必要なのは取り回せる体力とまたがる勇気だけ

アドベンチャーバイク界の絶対王者、BMW・R1250GSアドベンチャーはどこまでもライダーに優しかった。

アドベンチャー界の祖にして絶対王者であり続けるBMWのR-GSシリーズ。大容量の燃料タンクとストロークの長い前後サスを組み込んだバリエーションモデル〝アドベンチャー〟が誕生したのは2002年のR1150GSのときで、来る2022年は生誕20周年にあたる。その最新モデルである2021年型R1250GSアドベンチャーに試乗した。

REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●ビー・エム・ダブリュー株式会社(https://www.bmw-motorrad.jp/ja/home.html#/filter-all)

BMW・R1250GSアドベンチャー……2,319,000円~(塗色やパッケージにより異なる)

試乗車はGSシリーズ生誕40周年を記念した「40イヤーズGS」エディションカラーで、オプション719のシリンダーヘッドカバーをはじめ、イエローのハンドガードやゴールドのハンドルバーなどを採用。グレードはプレミアムスタンダードおよびプレミアムラインしか選択できないため、車両価格は3,044,000円~となる。
写真はアルミニウムケースセットとアルミニウムトップケース(どちらもブラックエディション)、BMWモトラッドナビゲーターⅥなどのディーラーオプションを追加した状態で、車両総額は3,471,284円となる。
フルオプションとも言えるプレミアムスタンダードおよびプレミアムラインは、キーレスライドやクルーズコントロール、ダイナミックESA、ギアシフトアシスタントプロ、ライディングモードプロ、アダプティブヘッドライトなどを採用。試乗車はローダウンサスを組み込んだプレミアムスタンダードで、シート高はプレミアムラインの890/910mmに対して825/845mmとなる。

可変吸気バルタイ機構採用のフラットツインは全域で秀逸

正面から見ると全幅の広さが一目瞭然だ。

1989年に登場した空冷OHV2バルブ&フロント21インチホイールのR100GSパリダカールにも試乗したことのある私は、BMWモトラッドの稼ぎ頭であるR-GSシリーズの進化を30年も見てきたことになる。モデルチェンジの主な原動はライダーのニーズの変化と排ガス規制などの法改正によるもので、例えば1994年にR1100GSが登場した際、フロントホイールが21インチから19インチとなり、フロントサスがテレスコピックフォークよりもホイールトラベル量を稼ぎにくいテレレバーになった理由として、「GSを買うユーザーの9割がオフロードを走っていないから」と、マーケティング担当がコメントしている。また、大きなモデルチェンジのたびに排気量が少しずつ増えてきたのは、排ガス規制対応によって微減するパワーを補うための策である。とはいえ、R-GSシリーズはアドベンチャーというカテゴリーの創造主にして絶対王者であり、ライバルの動向よりも自分たちが乗りたいと思うものを作り続けている点は非常に好感が持てる。
その最新型R1250GSのバリエーションモデル、30ℓもの燃料タンクを持つアドベンチャーに試乗した。まずは特徴的な水平対向2気筒エンジンから。2013年に冷却方式が空冷から空水冷となり、2019年モデルで排気量を1,169ccから1,254ccへ。同時に可変吸気バルブタイミング機構のシフトカムが導入され、さらにサイレントカムチェーンやツインジェットインジェクターが採用されている。試乗した2021年モデルでは走行モードが4つから新設のエコを含む7つ(うち4つをプリセット)に増え、さらにダイナミックエンジンブレーキコントロールが追加されている。
排ガス規制ユーロ5への対応については2019年モデルの時点ですでに見据えていたため、2021年モデルも最高出力136psは変更なし。走行モード(ライディングモードプロ)はエコ→レイン→ロード→ダイナミックの順でレスポンスが良くなるが、ダイナミックモードでもスロットル開け始めの過敏さは一切なく、ライダーの意志に対して極めて従順に反応する。1名乗車なら2,000rpm以下で発進できるほど下からトルクフルで、市街地の移動なら4,000rpmあたりまでで事足りてしまう。5,000rpm付近でスモールカムからラージカムへと切り替わるが、その変化はほとんど感じることができず、極めてシームレスに9,000rpmまで伸び上がる。
クランク縦置きエンジン特有のスロットルオンオフにおけるトルクリアクションなんて今は昔。2013年にカウンターバランサーが採用されて以降、その現象はほとんど解消されている。それでいて大排気量ビッグツインらしい力強い蹴り出し感や、それを耳でも味わわせる乾いた排気音は健在だ。シフトアシスタントプロのシフトチェンジの重さや変速ショックの大きさ(特に1→2速間)は相変わらずだが、それを些細な問題と思えるほどこの最新フラットツインは秀逸だ。


