新型シグナスX登場! そして “本当のスゴさ” は初代から続くDNAにあった
ついに登場した新型シグナスX(7型)。スタイルはよりシャープに磨き上げられ、走りも大きく進化してきた。
新フレームの採用に加え、トラクションコントロールや大径ディスクブレーキを装備。さらに約28ℓのシート下収納やUSB Type-C電源、カラーLCDメーターといった利便性装備も充実し、現代の原付二種スクーターとして求められる要素を高いレベルでまとめ上げている。加えてフレームは従来比で縦剛性を約19%向上させるなど、走りの質感そのものにも手が入れられている。
……と、ここまで聞けば“最新モデルはやっぱりスゴいぞ!”で終わりそうなハナシ。でもシグナスXは、そんな単純な進化の物語じゃない。
というのも、このモデルの魅力は今回のアップデートだけで語れるものではなく、初代から受け継がれてきた明確なキャラクターにこそあるからだ。
125ccクラスで“速さ”と“操る楽しさ”を追求するというコンセプトは、2003年に登場した初代シグナスXから一貫して変わっていない。当初の至上命題が「125cc最速」というのだから、否が応でもワクワクしてしまう。そしてその基本設計は「10年戦える」と言われるほど完成度の高いものとして磨き込まれ、長く支持され続けてきた。
つまり今回の新型は、まったくの新キャラクターではなく、その“スポーツDNA”をしっかり受け継いだ正統進化モデルというわけだ。
だからこそ気になるのが、「そのDNAはどうやって生まれたのか?」という話。そこで今回は、シグナスXを知り尽くす開発者たちのインタビューをあらためて振り返る。新型をより深く楽しむために、まずはそのルーツからチェックしていこうじゃないか。

お話を伺った方
PF車両ユニット
PF車両開発統括部 CV開発部
SC設計グループ
プロジェクトリーダー 主査( 兼)
CV開発部 EM設計グループ
望月 幹さん
台湾に駐在し、3型と4型シグナスXのプロジェクトをサポート。愛車はマグザムとSR400。

お話を伺った方
PF車両ユニット
PF車両開発統括部 CV開発部
SC設計グループ
プロジェクトリーダー 主査
柳原佑輝さん
主にASEAN向け空冷スクーターを担当。15年から18年まで台湾に駐在し、マジェスティS、フォース155、シグナスグリファスの設計を担当。愛車はフォース155。
抜本的な改革を決断 全面新設計となる「X」の開発に着手
カスタムとチューニングが存分に楽しめる、最高の素材。モトチャンプでは、そういう視点でシグナスXを語ることが通例になっている。
その一方で、ノーマルの素性や歴代モデルの進化に触れる機会はめったにないのだが、新たに水冷エンジンを採用した第6世代となるシグナス・グリファスの国内デビューを好機と考え、当記事ではシグナスXのこれまでを振り返ってみたい。
と言っても、1型〜5型を並べて紹介するだけではおもしろくない。
今回は2名のヤマハの技術者、シグナスXの主要国である台湾市場を熟知した、望月幹さんと柳原佑輝さんに、このシリーズの生い立ちと変遷をじっくり聞いてみることにした。
本題に入る前に前史を記しておくと、シグナスシリーズの原点は82年に発売が始まった180㏄モデルである。天文学の用語で白鳥座を示す英語を車名に用いたこの車両は、先進的にして豪華なプレミアムスクーターで、84年には同様のコンセプトの125㏄、95年には台湾ヤマハが製造を担当する第二世代の125㏄が登場。
そして以後のシグナス125は、Si、SVへと進化するのだが、90年代末のヤマハは新世紀を迎えるにあたって、シグナスの抜本的な改革が必要と考え、全面新設計となる「X」の開発に着手したのだ。

