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トライアンフ・タイガー1200/ラリープロ……2,565,000円
巨大なルックスに畏怖しちゃう
1200タイガーシリーズのスタンダード版であるGT PROと比べると、フロントが21インチタイヤになりかつ前後ともオフロードを追求したスポークホイール&ブロックタイヤになったことで車高が上がり、かつ現車には純正アクセサリーのエンジンガード類がついていたこともあって、サイズは一回りではなく2.5回りぐらい大きくなったような印象があるラリーPRO。様々なビッグオフに接してきた長身の筆者でも「おおっ」となる大きさである。
しかし少なくとも数値上はGT PROとそんなにサイズは変わらない。ハンドル幅やホイールベースなど主要な数値は全くの共通、ただ高さだけは全高で50mmほど、シート高で25mmほど高くなっており、この高さゆえ車体を見上げる感覚があり、直感的に「デカいっ!」となるのだろう。シートは2段階から選べる高さの低い方でも875mm……この数値は、やはりそれなりにハードルは高い。このラリーPROはGT PRO以上に長距離を走ってみることにした。
Tプレーンエンジンとブロックタイヤ
GT PROの方で味わったTプレーンクランクは、トライアンフの伝統の等間隔120°クランクに比べると個性的で、特にオンロードが主体となるGT PROでは好みが分かれるかもしれないとも思ったものの、オフロードテイストが強いラリーPROとなるとそのオフテイストにパルス感の強いTプレーンが良くマッチしていると感じた。トラクション感だとかそういった機能的な部分ではなく、気分として、なんだか活発で瞬発力が高いオフロードシーンをイメージさせてくれるのだ。なるほど、このエンジンの味付けでオフロードを駆け抜けたなら、後輪が未舗装路を蹴って進む感覚が楽しめそうだ、と直感的に思える。
そしてもちろん、オフロード感を高めているのはブロックタイヤだ。ミシュランのアナキーワイルドという銘柄でルックス的にはかなりデコボコしていてハードなオフロードタイヤというイメージである。
このTプレーンクランクとブロックタイヤの組み合わせがなんとも絶妙。大きなブロックが舗装路を蹴る乗り味はさすがにGT PROのようなスムーズさはないものの、しかしそのゴツゴツした乗り味とTプレーンの鼓動感が妙にマッチして、GT PRO以上にダッシュがあるような感じがする。もしかしたら実際にギア比も違うのかもしれないが、そうだとしてもこのTプレーンクランクはやはりオフロード向けの設定なのではないかと感じた。
マイナス7℃、突き進む快感
このラリーPROではそれなりの距離を走行したが、その中での一つがマイナス7℃での早朝ツーリングだ。暗いうちから走り出し、ハイビームにするととても明るいヘッドライトで暗闇を押しのけながら進む。グリップヒーター及びオプションで装着されていたシートヒーターを全開にし、スクリーンも最も高い位置に設定。寒いことには間違いないのだが、ゼロを7℃も下回る気温の中これだけズンズン進めるバイクもそうないだろう。
手動ワンタッチで上下できるスクリーンやハンドルガードのおかげで防風性は高く、また特にシートヒーターは全開では熱いぐらい良く効き、股関節周りを通る大きな動脈の血液を温めてくれていると感じられた。平然と突き進むなか、周りの四輪車が奇異の目で見てくるのも妙な快感があったと言っておこう。
突き進み感で言えば、このラリーPROはGT PRO以上かもしれない。GT PROはいい意味でスポーティさがあり、ハンドリングも積極的に楽しみたくなる味付けだったのに対し、ラリーPROはフロント21インチホイールが良き緩慢さを持っていて、ニュートラルさが光る。また大径のおかげかスポークホイールのおかげか、はたまたブロックタイヤのおかげかトラックがアスファルトに刻んだワダチをいなす能力も高く感じられ、外乱に強い印象があった。なおブレーキシステムは19インチのGT PROと同じだが、大径になってもフロントブレーキは大変良く効き、巨体を減速させるのに不安がなかったのは嬉しい。
距離を走ったことでキャリアにも実際に荷物を積みその積載性も確認。リアシートと水平のため大きな荷物も括り付けやすく、またテールランプが荷台よりもかなり下方かつ後方に出ているため、荷物を積んでもテールランプを隠してしまう心配がなかったのもプラスポイントだった。なお通常シートでは3時間乗りっぱなしでも尻が痛くなることはなか
ったが、オプションのローシートでは2時間を経過したころに休憩を挟みたくなった。
オフロード、本当に行く?
