプ。
デザインやカラーは至って普通の作業着というイメージ。素材には綿とポリエステルを使用。着心地は非常に快適。
写真は電動ファンを停止させたところ。電動ファンがなければ、普通の作業服。このファン付き作業服は通常よりも脇側の位置に電動ファンを配置することで、運転などの座り作業にも配慮しているのが特徴。
電動ファンの送風力は4段階に調整可能。写真は電動ファンをもっとも強く作動させたところ。作業着が風船のように膨らんでいる。

商品データ

素材綿、ポリエステル
電動ファン4個
大容量バッテリー36V/50,000mAh
電動ファンの作動時間最大8時間
電動ファンの風力強さは4段階に調整可能
電動ファンの作動時間(実測)フル充電で強(MAX)を3時間連続使用したが、バッテリー残量はフル充電のまま
生産国中国製

工事現場や建築現場はもちろん、屋外警備、農作業、釣り、散歩、屋外レジャーなどなど、様々なシーンで活躍中のファン付き作業服。ファン付き作業服とは、背部に電動ファンを設けた作業着のこと。電動ファンが作動し、外部の空気を作業着内に送り込むことで、汗が蒸発する時の気化熱で身体を冷却(皮膚上の汗が皮膚表面の熱を奪う)。これにより涼しくて快適な環境を作り出してくれる(ただし汗をかいていない状態だと、それほど涼しさは感じない)。

ファン付き作業服を着用する時にこだわりたいのが、ファン付き作業服の下に着用するウエア。昨今、過酷な作業現場や建築現場で重宝されているのが、「コンプレッションインナー」と呼ばれるスポーツ用のインナーウエア。身体に密着し、速乾性に優れたコンプレッションインナーは、汗を蒸発しやすく、ファン付き作業服着用時は身体を冷却しやすい。ファン付き作業服の効力をもっとも発揮しやすいウエアとして重宝されている。

今回のテストでは、速乾性に優れた薄地肌着「ユニクロ AIR ism」と、メッシュ素材のスポーツ用Tシャツを重ね着し、その上にファン付き作業服を着用。炎天下の中、バイク乗車時でもその効力を発揮するのか? いざ実験開始!

写真左)速乾性の高い薄地の肌着(ユニクロのAIR ism)  写真右)メッシュ生地のスポーツ用Tシャツ

バイク(スーパーカブ50/原付一種)でテストを敢行

走行時はまったく冷却効果なし。ただし停止時は涼しさを体感!

テスト車は50cc(原付一種)のホンダ・スーパーカブ50。

電動ファン2個装備タイプが多い中、このファン付き作業服は電動ファン4個を採用した超高性能な大風量タイプ。風量を2倍にすることで、2個タイプでは補えなかった風力不足問題を、見事に解消しているのがポイント。また2個タイプに比べ、体感温度の大幅な低下も実現している。

電動ファンの強さ(送風力)は4段階(弱・中弱・中強・強)に調整可能。大汗をかいた、日なたの実測温度42℃超のテスト日では、弱・中弱・中強では役不足。むしろ熱風が送り込まれて暑いくらい。強(MAX)にした時点で、ようやく涼しさを感じられた。

4個の電動ファンによる、強(MAX)の送風力は強烈で、作業服は一瞬で風船のように膨らむ。同時に首部の襟と手首の袖からは、送風された風がエアダクトのように吹き抜け、瞬時に汗が乾いてヒンヤリと涼しく感じる。ファン付き作業服には半袖タイプもあるが、酷暑での使用時には絶対にパワフルな電動ファン4個タイプで、しかも長袖タイプが良いと思う。

注意したいのは店舗(コンビニやスーパー等)や食事処など、人が集まるところでの使用。ファン付き作業服の電動ファンを作動させた状態だと、汗をかいた本人はあまり気付かないだろうが、周囲に乾いた汗の臭いをまき散らすことになる(筆者は過日、近所のスーパーでこの被害を受けた)。

