【続報】ホンダが50cc原付一種バイク(ゼロハン)の生産終了。排気量50cc以下から125cc以下に引き上げた「新原付一種(最高出力制限あり)」誕生

1958年(昭和33年)8月に登場以来、国内はもちろん、世界中の人々に愛され続けてきたホンダ スーパーカブ50。ホンダ伝統の横型・空冷4ストローク単気筒SOHC 2バルブ49ccエンジンを搭載。
2024年6月22日、大手新聞社のネットニュースやテレビのニュースが「ホンダが原付免許で運転できる総排気量50cc以下の原付一種バイク(原動機付自転車)の生産を終了する」と報じた。50cc以下のままでは膨大なコストのかかる2025年の厳しい新排ガス規制により、公道走行用の50cc以下モデルは生産終了。その代わりとして「125ccクラスや110ccクラスの新しい原付一種(現行の50cc以下並みの最高出力制限あり)」が新しく誕生する。バイクの世界市場はとっくの昔に、125ccクラスを中心に動いている。日本の原付一種は50cc以下という“ガラパゴス”から125ccの世界基準を受け入れ、ようやく新時代に変わろうとしている。通称・ゼロハンと呼ばれた50cc以下=生産終了の経緯や、新たに施行される「新しい原付一種」についてまとめてみた。
REPORT●北 秀昭(KITA Hideaki)
朝日新聞デジタル https://www.asahi.com/articles/ASS6Q2V5GS6QULFA00KM.html

原付一種が50cc以下から125cc以下(新しい原付一種)になる理由

写真左はホンダ スーパーカブC125(排気量123cc)、写真右はホンダ スーパーカブ50(排気量49cc)。

「原付一種の排気量を、50cc以下から125cc以下に引き上げる」

この議論は、厳しい排ガス規制によって小排気量のバイクのエンジンが、2ストロークから4ストロークにほぼ移行完了した頃。つまり2ストロークエンジンを搭載したほとんどの公道走行用バイクが消滅した十数年前までさかのぼる。

厳しい排ガス規制は125ccよりも50cc、つまり排気量が小さくなるほど、技術面や金銭面でクリアするのが困難になる。また高い技術力に加え、高価なレアメタルを素材にした「キャタライザー」。加えて構造が複雑なコンピューター制御によるフューエルインジェクションシステム(FI/燃料噴射装置)なども必要(車体が小さくなるほど関連部品もコンパクト化する必要があり、大型車よりもコストがかかる)。結果的に研究・開発・材料・加工に高いコストを要する。

“世界基準”としてすっかり定着した125ccに比べ、国内市場のみの50cc(通称ゼロハン)の改良には、かけられるコストに限界があるのもネック(マーケットが小さい分、コストが大きくなるほど回収が困難。その代償として儲けが出なくて赤字になる。販売価格が跳ね上がる等の悪循環を招く)。これに追い打ちをかけるように、戦争による世界情勢の不安や、円安による資材高騰が直撃。

以上のことから、国内のバイクメーカーは「自助努力だけでは、50cc以下の生産は採算不可能」と判断。国に対し、「もう生産の継続は無理」と最後通牒した(メーカーはこの十数年間、再三、上記を国に訴えてきた)。

そもそも原付一種である50cc以下の生産は、決して資本主義にもとづく「メーカーの利潤追求」のためだけではない。国内では新聞配達や郵便配達などのデリバリー、金融機関やメンテナンスなどの営業や各種サービスでの利用など、「儲からないからやめます」では済まされない、重要な“社会的役割”を担っている。

国(警察庁)は、メーカーの(言い換えれば日本経済の)切迫した状況をようやく理解し、重い腰を上げるに至った(警察庁が原付一種の排気量引き上げを頑なに拒んだのは、交通事故が増えると判断したから。詳しくは下記ページを参照)。

“国の安全を守っている”というメンツにこだわり、「日本(俺たち)には日本(俺たち)のやり方がある」、「メーカーが自助努力すべし」などと悠長なことを主張している事態ではなくなったのだ。

1958年(昭和33年)8月に登場以来、国内はもちろん、世界中の人々に愛され続けてきたスーパーゼロハン、ホンダ スーパーカブ50は、街乗りはもちろん、デリバリーやビジネスにも大活躍中。写真は現行モデル(バージンベージュ)。24万7500円(税込)
新聞配達で大活躍中の原付一種ビジネススクーター、ホンダ ベンリィ プロ。24万2000円(税込)

警察庁が有識者検討会を設立。2023年9月11日より「原付一種の125cc以下化」に向けた検討会を開催

原付一種の125cc以下化に向け、警察庁は有識者検討会を設置。2023年9月11日より検討会を開催した。

検討会では車両の走行評価や関係者からのヒアリングを通じ、3回に渡り、50ccと125ccや110ccの車体の大きさの違いによる安全性や、運転の容易性等を重点に検討を行った。

