ハスクバーナ・スヴァルトピレン401試乗記|3兄弟のなかで守備範囲が広いから、未舗装路もちょっぴり走ってみた。

違うと言えば違うのだけれど、別物と言うほどではないような……。ヴィットピレン401に続いてスヴァルトピレン401を体験した筆者は、2台の差異にそこはかとない物足りなさを感じつつも、その一方でハスクバーナの運動性に対するこだわりを実感することとなった。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

ハスクバーナ・スヴァルトピレン401……799,000円

2024年型のガソリンタンクカバーは超が付くほど独創的なデザイン。ただし、テールまわりの構成は従来型より大人しくなった。

全面刷新を受けた2024年型

2017年に公開され、2018年から市販が始まったハスクバーナのヴィットピレン401とスヴァルトピレン401は、同じグループに所属するKTMが2014年から発売を開始した、390デュークの基本設計を転用して生まれたモデルだ。そして390デュークのフルモデルチェンジと歩調を合わせる形で、2024年型のヴィットピレン/スヴァルトピレン401は全面刷新を敢行している。

もっともこのシリーズに興味がない人は、従来型との違いが判別しづらいのかもしれない。とはいえ、外装の一新で各社各様の独創性が増した2024年型390デュークとヴィットピレン/スヴァルトピレン401は、ほぼすべてのパーツが従来型とは別物になっているのだ。

まずは車体に関する特徴を記すと、スチール製トレリスフレームやアルミ製スイングアームは剛性バランスを見直した新作で、従来型ではメインフレームと同様の構成だったシートレールは、アルミ鋳造製に変更。また、リアショックやエアボックスを移設した効果でシートが低くなったことや(KTMは830→820mm、ハスクバーナは835→820nn)、マフラーの超ショートを図ったことなども、2024年の3兄弟に通じる特徴である。

その一方でエンジンに関しては、ストロークを4mm伸ばして(89×60mm→89×64mm)、排気量を373.2→398.7ccに拡大しているものの、最高出力と最大トルクは従来型の44ps/9000rpm・37Nm7000rpmと大差がない、45ps/8500rpm・39Nm/7000rpm。ただし電子デバイスは充実化が図られ、キャラクターを一括変更するライディングモード(スヴァルトピレン401とヴィットピレン401はストリート/レインの2種で、390デュークはトラックを加えた3種)、リアタイヤの滑りを抑制するトラクションコントロール、バンク角で利き方が変化するコーナリングABSを、3兄弟のすべてが導入。さらに各社各様の電子デバイスとして、2台のハスクバーナはクラッチ操作不要でギアチェンジが行えるクイックシフター、KTMはゼロ発進時の最大加速を適正化するローンチコントロールを採用している。

ヴィットとスヴァルトの違い

スヴァルトピレン401の特徴は、スポークホイールとブロックパターンタイヤ。燃料ナシの重量は、ヴィットピレン401より4.5kg重い159kg。

続いて、2台のハスクバーナの特徴を説明すると、最も大きな相違点は足まわりだろう。前後17インチというサイズは共通でも(ホイールは3.00×17・4.50×17で、タイヤは110/70ZR17・150/60ZR17)、ロードスポーツのヴィットピレン401はアルミキャストホイール+ミシュラン・パワー6、スクランブラーテイストのスヴァルトピレン401はスポークホイール+ピレリ・スコーピオンラリーSTRを選択しているのだ。

オンロードスポーツにしてカフェレーサー的な雰囲気のヴィットピレン401は、フライスクリーンとグラブバーを装備しない。

とはいえ、前後輪以外の相違点は意外に少なく、ハンドル(スヴァルトピレン410のほうがグリップ位置がやや高い)、シート(座面に差異は感じないものの、ヴィットピレン401は前後一体式で、スヴァルトピレン401は前後分割式)、フロントフェンダー、サイドカバー、そしてフライスクリーンとグラブバーの有無くらい。

その事実をどう感じるかは各人各様だが、個人的にスヴァルトピレン401に関しては、19インチの前輪やもっとワイド&アップなハンドル、ストロークを延長した前後サス(前後150mmのストローク量はヴィットピレン401と同じ)などを採用して、スクランブラーとしての資質を強調してもいいんじゃないかと思う。とはいえ、あえて同様の構成を採用し、あえて価格差を設けないことは(いずれも390デューク+1万円の79万9000円)、ハスクバーナのこだわりなのかもしれない。

3兄弟の中で、最も守備範囲が広い

ここからはスヴァルトピレン401のインプレで、写真の雰囲気や僕のライディングギアを見ればわかるように、このマシンを試乗したのは少し前に当サイトに試乗記をアップしたヴィットピレン401と同じ日である。そして同条件で2台を体験した僕は、各車の差異をはっきりと実感。ヴィットピレン401と比較するとスヴァルトピレン401は、市街地走行がイージーで、峠道で感じるコーナー進入時の挙動が穏やかで、オフロードが苦も無く……ではなくても、まあまあ走りやすい。