しかも今回テストした電動ファン4個の音は結構うるさい(ファン付き作業服の種類により異なる)。公共の場では臭いと騒音が公害級の迷惑となる可能性が極めて高いので、電動ファンは停止するべきだろう。

「ファン付き作業服」の快適指数

バイク走行時 ★☆☆☆☆
信号待ち ★★★★☆
冷房の効いた室内 ★☆☆☆☆
利便性 ★★★★☆
バイクとの相性 ★★☆☆☆

バイク乗車時は走行風の影響なのか? たとえ電動ファンの強さを強(MAX)にしても、涼しさはまったく感じない。ファン付き作業服が効力を発揮するのは、赤信号などで停車した時。アスファルトからの強烈な照り返しや、頭上から照り付ける強い日差しにより、じっとりと汗をかくと、ファン付き作業服が持ち前の本領を発揮。しばし涼しさが堪能できる。

だが信号が青に変わり、走り出した途端、ファン付き作業服の効果は消滅し、普通の作業着へと逆戻り。前方から吹き付ける熱風の感触だけが、上半身を駆け巡る。

今回テストしたファン付き作業服で驚いたのは、スマホやタブレットなどの充電もできる、大容量バッテリーの持ちの良さ(USBポート採用)。酷暑の中、フル充電の状態で電動ファンの強さを強(MAX)に設定し、3時間連続で使用したが、バッテリー本体に表示された残量(詳細は下記参照)はフル充電のまま。

メーカー発表値では、電動ファンの作動時間は最大8時間。バッテリーの劣化状況や使用環境によっても異なるだろうが、メーカー発表値の「電動ファンの作動時間=最大8時間」は、決してハッタリではない模様だ(購入時に50000mAhの表記だったWEBサイトのバッテリー容量だが、現在は購入時に20000mAh表記となっている)。

以上のことから、このファン付き作業服は信号の多い街乗りや渋滞路など、頻繁に停止するシーンで活躍。加えて真夏の停止時に水冷式エンジンのラジエターの電動ファンが回り、ライダーの身体に熱風をまき散らすビッグバイクにも適しているのではと感じた。電動ファンが回った後に身体から噴き出す汗を、ファン付き作業服は「水冷式」のように、涼しさへと変えてくれるかもしれない。

ファン付き作業服の細部をチェック

電動ファンの送風力は4段階(弱・中弱・中強・強)に調整可能

50000mAhの大容量バッテリー(別売り)。今回は新品のバッテリーを購入してテストを実施。フル充電の状態で強(MAX)を3時間連続使用したが、バッテリー残量は減る気配を見せず。
大容量の専用バッテリー。バッテリー残量は4段階で点灯表示(緑点灯/写真はフル充電の状態)。電動ファンの強さ(送風力)は親指にあるボタンを押せば、4段階(弱・中弱・中強・強)に調整可能(白点灯)。写真は白1個点灯の弱。
写真は白点灯2個の中弱。
写真は白点灯3個の中強。
写真は白点灯4個の強。
写真右の穴は電動ファン(4個)接続用コードの挿入孔。写真左はスマホやタブレットが充電できるUSBポート。
USBを採用した36Vの大容量バッテリーは、スマホやタブレットなどの電子機器も充電可能。写真はアイフォン充電中。

強烈な送風力を誇る4つの電動ファン

大容量バッテリーと電動ファンを専用コードで接続するタイプ。電動ファンの制御はバッテリー側で行う仕組み(上記参照)。
送風部の口径はビッグサイズの約85mm。
作業服と電動ファンの固定部。メッシュ素材を経由して送風を行う仕組み。電動ファンは着脱も簡単なので、作業着の洗濯も楽々。汗で汚れた作業服は、いつも清潔に保てるのがポイントだ。
作業服に電動ファンを取り付けたところ(写真は裏側)。電動ファンの固定は、強固な樹脂製の大径ネジ式を採用(電動ファン本体を回転させて固定するしくみ)。しばらくジョギングしたり、ラジオ体操などのアクションをしても、電動ファンが脱落することは一切なかった。

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