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ジャイロキャノピーe:」、ガソリン車「ジャイロキャノピー」とは違う
国内販売を担当するホンダモーターサイクルジャパン法人営業部の古賀耕治主査は、ガソリン車のジャイロキャノピーの勢いがジャイロキャノピーe:につながると予測します。
「躍進が目覚ましい。2019年4900台の出荷から前年比150%の急進。背景にはコロナ禍の巣ごもり需要の宅配ケータリング事業の利用拡大がある」
EVバイクはエンジンをモーターに置き換えただけ、と過小評価されがちですが、ジャイロキャノピーe:とジャイロキャノピーの最も大きな違いは、ライダーの快適性です。
天候に左右されにくいというルーフ車の長所は、走行音が車室にこもりがちという欠点でもあります。ジャイロキャノピーe:は、抜群の静粛性を実感できます。ライダーが快適であることは安全にもつながります。ガソリン車の愛用者の一人は「静かになれば、周囲の様子がより鮮明にわかる。長時間の運転でも疲労が軽減される」と、早くも買い替えに意欲的です。
ルーフ車はルーフがついているゆえに加減速のたびに背面のピラーにヘルメットをぶつけてしまったり、ピラーが余計な風切り音を発生させてしまう難点がありました。ジャイロキャノピーe:は、ピラーを後方にセットバックし、まっすぐ立っていた形状をハイマウントストップライトより上で少しライダー側に戻すことで、ぶつかりにくくしました。さらにそのピラーにカバーを追加して防風性を向上させました。もうピラーにガムテープで段ボールを貼り付ける必要はありません。
また、気流を制御するレッグディフレクターを装備することで側面からの風雨も軽減します。デリバリーに欠かせないスマホの電源供給もACCソケット付きで安心。グリップヒーターや網かごのインナーポケットもオプションで用意しました。
ジャイロキャノピーe:から、バッテリーは第二世代の「モバイルパワーパックe:」
電源は先発の2モデルと同じモバイルパワーパックを2個直列する交換バッテリー方式ですが、このリチウムイオンバッテリーの設計を見直し、第二世代となる「モバイルパワーパックe:」を装備しました。バッテリーの側面に「e:」の文字が大きく記されている以外に、外観はほとんど変わらないように見えます。ホンダものづくりセンターの開発責任者の中川英亮氏は、パワーパックの違いをこう説明します。
「満充電までの時間は第一世代が約4時間、新型が約5時間(専用充電器の場合)。容量が増えた分だけ充電時間は必要だが、航続距離を第一世代より20%延ばし、1充電あたり77km(30km/h定地走行テスト値)を実現した」
ベンリィe:やジャイロe:も、第二世代のモバイルパワーパックe:を使えば、同じ割合で航続距離を延ばすことができます。ホンダはビジネスバイクを含めた125ccクラスまでの小型コミューターの電源をモバイルパワーパックで共通化すると共に、新旧の世代間でも互換性を持たせています。しかし、バッテリー性能を向上させながら、同時に互換性を持たせるというのは簡単ではありません。
「ボディの幅寸法は同じだが、触ってもらうとわかるが、第一世代よりパッケージを部分的に数ミリそいでいる。スリムにすることが目的ではなく、隙間なくセルを配置し、部材を必要最小限にしてバッテリー内部の放熱性を向上させたいから。その積み重ねで容量対コストでは、第一世代より若干軽く、安くなっている」
モバイルパワーパックe:の重量は、10.3kg。旧型より600g軽くなっています。バッテリー配列が直列のため2本1度に交換しなければならないことを考えると、世代を重ねるごとに重量が軽くなることを望みたいところです。中川氏もこう言います。
「まだまだ10kgの世界からは抜けてない。(ビジネス領域でなく)一般用途で使うことを考えると小柄な人や女性でも扱えるようにしなければいけない。10kgというと躊躇する部分もあるかもしれないので、そこを抜けるのもひとつの課題」
一方、モバイルパワーパックe:は、国内で初めてホンダを含む国内4社の「電動二輪車用交換式バッテリーコンソーシアム」のバッテリー互換の規格に準拠した製品です。将来、販売されるだろう他社の電動バイクや交換バッテリーでの共通使用にも可能性を広げました。近い将来、車体はホンダ、バッテリーは他社という選択肢が生まれるかもしれません。
国内限定市場にビジネスEV集中投入
ホンダは2022年をめどに、モバイルパワーパックe:を12個を同時充電できるバッテリー交換機をインドから投入予定です。インド国内でモバイルパワーパックe:を電源とするのは、バイクではなく電動三輪タクシー(リキシャ)。新開発のバッテリー交換機を設置したバッテリーステーションをインド企業が運営。バッテリーシェアリング事業に乗り出します。
電動バイクの充電インフラにバッテリーシェアリングを使う構想の実現は、ひとまずインドに譲ったことになりますが、ホンダの日本国内でのビジネスATの電動化は、世界でも類のない挑戦です。
「原付一種市場は、年々減少している。直近の2020年は約12万2000台の市場規模となる中、ビジネス向けモデル市場は安定的に推移している。同年の出荷で3万1800台。構成比として26%を占め、近年拡大傾向にある」(前出・HMJ古賀主査)というものの、国内のビジネスバイク市場は極めて限定的です。小型コミューターを中心に生産するホンダのタイ現地法人、2021年3月に設立された新会社の二輪車生産能力は年間170万台。
比較にならない国内市場に向けて、2020年から電動化したビジネスATを3モデルも投入しているわけです。これらはいずれも原付規格。現状では海外に展開される予定はありません。行性能で先輩格のガソリン車も競合します。
ホンダのEVバイク戦略は実に地味ですが、国内市場で険しい第一歩を踏み出したことは、二輪車トップ企業のプライドといえるのかもしれません。