そこそこ軽めの150ccスクーターをお探しなら。|キムコ・RACING S 150試乗レポート

キムコ・Racing S 150は、前後タイヤに12インチサイズを採用したスポーツスクーターである。一見するフォルムこそオーソドックスなデザインだが、斬新なハイテクを投入して開発。可変バルブ機構付きエンジンの搭載でも話題を呼んだ。キムコならではの IoVテクノロジー「Noodoe」(車載ネットワーク機能)が初搭載されている。

REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO ●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●キムコジャパン株式会社

2021年6月13日に掲載した記事を再編集したものです。
価格や諸元、カラーバリエーションが現在とは異なる場合があります。

キムコ・Racing S 150…….363,000円

ブルー
マットブラック
マットシルバー

 ステップスルーのフロアを持つ至って標準的なスポーツスクーターといえるのがキムコ・Racing S。同ブランドを掲げる125と兄弟モデルだが、排気量の違いに加えてナビゲーション機能付きスマートメーターとして話題の「Noodos」が標準搭載されている。
 これはスマートフォン専用アプリをダウンロードし、Bluetoothでペアリングすることで、ハンドル右手のスイッチ(上下スクロールとオレンジの決定ボタン)を使用してスマホとの連携操作が可能となる。
 多彩なデザインの時計表示を始め、速度計表示、ナビゲーション表示。目的地までの距離や方角と所要時間を知らせてくれたり、同行する仲間の所在を示すグループコンパス。駐車位置探索。スマホへの着信通知等、実に多彩な便利機能を活用することができる。
 さらにお気に入りの画像データやオリジナルアイコン(作品)をインターネット上にアップロードしたりディスプレイに表示できる等、若い人には喜ばれそうな新機能が満載されている。日本国内デビューは2017年11月だが、そうした新機能は当時世界初搭載として話題を呼んだ。
 そう言えばキムコは、ライダーが持つ携帯電話への着信を教えてくれるパイロットランプを早くから装備していた事で知られているが、スマホ活用のハイテク搭載で、一歩リード。本来のスクーター機能とは別次元の付加価値をプラスすることで、商品力が高められている。
                     
 車体サイズはコンパクト。軽二輪クラスの中では小ぶりなサイズと言って良い。150ccのレーシングS150ではあるが、あえて125ccのスクーターと比較すると、前後ホイールサイズが同じのヤマハ・シグナスXがライバルとなるが、それよりも小さく仕上げられている。
 車体及び足まわり、エンジン、そして外観デザインも全て新開発されたニューモデルとして市場投入され、12インチサイズの前後タイヤには台湾産のKENDA製K702ハイグリップタイヤを採用。
 アンダーボーンフレームには、高強度T.H.F.(チューブ・ハイドロ・フォーミング)で成形されたメインパイプを使用し前モデル比で1.9kg軽い15.9kgに仕上げられた。またアルミ製のタンデムステップステーをボルトオン。全体で3.1kgの軽量化を達成している。
 車体は40度のバンク角が確保され、2ピストンのフロント油圧ブレーキはφ27mmという大径ピストンのキャリパーを採用。ブレンボ製キャリパーへの換装も考慮されている。
 足回りもしっかりした剛性を確保、リヤはシングルショックへの改造を踏まえる等、よりスポーティーなスクーターへカスタムすることへも対応。フレームの一部が露出する外観デザインも特徴的である。

 搭載エンジンは新設計のクランクを始め軽量ピストンに低張力ピストンリングを採用。4バルブのSOHC駆動機構にはローラーロッカーアームを使用し低フリクション化が徹底されている。
 カムシャフトには3個のカムプロフィールを持ち、6,500rpmを境に吸気バルブ用カムが高速用にチェンジされるVVCS(バリアブル・バルブリフト・コントロール・システム)が搭載されている。
 吸気系にはKEIHIN製Step-4-2と呼ばれるコンパクトな8孔式インジェクターを採用。下のパワーカーブに示す通り、中低速から高速域までフルカバーする高出力の発揮に貢献している。

バルブ駆動メカにはローラーロッカーアームを採用。左サイドカムチェーンで駆動されるカムシャフトは、左から順に排気バルブ用、吸気バルブ用、同ハイカム用が並んでいる。
出力特性を示すエンジン性能曲線図。6,500rpmを超えるとハイカム側に切り替わり高出力を発揮、中低速域のパワーと両立させていることがわかる。

走りは軽快!スマホとの連携で個性的な最新機能が楽しめる。

 試乗車に跨がると、至って標準的なサイズ感がとても親しみやすい。125と兄弟車である事は承知しているが、昨今大きめなサイズのスクーターが主流となっているだけに、比較的コンパクトな乗り味が改めて新鮮に感じられた。
 通勤通学等の需要には置き場所も含めてコンパクトな車体の方が好都合な事も多い。普段の足が代わり用途に割り切るなら、なかなか相応しい選択になると思えたのである。
 押し歩く時の感触は、サイズの割に重量感を覚えるが、走り始めるとその操縦性はとても軽快。
 いかにもスポーツスクーターらしいクイックに身をひるがえす。サーキットでサンデーレースを楽しむにも相応しいポテンシャルの高い走りがそこに感じられたのである。

