はたしてQJモーターのバイクは日本で売れるのか?2025年夏に発売される普通免許モデルが試金石【東京モーターサイクルショー2025】

2025年3月28日(金)〜30日(日)に開幕した『第52回東京モーターサイクルショー』で、初参加ながらもっとも勢いを感じさせたのが中国の「QJモーター」だ。国内4大メーカーよりやや小さなブースに、日本未発売モデルを含む18台のマシンが展示されたのだ。今回は、同社の日本参入における課題など、筆者のこのメーカーへの心象などを語っていきたい。
REPORT&PHOTO:山崎 龍(YAMAZAKI Ryu)

満を持して参入したQJモーターは日本市場で成功するのか?

2025年3月28日(金)~30日に(日)にかけて開催された『第52回東京モーターサイクルショー』に初出展した「QJ MOTOR(以下、QJモーター)」は、企業出展エリアに割り当てられた東京ビッグサイトの東1~3ホールのほぼ中央、東2ホールの目立つ場所に広いブースを構え、日本未発売モデルを含む18台のオートバイを並べていた。

『第52回東京モーターサイクルショー』のQJモーターブース。

QJモーターのブランドを擁する銭江(チェンジャン)モーターサイクル・グループ(浙江銭江摩托股分有限公司)の歴史と資本関係、経営戦略について解説したが、今回はQJモーターが日本でビジネスを展開する上での課題、克服すべき問題点などを考察してみたい。

日本人の中にある”中国”への偏見に加え
知名度に起因するリセールの低さが課題

中国企業が日本でビジネスを展開する上で大きな障壁となるのが、日本人の中国という国、あるいは中国人に対する偏見と差別意識、日中の政治問題に端を発する反中感情である。
タイやベトナム、インドのような東南アジア・南アジア製品にはなく、中国や韓国の製品に常につきまとう問題だ。他のアジアメーカーが日本で製品を販売する場合はゼロからの出発となるが、中国や韓国メーカーの場合はマイナスからの出発ということになりかねない。

QJモーターのブースで開催されたステージイベント。

そのことをQJモーターのスタッフに尋ねると「弊社の調査によると40歳以下の年齢層のユーザーにはそのような意識がほぼなく、コストパフォーマンスに優れ、自分の価値観にフィットした製品であれば生産国にこだわらず購入する人が多いようです。日中関係が良好であることがビジネスをする上での前提とはなりますが、QJモーターが日本市場に参入するに当たって、中国ブランドであることがことさら障害になるとは考えていません」という。

QJモーターのブースは企業出展エリアに割り当てられた東京ビッグサイトの東1~3ホールのほぼ中央、東2ホールの目立つ場所に同社はブースを構えていた。

たしかに若い世代は古い世代のような偏見を持たないかもしれない。しかも、日本経済の長期低迷による影響や税金・社会保険料の引き上げによって、彼らの可処分所得は20年前、30年前の若者よりもずっと少なくなっている。そこに来て円安や原材料高によって日本製のバイクやクルマの価格はすっかり高騰してしまい、若者には手が届きにくい存在になってしまった。そのような現状を考えると、QJモーターに代表される安価な輸入車にもビジネスチャンスは充分にあると思われる。

QJモーターの大型アドベンチャーバイクのSRT600SX(日本未発売モデル)。

ただ、輸入車を新車購入する場合、気になるのがリセールバリューの低さだ。知名度の低いメーカーの製品は買った瞬間に価値は半減し、3年も乗れば目も当てられないほどになってしまう。たとえ新車を安く買えたとしてもリセールで値がつかなければ、買い替えサイクルのコストで見るとむしろ高い買い物になってしまう恐れがあるのだ。

大型のクルーザータイプもラインナップ。SRV600Vは日本未発売モデルだ。

QJモーターが日本で成功を納めたいのなら、安価な価格設定や輸入車がよく実施する低金利キャンペーンだけではなく、当面の間は中古車相場の安定化政策も必要になるだろう。

具体的に言えば、認定中古車制度や残価率の高い残価設定ローンなどを通じて、下取りや買取りの支援を行うことだ。これによって「QJモーターは新車の価格設定がリーズナブルなだけではなく、バイクを手放すときのリセールも高い」という評価が得られれば、日本で成功する確率はグッと高くなるだろう。

125ccのオフロードバイク、COV125Xも日本未発売モデル。

もちろん、これには企業側の負担が大きいという問題があるし、一歩舵取りを間違えれば、1990年代末に起きたローバージャパンの経営破綻のような最悪の事態にもなりかねない。だが、ユーザーが安心して新車を購入できる環境が整わなければ、いかに製品が良くてもビジネス上の成功など覚束ないこともまた事実なのだ。

SFT250は珍しいメーカー純正のサイドカー(日本未発売モデル)。

政治は政治、製品は製品……目を曇らせることなく公正な評価を下したい

最後にQJモーターについての筆者の心象も語っておきたい。筆者も日本人のひとりとして、現在の中国政治や外交には思うところがないわけではない。だが、それとQJモーターの製品の良し悪しは無関係。政治は政治、個人は個人、製品は製品で個別に評価すべきだと考えているし、ひとりの物書き、評価者としてそれらを一緒くたに考えてはならない程度の分別は弁えているつもりだ。

美女ふたりが登場するQJモーターのステージイベントは大変な盛り上がりを見せた。

国籍を問わず良い人間もいれば悪い人間がいるのと同じように、生産国を問わず素晴らしい製品もあれば不出来な製品もある。QJモーター製のバイクの評価は実際に乗ってみるまでわからないが、同社がこれまでにOEM生産したハーレー350Xや500X、ベネリなどの試乗経験から判断する限りでは期待して良いものだと考えている。

QJモーターではバイクの他にライディングジャケットなどの自社ブランドのアパレルも展開する予定とのこと。

過去を振り返れば、1959年にホンダがマン島TTに初出場し、1961年に同レースで125cc・250ccの両クラスで1~5位を独占してから日本製オートバイの世界への躍進が始まった。当初、欧米の人々は「敗戦国のバイクがなにするものぞ」と見くびっていた。しかし、結果から言えば、日本のメーカーは名門と呼ばれる多くの欧米メーカーを倒産に追いやり、わずか四半世紀あまりで世界のバイク市場を制覇した。

マスコットのパンダが描かれたQJモーター製のレザーライディングジャケット。こちらもディーラーなどで販売される予定だ。

それから再び時間が流れ、今度は日本はチャンピオンの立場で中国のチャレンジャーを迎え撃つことになったわけだ。筆者としては4大メーカーの本陣に切り込んできたQJモーターの意気込みを大いに買いたい。ただし、かつてのイギリスやイタリアメーカーほどには、日本のオートバイ産業は油断もなければ隙もない。その中で彼らがどう戦っていくのかは個人的にも興味がある。健闘を祈りたい。

本国ではライディングジャケットだけでなく、オリジナルのヘルメットやTシャツ、パーカーなど販売される。これらのアイテムも順次国内で販売されるようだ。

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著者プロフィール

山崎 龍 近影

山崎 龍

フリーライター。1973年東京生まれ。自動車雑誌編集者を経てフリーに。クルマやバイクが一応の専門だが、…