スピードトリプル1200RS新車試乗記|180馬力×アップハン=絶対的動力性能。これは歓喜もののバイクです!|トライアンフ

トライアンフラインナップには様々な魅力的なモデルがり、それぞれが個性を放っている。そんな中で長く続いてきたブランド「スピードトリプル」は今、頂点に君臨する。伝統の3気筒エンジン、伝統のアップハンドル、そして驚愕のパワー。フラッグシップにふさわしい。

トライアンフ・スピードトリプル1200RS……2,055,000円(消費税込み)

トライアンフと言えばかつてはバーチカルツイン、そして近年では3気筒のイメージが強いはずだ。このスピードトリプルの初代でも3気筒の魅力を存分に振りまいていたが、後に出た675cc版の「ストリートトリプル」が世界的に爆発的ヒットを飛ばしたおかげで、このスポーティでハイパフォーマンスなだけでなく、同時にテイスティな3気筒フィーリングを広く世に知らしめた。
同様に3気筒のヘリテイジを持っていたヤマハがMT09で3気筒を復活させたのも、このストリートトリプルの大成功と無縁ではないだろう。また今やMoto2のエンジンもトライアンフ製トリプルのワンメイクである。そのストリートトリプルは今、765となってますます輝きを増し、さらにモデルチェンジを果たしたばかりだ。
先日、タイガーシリーズのレポートも書いたばかりだが、あちらはアドベンチャーシーン/オフロードシーンに向けた新たなチャレンジとして「Tプレーン」なるクランクを投入し爆発感覚が不等となったため独特のツイン感を発揮している。対してストリートトリプルや、今回のスピードトリプルは伝統的な120°位相のクランクを採用しているため等間隔爆発が得られ、少なくともオンロードシーンにおいてはコレが非常に気持ち良く、かつスムーズでパワフルなのである。
スピードトリプルでは180馬力に至っている出力と聞くと身構えてしまうものの、しかしアクセル開け始めのマナーや、低回転域でも十分なトルクが立ち上がるためパワーの伸びが二次曲線的ではなく直線的なことにも助けられ、想像するほど怖くもないのがありがたい。アクセルのツキ、そこから後輪を回すまでの伝達感など、とても洗練されていてストリートを(付き合いやすいレインモードで)走っている分には180馬力という超絶パフォーマンスを感じさせないのが良い。
長らく続いているスピードトリプルというブランドだけに、飛び道具的な設定にはせず、素直な、良いものを作ろうという真っすぐな姿勢が見えるのが嬉しかった。

低速サーキットでも楽しめる

今回の試乗とは別に、つい最近このスピードトリプルを丸一日、全長1.2kmほどのサーキットで走らせる機会があった。180馬力を考えるとコースとしては少し短めといえるものの、しかしここでの走りは180馬力が「過ぎる」と感じることもなく、最高に楽しかった。
ライディングモードが4種類とライダー任意設定の合計5種類があり、レインはパワーが削られているのを感じるものの、それ以外(ロード、スポーツ、トラック)はどれもトルクがあふれ出て199kgしかない車体を軽々と加速させ、高回転域ではウイリーコントローなしではおっかないほどの加速を見せる。当初は2速固定で走っていて、それでもアクセルレスポンスが過敏で扱いにくいといったことはなかったもののとにかく速くて、結局は3速固定で走り続けることになった。3速で走っていても低回転域トルクが強大のため、コーナー立ち上がりでアクセルを大きく開ければトラクションを感じながら素早い加速が可能だった。
ライダーの重量を前輪に乗せにくいアップハンというポジションでサーキットパフォーマンスも確保するのは難しいことだろう。特に180馬力もあれば後ろにひっくり返らないように加速するのは大変なことだと思う。しかしスピードトリプルはウイリーコントロール等の電子制御技術とは別に、何か良いバランスを持っていると感じる。こうしたアップハンのスーパースポーツを長く作ってきたノウハウが詰まっているからこそ、こんなとびぬけた性能を持っていてもアップハンで楽しくサーキット走行ができるのだ。
ダイレクトなエンジンレスポンスと最高級の足周り設定、イメージ映像でもサーキット走行が多く取り上げられているだけに、これだけのパフォーマンスはやはりサーキットでこそ活きるという面もあるはずだ。

