SV650かSV650Xか。ホーク11の存在も頭をよぎる。|スズキSV650X試乗で感じたのは「イージーではないけれど、極上の一体感」

万人にオススメしたくなる特性ではない。とはいえ、スズキが2018年から発売を開始したSV650Xは、カフェレーサーとワインディングロードが大好きなライダーにとって、理想的と言いたくなる資質を備えているのだ。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

スズキSV650X ABS……84万7000円

スタンダードでは3種類のボディカラーを展開するSV650だが、カフェレーサー仕様のXはグラススパークルブラックのみ。

スタンダードがよすぎるだけに……?

スタンダードのSV650。価格はXより4万4000円安い80万3000円

“SV650のガチ1000kmが好評だったので、次は普通の試乗でいいですから、カフェレーサー仕様のXに乗りませんか?” 編集部からそんな打診が来たとき、正直言って僕はあまりノリ気ではなかった。と言うのも、アップハンドルのSV650=スタンダードがオールラウンダーであるのに対して、セパレートハンドルのXは乗り手の技量と走る場面を問うバイクなのである。過去の試乗でその事実を把握していた僕は、スタンダードの印象が心身に残っている状態で、Xに好感を抱くのは難しい……と感じていたのだ。

ホンダがカフェレーサーとして開発したホーク11。価格は139万7000円。

 ただし少し前に他媒体の仕事で、ホンダが今秋から発売するホーク11を体験したことで、僕の意識は変化。ホンダとは異なる思想と手法で生まれたスズキのカフェレーサーを、改めて乗ってみたくなったのである。そんなわけで当原稿では、SV650のスタンダードだけではなく、ホーク11との比較を念頭に置いて、Xの印象を記してみたい。

レトロテイストのカフェレーサー

 本題に入る前に説明しておくと、SV650の派生機種として2018年から発売が始まったXは、レトロテイストを意識したカフェレーサーである。スタンダードとの主な相違点は、トップブリッジ下に備わるセパレートハンドル、ロケットカウルを思わせる造形のヘッドライトカウル+フレームカバー、タックロール仕様のシートレザー、フロントフォークに追加されたプリロードアジャスター、ブラック塗装が施されたステップ一式や左右レバーなどで、鋼管トラスフレームや水冷90度Vツインエンジン、前後サスペンションの設定を含めた足まわりなどに変更はない。

 スペックに注目してみると、1450mmの軸間距離や199kgの装備重量、25度/106mmのキャスター/トレールなどはスタンダードもXも同じなのだが、全幅は760→730mmに、シート高は785→790mmに変化している。と言っても、シート高の変化はレザーが原因で、ウレタンの厚さは同じようだから、足つき性に違いはないはずだ。

 なおスタンダードの1000kmガチ試乗で述べたように、2022年型SV650/Xはユーロ5規制に適合する見直しを受け、最高出力が76.1ps/8500rpm→72ps/8500rpmに、最大トルクが64Nm/8100rpm→63Nm/6800rpmに低下している。とはいえよほどのマニアでもない限り、従来型と2022年型のエンジンの差異を判別するのは難しいだろう。僕自身の印象としては、あえて言うなら、高回転域の伸びと振動の収束が微妙に悪くなった気がしたけれど、一方で最大トルクの発生回転数が下がっているので、常用域はむしろ従来型より速いんじゃないか?と感じている。

ホーク11のほうがフレンドリー

 やっぱり攻め過ぎだよな……。久しぶりにSV650Xと対面した僕は、まずは以前と同じ印象を抱いた。具体的な話をするなら、このバイクのハンドルグリップは、低くて遠く、身長182cmの僕でも、なかなかの手強さを感じるのだ。もちろんスズキは、カフェレーサーとしてのルックス、ハンドル切れ角、運動性などを考慮して、現状のハンドルを選択したはずだが、SV650のキャラクターを考えると、もう少し高くて手前でもよかったのではないだろうか。

 ちなみに、低くて遠いハンドルがSV650に何をもたらしたのかと言うと、一番わかりやすい変化はかなり強い上半身の前傾である。でも僕としてはその結果として発生した現象、ハンドルグリップを握る両手に力が入りやすく、旋回時のセルフステアを乗り手が無意識で阻害しがちなことが、どうにも気になってしまう。逆に言うならスタンダードの特徴である、横置きVツイン車ならではの軽快なセルフステアが、Xは感じづらくなっているのだ。

 ところがホンダのホーク11には、そういった気配がなかったのである。SV650Xと同様の低く構えたカフェレーサースタイルで、SV650Xと同様にセパレートハンドルをトップブリッジ下にクランプしているにも関わらず、ライポジは意外に安楽で、SV650Xが不得手な幹線道路での4輪の追走も普通にこなせる。スズキには大変申し訳ないのだが、見た目をいい意味で裏切ってくれるホーク11を体感した僕は、ホンダの上手さとスズキの不器用さを感じた。

ワインディングロードでの快走感

 ただし、今回の試乗でSV650Xを久しぶりに乗り込んだ僕は、アラ、これはこれで全然アリじゃないか……という印象を抱くこととなった。と言っても、前述した特性が変化したわけではなく、乗り手は常に下半身で車体をホイールドし、両腕に不要な力を入れないという意識を持つ必要があるし、そういう意識を持ったとしても、上半身の強い前傾を考えれば、Xは混雑した状況が得意なバイクではない。でもSV650、SV650X、ホーク11の3台で、ワインディングロードで最も快走感が味わえるのはどれか?と聞かれたら、今の僕はXを推したい気分なのである。

