【KTM 新型RC390試乗】390DUKEでサンデーレースに参戦しているライダーの目線から見えてきたこと。

MotoGPでも活躍しているKTMがリリースするフルカウル・スポーツモデル・RC390がフルモデルチェンジした。その進化した走行フィーリングについて、2015年から390DUKEでサンデーレースに参加し続けているライダーの目線から見たインプレッションをスポーツ走行性能にフォーカスをあててお届けする。
REPORT●横田和彦(YOKOTA Kazuhiko)
PHOTO●山田 俊輔(YAMADA Shunsuke)

KTM RC390 …830,000円(消費税込み)

KTMファン待望のフルモデルチェンジ

KTMのミドルクラスを牽引するフルカウルスポーツモデル・RC390がフルモデルチェンジを行った。
高回転型の単気筒エンジンや足まわりといった基本コンポーネントを共有している兄弟モデル、390DUKEは2017年にフルモデルチェンジをしているが、その時点でRC390はマイナーチェンジ止まり。サイレンサー別体式のマフラーやスロットルバイワイヤの採用など、年々内容的にはアップグレードしてきたものの、スタイルに大きな変化がなかったため新鮮味がやや薄れていたのは否めない。そのためMotoGPなどのロードレースでKTMの活躍を見てきたファンの中には新たなフルカウルスポーツモデルの登場を待ち焦がれていた人も多い。そんなこともあって新型RC390の登場にひときわ注目が集まっているといえよう。

足つきチェック

ライダー身長:165cm/体重70kg

スポーツライディングに向いた前傾ポジションだが、トップブリッジ下にセットされたセパレートハンドルはカラーを外すことで10mmアップさせることが可能。そうするとよりツーリングユースにも使いやすくなる。ステップ位置とのバランスも良い。またタンク後端が下半身にフィットする形状であることにも好感を持った。タンクは短めでシートには前後へ移動できるスペースがある。ただしリヤショックにプリロードを掛けていくとシート高は上がる方向になる。

片足だと足の裏の半分以上が接地するが、両足の場合はつま先1/3程度の接地となる。車体が軽いこともあり支えるのはそう難しくない。

MotoGPマシンの影響を強く受けたスタイリングと機能

やや丸みを帯びたフロントヘビー気味のシルエットは現代のレーシングマシンからイメージされたもの。LEDヘッドライトやLEDウインカーと一体になった大型スクリーンは防風効果が高い。フルカウル横のサイドカウルがレイヤー構造になっているのも今風だ。空力特性が十分に考慮されているであろうことは想像がつく。
ガソリンタンクは前側がスチール製でライダー側は樹脂製のカバー。中にはバッテリーなどが収まっていてマスの集中化に貢献している。またシートのクッション性が高まり乗り心地が良くなっていることも確認できた。
より作動性が向上した前後サスペンションと軽量化されたホイールによるフットワークの進化は特筆すべき改良ポイントのひとつ。バネ下重量の軽減が運動性能の向上に役立つことは知られているが、実際にはどのように感じられるのか。
サーキットから市街地までを網羅したインプレッションはすでに掲載されている(車体と足まわりが大進化のRC390、その軽快な操舵に「オヤッ」と驚いた。|KTM・RC 390試乗記)。
そこでここでは“スポーツライディング”という観点に絞って新型RC390をチェックしていきたい。

筆者が新型RC390のスポーツ走行性能にこだわる理由

今回、なぜ新型RC390のスポーツ走行性能にフォーカスをあててインプレッションするのか。それは僕自身が(2014年式)390DUKEのオーナーであり、KTM390/250CUPというサンデーレースに2015年からフル出場しているから。KTMの390ccと250ccのエンジンを搭載したモデルであれば出場可能なレースなので、新型RC390のサーキットにおけるポテンシャルについて人一倍興味があるのだ。

いわゆる初期型の390DUKEでKTM390/250CUPに参戦。このレースが始まってから今日まで6年間、筆者はすべてのレースにエントリーしてきている。
レースが始まった頃はRCとDUKEの割合は半々くらいだったが、現在はほとんどがRC390。
前後ホイールはGALE SPEED、サスペンションはビチューボ、マフラーはレース用ワンオフ、ステップはKTM川崎中央オリジナル、FRPカウル類はファイバーワークス、サブコンはパワートロニックなどなど長年かけてカスタムしてきた。

現在、KTM390/250CUPは筑波サーキットのツーリスト・トロフィーという参加型レースの中の1カテゴリーとして年3回開催されている。カスタムクラスのほかに、消耗パーツ以外の部品交換がほぼ禁止されているストッククラスもあるのでエントリーしやすい。興味がある方はぜひ一度見に来てみてはいかがだろうか。