2003年5月30日発売の初代シグナスX。30万9000円

記念すべき1型開発時のクレイ(粘土)モデル。ボディと一体となる駆動系やエアクリーナーのデザインなど、無駄がなく美しいシルエットだ。ホイールのデザインが市販された車両とは違うことが分かる。
基本をしっかりつくり込めば10〜20年は戦える!
望月 最初にお断りしておきますと、私がシグナスXの開発に関与したのは3型からで、柳原はグリファスからです。だから2人とも当初のコンセプトを明確には把握していないので、当時のプロジェクトリーダー、我々の大先輩に当たる高橋博幸から聞いた話をお伝えします。
まずは90年代末の事情を振り返ると、当時の台湾市場ではKYMCOさんやSYMさんが勢力を拡大する一方で、既存のシグナスは徐々に古さを感じるようになっていました。そういった状況の中で世界市場を見据えて、シグナスを全面的に見直そうという気運が高まり、Xの開発が始まったわけです。
―― 近年は台湾と日本が主要市場となっているシグナスXシリーズだが、当初はグローバルモデルだったのだろうか。
望月 そうです。かつては欧州と中国でも販売していました。
だから初代の開発時には、1つのパッケージで4つの地域に適合することを念頭に置いて、各地域の代表が何度も議論を重ねています。
ただし、最も重視した市場は台湾でしょう。面積は決して大きくはないですが、台湾は昔からスクーターの所有率が世界一で、全人口の2人に1人はスクーターユーザーと言われています。
柳原 台湾のスクーターと言うと、レースやスポーツをイメージする人が多いかもしれませんが、メインはやっぱりストリートで、四輪の高級車を所有している富裕層でも、普段の移動はスクーターというケースが珍しくありません。
タンデムツーリングを楽しむ人や、買い物やお子さんの送迎にスクーターを使う女性も、非常に多いですね。
その背景には、四輪の駐車場が少ない一方で、二輪は歩道に駐車してOKという事情もあるとは思います。
台湾ではスクーターのある生活が当たり前になっているんです。
望月 初代の開発時は、台湾ではクラストップの速さ、シグナルダッシュでナンバー1の性能を求める声が大きかったのですが、日本ではトランクスペース容量、欧州では走行安定性が重要な課題として挙がっていました。
なお歴代シグナスXの車体色等も仕向け地に応じて異なっていて、空冷エンジンモデルとしては最終型となる5型の赤は日本専用色です。
―― 新時代のX を開発するにあたって、既存のシグナスシリーズから継承した技術はあったのだろうか。
望月 おそらく、なかったはずです。初代の開発陣が目指したのは、動力性能が優れていることに加えて、便利でカッコよくてお買い得感のあるスクーターで、プロジェクトリーダーの高橋は、基本をしっかりつくり込んでおけば、細部の見直しで10〜20年は戦えると考えていました。
―― 事実、シグナスXの基本設計は初代から5型まで、ほとんど変わらなかった。スクーター界の移り変わりの早さを考えれば、細部の改良を受けながら18年に渡って生産が続いたシグナスXは、異例と言っていいほど、息が長いシリーズなのである。