アドベンチャーモデルが各社から出て、さらに近年のトレンドはフロント21インチの「ビッグオフ」だが、しかし250kgほどもある車体で本当にオフロードに行くのかと問われれば、どうなのだろうというのが本心だ。今回、撮影のために未舗装路に立ち入った。もちろん、ただ未舗装路を走るだけなら何も問題なくこなす。むしろこのサイズのバイクでこんなにスイスイ走れるものか、と驚かされることも確かにある。ところがその道が行き止まりになった瞬間に絶望である。こんな狭い道でUターンなんてできない!
四駆の軽トラが走った跡にワダチ。中央には草が生え、左右はガレて……なんていう状況。超絶テクがあればフローティグターン一発! なのだろうが、多少オフの心得があったとしてもこの巨体で、転倒も恐れずにバーンと前輪を持ち上げるなんて、まあ無理である。足が届かないのだから、乗ったままヨチヨチとUターンもできないし、結局降りて押すことになるのだが、ハンドルが高くて押したり引いたりが、本当に容易でない。
ビッグオフに乗る知人が言っていたが「セローで入っていくような小道にビッグオフで入っちゃイケナイよ。まずはセローで下見して、本当にビッグオフで入っていける場所なのかを確認してこなくちゃ」だそう。本当にその通りだろう。タイガーに限らず、リッターオーバーのビッグオフはこの体躯である。そもそも車名にあるように「ラリーPRO」なのであって「林道PRO」ではない。ここを間違えてはいけないと思う。(なお、よりひらけたオフロード路は「ラリーエクスプローラー」の方の試乗で試したため、オフ走行のインプレはそちらをご覧いただきたい。)
もう一つオフロード関連で気づいたことだが、この車両はイベントに貸し出されて本気のドロドロオフロード路を走行した車両だったようで、細部にかなり泥が付着していた。これを綺麗に洗車すべく、中性洗剤・スポンジ・ブラシ・たわし・高圧洗浄と駆使したが、大きな泥はとれるものの、浸み込んでしまった泥汚れはなかなか取れないことに気付いた。リムをはじめ、マット調の塗装が多く泥が浸み込みやすいようにも思えたため、もし泥だらけにしてしまったなら早めの洗車、及びケミカル類を駆使して磨き上げるといったケアが大切になるだろう。
長距離を楽しむ人向き
いかにもオフロードらしいルックスはしているものの、ラリーPROの魅力はニュートラルな操舵性と、ライダーを刺激せずに淡々と走り続ける巡行性ではないかと思う。高速道路を含めてズンズンと行く感覚はとても良く、また確かにロードノイズは大きめのブロックタイヤではあるものの、巡航速度で使うことが多い回転帯である3500~4500RPMほどではTプレーンクランクとイイ感じに共鳴する感じがあり、バイクの味わいが常に感じられるのだ。
中には淡々と走る時はバイクの存在は裏方に回って欲しいという考え方もあるだろうが、このラリーPROについては常に個性を感じさせてくれる味付け。トライアンフのハイエンドモデルを走らせている充実感を味わいながら長距離を走破するライダーに薦めたい。ただサイズはなかなかのため、一度現車を見て、接してみることは強くお勧めしておこう。
足つき(ライダー身長185cm)
ベースモデルであるGT PROのフロントに21インチホイールがついただけ、とは言えないほど巨大な感覚がある。ブロックタイヤによりインチアップ以上に車高がアップしているのだろう。その姿はまさに「ビッグオフ」。荒野や砂漠を爆走する姿が想像できる。なおガード類はオプション設定だ。
ディテール解説
リアもチューブレススポーク仕様。オフロードでの走破性を求めたタイヤはかなりブロック間が開いていてロードではそれなりのノイズも発するが、サイドはブロックとブロックがブリッヂで繋がっている構造となっているためオンロードでのコーナリングにもしっかり対応し不安はない。スイングアームは独自の「トライリンク」方式。駆動はシャフトドライブとなっているため泥道を走った後のメンテナンスは比較的容易だろう。ただ特にマット塗装部は泥汚れが浸み込みやすそうなため、不整地走行後は早めの洗車及びケミカルを用いたケアをしたい。