公道では「過ぎる」性能をモード選択で対処

今回の試乗は公道でのものだったが、サーキットでの全面好印象に対して、やはり公道ではプレミアム感が先行して、全体的にちょっと「過ぎる」感覚はなくもなかった。エンジンは上の方のモードではかなりスパルタンでアクセル操作がダイレクト。サーキットではそれこそがライダーの意図とリンクする最高の気持ち良さだったが、公道でのファジーな操作ではいくらか過敏に感じてしまい、結局レインモードが一番使いやすかった。
また足周りの設定もハードで、特にまだ寒い季節の公道での動きではタイヤやサスペンションオイルが温まらず、ダイレクトを越えてゴツゴツとハードな印象となってしまった。もちろん、公道主体で乗るならばサスセットを変更し、温度依存の少ないタイヤに変更するといった合わせ込み方もあるが、出荷時の設定としては寒い季節にツーリングするパッケージではないだろう。また積載性は皆無だし、シートも開かないため例えばETCカードの抜き差しなども簡単にはできず、そしてハンドルの前には何もないほどすっきりとしているため防風効果はゼロに等しいため高速道路もハイペース維持は困難。そうするとこのバイクの使い方としては暖かい季節に、ちょっと気晴らしに短距離をアクティブに楽しむ、といった味付けで、本来のパフォーマンスをフルに味わうにはサーキット走行会に申し込む、といった付き合い方が理想だろう。

プレミアムマシンとしての割り切り

サーキットでは最高だが公道ではいくらかハードルが高い、という話の流れになってしまったが、これは季節的なことも関係していると思う。春先や秋口などバイクのハイシーズンだったならバイクの方ももっとしなやかに動いてくれただろうし、ライダーも心にも体にも余裕があったはず。逆に言えば、そういった条件がそろった時は最高に楽しい体験ができそうである。真夏の夜の首都高グルリ、そしてパーキングで注目を集める、公道ではそんな使い方が楽しめそうだし、サーキットに持っていけば本気のスーパースポーツモデルも追い回せる実力があるだけにここでも注目を集めそう。

こういったピンポイントな使い方で突き抜けるため、逆に条件がそろわない場面ではレインモードにしてやり過ごす、といった緩急つけた付き合い方が必要になってくるかもしれない。ただそれはプレミアムなバイクならみんなそうである。ましてやトライアンフラインナップの頂点に位置するスピードトリプル。そんなことは「重々承知だよ!」と胸を張ってこれを走らせてほしいと思える魅力が詰まっている。

足つき性チェック(ライダー身長185cm、体重72kg)

アップハンネイキッドとはいえ、バーハンドルの位置は割と低く、例えばCB1300SFのような国産ビッグネイキッドとはだいぶ雰囲気が違いスポーティなポジションとなる。BMWのS1000Rやアプリリアのトゥオーノといっ たこういったプレミアムスポーツネイキッドに共通する構成だ。
足つきはステップとチェンジ/ブレーキペダルの間に足が下ろしやすいこともあって良好に感じるが、フル加速時のニーグリップでは膝がフレーム部分に当たりしっかりとホールドしにくい感覚はあった。アップハンだけに下半身でのホールドは重要になってくるため、この部分に滑り止めのシートなどを張り付けることができれば、アクセルを大きめに開けた時には安心感が高まるだろう。ライダー身長185cm 体重72kg

フロント・リア足周り 

オーリンズの倒立フォーク及びリアのオーリンズTTXモノショックは当然フルアジャスタブルタイプでサーキットパフォーマンスも見据えた細かなセッティングに対応。出荷時の設定もわりとハードなもので、寒い時期や路面が荒れているような場面では走り出す前に少し柔らかい方向に振っても良さそうだ。
キャスターアングルは23.9°とわりと立った設定だがトレールは逆に104mmを確保し安定性を追求。近年のこういったハイスペックネイキッドはキャスターを寝かせてトレールは極端に短くするといったモデルも多かっただけにこの数値は以前に立ち返ったかのようだ。もたされたハンドリングはとても素直で接地感もあるものだったが、同時に意外とライダーの前傾姿勢が強めということもあって、腰高なスポーツ志向にも感じられた。
タイヤはハイグリップのメッツラーレーステックRRを装着。リアは伝統の片持ちスイングアームで、ホイールは6インチ幅。マフラーからは3気筒らしいトルクフルかつ整った排気音が吐き出され、不思議とうるさく感じないのも好印象だった。

エンジン

1158ccのエンジンはなんと180馬力と言うパワーを10750回転で発揮し、トルクピークも9000rpmに設定されるなどかなり高回転設定のユニット。常用回転域でも十分なトルクがあり少なくとも公道環境ではパワーピークどころかトルクピークまでも使うことは極稀であり、そこまで使ってしまってはとんでもないスピードが出てしまう。各種モードのなかで、公道では、特に路面が冷たかったりといった悪条件では「レインモード」でも十分すぎるパフォーマンスである。

