BMW R nineTスクランブラーには、1200ccの大排気量車とは思えない不思議な親しみやすさがあった。

BMWのヘリテージカテゴリーを象徴するモデルとしてR nineTが存在している事は既報の通り。今回はそのバリエーションモデルのひとつ「R nineTスクランブラー」に試乗した。試乗車はフロントに17インチサイズのブラックスポークホイールが装着された、受注生産モデルのプレミアムスタンダードである。

REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●ビー・エム・ダブリュー 株式会社

BMW・R nineT Scrambler…….2,112.000円〜

グラナイト・グレー・メタリック

 ボクサーツインエンジンの搭載はBMWブランドを象徴するモデルとして、既に定着した独自性を誇っている。時代と共に進化を重ねたとは言え、クランク軸を縦置きする水平対向2気筒のパワーユニットにシャフトドライブを組み合わせた乗り味やメンテナンスフリーに関する優位性には定評がある。
 試乗撮影車はその名が示す通り軽いオフロード走行にも適応するスタイリングを採用。ベースとなったのは、R nineTの標準車として知られる「PURE」である。
 また既報のR nineTと比較すると、フロントフォークとフェンダー周り、ハンドルとマフラーの取付位置が異なっており、前後ステップバーやシートも別物。
 丸型のアナログ表示式メーターはシングルタイプ。フロントブレーキキャリパーのマウントもラジアル方式ではなく、ボトムケース(アウターチューブ)に直付けされるオーソドックスなタイプとなっている。
 基本的にはフロントに19インチホイールを採用しているのがスクランブラーらしい特徴だが、冒頭に記した通り試乗車は、ローダウンサスペンションと17インチのスポークホイールを装備した「プレミアムスタンダード」仕様でコンパクトに仕上げられている。
 結果的にシート高は標準(プレミアムライン)の820mmに対して30mm低い790mmになっているのが大きな相違点である。

 搭載エンジンはR nineTシリーズ共通。進化を重ねた空油冷方式DOHC8バルブの水平対向2気筒は、ボア・ストロークが101×73mmというショートストロークの1,169cc。12対1の高圧縮比が与えられ、109ps/7,250rpmの最高出力と116Nm/6,000rpmの最大トルクを発揮する。
 油圧作動のクラッチは切れの良い乾式単板式。常時噛み合い式6段ミッションや、車体右側の片支持パラレバーの中を通るシャフトによる駆動方式も共通。なお諸元表に明記された217km/hの最高速度性能と、燃料消費率データ(WMTC)5.1L/100km(19.6km/L)も同じである。

ミドルクラス並みに気軽な使い勝手が素晴らしい。

 試乗車を目前にすると、既報のR nineTとはまた違った印象を覚える。17L容量の燃料タンクとボクサーツインエンジンとの塊感はそれなりに大きく立派。
 車体中心部のボリューム感は1Lオーバーのビッグバイクらしい堂々たる風格を醸し出している。その割に車体前後はいくらか細身にスッキリとシンプルな仕上がりが印象深い。
 フロントフォークは正立式でブラックのボトムケースにブラックリムのスポークホイールを装着。丸形ヘッドライト上もシングルのスピードメーターがセットされ、テールのアップマフラーもコンパクト。太いゴールドの倒立式フロントフォークやツインメーターを持つR nineTと比較すると、かなりスマートに見える。
 やや高い位置にマウントされたパイプバーハンドルも相まって、バイクを押し引きする取り回しも扱いが気軽。操舵フィーリングもそれなりに軽い。しかしアンダーブラケット(三つ叉)下部にマウントされたステアリングダンパーのおかげで、その動きには上質な落ち着きが感じられた。
 またシートに股がった時の足つき性の良さは抜群である。前後に17インチホイールを履き、さらにローダウンされた仕様は、明確にフレンドリー。
 スクランブラーモデルとして、フロント19インチサイズのホイールに拘らないなら、気軽に乗り出せる親しみやすさはとても魅力的である。
 前後タイヤは、ブロックパターンのピレリ製MT60RSチューブレスラジアルを履く。良く締まったフラット地面なら、スクランブラーモデルらしくダートに飛び出してみたくなるのも正直な感想。でも実用上主な走行シーンとなる舗装路での操縦性も優秀。ロードノイズも含めて乗り心地はなかなか快適である。
 
 乗車姿勢も日常的な走りからツーリングまで上手く適応するオールマイティな雰囲気。シートとステップの位置関係、ハンドルの高さ等、トータルで自然とリラックスでき、上体の前傾具合も適度。
 エンジンは、太く柔軟なスロットルレスポンスが素晴らしい。トルクは十分に太く、右手をワイドオープンするとダイナミックな底力を誇るパワフルさと共に穏やかな出力特性を発揮。「気は優しくて力持ち」的なマイルドな走行フィーリングは、どんな場面でも快適かつ何ひとつ不足のないハイパフォーマンスを誇る。ローギヤでエンジンを5,000rpm回した時のスピードは53km/h、6速トップギヤ100km/hクルージング時のエンジン回転数は3,500rpmだった。 
 操縦性やブレーキの扱いやすさも至ってナチュラルで素直。オーバー1Lものバイクを気軽な足に使うのも悪くない。それにはローダウンサスペンション仕様から来る恩恵が見逃せない効果を発揮している事に改めて気付かされた。それこそ近所のコンビニまで行くのも、市街地をトコトコ散策するのも、そして郊外へ足を伸ばし、高速をクルージング。たまには舗装路を外れるダート走行も含め、その万能ぶりが好感触。何処でもゆとりある乗り味が楽しめ、常に快適に感じられたのである。

足つき性チェック(ライダー身長168cm / 体重52kg)

標準車のシート高は820mmだが、写真のプレミアム・スタンダードはローダウン仕様でシート高は790mm。 ご覧の通り、膝に余裕を持って、両足はベッタリと楽に地面を捉えることができる。

著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…