411ccだから”中免”では乗られません。ロイヤルエンフィールドのスクランブラー、SCRAM 411試乗

世界最古のオートバイブランドとして知られているロイヤルエンフィールドは、アドベンチャー・クロスオーバーモデル「Scram 411」の国内導入にあたり、昨秋の10月13日にインド本社と生中継するウェビナーオンライン記者発表会を開催。登壇された事業責任者の Anuj Dua 氏は、逐次通訳を介し開発と今後の戦略展開について、同ブランドの意欲的な姿勢を語ってくれた。

REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO●徳永 茂(TOKUNAGA Shigeru)
取材協力●ピーシーアイ株式会社

ロイヤルエンフィールド・SCRAM 411…….838,200円〜

BLAZING BLACK…….845,900円

カラーバリエーションは全7タイプ

GRAPHITE RED…….838,200円
GRAPHITE BLUE…….838,200円
GRAPHITE YELLOW…….838,200円
SKYLINE BLUE…….845,900円
WHITE FLAME…….853,600円
SLIVER SPIRIT…….853,600円

スクラム411開発のベースモデルとなった「HIMALAYAN」(ヒマラヤ)

様々な角度で描かれたモノクロのラフスケッチ。
クレイモデルでの検討作業も経て決められた、最終のイメージスケッチ。
実寸のスケールでワンオフされたクレイモデルを使い、さらにデザインを検討する。

 スクラム411は、2015年に発表され翌年市場投入された「ヒマラヤ」(アドベンチャーカテゴリーに属すオフロード系モデル)をベースに開発された。スチール製パイプフレームや搭載エンジンのLS 410はイギリスのハリス・パフォーマンスによって新開発されたもの。ちなみに同社は2015年にロイヤルエンフィールドによって買収されている。
 上の写真に示す通り、ヒマラヤはあらゆる道を走破するアドベンチャーライダー向けに開発されているが、日本でイメージされる一般的な同カテゴリーと比較すると、オフロード走行に長ける仕様を備えた“実用車”的雰囲気の仕上がりが印象深い。実際、市場環境の異なるインド本国では、ヒマラヤと呼ばれる山岳地域をバイクで走るケースは多く、非舗装路を走るのは決して特別な事ではない。そんな場面でもロイヤルエンフィールドが古くから使われていたそう。
 求められているのは、シンプルで扱いやすく、多くのユーザーに親しまれるピュアなバイクである。そこで新たにラインナップに加えるべく新開発されたのが、同社初のアーバンスクランブラーとして投入されたスクラム411だ。

 120年以上の歴史を誇る同ブランドは、シンプルでかつ魅力的。そして身近なバイクの復活を目指していると言う。言い換えるとオーソドックな手法で虚飾を廃したタフなバイク造りを心がけていると言えるだろう。
 同社はミドルクラスのバイクを揃えて大きな成果を達成。同ブランドの製品は既に世界65ヶ国で販売。250cc~750ccミドルクラスのグローバルリーダーとして、大きなシェアを誇っている。特にアジア太平洋地域で伸張著しいブランドとしても知られている。全体的なバイクの市場動向を見ると小型車ユーザーはミドルクラスへステップアップ。一方大型ユーザーはミドクラスへとダウンサイジングする傾向がある。
 今後はミドルクラスが成長すると睨む同社の事業展開は的中し、結果としてラインナップの充実ぶりと販売面で順調な推移を見せているわけだ。

 さて、スクラム411はヒマラヤのDNAが受け継がれた都会派モデルだと言う。実際フレームとエンジン、サスペンションとブレーキ関係部品は基本的にほとんど共通である。
 明確に異なっているのは、フロントホイールが21から19インチサイズに換装。ヘッドランプやメーター周辺部品はフレームマウントからステアリングマウントに変更された。
 またシートとハンドル位置が専用設計されてライディングポジションも異なる。シート高こそ大差はないが、足付き性を含めて渋滞路等の市街地での快適性を意識してデザインし直されている。
 φ41mmのフロントフォークはリーディングアクスル式で基本的には同じだが、ストロークはヒマラヤの200mmから190mmに短縮。ロードクリアランスも220mmから200mmに下げられたが、フロントホイールが違う点を除けば、確かにヒマラヤが持つオフロード系DNAの多くがそっくり受け継がれている。
 ブラックアウトされたエンジンは空冷OHC 2バルブの直立単気筒。ボア・ストロークは78×86mmというロングストロークタイプで排気量は411cc。1軸バランサーが装備されている点も含め、基本的な構造はクラシック350のエンジンとも共通。シリンダーボアが6mm拡大されており、ボア・ストローク比はいくらかスクエアに近づいている。
 トランスミッションもやはり5速が採用されているが、ギヤレシオは350とは異なり、ヒマラヤと共通。クラシック350よりはやや低めの設定となっているのが印象深い。
 フロントスクリーンやアップフェンダー、タンク両サイドのスチールパイプ製プロテクターとセンタースタンドが外されている。前後フェンダーはオリジナルデザインとなり、ダブルシートも一体構造の専用設計が施された。ご覧の通りスクラム411は、オフロード系テイストを残しつつ、都会派モデルとしてスッキリとシンプルなデザインワークで仕上げられているのが印象的である。

