『10日間・1000km』を共にして、フレンドリーなオールラウンダーの資質を実感 スズキGSX-8R 1000kmガチ試乗3/3

万能車という言葉から、どんな車両をイメージするかは人それぞれ。抜群の悪路走破性を備えるアドベンチャーツアラーを思い浮かべる人がいれば、利便性に優れる原付二種を筆頭に挙げる人もいそうだが、あらゆる用途に気軽に使えるという意味で、今現在の僕はGSX-8Rを推したい気分なのだ。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

スズキGSX-8R……1,144,000円

近年のスズキは、同じエンジン+フレームを複数の機種に使用するプラットフォーム展開に積極的な姿勢を示している。ただし、GSX-8Rは既存のプラットフォームを転用した派生機種ではなく、兄弟車のGSX-8SやVストローム800、同DEとほぼ同時期に開発。

ライディングポジション ★★★★★

兄弟車のGSX-8Sと比較すると、ハンドルグリップは6mm前方・60mm下方に移動しているけれど(シートとステップはGSX-8Sと同じ。なおハンドル幅とほぼ同義語の全幅は、GSX-8S:775mm、GSX-8R:770mm)、GSX-8Sのライディングポジションはフレンドリーで快適。上半身の前傾はごくわずかで、ヒザと足首の曲がりは緩やか。ただしワインディングロードでは、車体を深く傾けた際に腕が余る感覚があったし、コーナー進入時や加速時は(スーパースポーツの基準で考えると)前方かつ下方のステップ位置に微妙な収まりの悪さを感じた。

810mmのシート高は、近年のフルカウルミドルスポーツのほぼ平均値。左右の足が接地するには165cm以上の身長が必要なようだが(筆者の身長は182cm)、ガソリンタンク後端とシート前端がギュッと絞り込まれていて、サイドカバー類の横方向への出っ張りが皆無なので、160cm前後のライダーでも大きな不満は感じない模様。

■タンデムライディング ★★★★☆

タンデム走行のフィーリングはなかなか良好。当初はタンデムシートの高さによる高重心感、グラブバーが存在しないことに起因するタンデムライダーの落ち着きの悪さ(加減速で揺すられる)を心配していたものの、ソロと大差ない感覚で走れた。以下はタンデムライダーを務めた富樫カメラマン(身長172cm・体重52kg)の言葉。「やっぱりスズキのタンデムはいいね(笑)。シートの座り心地は良好だし、ステップは加速と減速に対応しやすくて、内股でメインライダーをホールドしやすい絶妙な場所に設置されている。これでグラブバーがあったら最高なんだけど、現状のベルトでも十分と言えば十分」

■取り回し ★★★☆☆

ハンドルが高くて車体がスリムなので、一般的な体格の成人男性なら日常的な押し引きで苦労することはないはず。ただし、ネイキッドのGSX-8Sのハンドル切れ角・最小回転半径が35度・2.9mだったのに対して、GSX-8Rは32度・3.2m。ちなみにライバル勢の最小回転半径は、YZF-R7:3.4m、ニンジャ650:2.8m、CBR650R:3.0m。

■ハンドル/メーターまわり ★★★★☆

上部にオフセットしたセパレートハンドルは、トップブリッジ上に装着されている。カウルとの干渉を考えると、低めのセパハンを導入するのは大変そうだが、もっとアップハンドル仕様への変更は比較的イージーな気配(トップブリッジとハンドルの間にスペーサーが入れられそう)。デイ&ナイトモードが存在するメーターは5インチフルカラーTFTで、表示内容に意外性や独創性は感じられないものの、走行中に必要な情報は瞬時に認識可能。

■左右スイッチ/レバー ★★★★☆

左右スイッチボックスは、兄弟車のGSX-8RやVストローム800/DE、GSX-S1000などと共通。操作感はなかなか良好で、エンジンモードとトラコンの設定変更も簡単に行えた。スロットルは電子制御式。

フロントブレーキマスターシリンダーはオーソドックスなピストン横置き式で、レバーの基部には5段階のアジャスターが備わる。一方のクラッチレバーに位置調整機構は存在しないが、ラバーブーツを装備。

■燃料タンク/シート/ステップまわり ★★★★★

フィット感に優れるガソリンタンクの形状はGSX-8Sと共通だが、ハンドルの違いに対応するため、前部に備わる樹脂製カバーの形状は各車各様。シートのデザインはスーパースポーツ風……ではあるものの、前後ともに適度な面積と肉厚を確保している。なおテールランプはシートカウルの後端ではなく、リアフェンダーに設置。