1型のイメージスケッチ。ディスクローターが左側となっているが、市販車は右側になった。プロジェクトリーダーは高橋博幸氏。
随所に投入された革新的なメカニズム
現代の視点ではオーソドックスと感じるかもしれないが、03年に登場した初代シグナスXは、色々な意味で画期的なモデルだった。
まず前後10インチが125㏄スクーターの王道だった時代に、前後12インチを選択したことが画期的だった。
さらに言うと、ガソリンタンクをシート下ではなくフロア下に設置したこと、当時としては豪華なテレスコピック式フォーク+ツインリヤショック+アルミリヤアームを導入したこと、フロントブレーキに2ポットキャリパーを採用したことも、トピックだろう。
望月 タイヤに関しては、台湾と中国は10インチを希望していましたし、日本でも10インチを推す声はありましたが、欧州の道路事情と使用環境を考慮して、12インチを採用しました。
市街地での機動力では前後10インチが有利ですが、悪路走破性や走行安定性を考えると、タイヤは大きいほうがいいですから。
なお前後12インチというタイヤサイズに対して、アフターマーケット製のハイグリップタイヤを履けることを考慮したと言う人がいるようですが、当時の開発陣がそこまで考えていたわけではありません。
ただし足周りに関しては、既存のスクーターとは一線を画する姿勢で、運動性と快適性を真摯に追及していますから、そういった意識が市場での高評価に結びついたのでしょう。
―― ガソリンタンクをフロア下、給油口をレッグシールド裏面上部に設置する、当時としては画期的な構成は、どんな経緯で生まれたのか。
望月 給油にかかる手間を少しでも減らしたい、燃料容量を増やして航続距離を伸ばしたい、という理由もありますが、一番はシート下のトランクスペース容量を稼ぐためです。この件についてはフルフェイスヘルメットの収納にこだわる、日本市場からの要求に応えた結果です。
―― パワーユニットに関して興味深いのは、ヤマハの125㏄スクーターでは初となる、4バルブ化とオールアルミのメッキシリンダーを採用したこと。
前任のシグナスや同時代に販売されていたライバルのほとんどが、2バルブ/鋳鉄スリーブシリンダーだったのに対して、シグナスXはシリーズ初代の時点で、現代に通じる技術を採用していたのだ。
望月 4バルブ化は、低回転域から高回転域まで、ライバル勢を圧倒する速さを追求した結果でしょう。
メッキシリンダーは90年代末から本格的な普及が始まった技術で、シグナスXにも採用すべきと考えました。
コストはかかるのですが、耐摩耗性と冷却性が確実に向上し、軽量化も実現できます。
逆にメッキシリンダーを基準に考えると、アルミ製ピストンとアルミ製シリンダーの間に比熱が低い鋳鉄スリーブが入る構成は、効率がいいとは言えないんですよ。
―― 登場直後から好セールスを記録したシグナスXは、04年以降になると、専用カラーリングと3段階のプリロード調整機能を備えるリヤショックを採用した、上級仕様のSRを併売。このモデルはスポーツ指向のユーザーから、根強い支持を集めることになった。

10インチが主流だった時代に12インチでデビュー。ハイグリップタイヤが履けるという点もユーザーに支持された。画像は5型のフロント周り。
キメ細かな仕様変更でスポーツ性を強調(2型)
07年にデビューした2型の最大のトピックは、気化器をキャブレターから電子制御式燃料噴射=FI(フューエルインジェクション)に変更したこと。
この頃のヤマハは他のモデルでも同様の変更を行なっていたのだが、125㏄スクーターならではの苦労はなかったのだろうか。
望月 当社の場合は02年に発売したマジェスティ125で、すでに小排気量単気筒用FIの技術を確立していましたから、コレといった苦労はなかったようです。もちろん、マジェスティ125用とシグナスX用では、細部の仕様やセッティングは異なりますが、基本システムは同じです。
―― 気化器以外の2型の特徴は、インナーチューブ径を30→33mm に変更したフロントフォーク、外径を220→245mmに拡大したフロントディスク、ポジションランプが一体型になったヘッドライト、肉厚が増したシート(シート高は初代+30mm の785mm)、アナログ2連式からアナログ式速度計+液晶モニターとなったメーター、ライディングポジションの自由度を求めて形状を見直したフットボードなど。
ちなみに07年からしばらくの間、台湾市場ではキャブレター仕様も併売されており、チューニングの容易さを重視して、FI仕様を避けるユーザーもいたようだが……。FIチューンの技術が確立されていくに従って、キャブレターに執着するユーザーは少なくなっていった。
望月 2型の変更は基本的には正常進化で、フロントフォークとブレーキディスクの見直しは、スポーツ性を重視するシグナスXならではだと思います。販売期間がかなり長かったこともあって、2型はシリーズの中で最も販売台数が多いモデルになりました。
―― そう語る望月さんではあるけれど、初代と比べると、ボディがやや大柄になった感がある2型に対して、13年から発売が始まった3型はシャープで軽快な雰囲気になった(ただし、車体の諸元に変更はない)。この変更には、どんな事情があったのだろうか。
望月 2型の評価が悪かったわけではないのですが、初代と2型のコンセプトが〝タフネス・コンフォート・コミューター〞だったのに対して、3型は〝アーバンスポーティ/ショウオフスポーティ〞になりました。
そのコンセプトを実現するべく、スポーティさを強調したスタイルを採用し、さらにポジションランプとテールランプのLED化を図ったんです。なお3型のSRは台湾仕様を踏襲する形で、ウェーブタイプのフロントブレーキディスクを採用しています。

