足着きが良く雨天でも安心、これは地味に凄い進化だ。|ドゥカティ 新型ムルティストラーダV4S 海外試乗記

MotoGPやWSBKで圧倒的な強さを見せつけるドゥカティはスーパースポーツのイメージが強いが、一方でアドベンチャーツアラーの分野でも存在感を増している。特に2021年に投入されたムルティストラーダV4Sはパニガーレ譲りのV4エンジンに最新の電子制御をフル装備したハイテクマシンとして一躍台風の目に。イタリアで開催された国際メディア試乗会から新型「ムルティストラーダV4S」をレポートする。

●レポート 佐川健太郎
圧巻!ドゥカティ・新型ムルティストラーダV4S

従来モデルを踏襲しつつ電制中心にアップグレード

「4バイクス・イン・ワン」のコンセプトのもと、スイッチひとつで「スポーツ」「ツーリング」「アーバン」「エンデューロ」それぞれに最適化されたマシンへと変身する初代ムルティストラーダが登場したのが2010年。2021年にはエンジンをV2からV4へとパワーアップしフロント19インチホイールを採用した新世代へと進化。そして今回の最新版2025モデルでは電子制御を中心にさらなるアップグレードが図られた。デザインは大きく変わっていないが、よく見るとフロントカウルやホイール、マフラーなど細部に変更が加えられている。最高出力170psを誇る排気量1058ccのV4グランツーリスモエンジンは従来からのシリンダー停止機能を発展させ、停止時だけでなく低速走行時にも後方2気筒のみで低燃費走行が可能になった。また、スイングアームのピボット位置を1mm上げて加速でのトラクション性能を向上。電子制御もさらに進化し、停止直前に車高を下げる機能のほか、前輪が段差を乗り越えた衝撃を感知しリアサスペンションのダンパーを瞬時に最適化する「バンプ検知機能」も採用。雨天用に「ウェット」モードも追加された。また、レーダーによって自動追尾してくれるクルコンやバックミラーの死角検知、新たに装備された「前方衝突検知」などのサポート機能も手厚く、特に長距離ツーリングや悪天候で疲労しているときほど頼りになるはず。まとめると、従来からの先進機能に磨きをかけつつ、さらに扱いやすく安全性と快適性も向上させたのが新型ムルティストラーダV4Sだ。

従来モデルを踏襲しつつ電制中心にアップグレード

ウェットモードと連動ブレーキで雨でも安心の走り最大のトピックは自動車高低下機能(オートマチック・ロワリング・デバイス)だろう。
新型には10km/h以下になるとリアサスのプリロードが調整されシート高が30mmほど下がるシステムが組み込まれた。実際に自分でも楽々足が着くので安心だったし、特にダートなど足場が悪いときには有難い。走破性が求められるアドベンチャーバイクは車高が高いのが当たり前と諦めていた人にも朗報だろう。
試乗会はイタリア中部の田舎町で行われたが残念ながら終日の雨。否アドベンチャーでは最高のテスト日和と気持ちを切り替えて臨むことにした。そこで活躍したのが新たに搭載された「ウェット」モード。出力特性が穏やかにコーナリングABSとトラコンも最大になり、なんとサスペンションまでもがウェット専用のセッティングへと自動調整される。雨天でも怖くなく路面に吸い付いたような走りが印象的だった。
また新型では前後連動ブレーキの精度が向上して、従来の「フロント→リア」だけでなく「リア→フロント」への制御も可能になった。ブレーキペダルを踏むだけで前後ブレーキが最適な配分で制動してくれるためフルウェットでも安心して強く踏める。加えて電子制御サスペンションがリアルタイムでバイクの姿勢を制御してくれるので常に走りが安定している。難しいワインディングもほとんどリアブレーキのみで走れてしまうし、結果として安全・快適にハイペースで走れてしまうのだ。しかも、これらのサポート機能は自在にセッティングを変えられるので、ライダーから操る楽しさを奪うことはないのだ。誰でも安全に速く走れるという意味では、先頃登場した新型パニガーレV4Sとも共通したコンセプトであり、ドゥカティの新たな方向性を示しているとも言える。