 まずはスタンダードのSV650との差異を述べると、Xの特徴は一体感だ。やっぱりセパレートハンドル車は、ライダーの頭の位置がステアリングヘッドやエンジンに近いからだろうか、アップハンドル車より一体感が得やすく、前輪荷重が高いので、フロントまわりの状況もわかりやすい。

 また、上半身が前傾することによって、ガチ1000kmで述べたシートとリアショックに対する不満が、適度に緩和されたことも、個人的には嬉しい要素だ。僕の場合はスタンダードを走らせていると、5~6時間、250kmくらいで、尻と腰に痛みを感じたものの、ライダーの荷重が前後に分散するXの場合は、渋滞路を避けることができれば、+数時間、+100kmくらいは行けそうな気配なのである。

 ではホーク11との違いは何かと言うと、ソノ気になってコーナーを攻めたときの圧倒的な軽快感。ホーク11の軸間距離/装備重量は1510mm/214kgだから、60mmも短く、15kgも軽い、SV650Xでそう感じるのは当然のことなのだけれど、今回の試乗で横置きVツインならではの旋回性を実感した僕の中では、ホーク11=アンダーステアという印象が、少し前に単体で乗ったときより強くなったのだ。

 もっともだからと言って、僕はSV650Xを万人にオススメするつもりはない。とはいえ、オールラウンド性に対するこだわりが希薄で、カフェレーサーとワインディングロードでのスポーツライディングが大好きなライダーにとって、このモデルはかなり魅力的な存在になり得ると思う。

ライディングポジション&足着き性(182cm/74kg)

写真で見るとそうでもないが、上半身の前傾度はかなり強く、スーパースポーツと大差がない印象。なおアップハンドルを採用するスタンダードのハンドル切れ角/最小回転半径が左右33度/3.0mmであるのに対して、セパハンのXは30度/3.3m。
大柄な筆者では参考にならないものの、シート高が790mmのSV650Xで両足がベッタリ接地するには175cm以上が必要。ただし車体がスリムで軽いので、身長が160cm前後で、左右のつま先しか接地しないライダーでも、大きな不安は感じないようだ。

ディティール解説

ヘッドライトはマルチフレクター式で、バルブは昔ながらのH4。ヘッドライトカウル+左右フレームカバーは、往年のロケットカウルを思わせる構成になっている。アンダーブラケット下面には純正アクセサリーのフォグランプ用のボスを設置。
 
セパレートハンドルのクランプ位置はトップブリッジ下で、バーの根本はステム前方。せめてバーの根本がフロントフォークの真横に備わるタイプだったら……と思うけれど、おそらくその構成では、十分なハンドル切れ角が確保できないのだろう。
 
メーターはモノクロLCDで、6段階の輝度調整が可能。時計やギアポジションの表示が大きいことは、個人的には好感触。燃料残量計の上部には、航続可能距離、平均燃費、瞬間燃費などが表示できる。
ハンドルポストが存在しないトップブリッジとフォーク上部に備わる無段階のプリロードアジャスターは、スタンダードとは異なるXならではの装備。なお前後ショックのセッティングはスタンダードと共通である。
細部のデザインは変わっているものの、左右スイッチボックスの構成は大昔から継承されて来たスズキの定番。軽快なハンドリングを意識してか、バーエンドに備わる振動対策用のウェイトは小さめ。
グリップラバーはGSX-Rシリーズと共通。始動装置にはワンプッシュでセルが回り続ける、スズキイージースタートシステムを採用している。レバーの基部に位置調整機構が備わるのはブレーキ側のみ。
パラレルツインエンジンが主役になった昨今のミドルクラスを考えると、20年以上に渡って熟成を続けて来たSV650の水冷90度Vツインは、相当に貴重な存在。2022年型ではユーロ5規制をクリアした結果、最高出力が76.1→72psとなった。
リアサスはオーソドックスなリンク式モノショック。スタンダードの場合は、長く走っていると路面の凹凸の衝撃が徐々にツラくなるのだが、ライダーがシートにドッカリ座らないからだろうか、セパハンのXではツキアゲがやや弱まった気がした。
スタンダードと共通のタイヤは、ダンロップにとって一世代前のスポーツ&ツーリングラジアルとなるロードスマートⅢ。最新のロードスマートⅣに変更すれば、乗り心地と運動性が劇的に向上するはず。
フロントフォークはφ41mm正立式。ブレーキは、F:φ290mmディスク+対向式4ピストンキャリパー、R:φ240mmディスク+片押し式1ピストンキャリパーで、ABSの介入は至って滑らか。
レザーは専用設計のタックロール仕様だが、内部のウレタンはスタンダードと同じ形状のようである。
シート下に収納用と呼べるスペースはまったくナシ。ただしETC車載器は、何とか収まるようだ。

主要諸元 

車名:SV650X
型式:8BL-VP55E
全長×全幅×全高:2140mm×730mm×1090mm
軸間距離:1450mm
最低地上高:135mm
シート高:790mm
キャスター/トレール:25°/106mm
エンジン形式:水冷4ストロークV型2気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:645cc
内径×行程:81.0mm×62.6mm
圧縮比:11.2
最高出力:53kW(72PS)/8500rpm
最大トルク:63N・m(6.4kgf・m)/6800rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ点火
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板
ギヤ・レシオ
 1速:2.461
 2速:1.777
 3速:1.380
 4速:1.125
 5速:0.961
 6速:0.851
1・2次減速比:2.088・3.066
フレーム形式:ダイヤモンド
懸架方式前:テレスコピック正立式φ41mm
懸架方式後:リンク式モノショック
タイヤサイズ前後:120/70ZR17 160/60ZR17
ブレーキ形式前:油圧式ダブルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:199kg
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
燃料タンク容量:14L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:34.8km/L(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス3:24.4km/L(1名乗車時)

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…