アドベンチャー系モデルのヒマラヤで培われたタフな車体を受け継ぐ「アーバン」バージョンとして “スクラム411” が開発された。
ヒマラヤで開発されたLS 410エンジンをそのまま搭載。

重厚な乗り味と軽快な操作性が楽しめる

 ミドルクラスのバイクとしては200kgに迫る車重は重いのではないかと思いつつ、受け取った試乗車のシートに跨がり市街地に向けてスタートした。
 しかし、程良くワイドなアップハンドルを手に取る関係か、取り回し等の扱いは思いのほか軽快である。車体の引き起しも含めて感覚的に重過ぎる事はなく、順当な落ち着き具合が丁度良く馴染んでくる。
 その親しみやすさは、如何にもミドルクラスらしいレベルにあり、足つき性も含めてバイクを支える上での不安感は皆無であった。
 フロント19インチホイールと、インドのCEAT製GRIPP-XLFユニバーサルタイヤのマッチングは、舗装路でも違和感がなく、ロードノイズも気にならない。なによりもノロノロ運転も含めて市街地レベルの走行速度でも直進安定性が高く、楽に走れてしまう。その乗り味には落ち着きがあり、車重の重さや19インチサイズのスポークホイールもそんな快適性に貢献していることが理解できるのである。
 スクランブラー系モデルと言えばロードモデルから派生していたのが従来の常だったがスクラム411は逆パターン。アドベンチャー系のヒマラヤから派生した兄弟モデル。もともとそれは競技車レベルの高性能を目指したタイプではなく、非舗装路を快適にロングライドできる実用的な性格を備え、それをベースにより都会的なセンス、つまりは普段使いの舗装路用途をメインにリファインされたのがスクラム411と言える。
 確かに開発コンセプト通り、街乗り、常用性に丁度良い快適性が発揮されている。市街地から幹線道路の渋滞路を進む時も、その程良い安定感と扱いやすさが気持ち良い。

 直前に試乗したクラシック350はあくまで穏やかでリラックスできる乗り味に終始していたが、やはりボア・ストロークと排気量が異なるスクラム411はいくらかスポーツ指向のある仕上がり具合が印象的である。
 最高出力と最大トルクは排気量の増加分以上のパワフルさを発揮。共にロングストロークタイプながら、ストロークはほぼ同じで、ボアが6mm拡大された分だけ、スクエアに近づいているのが見逃せない。ピークパワー/トルクの発生回転も少し高めになっている。とはいえあくまで悠長に穏やかかつスムーズな回転フィーリングを発揮していたクラシック350の出力特性と比較すると、スクラム411はなかなか元気溌剌に感じられる点に個性の違いがある。
 音や鼓動感から伝わってくる爆発燃焼の様子も弾けるような感覚が発揮され、スロットルレスポンスも鋭さを伴う快活なフィーリング。エンジンキャラクターは明確にスポーツバイクらしい雰囲気がある。もちろんより太いトルクが発揮されており柔軟な出力特性と快活な噴き上がりが印象深い。極低速域まで発揮される粘り強い“スムーズさ”ではクラシック350に及ばないが、それでも発進停止からロングクルージングまで十分に扱いやすい。
 高速道路でのピックアップや、フラットダートでパワーオンしたい場面等でも悠々と扱える。しかもレスポンスが機敏過ぎることがないので、扱いが優しいのも魅力的である。 さらに付け加えるとトランスミッションのギヤ比が少しばかり低めに設定されている。総減速比で比較してみると、ローギアはクラシック350の16.936に対してスクラム411は17.077。同様に5速トップギアでは5.667に対して5.856。発進加速はもちろん、スロットルを開けた時のレスポンスもキビキビと活発な雰囲気を漂わせてくれ、それが元気の良いスポーティな雰囲気を高めているのである。

 いわゆるオフロード車という目で見ると、おそらく違った印象を持ったであろう事も間違いないが、事前認識としてあくまで都市部で乗るに相応しいストリートスクランブラーとして理解していたので、普段の走りで感じられる意外にも軽快なグッドハンドリングに好印象を覚えた。
 もちろんオフロードコースを舞台に飛んだり跳ねたりする気にはならない。それを楽しむには流石に重さがネックになる事も間違いないだろう。しかしあくまでアーバンスクランブラーとしての総合性能の高さには好評価である。普段使いの気軽さと程良い快適性、そして無骨ながらも耐久信頼性が高そうな外観デザインにも個性が感じられる。
 少しの高速も含めた約120km の走行で実用燃料消費率(満タン法)を計測したところ29.2km/L。期待した程には伸びなかったが、日常の足から休日のロングツーリングまで、工事中等の非舗装路も含めて安心、快適なモデルとしての魅力は侮れない。

足つき性チェック(身長168cm/体重52kg)

シート高は795mm。ロードクリアランスも200mmあり、スクランブラータイプのバイクとして程良いサイズ感が印象的。車体はそれほどスリムではなく、膝が少し曲がる感じ。ご覧の通り両足の踵は少し浮いてしまうが、足つき性に難はない。

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著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…