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嵐の予感
長旅で汚れた荷物をPCXのシート下に放り込み、豊橋の宿を走り出したのは午前10時。国道1号を名古屋方面へ向かい、国府駅近くから旧街道に、つまり県道374号に乗り換えればすぐ御油宿だ。
天気予報は、数日前からじわじわ接近中の台風8号が、今日明日にもこの近くに上陸すると言っている。その前ぶれか、松林を見物していると、じっとり湿った風とともに脈打つような雨が降りだした。
御油宿から隣の赤坂宿までは、歩いても20分くらい、バイクなら松林を眺めてふらふら走れば3分くらいで着いてしまう。小雨の中、古めかしい旅籠(はたご)前でPCXの写真を撮っていると、係の人が招き入れてくれただけでなく、記念品までもたせてくれた。
たいした見どころがないと思われがちな御油宿、赤坂宿、藤川宿あたりだが、じつは東海道をたどるライダーにとっては、江戸の雰囲気を濃密に残した素晴らしいエリアだ。ガッツリ整備・広報すれば、普通の観光客だって呼べそうで、現状はもったいない気もするが、それこそよけいなお世話というもんだろう。
フィナーレは突然に
国道1号が岡崎市街に入ってしばらくすると、わずかにスロットルレスポンスが鈍ってきた。気のせいかとも思ったが、トリップメーターが374km台に入ると、断続的にはっきりとレスポンスがおかしくなってきた。車体が前後にガクガク揺れるような不安定な挙動が数分つづき、ついにガス欠旅のフィナーレが訪れた。
PCXは、愛知県岡崎市街の国道1号島町でガス欠停止。日本橋からの走行距離は376.4kmで、満タン8.1ℓのガソリンをきっちり使い果たしたとすれば、燃費は約46.5km/ℓだ。ただしメーター表示の平均燃費49.2km/ℓとはズレがある。日本橋できっちり満タンになってなかったからなのか、もともとメーター表示がそんなに厳密なもんじゃないからなのか、この差がうまれた理由はよくわからない。
ところでPCXのカタログでは、WMTCモード燃費は51.2km/ℓとなっている。今回の実測値にしてもメーター表示にしても、まったく同じにはならなかったが、だからってわざわざあげつらうほどの差があるわけでもない。つまりバイクの燃費なんて、カタログさえ読めば誰でもわかるわけで、バイクメディアの面々が、わざわざ取材してまでいちいちそれを確かめたがる気持ちのほうが、じつはあんまりよくわからないんだが……。
無事にガス欠も済ませたことだし、早いところ東京に帰りたいのが本音だが、このまま帰りはじめれば、まもなく上陸する台風と途中でぶつかってしまう。どこかで泊まって台風をやりすごすにしても、暴風吹き荒れる戸外にPCXを放り出して寝るわけにもゆかない。
だが幸運なことに、ここは岡崎だ。ライダー専用の宿泊施設「バイクステーション岡崎」が近い。ダメもとで連絡してみると、(たぶん)台風のおかげで空室があり、泊まることができた。
ぐーぐー眠って目覚めた翌朝は、台風一過、カラリとぬけるような青空が頭上に広がっていた。