MotoGP第6戦フランスGP:引退後、初ワイルドカード参戦の中上貴晶。開発ライダーとしての仕事を果たし、6位獲得

©Honda Racing Corporation

MotoGP第6戦フランスGPが、5月9日から11日にかけて、フランスのル・マン-ブガッティ・サーキットで行われ、ワイルドカードとして参戦したホンダの開発ライダーである中上貴晶は決勝レースを6位という好結果で終えた。

引退後、初のワイルドカード参戦の中上、カーボンスイングアームで走行

中上貴晶(ホンダ)にとって、フランスGPが引退後初のワイルドカード参戦となった。中上は2024年シーズンでレギュラーライダーを退き、現在はホンダの開発ライダーを務めている。現在は、テストで忙しい日々を過ごしているという。

フランスGPの木曜日、中上はレギュラーライダーではない立場で迎えたレースウイークについて「気持ちとしてはまた違いますね」と語っていた。これまでは、結果が求められる立場にあった。しかし、今の中上に最も求められることは結果ではなく、レースを完走し、データを収集し、パーツを評価することだ。

「大きなプレッシャーは全くなく、落ち着いています。以前は、天気が変わっちゃったらどうしよう、とか不安な部分もありましたけど、今は結果で大きく変わることもないですからね。もちろん結果を残せればいいですけど、結果だけではなく、状況判断をして、焦らずにテストチームといい形で締めくくれればなと思います」

今回のワイルドカード参戦におけるメインの検証は、カーボンスイングアーム、そして新しいエンジンだった。金曜日にはカーボンスイングアームとアルミニウムのスイングアームを比較している。

「今回のカーボンスイングアームは、僕の評価がポジティブで、ゴーサインが出た場合は、供給が始まるんです。開発の部分で大きく左右されるので、チームと話をして、100パーセントの確証が持てるまで、今日は丸一日かけました。ただ、ねらっているようなポジティブなフィーリングがいまひとつ出ていないので、難しい判断ですね」

過去にもホンダはカーボンスイングアームを投入していたが、現在はアルミニウムのスイングアームを使用している。今回再びテストしているカーボンスイングアームについて、ねらいは「聞いていない」ということだった。ただ、ここ数年、ホンダが苦しんでいるグリップの向上とリアの安定性改善をねらっているのではないか、とのことだ。

中上の歯切れの悪いコメントからもわかるように、このカーボンスイングアームは「微妙」だったようで、ホンダの判断により、金曜日の夜には2台ともアルミニウム製のスイングアームに戻され、土曜日からはアルミニウム製スイングアームでの走行となった。

複雑なコンディションの中、仕事を全う。6位という結果を持ち帰る

フランスGPの決勝レースは、ホンダのヨハン・ザルコがセンセーショナルな優勝を飾った。そして、中上もまた、好レースをしたライダーの一人だった。

決勝レースは、スタート時刻14時の20分ほど前に雨が降り出した。グリッド上の全ライダーはスリックタイヤを装着していたが、スタート直前にコースを1周するウオームアップ・ラップで、ほぼ全車がピットイン。レインタイヤのマシンに乗り換えようとした。

このとき、ピットレーン出口に多数のバイクが集まることになるため、赤旗中断となった。数分後に再びピットレーンがオープンしたとき、ほとんどのライダーがレインタイヤを履いていたとみられる。

だが、ここで判断が分かれた。優勝したザルコや中上は、レインタイヤのままグリッドにつき、マルク・マルケス(ドゥカティ)や小椋藍(アプリリア)など13名のライダーは、サイティングラップでピットインをして、スリックタイヤのマシンに乗り換えてグリッドについたのだ。この判断がレースの明暗を分けた。

スリックタイヤのマシンに乗り換えたライダーは、5月6日に発表、施行されたレギュレーションにより、レース中のダブル・ロングラップ・ペナルティ(※レース中、ランオフエリアに設定されたルートを走行しなければならないペナルティ。これによって、ライダーは数秒を失う。ル・マンでは8コーナー外側に設定されている。ダブル・ロングラップ・ペナルティの場合、レース中にここを2回通過しなければならない)が科されることになった。もちろん、彼らもこのペナルティが科されると知ったうえでのピットイン、マシン交換だったはずだ。こうしたレースの場合、コンディションに合ったタイヤで走ることができれば、大きなタイム差を逆転できる可能性があるからだ。

しかし、スタート後、路面コンディションは次第にスリックで走れるものではなくなり、スリック勢はピットインをしてレインタイヤのマシンに乗り換え、タイムをロスした。

レインタイヤでスタートしたライダーたちもまた、転倒を喫し、スタート後にスリックタイヤのマシンに乗り換えるためにピットインをしたりと、タイムをロスしている(スリックに乗り換えたライダーは、さらにもう一度ピットインをしてレインタイヤに乗り換えた)。

スタートからゴールまでレインタイヤで走ったのは、優勝したザルコと6位の中上だった。

展開を整理してもわかるように、とても複雑なコンディションと判断の難しいレースだった。中上としては、レーダーを見て「雨が降るだろう」と考え、最初のサイティングラップ時点でレインタイヤに換えようと、一度ピットインをしたのだという。このあたりは経験豊富な中上らしい判断だったが、チームから「全車スリックだから、スリックで行くように」と、ピットスルーの指示があり、中上は従うほかなかった。これについては、開発の仕事を目的としたワイルドカード参戦であるがゆえ、仕方がないだろう。

「(ウオームアップ・ラップ後に)赤旗が出て、レインに履き替えて。『スリックかな?』とも思ったものの、雨が降ると思っていたので、『早く雨降れ、雨降れ』と思っていました(笑)」

とはいえ、2024年最終戦以来の決勝レースである。いくら15シーズンをロードレース世界選手権で戦った中上であっても、難しいレースだったことに変わりはなかった。

「久々のレースだっていうのに、このタイミングでどうしてこんなに難しいレースになるんだ、と思いました」と、中上は苦笑いする。

「自分が何位なのか……わからないくらい。誰も抜いていないのに、順位がシングルになっていてびっくりしました。トップ6フィニッシュは、2021年以来だったそうです(※2021年スティリアGP以来)。こういうレースもあるんだな、と思います」

「でも、落ち着いて走りました。もっと速くは走れたんです。でも、しっかり自分の仕事、フィニッシュするという仕事をメインに考えました」

「6位は、かなりサプライズでしたね!(前との)差はあったけど、バイクを持ち帰ることができたのはよかったです。みんなもそれほど結果を期待していなかったし、自分自身もここまでいけると思っていなかったので、いいサプライズになりました」

開発ライダーとしての仕事を全うし、加えて6位という“サプライズ”とともに、中上の初のワイルドカード参戦は幕を閉じた。

金曜日に走行したカーボンスイングアーム©Eri Ito
決勝レースはフラッグ・トゥ・フラッグに。難しいレースとなったが、完走と6位という結果を持ち帰った©Honda Racing Corporation
中上にとって、2024年最終戦以来となる、MotoGPのレース参戦である©Honda Racing Corporation

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伊藤英里 近影

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