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ファンティック・キャバレロ・スクランブラー700……1,750,000円

興味津々でも、当1000km試乗記には不向き?

ものすごく乗ってみたいけれど、ガチ1000km試乗では取り上げないほうがいいのかも……?。2022年秋のEICMAで公開され、2024年から日本への導入が始まったファンティック・キャバレロ・スクランブラー700に対して、僕はそんな印象を抱いていた。まずは“ものすごく乗ってみたい”の理由を説明すると、そもそも僕はヤマハのCP2シリーズが大好きで(全車ではないが)、以前からこのシリーズにフロント19インチのスクランブラーが追加されないかと期待していたし、キャバレロ・スクランブラーに関しては、数年前に試乗した125/500cc単気筒車がかなりの好感触だったのである。

ただしその一方で、ファンティック初のミドルパラレルツイン車であること、過去に自身で体験した日本製パワーユニットを使用するヨーロッパ車の多くが、ピンポイントで尖ったキャラクターだったことを考えると、一般的なインプレはさておき、ロングランが前提の当記事には不向きじゃないだろうかという気がしていた。

ところが実際のキャバレロ・スクランブラー700は、ごく普通に約1000kmを走れるうえに、少なくとも僕にとっては、我が意を得たりと言いたくなるバイクだったのだ。もっとも、万人向けとは言い難いところはあるし、近年のミドルツインの基準を大幅に上回る価格に疑問を持つ人はいそうだが、今現在の僕はこのバイクならではの魅力、爽快で刺激的な乗り味を多くの人にお伝えしたい
、という使命感にかられているのだった。
ヤマハが販売するCP2シリーズとの差異

本題の前に概要を説明しておくと、ヤマハから供給を受けたCP2エンジンと吸気系関連パーツ、一部の電装系を除けば、キャバレロ・スクランブラー700はすべてが専用設計で、既存の同社製125/250/500cc単気筒車との共通部品はほとんど存在しない。そしてヤマハが販売しているCP2シリーズで何となく類似性を感じる車両と、前後タイヤサイズ・前後ホイールトラベル・軸間距離・シート高・装備重量を比較するなら、このモデルはスポーツヘリテイジのXSR700と、アドベンチャー系に所属するテネレ700の中間的な資質を備えていそうだが……(スクランブラー700の装備重量は、175kgの乾燥重量に13.5ℓ≒10.1kgの燃料容量を加えた数値)。
スクランブラー700…19/17インチ・150/150mm・1453mm・830mm・185.1kg
XSR700………………17/17インチ・130/130mm・1405mm・835mm・188kg
テネレ700……………21/18インチ・210/200mm・1595mm・875mm・205kg

そういうところはあるけれど、必ずしも2台の中間的なキャラクターではなかった。当初の僕は、前輪が大きくなったXSR700、あるいは、車格がコンパクトなテネレ700的なキャラクターをイメージしていたものの、試乗後にキャバレロ・スクランブラー700を基準にして2台のヤマハ車を考えると、XSR700は完全にオンロード車、テネレ700は明らかにオフロード車である。いずれにしてもキャバレロ・スクランブラー700は、CP2シリーズとは似て非なる世界を実現していたのだ。
ファンティックの理念に共感

ここからはようやくインプレ編で、実は僕のキャバレロ・スクランブラー700に対する第一印象は、あまり芳しくなかった。その原因は、絞り角が少なくてかなりワイドなハンドル、高めにして微妙に幅が狭いシート、伸圧ダンパーが強すぎの感がある前後ショック(調整機構はリアのプリロードのみ)、迂闊にスロットルをワイドオープンするといとも簡単にフロントまわりが持ち上がるアグレッシブなエンジン特性などで、これは心してかからねば……という気がしたのである。

もっとも、そういった不安は試乗開始から十数分で自然に解消。ハンドルとシートの構成はスクランブラーなら順当と思えてきたし、伸圧ダンパーが強くても、前後ショックの動きは至ってナチュラルなのだ。そしてパワーユニットに関しては、乗り手の操作に対する反応がとにかく実直なだけで、乗り手の意に反した挙動を示す、いわゆる“ジャジャ馬”ではないことを認識。いずれにしても、冒頭に記した僕の懸念は杞憂に終わり、以後はニュートラルな視点でバイクに接することができた。

実際にキャバレロ・スクランブラー700でいろいろな場面を走って、事あるごとに僕が感心したのは、ガチなスクランブラーであること。いや、我ながら微妙な表現だけれど、他メーカーが販売している同名/同系のミドルツイン車、トライアンフ・スクランブラー900やドゥカティー・スクランブラー、ホンダCL500などが、スクランブラーテイストを適度に盛り込んでいても、基本的にはオンロード指向のバイク……と思えるのに対して、このモデルはオフロード車やアドベンチャーツアラーとは異なる姿勢で、スクランブラーならではの軽快感やダイレクト感、悪路走破性を真摯に追求しているのだ(トライアンフ・スクランブラー1200X/XEにも同様の資質は感じるが、装備重量はやキャバレロ・スクランブラー700より40kg以上重い228/230kg)。

そういった感触は、過去に体験したキャバレロ・スクランブラーの単気筒車にも通じる話で、おそらくファンティックの社内には、“スクランブラーはかくあるべし”という明確な理念があるのだろう。そして悪路を中心としたツーリングとスポーツライディングが大好きな僕は、同社の理念にグッと来てしまったのである。

では具体的な話として、僕がキャバレロ・スクランブラー700のどんなところにグッと来たのかと言うと……。今回はすでに結構な量の文字数を使ってしまったので、詳細は近日中に掲載予定の第2回目でお伝えしたい。

主要諸元
車名:キャバレロ・スクランブラー700
全長×全幅×全高:2164mm×890mm×1136mm
軸間距離:1453mm
シート高:830mm
エンジン形式:水冷4ストローク並列2気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:689cc
内径×行程:80.0mm×68.6mm
圧縮比:11.5
最高出力:54.4kW(74ps)/9400rpm
最大トルク:70N・m(7.14kgf・m)/6500rpm
始動方式:セルフスターター
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ
1速:2.846
2速:2.125
3速:1.632
4速:1.300
5速:1.091
6速:0.964
1次・2次減速比:1.925・2.813
フレーム形式:ダイヤモンド
懸架方式前:テレスコピック倒立式φ41mm
懸架方式後:ボトムリンク式モノショック
タイヤサイズ前:110/80R19
タイヤサイズ後:150/70R17
ブレーキ形式前:油圧式シングルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
乾燥重量:175kg
使用燃料:無鉛ハイオクガソリン
燃料タンク容量:13.5L
乗車定員:2名