圧倒的にスポーティ、そしてオフロードも本気

終盤やっと雨が上がったのを見計らって「スポーツ」モードに入れるとドゥカティ本来の姿が現れた。フルパワーを得たV4エンジンの加速はまさに圧倒的。足まわりはハードに固められ制動配分はフルブレーキングに向けて最適化されて一気に戦闘モードへ。フロント19インチを感じさせない切れ味鋭いハンドリングや軽快なフットワークに心が躍る。それは完全なスポーツバイクの感性だ。しかも電子制御のサポートがあるので、どんなコーナーでも安心して入っていける。高速クルーズとともにワインディングはムルティストラーダV4Sが最も得意とするステージと感じた。
オフロードでは一転してオプションのスポークホイールにデュアルパーパスタイヤを履いた仕様に乗り換えてトライ。走りながら「エンデューロ」モードに切り替えて、所々にガレ場やワダチが残る林道を一気に登っていく。エンジン出力は115psに抑えられ、サスペンションは不整地向けのしなやか設定に。ABSやトラコンの介入も最小限となりスライドさせやすいセッティングへと早変わりし、慣れてくると後輪を滑らせつつ向きを変えるアドベンチャーっぽい走りもできてしまう。アルミ製パニアケースに手荷物を詰め込んで走ってみたが、雨と霧の最悪のコンディションでもけっこう楽しく走れたのは、やはり最新の電子制御に支えられたムルティストラーダV4Sの優れた設計思想のおかげと思う。
余談だが2024年9月に発売されたドイツの権威あるモーターサイクル専門誌『Motorrad』の大型アドベンチャーモデル比較テストにおいて、ムルティストラーダV4 S(2024モデル)は並み居る強豪ライバルを抑えて堂々の総合1位を獲得している。安全に快適により速く遠くまで。アドベンチャーツアラーの理想を形にした一台であることは確信できる。

スタイリング

新型ムルティストラーダV4S(スポーツ・トラベル&レーダー レッド)
新型ムルティストラーダV4S(スポーツ・トラベル&レーダー レッド)


新型ムルティストラーダV4S(アドベンチャー・トラベル&レーダー ブラック)


新型ムルティストラーダV4S(アドベンチャー・トラベル&レーダー ブラック


ディテール解説

フロントカウルはノーズ部分やDRL付きヘッドライトのデザインを見直すとともに前輪近くを明るく照らす機能を追加。センター部分には四角形のレーダーセンサーを装備する。
水冷90度V型4気筒DOHC4バルブ1158ccから最高出力170ps/10500rpmを発揮する「V4グランツーリスモ」エンジン。パニガーレV4を源流としつつも排気量は異なりバルブ駆動方式も伝統のデスモドロミックではなく耐久性を狙ったスプリング方式を採用している。
エキゾーストシステムは新設計でユーロ5に対応。サイレンサーはより薄くコンパクトな形状となりサウンドもチューニングされている。
アドベンチャー・トラベル&レーダー仕様にはクロススポークホイールとスコーピオンラリーSTRを装着。電子制御サスペンションに「バンプ検知機能」を追加。フロントからの衝撃を瞬時に解析してリアショックの設定を最適化する機能が付いた。
電子制御サスペンションはライディングモードに合わせてデフォルトで最適化するが、新型では独立して走行中でも任意に設定できるサスペンションモードを追加した。サスペンションは前後ともドゥカティ共同開発のマルゾッキ製。
アルミ製スイングアームはしなやかな剛性バランスと軽量化のメリットを併せ持つ両持ち式を採用。ピボット位置を1mm上げたアンチスクワット効果によりトラクション性能およびタンデムや荷物積載時のハンドリングも向上している。


ブレンボ製の新型キャリパーを採用しディスク径も従来のφ265mmからφ280mmへと大径化することで制動力を強化。リアブレーキを踏むと制動力の一部をフロントに配分する機能を新たに追加した前後連動ブレーキを搭載する。


8.リアブレーキペダルをワイドタイプに見直し特にオフロードでの操作性が向上。レバー比も見直されて快適性とコントロール性も向上した。


シート高は2段階で調整可能(840mm/860mm)。オプションシートと組み合わせることでさらに±30mmの範囲で調整可能。シートヒーターとグリップヒーターも5つの異なるレベルで設定可能だ。
サイドケースとトップケースのサポートを後方に移動(アルミ製は30mm/12mm、樹脂製は25mm/12mm)しパッセンジャーの快適性を向上。トップケース用ラックも頑丈なダイキャスト製に。
バックミラーには死角検知機能(BSD)用のインジケーターを装備。新型では前方衝突警告機能(FCW)も新たに実装され安全性もさらに向上した。


上段右がACCで真ん中の+−が車間距離調整用、左がサスペンション調整とライディングモード。右下のジョイスティックで設定を変える。走行中でも素早くセッティングが可能だ。


13.6.5インチTFTカラーディスプレイは従来どおりだが、ライディングモード「ウェット」とパワーモード「オフロード」、3段階で調整可能なアジャスタブル・エンジンブレーキ・コントロール(EBC)を追加。日本語表示も可能になった。


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