東京から藤枝市まで! ホンダ クロスカブ110はガソリン満タンでどこまでイケる? 東京・日本橋から京都をめざす東海道ガス欠チャレンジ第8弾[3日目]

AFORIDER ホンダ クロスカブ 東海道 ガス欠 高橋克也
ホンダ クロスカブ110を駆り、東京・日本橋から京都をめざす、満タンきっちり使い切りの東海道ワンウェイ・アタック&聖地巡礼の旅へ。清水のアニメスターはおかっぱ小学生でキマリ!

REPORT●AFO RIDER タカハシ(AFO RIDER Takahashi)
PHOTO●高橋克也(KATSUYA Takahashi)
ILLUSTRATION●高橋克也(KATSUYA Takahashi)

清水区には〇子が棲んでいる

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静岡市清水区は、2005年に静岡市に組み込まれるまでは清水市だった。少年時代をこの地で過ごしたタカハシは「清水区」という呼び方に、いまだになじめずにいる。
そして、区になる前の清水市を舞台にした国民的アニメといえば『ちび〇子ちゃん』にとどめをさす。小学女児のゆかいな日常をほのぼのタッチで描いた名作だ……とか知ったかぶりしているが、あいにく一度もちゃんと見たことがない。

宿を出れば清水港は目と鼻の先だ。清水港には地域のサッカーチームをたたえるエスパルス・ドリームプラザがあり、その中にちび〇子ちゃんの公式聖地「ちび〇子ちゃんランド」が設置されている。ランド内には、シアタールームのほか、アニメの舞台をリアルに再現した公園や教室が常設されているそうだ。

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ただしこのランドは純真な児童とコアなファン向けの施設なので、加齢で脳機能がすっかり鈍磨し、感受性がカスカスに涸れ切ったおっさんとかだと、我を忘れてポンポコリン的に盛り上がって踊り狂えるかどうかは正直微妙だ。

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清水港を離れ、静岡市街を南へ迂回して国道150号へ。吹きつける灰色の潮風にあおられながら久能山を過ぎ、さらに西を目指す。

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丸子宿から旧街道へ

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国道150号で安倍川を渡って北に逸れ、丸子(鞠子/まりこ)宿から国道1号に。静岡市街から西へ向かう国道1号は、ほとんどが高架式の高速道路っぽいバイパスだ。125cc以下の二輪車では走れない道が多く、グーグルのナビも使い物にならない。すぐ迷子になるうえ、運が悪いと交通違反で捕縛されかねない現代の魔境だ。

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バイパスからはずれた旧国道沿いは、いわば現代の交通網の恩恵から取り残されたエリアだが、それゆえに往時の街道の姿を残した江戸情緒ゆたかな町が多い。丸子宿の西へ数キロ、静岡県道208号の峠道沿いに残る宇津ノ谷(うつのや)の集落もそのひとつだ。

江戸幕府の公式アナウンスによれば、東海道の宿場は江戸・日本橋から京都・三条までに53か所あるが、幕府公認の宿場だけでは旅人のニーズを満たせない区間があって、そういうところには宿場モドキが作られていた。宇津ノ谷も、五十三次には数えられないそんな非公認施設「間の宿(あいのしゅく)」のひとつだ。

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宇津ノ谷は、本来ならもっとガンガン観光客が押し寄せてもいいレベルの美しい町だ。だが、これといった観光の目玉がないからなのか、とくに大人気になるでもなく、ぽつねんと山間に残されているのが不思議なほどだ。

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ガス欠の足音はひたひたと

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県道280号は岡部宿を過ぎると国道1号バイパスをくぐり、県道381号へと名を変える。といっても、どっちも国道1号が県道に格下げされた路線だから、呼び名が変わっただけで、ようするに旧国道1号だ。

ガス欠最終警告のピコピコ点滅は、今朝からずっと続いている。じつは宇津ノ谷あたりから、ときたまスロットルレスポンスが鈍くなる気がしていた。が、フューエルメーターのピコピコを見ただけでガス欠の恐怖に縮み上がるタカハシのハイパー・センシティブなハートが幻の不調を生み出しているだけかもしれない。右グリップにかすかな違和感をおぼえた直後には、もうふだんの調子に戻っていたりする。