電子制御系が進化したことで、特に乗り心地が大幅にアップ

試乗したのは、パッケージ内容にローダウンサスペンションが含まれるプレミアムスタンダードというグレードだ。ベースグレードに対して467,000円(試乗車の40イヤーズGSエディションカラーの場合は690,000円)アップとなるが、シート高の大幅ダウンによる足着き性の向上は非常に魅力的だ。
2021年モデルのアップデート内容は主に電子制御系のため、外観はヘッドライトがアダプティブになった程度の違いしかない。だが、実はリヤウインカーにテールランプが組み込まれたのも新型の特徴で、ストップランプが独立したことにより被視認性が格段にアップしているのだ。
セミアクティブサスのダイナミックESAもダンピング設定が変更されている。走行モードに応じて減衰力が切り替わるのは従来型と同じだが、エコやロードなど比較的おとなしいモードでは衝撃吸収性の高さに加えて、いわゆるスカイフックを思わせる車体を積極的に水平に保つような印象を受けた。これに対してエンデューロやエンデューロプロモードでは、ノーズダイブしにくいと言われるテレレバーサスでありながらブレーキングでスムーズなピッチングが発生。特にオフロードを走るライダーにとってはこちらの方が扱いやすいはずで、ECUの書き換えなどで従来型にも対応できるようになれば喜ばれるだろう。
今回の試乗は30ℓの燃料タンクをほぼ満タン&フルパニアの状態で行ったが、相変わらず動き出してしまえば動きは軽快で、装備重量281kgという重さを全く感じさせない。ハンドルバーとニーグリップエリアの幅が広いので車体のボリューム感を忘れることはないが、倒し込みや切り返しはミドルクラス並みに軽く、しかも車体を寝かせてさえしまえば曲がれるという安心感がある。旋回中の路面追従性は非常に高く、その際にギャップを通過しても全くと言っていいほど動じない。この安定性には優秀な車体設計だけでなく低重心なフラットツインエンジンも寄与しているのは間違いないだろう。
R1250GSアドベンチャーはSTDモデルよりもウインドスクリーンが大きく、さらに燃料タンクの幅も広いので防風効果が非常に高い。スポーツツアラーのR1250RTほどではないにせよ、高速巡航を楽々とこなせるのはこの効果も大きい。そのほか、グリップヒーターやシートヒーター、クルーズコントロールなどの快適装備、ABSプロやダイナミックトラクションコントロール、ヒルスタートコントロールといった安全装備も充実している(ベースグレードでは非採用の装備もあるので要確認)。非常に大柄で重いが、またがる勇気を持つライダーに対してはどこまでも優しい。それが最新のR1250GSアドベンチャーだ。


エディション40イヤーズカラーはG310GS、R1250GS、R1250GSアドベンチャー、F850GS、F750GSらに採用された。ちなみに初代にあたるR80G/Sは1980年に誕生している。

ライディングポジション&足着き性(175cm/66kg)

ハンドルバーはスタンディング姿勢にも適した高さにセットされ、ニーグリップエリアの幅は燃料タンクが大きい分だけ広めだ。全体的にかなり大柄なだけに、ポジションをコンパクトにするための社外パーツが国内外に多数存在する。
試乗車はローダウンサスを組み込んだプレミアムスタンダード。シートを低い方(850mm)にセットした状態での足着き性はまずまずといったところ。とはいえタンデムシートが高い位置にあるので乗降車はかなり苦労する。

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