“ファミリー&レジャースニーカー”というコンセプトに偽りナシ‼ ホンダ・ダックス125 1000kmガチ試乗2/3 

注目するべき要素は、新規開発のプレス鋼鈑モノコックフレームだけではない。クラシックウイングマークシリーズの第4弾として登場したダックス125は、既存の3車とは異なる世界観を提示してくれたのだ。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

ホンダ・ダックス125……440.000円

心地いい排気音を聞かせてくれる、アップタイプの排気系は専用設計。サイレンサーは2室構造で、パンチングメッシュの配列や穴径は、入念なテストを経て決定。

家族の一員として愛されそうなバイク

 第1回目に記したように、2022年9月に開催されたダックス125の試乗会に参加し、直後に約500kmのロングランに出かけた僕は、このモデルにかなりの好感を抱いた。そしてそれから数か月後、ホンダから広報車を再び借用し、ツーリング+日常の足として使ってみたら、以前は気づかなかった、いろいろな発見に遭遇することとなった。

 発見その1は、“ファミリー&レジャースニーカー”という開発コンセプトに納得できたこと。そもそも車両メーカーが掲げる開発コンセプトは、いまひとつピンと来なかったり、何だかよくわからなかったりすることが多いのだけれど、約2週間の借用期間中、僕はスニーカーを履くような気持ちでダックス125に乗ってあちこちに出かけたし、普段はめったにやらないタンデムを3回もした(17歳の息子が2回で、14歳の娘が1回)。しかも息子からは、“こういうのがウチにあったら、俺も免許取るんだけどな”と、人生初のバイクに乗りたい宣言が飛び出したのである‼

モノコック構造の鋼板プレスフレームは、左右+底板の3分割構造。溶接ビードの美しさは惚れ惚れするほど。

 ちなみに、試乗会で開発陣が言っていた“家族の一員として愛され”という言葉に、僕はペットじゃないんだから……とツッコミを入れたくなったのだが、いやいや、このバイクにはペットのように家族から愛される資質が備わっているのだ。そして自分以外の家族が乗ることを想定すると、左手のレバー操作が不要でエンストの心配がない自動遠心式クラッチが、非常にありがたい装備だと思えて来た。

 発見その2は、現車を見た人が誰も文句を言わず、ニコニコ顔で各部を眺めていたこと。既存のスーパーカブC125、モンキー125、CT125ハンターカブの場合は、“車体がデカイ”、“値段が高い”、“こんなのモンキー/カブじゃない”といった感じで、ある程度の異論が聞こえてきたのに、ダックス125は反対意見が皆無なのだ。その背景には、クラシックウイングマークシリーズの展開開始から4年以上が経過して、多くの人がホンダの復刻の手法と小さな高級車に馴染んで来た(いずれも原点モデルより車格が大きく、いずれも価格は44万円)という事情もありそうだけれど、もしダックス125が原点と同様のT型鋼板プレスフレームではなく、開発初期段階で検討した既存のパイプフレームに“ガワ”を被せる方式を採用していたら、質感や車幅に関して、やっぱりそれなりの異論は出て来ただろう。

スーパーモタードを思わせる爽快感

 続いて述べたい発見その3は、乗り味にスーパーモタードテイストが感じられたこと。第1回目に記したように、タイヤが前後12インチでホイールベースがシリーズのほぼ中間となるダックス125は、前後17インチでホイールベースが長めのCT125・C125と比べると、安定性が万全とは言えず、ロングランや悪路では少々物足りなさを感じることがあった。ただし一方でこのモデルは、CT125・C125より気軽でフレンドリーなのだが、それに加えてもうひとつ、フロント21/リア18インチのオフロード車に前後17インチを履かせたスーパーモタードのような、スパッと切れ味のいいコーナリング性能を備えていたのである。

 もっともその性能は、決して乗り手を驚かせるようなものではなくて、基本的にダックス125のコーナリングは至ってナチュラル。ただし、ワインディングロードで荷重と抜重のタイミングを上手く決めると、他のクラシックウイングマークシリーズやグロムとは一線を画する、予想以上の軽やかさを披露してくれる。開発コンセプトが“ファミリー&レジャースニーカー”であっても、決して運動性をないがしろにしたわけではなく、このバイクにはスポーツライディングの楽しさもきっちり盛り込まれているのだ。