 広報資料によるとブレーキやサスペンションのカスタムにも対応できることがアピールされていたが、スポーツ走行する上ではコンパクトなサイズも侮れない武器になるわけでそれも納得できる乗り味があるわけだ。
 車体剛性も十分で、サスペンションの動きも良好。とにかく操舵レスポンスがシャープだ。
 コーナリングでも直進、急制動から鋭く旋回動作に移行できる。扱いが軽いのと、操舵レスポンスとの兼ね合いか、車体の傾き具合について落ち着きに欠ける部分もあるが、ライダーがしっかりとコントロールすればタイトターンも自由自在に扱え、慣れるとそれが楽しくなる。
 ショートストロークタイプのエンジンもスロットルを開けた瞬間から不足のないトルクを発揮して高速域まで一気に、それもスムーズに吹き上がる。
 好んで走ろうとは思わないが、都合で高速道路を使うシーンがあっても、パフォーマンスに不足を感じることはないだろう。
 キャラクターとしては、ピュアなスポーツスクーターだが、いざと言う時に高速も乗れる排気量と、普段使いにゆとりのある快適性を確保しておきたい人にお薦めできる1台である。


足つき性チェック(身長168cm)

車体ボリュームはちょうど良い具合のフィット感を覚える。
足つき性もご覧の通り、両足はベッタリと地面を捉え、膝にもゆとりがある。シート高は790mmだ。

ディテール解説

フロントまわりのカバーはマルチレイヤー方式で組み立てられており、ライダーの好みに合わせて変更可能。傷つけた時のリペア用交換部品のコスト負担が軽く済む場合もあるだろう。
フロントのテレスコピックフォークはトレーリングアクスルの正立式。φ27mmの2ピストンピンスライド式キャリパーを採用。フローティングマウントされたペタルタイプのシングルディスクローターはφ240mm。
右出しのブラックマフラー。エミッション(排出ガス)レベルは現在最高峰の規制をクリアしている。
リアサスペンションにはダブルピッチスプリングの2本ショックタイプを採用。モノショック化(カスタム)にも対応しているそう。
スクリーンを持たないごく標準的スクーターのハンドル回り。ミラーステーの造形が特徴的だ。
標準的なレイアウトで扱いやすいハンドル左側スイッチ。上から順にディマー兼パッシング、プッシュキャンセル式ウインカースイッチ。そして咄嗟の時に押しやすいホーンボタン。
ハンドル右側の基本スイッチは黒いスターターボタンのみ。上のグレーとオレンジのスイッチはnoodoe車載ネットワーク機能の操作に使用する。
Noodoeテクノロジーを採用した液晶表示パネル。左右セパレート式メーターと、中央には好みに応じて様々な機能が活用できるマルチファンクションディスプレイ。
Noodoeは写真のスマートメーターと右手のハンドルコントローラー、そしてスマホ用専用アプリで構成されている。
Noodoe Navigation
注目機能の一つがNoodoe。時計や速度計、スマホの着信通知、コンパス、ナビゲーション、天気案内他、駐車位置探索や、写真の貼り付け等も可能。
レッグシールド内側には、オープンタイプのポケット収納があり、中央にはコンビニフック、左側にはキー操作で開く燃料給油口がある。
イグニッションキーの操作(左側反時計方向に回す)でシートロックが解錠される。
前方ヒンジ部左右に2個分のヘルメットホルダーも装備されている。シートトランクにはフルフェイス型のヘルメット一つ+αの収納容量を備えている。
片側重量0,7kgのアルミ製タンデムステップステー。旧型のスチール製と比較すると一気に44%の軽量化に貢献している。
ご覧のテールランプは左右にセパレートされたLEDデュアル式。U字の中にそれぞれ6個のLEDランプが内蔵されており、ストップランプはそれが全灯する。

主要諸元

Racing S 150
エンジン形式:SR30B
エンジン種類:空冷4ストローク SOHC 4バルブ単気筒 VVCS
燃料供給形式:KEIHIN製フューエルインジェクション
総排気量(cc):149
内径 x 行程(mm):59×54.5
圧縮比:10.4
最高出力(kw)/ rpm:10.1(13.8ps)/ 7,500
変速機型式:CVT
クラッチ:乾式遠心式
点火方式:ECU制御
始動方式:セルフ式
バッテリー:12V 6.8Ah

全長×全幅×全高(mm):1855 x 750 x 1100
シート高(mm):790
軸距(mm):1270
装備重量(kg):128
燃料タンク容量(L):5.7
潤滑油量(L):0.9
タイヤ(前/後):110/70-12 /120/70-12
サスペンション(前/後):φ33mm テレスコピック式 / ユニットスイング式 5段階調整式ツインショック
ブレーキ(前/後):φ240mm フローティングぺタルディスク/ φ200mm ディスク

生産地:台湾

試乗後の一言!

軽快さとしっかり感のある若々しい乗り味。改造ベース車としての配慮も魅力的。

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の創刊メンバーに。1981年退社後はフリーランスとして専門誌や一般紙誌等、2輪に4輪にと幅広い執筆活動を続けている。
ライディングやドライビングのインストラクター経験も豊富。東京都交通安全協会・安全運転管理者講習の講師も務めた。

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著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…