外観は時代に合わせて正常進化。2型(32万5500円)はややボリューミーに。

2型のデザインスケッチ。1型と比較するとヘッドライトも大きくなり高級感も増した印象だ。

3型(28万3500円・SR )はシャープなシルエットに進化。

3型のデザインスケッチ。2型をシェイプしてスポーティな雰囲気。
大幅刷新を受けてもキャラクターは不変(4型)
シグナスXシリーズで最も大きな仕様変更が行なわれたのが、〝ダイナミック・シグナスX〞というコンセプトを掲げて開発され、17年に登場した4型だ。
フレームはBW’S(ビーウィズ)と共通の新作になり、前後ホイールは3→6本スポークに変更。フロントフォークとリヤショックも新作で、リヤブレーキはついにディスク化が図られた。
望月 ただし車両のキャラクターは、そんなに大きく変わっていないんですよ。フレームと足まわりで4kgの軽量化を実現しているので、運動性は確実に向上していますが、ホイールベースが3型+10mm の1305mmになっているので、乗り味が極端に軽快なわけではありません。
――リヤブレーキのディスク化は、サーキットを走るユーザーから大歓迎されたようだが(3型以前でサーキットを走ると、ドラムブレーキの発熱によってリヤタイヤの空気圧が高まることがあった)、この件に関しては、そういった需要を考慮したのだろうか。
柳原 サーキットを考慮していないわけではないですが、慢性的に混雑している台湾の市街地では、急ブレーキを必要とする場面が少なくないですし、タンデムでの使用が多いライダーからは、リヤブレーキの制動力とコントロール性の向上を期待する声が上がっていました。
だからリヤディスク化の主な目的は、ストリートでの扱いやすさを高めるためですね。
――エンジンに関しては、従来型の基本を継承しつつも、加速性能の改善を意識した変更が行なわれている。
望月 当時のヤマハの125ccスクーターに対する市場の評価は、シグナスXが高速向き、BW’Sが低中速向きだったのですが、17年型の仕様変更では、いずれのモデルもあらゆる領域で気持ちいい加速ができるように、各部の見直しを実施しました。
―― 日本人の目線ではトランクスペース容量が27→29ℓに拡大され、シート高が785→775mmに下がったことも、4型のトピックだ。
柳原 トランクスペース容量が拡大できたのは、新作フレームのおかげです。シート高は主に日本のユーザーの希望に応えた結果ですが、フロアの高さやハンドルとのバランスを考えると、さすがに775mm以下は難しいので、座面形状の見直しで足つき性の向上を追求しました。
――14年以降の日本市場では、SRのみが販売されたシグナスXだが、18年に登場した5型では、SRが廃止され、スタンダードが再登板。もっとも実質的な話をするなら、5型のスタンダードはSRの後継車と言うべきモデルだった。
望月 4型でひとつの完成形に達していたので、5型は小変更に留まっています。
先進的なイメージを求めて、ヘッドライトは3灯式LED、メーターはフルデジタルの液晶マルチファンクションタイプを採用し、利便性を高めるため、フロントポケット上部に12V電源ソケットを設置しました。
また、4型で導入して好評を得ていた導光タイプのLEDテールランプは、さらにシャープでアグレッシブなデザインに変更しています。