試乗はアップダウンがある富士スピードウェイ・ショートコース

今回の新型RC390の試乗会は富士スピードウェイ・ショートコースで行われた。大きすぎないサーキットはRC390にピッタリのサイズ。アップダウンが多く、先が見えないコーナーなどちょっと難しいトコロもあるが、慣れれば楽しく走れるコースだ。
さっそく新型RC390で走り始める。最初に感じたのは、トルク特性がなめらかだということ。従来のモデルの単気筒エンジンは中〜高回転域でパンチがある元気なフィーリングだった。しかし新型はトルクカーブがフラットな印象。アクセル操作に対して非常になめらかにトルクが湧き出てくる。先代とは異なる感覚にパワーが落ちたのではないかと言う人が出るくらい。しかしスペック上ではパワーは同等でトルクはアップしている。実際に全開時のフィーリングは遜色ないと感じたので、過渡特性が変化したためだと考えるのが妥当だろう。
サーキットでは6〜7000回転以上をキープするようにすると良いペースで走れる。レッドゾーン手前1万回転付近までパワー感は途切れないので、そのあたりをパワーバンドとしてトラクションを意識しながら走ると新型RC390は想像以上のハイペースで周回してくれるのだ。一昔前の2ストとまではいかないが、高回転域を積極的に使いながら走るフィーリングはまさにスポーツである。

スムーズなトルク特性は交通量が多い市街地で走りやすくツーリングで疲れにくいなどのメリットとなるが、スポーツ走行でもプラスになる。急激なトルク変動があると挙動変化が大きくなるのでアクセルを開けるときに気を使ってしまう。しかしこれだけスムーズだとタイヤのグリップを感じながらアクセル全開にしやすい。
さらにこのクラスではほかに類を見ない3軸IMUによるトラクションコントロールが搭載されたことも安心材料のひとつ。この日は晴天で路面温度が高かったこともあって僕レベルの走りではトラクションコントロールが介入することはほとんどなかった。しかし雨天や冬場などコンディションが変化すれば心強い味方になることは間違いない。

ラジアルマウントキャリパーを採用したブレーキのタッチ感も良好。握る強さにあわせてリニアに制動力が高まっていく特性なので、コーナーの進入でも不安感はない。ここでも3軸IMUによるコーナリングABSが不安を和らげてくれる。
また新たにオープンカートリッジ式を採用した倒立フォークと、動きが向上したリヤショックとのバランス感も良い。サーキットのような高負荷がかかるシーンでは、フロントフォークの伸圧減衰調整機構やリヤショックのプリロード&伸圧減衰調整機構が効果を発揮する。それらが飾りではなくちゃんと機能するので、車体姿勢やブレーキング時のノーズダイブなどを調整しながらスポーツ走行を楽しむことができるのだ。

ハンドリングは軽快さの中に安定感があるもの。やはり足まわりの軽量化とサスペンションの刷新が効いているのだろう。切り返しではライダーの荷重移動に対して遅れることなく、また行き過ぎることのない素直な挙動を見せる。狙ったラインに乗せやすいことは、スポーツライディングの楽しさを高めることにつながる。
またタイヤの接地感がリアルに伝わってくることもライダーを安心させてくれる。新型RC390のサスペンションはスポーツライディングに有効な進化を遂げているなと感じた。

トップブリッジに直接ハンドルバーがセットされた先代とは異なり、新型はトップブリッジの下にハンドルがセットされた一般的なスタイルになったため自由度が向上。高さや絞りを変えるのが容易になった。ただ個人的にはグリップの位置がやや幅広く感じられた。人によっては気にならないレベルかも知れないが、あと数cmずつでよいので内側に来るとうれしいのだが。同時にもう少し絞れればベストだろうか。

完成度が高まり、多くの人がスポーツライディングを楽しめるバイクに

さらに走りを楽しくするシステムがクイックシフター+である(オプション設定)。クラッチを握ることなくシフトアップ/ダウンが可能になるシステムだが、スポーツ走行でも威力を発揮する。コーナー進入時にブレーキングに集中でき、立ち上がりでは途切れなく加速できるので、エンジンのポテンシャルを十分に発揮させられる。若干固さを感じる個体もあったが、KTMジャパンのメカニックが調整するとスムーズにシフトチェンジできるようになった。
スポーツバイクとしての完成度が高まった新型RC390は、バイクでスポーツライディングを満喫したいと考えるユーザーの望みに十分応えてくれる。扱いやすいフラットなトルク特性やミドルクラスならではの適度なパワー感、レスポンスが良いサスペンションフィーリングは、幅広い層のライダーにスポーツ走行の愉しみを体感させてくれるのだ。

個人的にはビッグバイクに乗り慣れたライダーにこそ、アクセルを全開にしてミドルモデルが持つポテンシャルを引き出し切る快感、パワーバンドをキープしながら走る楽しみを実感してもらいたいと思う。それがライディングスキルの向上につながり、さらには新しいバイクホビーの世界への扉を開いてくれると考えているからだ。

新型のココに注目!