言うまでもなく、それらはグリップ位置がやや高いハンドルとブロックパターンタイヤの恩恵である。そして厳密に言うなら、動的なキャスター角とトレールが多いこと、安定志向のディメンションになっていることも、兄弟車との差異を生み出す要因になっているはずだ。

ただしこのバイクを単体で乗っていたら、ヴィトピレン401を試乗したときと同じように、軽快な走りが満喫できるシングルロードスポーツ……という印象を抱いたような気がしないでもない。もちろんそれは全然悪いことではなくて、ハスクバーナとしては安定性や汎用性よりも、やっぱり運動性を大事にしているのだろう。

2024年型で大変更を受けたものの、390デュークは従来型と同様にスーパーモータード的な資質を維持。

ちなみに、基本設計を共有するもう1台の兄弟車、390デュークはどんな乗り味かと言うと、着座位置が前方に設定されているためか、スロットルとブレーキの操作による車体の姿勢変化が大きく、2台のハスクバーナよりアグレッシブな印象。逆に390デュークを基準にするなら、ヴィットピレン410とスヴァルトピレン401の乗り味は、オーソドックスと言っていいように思う。

ライディングポジション(身長182cm・体重74kg)

斬新な見た目とは裏腹に、ライディングポジションはなかなかフレンドリー。ただしハンドルグリップの位置は、ヴィットピレン401よりは高いものの、日本製400ccネイキッドと比較すると低め。
兄弟車のKTM 390デュークを基準にすると、2台のハスクバーナの着座位置はやや後方。シート高は従来型より15mm低い820mmで、身長が160cm以上のライダーなら大きな不安は感じないだろう。

ディティール解説

LEDヘッドライトの上に備わるフライスクリーンは、スヴァルトピレン401ならではの装備。ブレーキ/クラッチレバーには、昨今のアンダー400ccクラスでは貴重な位置調整アジャスターが備わる。
コクピットはブラックで統一。ハンドルはテーパータイプ。燃料タンクの上には、純正アクセサリーのタンクバックを前提としたキャリアを設置。兄弟車と共通の左右スイッチボックスは新規開発だ。
メーターはTFTカラーディスプレイで、左側面にはUSB電源ポートが備わる。最下段に表示されるのはエンジン/ABSのモードやトラコンの状況で、クイックシフターのオンオフもこの画面で行う。
φ43mm倒立式フロントフォークはWP。トップキャップ右には伸び側、左側には圧側ダンパーアジャスターを設置。プリロードの調整機構を装備しないのは、オフロード系メーカーならでは?
 
シートは前後分割式で、後部には頑丈なグラブバーを装着。電装系部品とエアクリーナーボックスが占領するシート下に収納スペースは存在しないものの、ETCユニットは何とか収まりそう。
リアサスは直押し式で、プリロードと伸び側ダンパーが調整できるショックユニットはWP。従来型の設置場所は車体中央だったものの、2024年型はシートを低くするため、右サイドに移設。
従来型と比較するとロングストローク指向になったDOHC4バルブ水冷単気筒エンジンは、低中速域のトルクが太くなった印象。ラジエターの背面には2つの電動ファンが設置されている。
既存のモデルではオーソドックスな形状の右1本出しだったマフラーは、サブチャンバー+超ショートタイプに変更。なおエンジンに混合気を供給するφ46mmのスロットルボディはデロルト製。
リアブレーキはφ240mmディスク+バイブレ製片押し式1ピストンキャリパーで、ABSは2種のモードを準備(前後に作用するStreetと、フロントのみのSupermoto)。オープンラティス構造のアルミスイングアームは、従来型とは異なる左右非対称デザインを採用。
フロントブレーキはφ320mmディスク+バイブレ製ラジアルマウント式4ピストンキャリパー。前後タイヤはラジアルが標準で、スヴァルトピレン401はインドネシア製のピレリ・スコーピオンラリーSTR、ヴィットピレン401はタイ製のミシュラン・ロード6を選択している。
 

主要諸元

車名:スヴァルトピレン401
軸間距離:1368mm
最低地上高:180mm
シート高:820mm
キャスター:24°
エンジン形式:水冷4ストローク単気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:398.6cc
内径×行程:64.0mm×89.0mm
圧縮比:12.6
最高出力:33kW(45ps)/8500rpm
最大トルク:39N・m(3.98kgf・m)/7000rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
フレーム形式:ダイヤモンド
懸架方式前:テレスコピック倒立式φ43mm
懸架方式後:リンクレス・モノショック
タイヤサイズ前:110/70ZR17
タイヤサイズ後:150/60ZR17
ブレーキ形式前:油圧式シングルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:159kg(燃料ナシ)
使用燃料:ハイオクガソリン
燃料タンク容量:13L
乗車定員:2名

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…