2023年12月21日、有識者検討会はまとまった報告書を発表した(下記ページ参照)。

国内大手二輪メーカー、ホンダとヤマハの姿勢

2023年12月3日付の日本経済新聞によれば、ホンダは排ガス規制への対応や効率化のため、国内のみで販売されている50cc以下の原付一種の生産を縮小し、125cc以下に生産を集中させる方向に舵を切った。

また2023年12月22日に行われた記者会見で、ヤマハの日髙社長は、「現在ホンダによって委託生産されている原付一種

を廃止し、新基準に適応した自社製125ccエンジン搭載モデルを国内に投入する予定である」と発表。「ヤマハが開発した、125ccのプラットフォームを利用した4kW以下の商品を、国内市場に投入していく」とも語った。

ヤマハのロングセラー原付一種モデル、ジョグ(シルバー)。18万1500円(税込) 

ココに注意! 新しい原付一種(125cc以下)と既存の125cc以下(原付二種)は別物です

有識者検討会がまとめた報告書より。報告書では125cc以下の原付一種(新しい原付一種)は「第二種原動機自転車」と命名。

2023年12月21日に発表された有識者検討会による報告書では、

原付一種の排気量基準は「50cc以下から125cc以下」に変更。ただしエンジン車(内燃機関)は最高出力を4kW以下/5.4psに制限することが条件。つまり「原付免許で、既存の125ccモデルに乗れる」わけではないことを明記。

一部のネットのコメントでは、

「もしも原付免許で125ccモデルに乗ったら、事故が増えて危険」
「自動車への原付免許付帯はやめるべし」
「原付免許でお年寄りが大柄な125ccモデルに乗るのは危険だろ」

等々の意見もあり(日本は民主主義なので反対意見も非常に大事)。

繰り返すが、今回の事案は便宜上、原付一種の排気量を50cc以下から125cc以下に変更。ただしエンジン車は、最高出力を4kW以下/5.4ps以下に制限することが条件だ。

しかも検討会では車両の走行評価や関係者からのヒアリングを通じ、3回に渡り、50ccと125ccや110ccの車体の大きさの違いによる安全性や、運転の容易性等を重点に検討を行っている。

新しい125cc以下の原付一種は、“小型限定普通二輪免許以上が必要な125cc以下の原付二種モデルとは別物”であることを、あらためて強調しておきたい。

新しい原付一種(125cc以下)は、既存の時速30km/h規制、2段階右折義務、2人乗り禁止を継続

125cc以下の新しい原付一種には、50cc以下時代に規定された

・時速30km/h規制
・2段階右折義務
・2人乗り禁止

を引き続き施行。125cc以下の新しい原付一種は、市販中の125cc以下モデルをベースに。もしくは新しい原付一種&原付二種併用の完全新設計になると予測。また原付二種モデルとは異なり、新しい原付一種は、最高出力を4kW以下/5.4ps以下にデチューン(引き上げ)するとともに、

・スピードメーターの60km/h表示化
・60km/hスピードリミッターの導入
・不法改造(原付一種の125ccから原付二種の125ccへの不法改造)を防止する措置の導入
・ダブルシートの場合、シングルシートに変更
・タンデムステップ付きの場合、タンデムステップの省略

などが施される見込み。

近年は電動の原付一種を始め、運転免許が不要な「特定小型原付」の電動バイクや電動キックボードや、歩道も走行可能な「特例特定小型原付」の電動キックボードなど、様々なNEWコミューターが登場。

電動アシスト自転車の性能も向上し、自転車に専用チャイルドシートを使えば子供2人まで同乗OK。生活が豊かになるにつれ、原付一種からお手軽・お手頃な軽自動車に乗り換える女性も増えた。

これらも影響し、1982年のピーク時に生産台数は278万台を記録したエンジン車の原付一種(50cc以下)の販売台数は、2022年で15万台。ピーク時の5%に留まっている。

戦後より庶民の足として活躍してきた50cc以下のゼロハンは、時代の流れや変化に伴い、その役割を終え、終焉を迎える。空前のゼロハンブームを知る50代の筆者としては、ゼロハンがカタログから消えることは寂しく、残念に思う。

しかし電動バイクに比べて航続距離の長い内燃機の原付一種は、まだまだ各方面で重宝されている。世界はもちろん、125ccクラスは国内でも人気のカテゴリー。原付一種の125cc以下化は、原付一種の新しい幕開けともいえる。新しい時代を築く、どんな新しい原付一種モデルが登場するか、今から楽しみだ。

キーワードで検索する

著者プロフィール

北 秀昭 近影

北 秀昭