シグナスX史の中でもっとも刷新された4型。車体およびエンジンを兄弟モデルのBW’Sと共有。クランクケースが
数ミリ長くなり、120/80-12サイズのリヤタイヤを履いてもクランクケースとタイヤが接触しなくなった。31万8600円(XC125SR )

空冷エンジンモデルとしては最後のマイナーチェンジとなった5 型。3 灯LEDヘッドライトや各部に装飾されたエアスクープなど、先進的なスタイリングが特徴。
仕向け地による違いとチューニングの可能性
4型からは多くの部品で統一化が図られたものの、3型以前のシグナスXには仕向け地による違いが存在した。中でも有名なのが、加速性能を左右するウエイトローラーで、日本仕様は重い設定(台湾仕様より3g重い12g )だったため(加速騒音を計測する速度域で、エンジン回転数の上昇を抑えている印象)、軽量な台湾仕様を投入したり、点数を6→3個に減らしたりと、マニアの間ではチューニングが普及していた。
望月 3型までは、地域によって規制の基準が異なっていました。具体的な話をするなら、台湾と欧州は排出ガス、日本は加速騒音に関する要求が非常に厳しかったんです。16年以降は基準統一が進んで、開発にかかる手間は減りましたね。
―― ウエイトローラー以外の相違点として、日本のシグナスXユーザーが台湾仕様をうらやましいと感じたのは、ハザードスイッチやキックペダル、スポーツ性を強調したメーター(台湾仕様の初代の速度計のフルスケールは、日本仕様+30km/hの140km/hで、2〜3型の時点でタコメーターを採用)、キー操作で簡単に開くガソリン給油口など(日本仕様はキーの差し替えが必要)。
ただし、トランクスペース内に備わる保護シートやキーシャッター、安全性に寄与するサイドスタンドセンサーなどは、日本仕様ならではの装備だった。
望月 そういった仕様は、各国の規制や使用状況を考慮した結果で、途中で変更はせず、基本的にはキープコンセプトという姿勢でした。

エンジンと同様に基本設計を変えずに進化してきた駆動系。そのため社外製パーツは豊富だ。写真はフルチュー
ンされたシグナスXの駆動系。
エンドユーザーの楽しみ方を広げたタフなエンジン
キープコンセプトと言ったら、シグナスXシリーズで最もその意識が顕著に感じられたのはエンジンだろう。
初代から5型まで基本設計が変わらなかったうえに、冷却方式がシンプルな空冷だったからだろうか、このモデルにはさまざまなエンジン用チューニングパーツが存在し、その気になれば200㏄以上の排気量を獲得することが可能。
そしてエンジンのパワーアップと歩調を合わせるかのように、車体や足周りに関しても、多種多様なカスタムパーツが販売されている。
開発陣としては、そういったチューニングの可能性、さらにはアフターマーケット市場の活性化を意識していたのだろうか。
望月 いえ、我々はどの世代も、ノーマルがベストという気持ちで開発しています。もちろん、アフターマーケット市場で人気が出るのは嬉しいことですが、チューニングを視野に入れているわけではありません。
―― となるとやっぱり、ノーマルの潜在能力は相当以上に高かったのだろう。逆に言うなら、耐久性がギリギリのエンジン、包容力がいまひとつのシャシーでは、カスタム&チューニング業界は盛り上がらないのだから。
望月 チューニングは視野に入れていませんが、整備性は意識していますよ。この件に関しては、現場からのフィードバックも多かったです。
――03年に初代がデビューした直後から、シグナスXは台湾のスクーターレースで活躍し、数々の栄冠を獲得している。エンジン特性やハンドリングに関して、レース現場からのフィードバックはあったのだろうか。
望月 なかったわけではないですが、例えばスーパースポーツ車のように、サーキット性能を重視して、レース現場の要求を取り入れることはありませんでした。
スポーツ性を重視したモデルではありますが、シグナスXのメインステージは、あくまでもストリートですから。