しかし藤枝市街に入るとガス欠の容疑は確信に変わった。どんなに鈍感なライダーであっても確実にわかる明らかな異常。スロットル全開でもまったくエンジンが反応しないと思うと、次の瞬間にはブキミな激震とともに復活し、飛び出すように走り出す。その直後に駆動力を失ってつんのめり、あわてて開けるとまたドカンと加速するという超ガタガタ運転が約2kmにわたって続いた。

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高品位を誇る最近の国産バイクは、ガス欠すらも美しい。ストンときれいにエンジンが止まり「気づいたときにはもう一ミリも動かない」というサワヤカ停止パターンがほとんどだ。それに比べると、クロスカブのガス欠は、いかにもドロ臭い。
だが、東海道のガス欠王・タカハシにいわせれば、クロスカブ的なドロ臭い止まり方こそが、じつは理想のガス欠なのだ。ガス欠はどんな環境で起きるかわからない。しかしどこでガス状態に陥ったとしても、完全停止までにぐずぐず2kmも走れれば、ほぼすべてのケースで少なくとも安全な場所にマシンを退避させられるからだ。
バイクメーカー各社は、いさぎよく美しいガス欠にはこだわらず、ぜひこういうドロ臭いガス欠の実現をめざして設計・生産に励んでもらいたい。万一の場合、そのほうが圧倒的に安全だ。いやでも、ちゃんと給油してガス欠させないことが最優先なのはいうまでもないが。

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タカハシとクロスカブがきっちり息の根を止められ、完全停止したのは旧東海道・県道381号島田岡部線、藤枝市稲川1丁目付近。トリップメーターは248.1kmをさしていた。
満タン4.1ℓのガソリンを消費して、日本橋からの燃費は約60.5km/ℓとなった。カタログ記載のWMTCモード燃費が67.9km/ℓなので、実測値の差はリッターあたり7.4kmのマイナスだ。これまで調べた他のマシンに比べると、やや差が大きいが、かといっていちいち目くじら立てるほどの大差でもない。まずまず納得できる燃費だろう。

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ガス欠さえ済ませてしまえば仕事も終わりだ。でもせっかくだから、その前にガス欠チャレンジ唯一のご褒美を受け取っておこう。
日本橋を出てからガス欠するまでは、昼飯すら食えず馬車馬のごとく走らされるタカハシだが「ガス欠地点にたどり着いたら、その土地の名物を食ってもいい」というルールが設定されている。藤枝市内に金つばのうまい店があるというので覗いてみることにした。

藤枝宿のほくほく金つば

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おきせ金つば本舗は、藤枝市街で大正年間から菓子を商い、地域で長く愛されてきた老舗だ。ごく普通の主婦だったおきせさんという女性が、趣味で菓子を作っていたら評判になり、近所の人の勧めで店を構え、金つばを売り始めたのが最初だという。いかにも日本昔話的な、ほのぼの系の由緒だ。

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友達を家に呼んで一緒に遊ぶからと、むきだしの銭を握りしめて買い物に来ていた近所の小学生が、金つばの袋を抱えて弾むような足取りで出て行くのを見送り、タカハシも「五色金つば」を購入。近くの公園でかぶりついた。

洗練とはほど遠い、ほろほろ崩れるような素朴な餡を、ぴんと張りつめた薄皮が包んでいる。一般的な金つばよりは薄皮饅頭に近い独特の食感だ。べったり甘い田舎菓子を想像していたが、ふわんと上品で深みのある甘さに驚いた。タカハシのような下賤の民にはありもしなかった、優しいばあや(←名前はキヨ)と過ごした幼き日のあたたかい思い出を呼び起こしてくれる昔懐かしい味だ。

藤枝なんて、江戸時代にちょこっと宿場があった程度で、どうせろくなモンないだろ、などとナメきりくさりきった予断と偏見に満ち満ちきりきっていた無知蒙昧のタカハシも、おきせさんの激ウマ金つばを食い、どうやら藤枝も、そうバカにしたもんではないと考えを改めた。
一気に3つも金つばを平らげて腹もふくれた。ガソリンも満タンにした。もう藤枝には何の用もない。とっとと東京に帰ることにしよう。

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AFO RIDER タカハシ

イラストレーター、カメラマン、ライター、ムービークリエイターなど、世間をあざむく幾つもの顔をもつが…