感じ方は各人各様……という事実を実感

 発売前から大注目を集めていたモデルだけあって、2022年9月以降の2輪メディアには、ダックス125のインプレが数多く掲載されている。そしてそれらのいくつかを読んだ僕は、自分の感じ方が、他のテスターとは異なっていることを実感した。中でも意外だったのは、タンデム性能を絶賛する人、ミッション+クラッチに不満を述べる人が多かったこと。もちろん、ノーマルでタンデムできるのは素晴らしいことだし(C125・CT125はタンデムシートの追加購入が必要で、モンキー125はタンデム不可)、グロムやモンキー125を知る人なら、5速ミッション+マニュアル式クラッチを欲するのはわからないでもないのだが……。

エンジンのベースはスーパーカブC125だが、吸排気系は専用設計。エアクリーナーボックスはシート下に収まる。

 少なくとも僕にとっては、ダックス125のタンデム性能は必要最低限というレベルであまり快適ではなかったし、その一方でワインディングロードを走っているときですら、4速ミッション+自動遠心式クラッチに不満は抱かなかった(むしろこの方式ならではの効率追求に夢中になった)。だから何だと言うわけではないけれど、ダックス125のインプレを通して、バイクの感じ方は各人各様という事実が認識できたことも、僕にとっては発見だったのである。

 なお意外と言えばもうひとつ、鋼鈑プレス材を用いるモノコック構造という特殊な骨格にも関わらず、既存のパイプフレームと同様のナチュラルな乗り味が実現されていて、その事実に触れる記述がほとんどのメディアで見当たらないことも、個人的には意外だった。もっとも僕がそう感じたのは、2000年型ZX-12Rや2011年型パニガーレなどで、モノコックフレームの難しさを実感していたからで、世間一般の基準で考えるなら、ホンダのモノコックフレーム車で普通に走れるのは、当然のことなのかもしれない。

既存の3車とは異なる方向性

 さて、第1回目でメインとなるロングランでの印象を書いてしまったため、第2回目はとりとめのない内容になってしまったが、2週間を共にしたことで、僕はますますダックス125が好きになった。既存のクラシックウイングマークシリーズの中では、CT125ハンターカブの人気がダントツトップで、近年のキャンプ&アウトドアブームを考えればその地位は揺るぎそうにないものの、これまでのシリーズとは方向性が異なる、“ファミリー&レジャースニーカー”というコンセプトを掲げるダックス125が、CT125に匹敵する人気を獲得する可能性は十分にあり得ると思う。

※近日中に掲載予定の第3回目では、筆者独自の視点で行う各部の解説に加えて、1136.4kmを走っての実測燃費を紹介します。

純正指定タイヤは、試乗車が装着するIRC・NR77とVee Lover・V119Cの2種。扁平率が70→80になることをヨシとするなら、オフロード指向のIRC・GP22やTG、ダンロップK180などが履ける。

主要諸元

車名:ダックス125
型式:8BJ-JB04
全長×全幅×全高:1760mm×760mm×1020m
軸間距離:1200mm
最低地上高:180
シート高:775
キャスター/トレール:24°54′/84mm
エンジン形式:空冷4ストローク単気筒
弁形式:OHC2バルブ
総排気量:123cc
内径×行程:50.0mm×63.1mm
圧縮比:10.0
最高出力:6.9kW(9.4PS)/7000rpm
最大トルク:11N・m(1.1kgf・m)/5000rpm
始動方式:セルフ式
点火方式:フルトランジスタ点火
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式4段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:2.500
 2速:1.550
 3速:1.150
 4速:0.923
1・2次減速比:3.421・2.266
フレーム形式:バックボーン
懸架方式前:テレスコピック倒立式φ31mm
懸架方式後:スイングアーム・ツインショック
タイヤサイズ前:120/70-12
タイヤサイズ後:130/70-12
ブレーキ形式前:油圧式シングルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:107kg
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
燃料タンク容量:3.8L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:55.0km/L(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス1:65.7km/L(1名乗車時)

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…