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ジャストフィットなサイズ感
身長175cm、体重65kgのテスターが跨ってみると、「F750GS」より車高が上がっていて、視線が高くよりGSらしさがある。片足立ちならカカトまで地面に足が届くが、両足を降ろすとツマ先立ちになってしまう。シート高は860mmで、ローシートを標準装備するスタンダードだと815mmとかなり低い。
「F750GS」では22mm径のスチール製だったハンドルは、剛性の高いアルミ製にグレードアップされ、ダートでの走行を前提にしていることがわかる。
改めて思うのは、やはりミドルクラスのGSは身体にフィットする。ボクサーツインを搭載する最新式のフラッグシップモデルだと、こうは思わない。デカイぞと警戒しつつ走り出すことになり、「F850GS」のように気軽には乗れないのだ。
長旅に出たくなる乗り心地の良さ
エンジンは歯切れの良い排気音にパルス感を伴って、小気味よい。不等間隔爆発によるトルクフィールは加速感がダイレクトで、ツインらしい味わい深さもある。従来型より極低回転域のトルクが太くなって、発進時も気難しさがなくなった。
ピックアップは全域で鋭いが、過激すぎずにコントローラブル。ライディングモードを「ロード」から「ダイナミック」に切り替えても、中高回転でのパワー感が増すのは強調されるが、唐突にトルクが出て凶暴などとは感じない。
とはいえ、どこから開けてもパワフルで、もう充分すぎるほどに力がある。ミドルクラスというけれど、排気量は853ccにも達するのだから当然だろう。
最高出力のカタログ値は「F750GS」より18PSも増しているが、低中速域だけなら両車にそこまでの差は感じない。しかし、もはや95PSにも達し、昔のモデルと比べてしまえば「R1100GS」の80PS、「R1150GS」の85PSを凌ぎ、空油冷時代の「R1200GS」の98PSにも匹敵してしまうほどのスペックを持つ。
長い足まわりはストローク感があって、程良い剛性としなやかさを持ち合わせている。初期荷重から滑らかに動き、270度クランクのエンジンも相まって前後輪にしっとりとした接地感を生み出す。それでいて衝撃が大きいときは、しっかりとした手応えで減衰力を発揮してくれ頼もしい。
前後サスペンションの動きはいいが、車体全体の挙動は大らかなで、ツアラーとしても良好な乗り心地をもたらしている。公式スペックを見ても「F750GS」では最高速度190km/hとなっているが、「F850GS」ではOVER200km/hと示され、高速巡航力がより高く設定されていることがわかる。そして、もっともっと長い距離を走りたくなるのは今回に限ったことではない。GSシリーズに乗るたびに思うことだ。
乗り心地の良さに、270度クランクのエキサイティングさが加わった新生「F850GS」は、激戦区の主役となり続けていくのは間違いないだろう。排気量1000ccに至らないアドベンチャーは他メーカーも注力しているセグメントで、強力なライバルが次々に現れているが、BMWのF-GSシリーズはシーンを牽引するモデルであり、今後もそれは変わらないだろう。
2018年11月のEICMA(ミラノ国際モーターサイクルショー)では、さらなるオフロード性能を追求している「F850GS Adventure(アドベンチャー)」も発表された。かつてのG/Sがそうだったように、巨大すぎないコントロール下における車体で、あらゆるステージをそこそこのアベレージで走り抜けるためのパートナーである。「F750GS」「F850GS」そして「F850GS Adventure」と、この激戦カテゴリーにBMWは3本柱をラインナップするが、これはとてつもなく強力な布陣だと思う。