フルモデルチェンジで多くの変更点があるが、特にスポーツ走行に影響が大きい部分を紹介しよう。

シートレールがボルトオンになり、フレーム全体で1.5kgの軽量化を実現。単気筒エンジンはよりフラットにトルクが出る特性になり、どの回転域からもパワーを引き出しやすくなった。
大きく進化したポイントのひとつが足まわり。スポークが細くハブも削られたホイールは前後で3.4kg軽量に。WP製の倒立フォークはオープンカートリッジ式となり作動性が向上している。
ガソリンタンクは前半分が金属製の燃料タンクでライダー側は樹脂カバー。ニーグリップしやすい形状で、内部にはバッテリーなどが収められマスの集中化に貢献している。サイドカウルがレイヤー構造になっているのがわかるアングルだ
クッション性が高まっているシートは質感も向上。先代は前後一体型に見えるデザインだったが、新型は明確なセパレートタイプとなっている。キー操作で外れるのはフロントシートで、タンデムシートは内側にあるボルトを外すことで脱着できる。

多くのライダーにオススメしたいWPサスペンションキット

純正サスペンションのフィーリングがよくなっていたので、オプションとして用意されているフロントのインナーカートリッジキット(WP APEX PRO 6500 CARTRIDGE)リザーバータンク別体のリヤショック(WP APEX PRO 6746 SHOCK)との差は感じられるのだろうかと心配したが、それは杞憂に終わった。アフターのサスペンションはやたらと硬い乗り心地になってしまうモノも散見されるのだが、このキットは違う。作動性がよりしなやかになり、サーキット走行という高負荷下でもしっかりと踏ん張る特性ながら、一般道をクルージングしているときの乗り心地も向上している。走りの質感が上がるとでも表現すればよいだろうか。
またコストパフォーマンスの高さにも注目してもらいたい。試乗車にセットされていたのは、フロント:111,767円(体重75〜85kg用の設定に必要な部品代込)/リヤ:116,513円(体重75〜85kg用の設定に必要な部品代込)と前後で23万円弱(組込工賃別)だ。性能を考えればバーゲンプライスといえるのではないだろうか。スポーツ走行好きはもちろん、ストリートライダーにも体感して欲しいと思えるフィーリングのサスペンション・キットである。

左:WP APEX PRO 6746 SHOCK/右:WP APEX PRO 6500 CARTRIDGE
純正の倒立フォークにはコンプレッション/リバウンド(各30クリック)の調整機構が付く。
WP APEX PRO 6500 CARTRIDGEにはコンプレッション/リバウンドに加え、プリロードアジャスターが追加。より緻密な作動性とセッティングの幅広さを実現している。
リンクレスでダイレクトにスイングアームに接続される純正のWP製 APEXリアショックは、プリロード調整とリバウンド調整(5クリック)が可能。
WP APEX PRO 6746 SHOCKはリザーバータンク別体式(写真では反対側のサブフレームに装着)。車高、コンプレッション、リバウンド、プリロードの調整が可能。コンプレッションはハイロー独立タイプ。価格以上の内容だといえよう。

こちらは2022年8月14日(日)、岡山国際サーキットで開催されたモトレヴォリューション(MS1クラス)にエントリーした新型RC390レーサー。製作はKTM川崎中央でライダーは吉井代表だ。おそらくこれが新型RC390での日本初レースではないだろうか。

フルエキゾーストマフラーやフローティングディスク、アンダーカウルなど開発中(一部発売中)のパーツを組み合わせてレーサー化。結果は見事MS1クラスで3位表彰台をゲット。上位2台の排気量が600cc以上だったことを考えると大健闘といえ、ポテンシャルの高さを感じさせてくれる結果となった。

SPECIFICATION
車名:RC390
軸間距離:1,343mm
最低地上高:158mm
シート高:824mm
車両重量:約155kg(燃料除く)
エンジン型式:水冷・4サイクル・単気筒・DOHC・4バルブ
総排気量:373cc
内径×行程:73.4mm × 59.0mm
圧縮比:12.2
最高出力:32kW〈44PS〉/ 9,000rpm
最大トルク:37N・m/ 7,000rpm
燃料タンク容量:約13.7L
フレーム形式:スチール製トレリスフレーム
キャスター:66.5°
フロントブレーキ:4ピストンラジアルマウント
リヤブレーキ:1ピストンフローティングキャリパー
タイヤサイズ(前/後):110/70ZR17/150/60ZR17
乗車定員2名
※ライドバイワイヤー/コーナリングABS(スーパーモトモード搭載)

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著者プロフィール

横田 和彦 近影

横田 和彦

学生時代が80年代のバイクブーム全盛期だったことから16歳で原付免許を取得。そこからバイク人生が始まり…