ラバー無しのバーはスポーティな雰囲気だが、ステップ位置はスポーツツアラー的。左右方向への張り出しをできるだけ抑えたヒールプレートからは、並列2気筒ならではのスリムさを強調しようという意識が伺える。アップ&ダウン対応型クイックシフターの反応は素晴らしく良好で、かなりムチャな操作も許容してくれた。

■積載性 ★★☆☆☆

タンデムシート裏に格納式ループ、タンデムステップブラケットにフックポイントが備わるものの、積載性はあまり考慮されていない。筆者の私物であるタナックスのダブルデッキシートバッグを使用する際は、シートに巻き付けるベルトを使用したが、安定感はいまひとつだった。そんなわけだからこのバイクでスマートなロングランを楽しみたい人は、純正アクセサリーのソフトケース(左右セットで8万5800円。別売りのステーは2万3760円)やタンクバッグ(1万9580円/2万4860円)の購入を考慮したほうがいいだろう。なおタンデムシート下の小さなスペースには、ETCユニットの収納が可能。

■ブレーキ ★★★★☆

F:φ310mmディスク+ラジアルマウント式4ピストン、R:φ260mmディスク+片押し式1ピストンのブレーキは、兄弟車のGSX-8Sと共通。ただし、前後サスペンションやライディングポジションの差異が影響しているのか、フロントに関してはGSX-8Rのほうがコントローラブルな印象だった。

■サスペンション ★★★★☆

GSX-8SがKYB製だったのに対して、GSX-8Rの前後ショックはショーワ製。その背景にはフロントにSFF-BPフォークを使いたいという事情があったようだ。そしてその動きはものすごく上質……というわけではないけれど、市街地の移動から峠道のスポーツライディングまで、幅広いフィールドにきっちり適合。なお調整機構はリアのプリロードのみで、モノは試しという感覚でいじってみようとしたところ、ショックユニット周辺の障害物が非常に多いため、筆者が所有する3種のフックレンチではどうやってもアジャスターを回せなかった……。

■車載工具 ★★☆☆☆

車載工具は、タンデムシート下に備わる六角棒レンチ×2と、メインシート下の差し替え式ドライバーのみ。既存のスズキ製ミドルを支えて来たSV650が、その2点に両口スパナ×2とリアのプリロード調整用フックレンチを含めた6点だったことを考えると、なかなか寂しい点数である。

■燃費 ★★★★☆

24.5km/ℓの平均燃費は、現在のミドルクラスでライバルになるヤマハYZF-R7やカワサキ・ニンジャ650、過去にガチ1000kmで取り上げたSV650とほぼ同じ(ネットで検索してみると、並列4気筒のホンダCBR650Rは1~2km/ℓほど劣るらしい)。ただしそれらの指定燃料がレギュラーガソリンだったのとは異なり、GSX-8Rはハイオクである。なおタンク容量は14ℓなので、平均燃費から算出できる航続可能距離は24.5×14=343km。

スイングアームピボット下部には巨大な消音用ボックスが備わるものの、リアサスペンションはオーソドックスなボトムリンク式。この構造を採用した背景には、複数の機種への対応を前提とした懐の広さを確保する、という意図があったのではないだろうか。

主要諸元

車名:GSX-8R
型式:8BL-EM1AA
全長×全幅×全高:2115mm×770mm×1135mm
軸間距離:1465mm
最低地上高:145mm
シート高:810mm
キャスター/トレール:25°/104mm
エンジン形式:水冷4ストローク並列2気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:775cc
内径×行程:84.0mm×70.0mm
圧縮比:12.8
最高出力:59kW(80ps)/8500rpm
最大トルク:76N・m(7.7kgf・m)/6800rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:3.071
 2速:2.200
 3速:1.700
 4速:1.416
 5速:1.230
 6速:1.107
1・2次減速比:1.675・2.764
フレーム形式:ダイヤモンド
懸架方式前:テレスコピック倒立式φ41mm
懸架方式後:リンク式モノショック
タイヤサイズ前:120/70ZR17
タイヤサイズ後:180/55ZR17
ブレーキ形式前:油圧式ダブルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:205kg
使用燃料:無鉛ハイオクガソリン
燃料タンク容量:14L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:34.5km/L(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス3:23.4km/L(1名乗車時)

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…