目次
ロイヤルエンフィールド・Classic 350……634,700円〜
Halcyon Green…….¥634,700-
カラーバリエーション
このブランド名の存在は以前から知ってはいた。戦前から戦後にかけてイギリスの名門オートバイメーカーであった事は認識しているが、筆者にとってこれまでは、ほとんど縁のないバイクだった。むしろ1950年頃に開発されたモデルが、基本設計をそのままにインドで新車生産され続けた希有な存在という印象の方が強い。イタリアのベスパが、インドではバジャジとして存続し続けていた事例があったのと同様に、日本市場へは少量が輸入販売されていたことを知る程度の認識でしか無かった。
しかし近年は開発拠点をインド本国だけではなく新たにイギリスにも置き、そこに掛ける人材も大幅に増強。革新への積極的な胎動が始まっている。既に世界50ヶ国への販路を持つ中、新規ニューモデルを果敢に投入。今やアメリカや日本市場でもにわかに、その注目度が高まっているのである。
今回試乗したクラシック350は同ブランドの中でも最も標準的なモデル。かつて量産バイクで初のスイングアーム式サスペンションを搭載したと言われる1948年発売の「G2」がお手本になったそう。
試乗車のカタログ頁をめくると、先ずはBE REBORN(生まれ変わる)の文字が目に飛び込んでくる。同時に “全てが新しく、全てが懐かしい。” というキャッチコピーに「なるほど」と妙に納得させられるのである。
バリエーションモデルによって異なるが、クロームメッキパーツを多用したデザインが懐かしい。と同時に今ではとても新鮮。堀の深い前後フェンダーやサイドカバー、ヘッドランプケース、そしてスポークホイールのリムも全てがスチール製。
樹脂パーツやアルミ軽量部材が当たり前、軽量高強度の追求ではカーボンパーツも奢られる現代においてかつての常識だったスチール部品で構築されるフォルムは重厚かつ特別にプレミアムな雰囲気を醸し出す。
言い換えると古き良き時代のレトロファッションを魅力的ファクターとして活用し、独自の商品力を披露した “ネオクラシック” モデルと言えるのである。
搭載エンジンは先に「Meteor」に載せてデビューしたロングストロークタイプの空冷350cc。1次バランサーシャフトを備えた直立単気筒。OHC2バルブヘッドを採用し、トランスミッションは5速リターン式が組み合わされている。
真っ向ライバルとしては既に人気のホンダGB350が思い浮かぶが、クラシック350の方が車体サイズが少しコンパクト。逆に車重は15kg重い。またホイールはGBがアルミキャストホイールを履くが、クラシックはスポークタイプを採用。タイヤもチューブ入りを履いている点が異なっている。
エンジン諸元に着目すると圧縮比も含めて数値はかなり似通っている。シリンダーボアはGBの70mmに対してクラシックは72mm。ストロークはGBの90.5mmに対してクラシックは85.8mm。
つまりGBの方がロングストロークの度合いは大きい。結果的に最高出力と最大トルク発生回転数はGBの方が低い回転域にあり、トルク値もGBの方が少し勝っている。
減速比はクラシックの方がGBより低めに設定されており総減速比で比較するとローギアはGBの16.084に対してクラシックは16.936。5速トップギアではGBの4.714に対してクラシックは5.667。
ニュアンスとしてあまり的確な表現ではないが、GBの方がいくらか高回転型のエンジンを採用していると言えよう。
また燃費性能データでクラシックはGBに届いていない。ターゲットとした出力特性とギヤ比の設定、及び車重差による影響も大きいだろう。
経済性という意味でも価格が55万円と親しみやすいGBに優位性があると思えるものの、その一方でクラシックはブランドに相応しいこだわりや、どこかプレミアムな雰囲気と英国調の気品を漂わせているところが印象深い。そんなクラシカルな商品力に、個性的な魅力が込められているのである。
“ホッ”と気持ちがなごむ心地よさ。
結論を急ぐと、何とも心地よい乗り味に包まれる不思議な感覚に驚かされた。
試乗車を拝借してロケ現場へ急ぐ。カメラマンを待たせない様、先を急ぐ中での移動に少々気持ちが焦りがちな場面。
ところが、全く余裕綽々な心持ちで居る自分に気付く。いつも(普通)とは異なるその気持ちの有り様には、良い意味での違和感すら覚えてしまったのである。
そこからは何がそうさせているのか、考察しながらの試乗となった。