伝統の空冷4ストロークSOHC単気筒4バルブ124ccエンジン。優れた吸排気効率を実現し、信頼性の高さでも定評がある。
シリーズ累計生産台数が100万台を突破!
多様化するユーザーのニーズに対応するため、近年のヤマハは125㏄スクーターのラインナップを拡大している。日本市場には、15年に第二世代のBW’S125、16年にNMAX125、17年にはアクシスZが投入されたのだが、この三機種とシグナスXとの住み分けを、開発陣はどう捉えているのだろうか。
望月 シグナスXの兄弟車にして、SUVテイストのBW’Sは説明不要だと思いますが、アクシスZは経済性と利便性に加えて、いろいろな意味での親しみやすさを重視したスクーターで、NMAXは最先端技術を随処に投入したスポーツモデルです。
販売価格を考えると、シグナスXの競合車になりそうなのはNMAXで、フロアのつくり(シグナスXはオーソドックスなフラットタイプで、NMAXはセンタートンネル式)、車重や車格(NMAXのほうが大きく重い)をどう感じるかで、このニ機種に対する印象は変わって来ると思います。
―― アクシスZとNMAXのデビュー時に大きな注目を集めたのは、走りの楽しさと燃費・環境性能の両立を高次元で具現化した、新世代のブルーコアエンジン。技術的には可能だったはずだが、どうしてシグナスXシリーズは4型か5型で、このエンジンを導入しなかったのだろう。
望月 販売台数が落ちていなかった、コストアップを避けたい、という事情はありましたが、当時の我々は既存のエンジンでまだ戦えるという意識を持っていました。
今後の発展や規制への対応を考えて、6型に相当するシグナス・グリファスではブルーコアエンジンを採用しましたが、初代から長きにわ渡って継承して来た空冷ユニットが、今の時点で古さを感じるかと言うと、必ずしもそんなことはないでしょう。
―― 最後にお聞きしたいのは、シグナスXユーザーへのメッセージ。3型以降のシグナスXシリーズの開発に深く携わって来た望月さん、そしてグリファスの設計を担当した柳原さんに、それぞれの立場で語ってもらおう。
望月 シグナス・グリファスも含めてですが、今年で03年以降のシグナスシリーズの累計販売台数は、100万台に到達しました。このシリーズを愛してくれたユーザーの皆様には、ありがとうございます、と言いたいですね。なお今になって考えると、シグナスXシリーズは、以後に登場するヤマハ製フラットフロアスクーターの基盤をつくったモデルだと思います。
柳原 シグナス・グリファスは、すべての部品が新作になっているので、既存のシグナスXユーザーの皆様は、まだ親近感を抱けないかもしれません。でも実際に体感していただければ、既存のシグナスXで培ったノウハウを随所に投入していること、シグナス・グリファスがシグナスXシリーズの後継であることが、ご理解いただけると思います。
2003年に初代シグナスXが登場し、前後12インチホイール、フラットフロアというコンセプトをキープしたまま、正常進化。キャブレターからFIへ。空冷エンジンから水冷エンジンへとカタチを変えながら20年以上にわたって原付二種スクーターシーンのトップ戦線で戦い続けている。

インタビュー取材は、静岡県磐田市にあるヤマハコミュニケーションプラザで行われた。入場無料で数々なヤマ
ハ製品を見ることができる。

2026年5月22日より発売される新型シグナスX(7型)。最高出力12psを発揮する124cc水冷4バルブエンジンにはトラクションコントロールを装備。38万9400円。
※この記事は月刊モトチャンプ2022年1月号を基に加筆修正を行っています