シート

白いステッチが高級感を出しているシートは幅広で快適だったが、タンデムシート部はキーで開けたりできるわけではないため、ETCの装着などには不便な所もあるかもしれない。そもそもパフォーマンス重視のパッケージであり、実用性は後回しにされている部分があるだろう。ただ写真のようにシングルシートカバーがついた状態のカッコ良さは、なかなかである。

ハンドル周り

左右のスイッチボックスはタイガーシリーズなどとも共通する物。左手親指で操作するジョイスティックであらゆる操作ができ、かつ豊富な設定に迷い込んでしまったら右側のホームボタンを押せば即座に最初に戻るという親切設計。ただ冬用グローブではジョイスティック周りが狭くて押し間違いもあった。ちなみにホーンボタンは飛び出していてとても押しやすく、こういった緊急性の高いボタンへのアクセスがしっかりしているのは良いことに思う。ドゥカティもホーンボタンへのアクセスがとても良いため、ヨーロッパ車に共通する安全意識かもしれない。なおハンドルはラバーマウントされていて振動を吸収してくれるが、硬めのラバーを使っているようでバーハンドルがぐにゃぐにゃするようなことはなかった。バーエンドミラーは見やすいものの、渋滞路では注意が必要だ。

ヘッドライト

2眼ライトの上にはLEDのツリ目形状DRLがあるため、怒りん坊の昆虫のような印象のヘッドライト。このヘッドライトがかなり低い位置にセットされ、かつミニマムなメーターがその上に載っているだけのため、ハンドルから前はまるで何もないかのようなスッキリさである。これらすべてがフレームマウントになっていることもあってハンドリングはとても軽くて良いのだが、高速道路では走行風が強烈で高いスピードでの巡航は苦手分野である。ツーリングユースを想定するならば純正アクセサリーの「フライスクリーン」を検討したい。

メーター

タイガーシリーズと同じデザインながら一回り小ぶりなメーターはカラー液晶で見やすさは十分。ギアポジションの下に道路のマークが出ているが、これがモードの表示で、こうしたピクトグラム表示とすることで言語を越えて直感的にわかるのが良い。メインキーは電子キーとなっていることもあって、トップブリッヂ上はとてもすっきりとスマートである。

テール周り

ミニマムなテールはボルト4本でナンバーステーやウインカーのセクションをごっそりと取り外すことができる設定。こういう所でもサーキット走行を想定しているのが伺える。なおテールランプは真後ろから見るとトライアンフの「T」字になっている。

主要諸元

●エンジン、トランスミッション
タイプ:水冷並列3気筒DOHC12バルブ
排気量:1158 cc
ボア:90.0 mm
ストローク:60.7 mm
圧縮比:13.2:1
最高出力:180PS (132 kW) @ 10,750rpm
最大トルク:125Nm @ 9,000rpm
システム:マルチポイントシーケンシャル電子燃料噴射、電子制御スロットル
エグゾーストシステム:ステンレス製3 into 1ヘッダーシステム、サイドマウントステンレス製サイレンサー
駆動方式:Xリングチェーン
クラッチ:湿式多板油圧式、スリップアシスト
トランスミッション:6速


●シャシー
フレーム:アルミニウムツインスパーフレーム、ボルトオンアルミニウムリアサブフレーム
スイングアーム:片持ち式アルミニウム
フロントホイール:鋳造アルミニウム、17 x 3.5インチ
リアホイール:鋳造アルミニウム、17 x 6インチ
フロントタイヤ:120/70 ZR17
リアタイヤ:190/55 ZR17
フロントサスペンション:Öhlins製43 mm NIX30径倒立フォーク、プリロード、リバウンドダンピング&コンプレッションダンピング調整機能付き、トラベル量120mm
リアサスペンション:Öhlins製 TTX36 ツインチューブモノショック、プリロード、リバウンドダンピング&コンプレッションダンピング調整機能付き、リアホイールトラベル量130 mm
フロントブレーキ:320mm径フローティングダブルディスクBrembo製Stylemaモノブロックキャリパー、OC-ABS、ラジアルマスターシリンダー(セパレートリザーバー装備、スパンおよびレシオアジャスタブル)
リアブレーキ:255 mm径シングルディスク、Brembo製2ピストンスキャリパー、OC-ABS
インストルメントディスプレイとファンクション:5インチフルカラーTFTディスプレイ


●寸法、重量
ハンドルを含む横幅:792 mm
全高(ミラーを含まない):1089 mm
シート高:830 mm
ホイールベース:1445 mm
キャスターアングル:23.9 º
トレール:104.7 mm
車体重量:199 kg
燃料タンク容量:15 L

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著者プロフィール

ノア セレン 近影

ノア セレン

実家のある北関東にUターンしたにもかかわらず、身軽に常磐道を行き来するバイクジャーナリスト。バイクな…