現車にはオプションのローシートがついていたが、それでもハードルはそれなりに高いし、純正装着シートに比べるとクッションが減らされているためか、2.5時間ほどで尻を休憩させたくなってきた。シートヒーターは超優秀で、マイナス7℃という寒さの中、尻だけはホロホロの豚の角煮のように暖かだった。シート下は最小限のスペースでETC装着程度の余裕だろう。
左スイッチボックスのホーンボタンの隣にあるのはジョイスティック型のスイッチで、メーター上のあらゆる情報にアクセス&選択できるスグレモノ。ただウインカースイッチと近く、冬用グローブでは誤操作もあった。オプションのシートヒーターを装着した場合人差し指側でそのオンオフが可能。右側のスイッチボックスには「ホームボタン」を設定。様々な設定に迷い込んだ場合、このボタンを押せば最初の場面に戻れるのだ。
主要諸元
●エンジン、トランスミッション タイプ 水冷並列3気筒DOHC12バルブ 排気量 1160cc ボア 90.0mm ストローク 60.7mm 圧縮比 13.2:1 最高出力 150PS (110.4kW) @ 9,000rpm 最大トルク 130Nm @ 7,000rpm システム マルチポイントシーケンシャル電子燃料噴射、電子制御スロットル エグゾーストシステム ステンレス製3 into 1ヘッダーシステム、サイドマウントステンレス製サイレンサー 駆動方式 シャフトドライブ クラッチ 油圧式、湿式多板、スリップアシスト トランスミッション 6速 ●シャシー フレーム チューブラースチールフレーム、鍛造アルミニウム製アウトリガー、ボルトンオン式アルミニウム製リアサブフレーム スイングアーム アルミニウム製両持ち式「トライリンク」スイングアーム、アルミニウム製ツイントルクアーム フロントホイール Spoked (Tubeless). 21 x 2.15in. リアホイール Spoked (Tubeless). 18 x 4.25in. フロントタイヤ Metzeler Karoo Street, 90/90-21 (M/C 54V TL) リアタイヤ Metzeler Karoo Street, 150/70R18 (M/C 70V TL) フロントサスペンション ショーワ製49mm倒立フォーク、セミアクティブダンパー、トラベル量220mm リアサスペンション ショーワ製モノコック、セミアクティブダンパー、電子式プリロード自動調整機能、ホイールトラベル220mm フロントブレーキ ブレンボ製M4.30 Stylemaモノブロックラジアルキャリパー、コーナリングABS、320mm径ツインフローティングディスク、マグラ製HC1スパン調整式ラジアルマスターシリンダー、別体リザーバー リアブレーキ ブレンボ製シングルピストンキャリパー、コーナリングABS、282mm径シングルディスク、リアマスターシリンダー、リモートリザーバー インストルメントディスプレイとファンクション 7インチフルカラーTFTメーターパック、My Triumphコネクティビティシステム ●寸法、重量 ハンドルを含む横幅 ハンドルバー 849mm、ハンドガード 984mm 全高(ミラーを含まない) 調整式スクリーン 1487~1547mm シート高 Adjustable 875/895mm ホイールベース 1560mm キャスターアングル 23.7º トレール 112 mm 燃料タンク容量 20L 車体重量 249kg ●サービス サービス間隔 16,000キロ点検/12ヶ月点検