KLX230で日帰り450km|あえて苦手(と思われる)ツーリングに使ってみた。|カワサキ2/3

第1回目で記したように、KLX230はオフロードを楽しむためのバイクで、ツーリングでの快適性や安定性を重視したキャラクターではない。とはいえ、一般的なライダーのバイクライフは、ツーリングを中心に成り立っていることが多く、オフロードを前提にKLX230を購入した場合でも、たいていは舗装路がメインのツーリングに使うんじゃないだろうか。そのあたりを踏まえて、約450kmの日帰りツーリングに出かけてみることにした。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

※2020年5月4日に掲載した記事を再編集したものです。
価格や諸元、カラーバリエーションが現在とは異なる場合があります。

カワサキKLX230……495,000円

意外に少ない心身の疲労

 宿に泊まったわけではないものの、僕がKLX230で約450kmのツーリング、伊豆半島一周を行ったのは、撮影を兼ねて房総半島を走った翌日なので、感覚的には1泊2日・約750kmのツーリングである。こういう日程でテストをする場合、僕が重視しているのは、2日目朝の印象だ。初日に何らかの不満を感じていると、2日目は走り出した瞬間に、イヤなイメージが膨らむものだが……。
 意外なことにKLX230には、そういう気配がなかった。身体のどこかに疲労が蓄積している感触はないし、エンジンと車体は相変わらず従順なので、心理的なストレスも感じない。だからごく自然に、今日もガッツリ走ろう!という気分になって来る。
 もっとも僕がそう感じたのは、硬いシートへの対応策として、初日の時点でマメに着座位置を変更するという作戦を実行していたからだと思う。もし初日の行程をシートにドッカリと座って過ごしていたら、2日目の朝は尻の痛みを思い出していただろう。でも硬さはさておき、オフロードでの操縦性を重視したKLX230のシートは、快適性という面でも理に適っているのだ。下半身に痛みを感じないのは、座面が高く、シート~ステップ間が広く設定されているからだし、腕や腰に妙な疲労が残っていないのは、ブレーキング時に身体が前方に持っていかれない、フラットな座面のおかげなのだから。

少ない入力で車体姿勢をコントロール

 第1回目に記したように、KLX230の車体の動きはかなり俊敏でシャープである。ハンドルやステップへのちょっとした入力で、車体はバンクしたり向きを変えたりしようとするし、ブレーキング時に発生するフロントのノーズダイブは、トレール車に不慣れな人は大き目に感じるかもしれない。だから当初の僕は、このバイクは長距離走行には向かないだろうと感じていたのだが……。
 慣れとは恐ろしい、ではなくて、素晴らしいものである。KLX230の俊敏さとシャープさは、頭と身体が特性を理解していれば、マイナス要素にはならないのだ。むしろ慣れが進んで来ると、少ない入力で車体姿勢がコントロールできることが、ありがたく感じるくらいで。もちろんもっと多くの距離を走れば、いつかはそう言っていられない状況になる可能性はあるけれど、少なくとも2~3日以内のツーリングなら、俊敏さとシャープさは、イージーな操作を実現する有効な武器になり得ると思う。

19psのパワーに物足りなさは感じない

 最高出力は19ps/7600rpmで、最大トルクは1.9kgf・m/6100rpm。かつてのスーパーシェルパが26ps/9000rpm・2.4kgf・m/7000rpmで、KLX250の最終型が24ps/9000rpm・2.1kgf・m/7000rpmだったことを考えると、KLX230の数値には一抹の寂しさを感じる人もいるだろう。でも一般道を主体としたツーリングで、僕がこのバイクを非力と感じた場面は一度もなかった。
 いや、一度もっていうのはさすがに言い過ぎかもしれないが、KLX230が搭載する空冷単気筒は、とにかく実直で、ここぞいう場面での反応に物足りなさを感じたり、右手を大きくひねってパワーの盛り上がりを待ったりという場面には、ほとんど遭遇しない。古い例えで恐縮だが、小径のFCRキャブレターを装着しているようなフィーリングで、僕にはそれが実に心地よかったのだ。
 もっとも昨年夏に開催された試乗会では、さらにレスポンスが鋭く、高回転域までイッキに回るRのほうが、多くのライダーから支持を集めたらしい。でも一般道でのロングランなら、実直な特性で振動が少ないSTDのエンジンに、軍配を上げる人が多くなりそうな気がする。