クラシック350を目前にすると、ミドルクラスに相応しいごく標準的な車格が親しみやすい。決して大き過ぎず、小さくもない。ちなみにホンダ・GB350と比較すると全長で35mm、ホイールベースは50mm短い。
逆に車重は195kgと重めで、昔の人がバイクの事を“鉄馬”と呼んだことが脳裏に蘇る。
それでも鉄(金属)に触れられる感覚は、筆者にとって何とも懐かしい。バイクに乗り始めた1970年頃は既に樹脂部品が多用され始めていたが、鉄部品が当たり前だった時代のバイクにも、中古車として当時はまだ多くに触れる機会があったからだ。
今ではそれが珍しい存在として魅力的なキャラクターの構築に貢献している。先ずは重厚感があり、各部の重みや剛性感も高い。クロームメッキや塗装処理にも仕上がり具合に深みが感じられてくるから不思議なものである。
鞍型のシートに跨がると、パッと目に入るメーター周辺の造形も実に個性的。ヘッドランプケースにメーターが納められた手法は決して珍しくはないが、ステアリングヘッドからフロントフォーク上部も一体でカバーするように成形されたデザインは何とも新鮮。そう言えばアンダーブラケット部も化粧カバーで覆われており、いわゆる三叉部分は上下共に見えないよう工夫された上質な仕上がりも印象的なのである。
ズッシリと重い手応えも、扱いにゆったり感を増している。足つき性が良いので、取回しに不安を覚える事もない。むしろ走り初めて感じられる確かな直進安定性に感心させられた。鉄リムを履く19インチサイズのフロントスポークホイールも奏功し、乗り味に落ち着きがある。特に意識しなくても、バイク自体がきっちりとかつ悠然と直進安定を保ってくれる点に心地よさを覚えたのである。
またふと気付いたのは、張りのある鞍型シートにはドッカリと体重を預け、下半身もほとんど筋力を使わずにステップに両足を載せて寛いでいる。上体を立てた自然体で走る様は、およそスポーツバイクに乗る時とは別次元での快適性が享受できるのだ。
簡潔に言い切ると、身心ともに「リラックス」できる乗り味がそこにある。
筆者は普通、バイクに乗ると全身の筋力を使って、バイクを思い通りに操縦しようとそれなりの緊張感を持ってスタートする。特に下肢脚力と腹筋&背筋の働きを起動する。クラシック350では、ステップがやや前方にあり、足を踏ん張るよりは両足を休める感じ。バイクと言うより、スクーターに乗る雰囲気に近いだろう。しかし上体の起きたライディングポジションで視点位置は高く、気分はとても開放的。
なるほど、バイクにも気楽な移動道具として快適な乗り心地を楽しませてくれるタイプがあっても良い。改めてそんなことに気付かされた。実際これでコーナーを攻め込んでみたり、グイグイと右手をワイドオープンして先を急ぐような走りをしてみたいとはまるで思わないのである。
さらにもうひとつ見逃せないのは、エンジンの出力特性がそんな乗り味と絶妙にマッチしている。
ロングストロークタイプのシングルで、パワーの発揮を欲張っていない基本設計から生まれた出力特性は、とても穏やかでなおかつ頼り甲斐のある太さを併せ持っている。
バランサーの効果も侮れないが、燃焼具合と各部運動パーツの重量(慣性力)とのバランスが素晴らしい。シフトダウンを不精するような意地悪な走り方をしても、無理する感覚やギクシャク感はなく、常に余裕綽々の走りを披露。素早いシフトワークも不要。むしろゆっくりと悠長な操作が似合っている。何ならロー発進後は1段飛びで3速5速へ入れても対応でき、その柔軟な操作性も快適。
エンジンの吹け上がりこそ俊敏ではないが、伸びの良い軽快感が伴い、回転は実にスムーズ。コーナー立ち上がりでの穏やかにしてなおかつ十分にパワフルな加速力も気持ちよい。高速道路のクルージングもゆとりがある。
上体の起きたライディングポジションにより、前方から風圧が高まるので、特に高速性能を欲張る気分にはならないが、100km/hでも感覚的には力半分で走っているかのような出力特性も心地よさを増長している。
どんなシーンでも穏やかでおおらかな乗り味が楽しめ、バイクでの移動時間を豊かなものにしてくれる不思議な力があると思えた。
例えばおやつ時の買い出しに出かけたとすると、そのまま夕暮れ時の絶景ポイントまでフト足を伸ばして見たくなる。穏やかな時間の流れに贅沢なひと時が見出せる。そんな感覚に浸れる心地よい乗り味が魅力的なのである。
足つき性チェック(身長168cm/体重52kg)
シート高は805mm。車体も特に細いわけではないが足つき性はご覧の通り。両足は踵までベッタリと地面を捉えることができ、膝にも余裕がある。ごく自然と足を下ろすとステップは脛の前方に位置している。