燃費は良好だが、航続距離は短い

 ツーリングに使うとなったら、誰もが気になるのは燃費と航続距離だろう。そしてこの要素に関して、KLX230の性能はなかなか微妙だった。と言っても、今回の試乗における燃費はトータルで考えると30km/L前後で、この数値は250ccクラスのトレール車としては平均的なのである。ただしKLX230は、ガソリンタンク容量がロングランに向いているとは言い難い7.5Lで、しかも燃料残量警告灯が点灯するタイミングがかなり早いものだから、ツーリングペースなら200km前後は余裕で走れるはずなのに、乗り手としては150kmあたりで給油したくなってしまう。もちろんこの件についても、傾向を理解していれば、大きなマイナス要素にはならないけれど、個人的には燃料残量警告灯の精度を、もうちょっと上げて欲しい……と思わないでもなかった。

不満を感じるかどうかは乗り手次第

 ツーリングに最適とは思わないけれど、ツーリングにも十分使えるバイク。それが2日間のロングランを含めて、KLX230とじっくり付き合った僕の印象だ。と言っても、オフロードをメインに考えないツーリングライダーの視点で見れば、いろいろな面で不満を感じると思う。でもそれは当然のことなのだ。第1回目に続いてしつこいようだが、KLX230はオフロードを走ってナンボ、積極的な操作をしてナンボのバイクなのだから。

ライター:中村友彦

今から四半世紀以上前に購入したセロー225を皮切りにして、カワサキKDX200やKDX220SR、ホンダSL230、CRF250R、モンテッサ・コタ200、ガスガスTXT2000など、これまでに数多くのオフロード系バイクを所有してきた、2輪雑誌業界23年目のフリーランス。とはいえオフロードにおける腕前は、人様に自慢できるようなレベルではまったくない。

主要諸元

車名(通称名):KLX230
型式:2BK-LX230A
全長×全幅×全高:2,105mm×835mm×1,165mm
軸間距離:1,380mm
最低地上高:265mm
シート高:885mm
キャスター/トレール:27.5°/ 116mm
エンジン種類/弁方式:空冷4ストローク単気筒/SOHC 2バルブ
総排気量:232cm³
内径×行程/圧縮比:67.0mm×66.0mm/ 9.4:1
最高出力:14kW(19PS)/7,600rpm
最大トルク:19N・m(1.9kgf・m)/6,100rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:バッテリ&コイル(トランジスタ点火)
潤滑方式:ウェットサンプ
エンジンオイル容量:1.3 L
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常噛6段リターン
クラッチ形式:湿式多板
ギヤ・レシオ:
 1速 3.000 (39/13)
 2速 2.066 (31/15)
 3速 1.555 (28/18)
 4速 1.260 (29/23)
 5速 1.040 (26/25)
 6速 0.851 (23/27)
一次減速比/二次減速比:2.870(89/31) / 3.214(45/14)
フレーム形式:セミダブルクレードル
懸架方式:前 テレスコピック(インナーチューブ径 37mm)/後 スイングアーム(ニューユニトラック)
ホイールトラベル:前 220mm/後 223mm


タイヤサイズ:前 2.75-21 45P/後 4.10-18 59P
ホイールサイズ:前 21×1.60/後 18×1.85
ブレーキ形式:前 シングルディスク 265mm (外径)/後 シングルディスク 220mm (外径)
ステアリングアングル(左/右):45°/ 45°
車両重量:134kg
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
燃料タンク容量:7.4 L
乗車定員:2名
燃料消費率(km/L)※1:
 38.0km/L(国土交通省届出値:60km/h・定地燃費値、2名乗車時)※2
 33.4㎞/L(WMTCモード値 クラス2-1、1名乗車時)※3
最小回転半径:2.2m
生産国:インドネシア共和国

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…